古書店で購入したまま、いわゆる積ん読になってしまっていたが、「千の扉」購入をきっかけに、こちらを思い出して読んだ。
結果的に、あまり意図していなかったが、「千の扉」と関連する内容でもあり、続けて読むことで面白く読むことができたと思う。
こちらは大阪の街をめぐる物語であり、端的に著者自身の大阪への愛着
...続きを読むのようなものも現れているのではないだろうかとも感じた。
ただ、私にとってはあまり馴染みのない街であり、具体的な通りや土地の名前からその場所に思いを致すことができず、その点は残念であった。
また、生まれて以降ずっと住んでいる土地の過去の風景、出会うこともないはずの過去の人たちの暮らし、そうしたものに興味を持つこと自体は、大いにあり得るし私自身面白いと思う。一方で、あえて極端に言えば、それを興味以上の、その人に固有の意味のあるものとして表現することは難しいのではないかと思うし、一読した後に、歌子にとって例えば過去の写真や映像に興味があるということとはどういうことなのかが、私には少し見えづらかったようにも思う。
その点、「千の扉」では、千歳の人物像にも独特な要素というか、変な表現かもしれないが、同じように過去のことを知ろうとしているのにもその人なりの「理由づけ」があるようにも感じた。
ただ、本書は全編を通して、万事順調とは言わないまでも、爽やかな調子で物語が進んでいき、読みやすかった。自分の若い時の生活を思い出して、こんな風に暮らしていたこともあったと、大阪に住んだことはないのに、どこか懐かしいとさえ思える作品だった。