中村文則のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
少し前の新聞に中村文則の「掏摸」が紹介されていた。中村さんは今や海外でも名を知られた作家だが、そのきっかけになったのが大江健三郎賞を受賞した本作が、賞の特典として翻訳されたからだ、という内容だった。
大江健三郎賞は聞いたことがあったが、選考委員は大江健三郎さんひとりで、賞金の代わりに海外に翻訳されて紹介される、賞は八年続いて既に終了しているということも知らなかった。
で、その賞の始めから終わりまでの受賞作の紹介とそれぞれの著者との対談を収録されているのが本作。
なかなか手ごわい本だったがおもしろかった。
受賞作のどれも読んだことが無いが、長島有の本は読んでみたいと思った。対談も一番楽しかった。
大江さんも最後の方で言及されている。
大江健三郎もよく知らなかったが、ご自身のことに触れられている部分も多く、知ることができた。
大江さんの文学に対する誠実さで成り立っていた賞だった。それを支えていた優秀な編集者も。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ単行本だが170ページで読むのにそんなに手間のかかるものではなかった。ただ前に読んだ「去年の冬きみとわかれ」もそうだったが、何かに優れていたり、異常になにかにとり憑かれた人を書くという作家なのか、日常生活には見られない主人公や周りの生き方が少し分かりにくくもあった。
分かるというよりも、まぁどんなテーマでも読み手の想像で筋をたどるのだが、読んでいてこういう世界もあるのかという感想だった。
恵まれない孤独な境遇の青年が、スリで生活している。
スリの手際もよく、効率のいい裕福そうな人を狙って、生き延びている。
底辺の法外の生活者、アウトローなので縛られる何物も持たない。ただ一時関係があった人妻が分かれた後、自殺してしまったという過去がある。
子供の頃、同級生が見せびらかしていた外国製の時計をすろうとして失敗した思い出があった、いまでは天性の勘と器用さで天才的な技を身につけ、つかまったことがない。
一時詐欺組織にいた男と組んだときは、彼のスリの技は人生の美にうつった。
闇の中から出てきたような男に仕事を依頼される。それは依頼というより、命がけの仕事だった。
得体の知れない男は頭が切れ部下も多く、危険な仕事を楽しんでいるようだった。
彼は、子供の人生を設計どおりに操った貴族の話をする。
傲慢で冷酷な自分を神になぞらえ、恐怖や悪といった感情と表裏をなす善を見据えてこそ、死の恐怖を超えることが出来る、という独自の悪の哲学のようなものを話して聞かせる。
仕事はまるで不可能なような三つの条件がついていた。失敗すれば知り合った子供とその母親の命がないという。
彼はその困難な仕事に挑んでいく。
リーダーでない限り、仕事はどんなにうまく行っても、駒の働きでしかない。彼は、ふと知り合った親子の命と、スリの腕に対する矜持と、わずかな希望で事に当たる。
悪には悪の世界がある。そう分かっていても、何か徹しきれないものがあるのが普通で、彼も恐怖や迷いから逃れられない。
作者の苦心が現れた作品だったが、世界が世界だけに割り切れない、雰囲気に乗り切れない部分があった。
ひとのもつ不思議な世界に挑戦しているような作品を二つ読んだが、後はどういった方向に行くのだろう。
余談だが、私は三度スリに会っている。三度とも給料をすられた。二度は定期券ごと盗まれた。定期は会社から半年ごとに支給されていたので少し距離のある通勤圏の私は使いはじめに盗られると痛手だった。もちろんなくせば自分で買わないといけない。
証明書を貰いに行くと経理の係りの人が、気の毒がりながらもあきれていた。紐をつけておいたほうが言いとアドバイスしてくれた。
給料日には本屋に行くのが楽しみで、長い時間本を見て歩き、中にある喫茶で少し読んだりして、宙に浮いた気分で混んだ電車に乗って帰っていた。
乗り換えの改札口で財布も定期もないことに気がついた。駅員さんに教えられて、そばにある派出所に届けたが、そういうものは出ないでしょうと無責任に言われて少し憤慨した。ぼんやり者にでも少しは優しい言葉を掛けてくれても、と思ったのだった。それ以後届けなくなった。
スリというものは知っていたが実在するというのを実感した。
テレビで空き巣狙いのピッキング技やスリの手際のよさを特集した番組があった。係りの刑事がその様子を見せてくれたが、三人組の芸術的ともいえる盗品のリレーに感心した。
外から見れば憎らしいスリだが、小説の主人公ともなると何か、うまくいって欲しいように思えるのは作者の腕かな。 -
購入済み
映画化するの…
残り1/3くらいからかな、色んなものが繋がって「あぁ、そうだったんだ」ってなります。
だから、そこからはもうノンストップで読み終わらずにはいられませんでした。
映画化されるということで読みましたが、あのキャスティングでいいのか…
映画は見ないと思います。 -
Posted by ブクログ
女性の書き手が綴る身体や性にまつわるエッセイ「私の身体を生きる」の、男性版。
女であり女であることに違和感なく生きてきた私にとっては、女性の書いたものの方が当然共感するところは多かったけれど、男性たちの綴る文章もとても興味深かった。
男女問わず、どんな属性の人だってそれぞれ尊重されるべきではあるけれど、同質である必要は全くないなと改めて思う。
女性と比べて、身体やジェンダー、性のことを直接的に書いている人がかなり少ない印象を受けた。
と同時に、男性が男性性を語ることの難しさとはこういうことかと納得させられる。社会において強い側とされる側が何をどう語るのか、語って良いのか、難しいのかもしれないけれど、もう少し踏み込んだ内容が読みたかったな、というのが正直な感想。
身体より社会、に意識が向いているように感じた。
その中でも田中慎弥さんの偏屈さが滲む文章がとても好きだった。好きだったとかも言われたくないのかなとか思っちゃう。なんだかいじらしい愛しさがある。
最後の最後で朝井リョウが‘やっている’。
両手を掴んでいたはずなのに、その手を掴んだまま大きく振り回されて、遠心力で吹っ飛ばされたような気持ちで本を閉じた。
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Posted by ブクログ
東京を仕事場にする天才スリ師の主人公。かつて強盗を依頼してきた木崎という人物と再会したことをきっかけに、「3つの仕事をこなせ。失敗すれば殺す」という危険な依頼を受けることになる。さらに、過去の仕事仲間である石川や立花とのやりとりも交えながら、物語は進んでいく。
登場する人物たちはどこか退廃的で、それぞれが独特の哲学や価値観を持っている。完全に理解できるわけではないのに、なぜか一部分では共感できてしまう。その「わかるようで、決して相容れない」という絶妙な距離感が、この作品の魅力だと思う。
そのため読後は胸をえぐるようななんとも言えない感情が込み上げてくる -
Posted by ブクログ
東京を仕事場にする天才スリ師。闇社会に生きる木崎との再会から日常が狂いだす。
「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」
スーパーで子供に万引きさせていた母親との出会い。
身体を売ったお金は男に巻き上げられ、子供と共に殴られる日々。
他人の人生を支配するとはどういうことなのか?
裏切りにあった最後彼の放ったコインの行方は・・・・。
難しい字だこと( ゚д゚)ポカーン
中村さん作品過去に読んだ物も苦しい話が多かったがこちらもなかなか。
主人公がスリをする場面は臨場感があってヒヤヒヤさせられた。
他人の人生を支配する。
最近、良く耳にする闇バイトが浮かんだ。
少しでも足を踏み入れたら、逃げられない。
もともとがスリ師だからまっとうな生き方では無いのだけど、木崎のような闇社会の人間はほんの僅かな隙間にも入りこんで気が付いたら底無し沼に落ちたような真の怖さがある。
同じ闇でも闇一味で良かったぁ。