森絵都のレビュー一覧
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「うんと高いところまで上りつめていくのよ。そこにはあなたにしか見ることのできない風景があるわ」
この台詞から思い出したのは、
「国宝」ラストシーン。
スポーツ小説というジャンルになるらしい。飛び込みという、マイナー競技の話。
しかし、森絵都さんの手にかかると、
スポーツ小説の枠を大きく超えてくる。
人物の描き方、大会のシーンの緊張感の出し方、無駄のない筆致とユーモア溢れる会話と、見事な構成とバランスだ。
下巻では、
オリンピック代表に内定された要一が、敢えて内定を蹴り、仲間と一緒に最終選考の大会へ挑む。この描き方の上手い事!
飛ぶシーンは書かず、ランキングと得点だけを最後に出す。ここで初 -
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同じ人が書いた作品とは思えないほど一つ一つの物語が全く違う独立した別の小説のような印象だった。共通しているのは自分の大切なもののために懸命に生きている人達。
大切なものはそれぞれ違うし優先順位をつけるのも難しい。鐘の音の潔のように手放して初めて気付くパターンもある。
表題作の風に舞い上がるビニールシート、ジェネレーションX、鐘の音が特に好き。
エドの言葉が印象的だった。
“仮に飛ばされたって日本にいるかぎり、君は必ず安全などこかに着地できるよ。どんな風も君の命までは奪わない。家を焼かれて帰る場所を失うことも、目の前で家族を殺されることもない。好きなものを腹いっぱい食べて、温かいベッドで眠るこ -
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少年はその一瞬を待っていた。
で始まる飛び込みに魅了された少年達のストーリー。天才ダイバーの祖父の血をひく野生児の飛沫。都会っ子でのほほんとした知季。サラブレッドの要一。
鬼コーチの夏陽子。めざすは
ダイビングプール存続をかけたオリンピック!
あさのあつこさんの解説が素晴らしい。
巧みさを気づかせない空恐ろしい作家、とはあさのさんの言葉。
まさしく。
冒頭の一文で心を鷲掴みされ、
グイッと物語の世界に持っていかれ、
登場人物ひとりひとりが生々しく存在する。さらりとそんなことをやってのける作家とは恐ろしい以外の何者でもない。
まだ上巻しか読み終わっていない。
オリンピックに向けて
どう進んで -
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年を重ねるということは、同じ相手に、何回も出会いなおすということだ。会うたびに知らない顔を見せ、人は立体的になる。
印象的な言い回しで1話目は文が閉じられる。
初めて仕事をした時と2回目に仕事をした時では全然印象が異なる「ナリキヨ」さんは、しかし、7年のときを経て、私の目にはどちらの彼もいるように見える。ひとは、ひとと会う時、話す時、きっとそのひとのすべてを一度で知ることはできないんだと思う。2度、3度と回を重ねるごとに印象が変わる場合もあれば、変わらない場合もあって、でも、すべてを知ることはたぶんきっとない。自分自身のことも完璧に分からないように、他者のこともきっと完璧にわかるなんてことは -
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最後までとても考えた作品でした。
理想の教育とは何か、いや、教育に正解などないのではないか。
時代によって変化するニーズや風潮から、私たちはこれまでに多くのことを受け取り受け継いできたように感じます。
【みかづき】
親から子、子から孫へ、3世代によって受け継がれる理想の“教育”を追いかける物語です。
物語は昭和36年、
日本にまだ塾というものが広く知られていない時代から始まります。
学校の用務員として働く青年とある生徒の母が学習塾を開きます。2人は後に家族となり、塾も軌道にのっていくのですが、、、
この時代はまだ寺子屋のほうが多くの人に理解されており、世間では塾のイメージは最悪…文部省 -
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バッハの音楽が物語になっていると知り、手にした本。森絵都さんのことは名前しか知らなかった。本当に何気なく手にした本だったので、期待は良くも悪くもなかったのだけれど、読んでとても良かった!中学生くらいの、あの感じを思い出す。懐かしいだけではなく、あの頃の苦しさも楽しさも、二度と味わえない、あの感じ。3つとも良かったが、彼女のアリアが私は1番心に残った。不眠症、虚言癖。淡い恋心。ともすると、ただの淡い初恋物語になってしまうと思うけど、そうはいかない。そんな簡単で単純ではないのが、あの頃のあの感じ、なのだ。彼の苦しさも彼女の苦しさも分かる。だけど、分かったつもりになっていることが、つまらぬ大人になっ