中村文則のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
人生で初めて読んだノワール作品。
無駄を省き、主人公の目線から描かれている作品で、名作と呼ばれるのも納得できる。ただ、個人的にはあまり肌に合わず、評価は低め。
序盤は、主人公の掏摸としての卓越したスキルが描かれており、物語にも入りやすかった。
中盤では、主要人物である木崎との出会いが描かれ、物語が大きく動き始める。
終盤は、木崎から与えられた三つの指令を軸に、まるで悲劇的序曲のような物語が綴られていく。
そしてラストは、さまざまな含みを持たせた終わり方で、読後に考えさせられるものがあった。
ハラハラ、ヒリヒリする展開で、スリの描写もリアルに感じられた。実際にスリをしたことがないので本当のところはわからないが、細部まで丁寧に描かれており、臨場感も十分。作品としての完成度の高さは感じた。
ただ、自分がノワール作品そのものを苦手としているのか、個人的にはあまり刺さらなかった。
それでも、ラストでは独特の世界観に引き込まれた、主人公や木崎がどうなっていくのか…
[王国]も読んでみる事にする。
主人公は間違いなくカッコいい。 -
Posted by ブクログ
作中に出てくるスリの描写が妙にリアルで生々しかった。
案外こういったものが実写向きなのかもとも思った。
東京を仕事場にする天才スリ師。
ある日、彼は最悪の男と再会する。男の名は木崎。
かつて仕事を共にした闇社会に生きる男。
木崎は彼にこう言った。
「これから三つの仕事をこなせ。失敗すればお前を殺す。
逃げればあの女と子供を殺す」と。
運命とは何か、他人の人生を支配するとはどういうことなのか、
そして、社会から外れた人々の切なる祈りとは。
なかなか、後味はよろしくない内容。
重いともまた違う、どこかノワール気味なそんな雰囲気の作品か。
ラストまで緊張感は続くのだが、
明確な答えのようなものは提示されないので
そこはモヤっとしたまま結末を迎える。
そういった意味では人を選ぶ作品と言えるかもしれない。 -
Posted by ブクログ
中村文則が評価される理由って、多くの場合は
* 人間の破壊衝動
* 支配と被支配
* 執着
* 孤独
* 死への誘惑
* 善悪では割り切れない暗い感情
を、異常なほど生々しく言語化するところにある。
あなたが最初に衝撃を受けた『土の中の子供』なんかはまさにそれで、ストーリーよりも「人間の暗部をどう描くか」が中心にある。
『教団X』も良くも悪くもそっち側。
だから、
登場人物の持つ、何か特定のものや感情への依存、狂気に、その言語化や文章力に、とても衝撃を受けました。
という感想は、中村文則を好きになる人の典型的な入り方だと思う。
一方で『去年の冬、きみと別れ』はかなり「エンタメ寄りのミステリー」なんよ。
どんでん返しや構成の巧みさが前面に出ていて、
* 人物の内面を深く掘る
* 狂気を言語化する
よりも、
* 読者を騙す
* 真相に導く
ことが目的になっている。
だからあなたが
私の消滅の少し柔らかいバージョン
と感じたのは結構本質を突いている気がする。
『私の消滅』もどんでん返し系だけど、あちらは「自我とは何か」という不気味さや哲学的な気持ち悪さが最後まで残る。
『去年の冬、きみと別れ』はもっと純粋にサスペンスとして読ませる作品やから、中村文則に求めていたものと少しズレていたんやと思う。
あと、
大切な人の復讐という展開がワンパターンだなと思ったかもしれません。
これも分かる。
中村文則ってしばしば
* 誰かを救いたい
* 誰かのために生きたい
* 誰かのために壊れる
という構図を書くんやけど、『去年の冬、きみと別れ』はそこが比較的ストレートなんよね。
『土の中の子供』や『教団X』みたいに、
「そもそもこの人は何を求めているのか」
「善人なのか悪人なのか」
が曖昧な不気味さが少ない。
だから予想外の真相はあっても、読後の不穏さや後味の悪さは弱い。
ただ、あなたの感想の中で一番興味深かったのは、
途中、何もかも憂鬱な夜にを読んだ時のような、少し柔らかい、暖かい気持ちになりました。
という部分。
中村文則は暗い作家と思われがちやけど、実は根底にはかなり強い「人間への信頼」がある。
『何もかも憂鬱な夜に』もそうやし、『去年の冬、きみと別れ』もそうやけど、
どれだけ壊れた人間を書いても、
「それでも誰かを思う気持ちはある」
という方向に着地することがある。
だから『土の中の子供』や『教団X』で感じた衝撃とは別の、中村文則のもう一つの側面を見たのかもしれない。
むしろあなたの場合は、
* 『土の中の子供』
* 『私の消滅』
* 『教団X』
あたりがかなり刺さりすぎたせいで、
『去年の冬、きみと別れ』を一般的な読者より高いハードルで読んでしまったんじゃないかな。
「面白くなかった」のではなく、
「中村文則に期待していた種類の面白さではなかった」
という感想に近い気がした。 -
Posted by ブクログ
あなたのマイルールは?っていう質問が出演者にたいして投げかけられるのだけど、これが面白い。とても一般的なことを答える方もいれば、え?それってどういうこと?と答えるような内容もある。ただ、どの回答も、よくよく話を聞くと、なるほどそうか。と思う内容で、上っ面でなくきちんと腹に落としたマイルールがあることがすごいなと。
こうしたルールは最初からあるのではなくて、インタビューや内省の過程で形作られているんだろうけれど、きっと作家さんというのはそういう過程をごく自然なこととして普段からされているんだろうな感じたし、その過程と表出した事柄が、私の関心ごとなんだな。って気づけた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ2人の女性を焼き殺した罪に問われている木原坂雄大と、その事件を本にしようとしている主人公のやり取りを軸に、取材の様子が主人公の一人称で語られていき、随所に木原坂からの手紙や被害者のTwitter文面が資料として挿入されていく。読者は読み進めるに従って徐々に真相に近づいていくが、主人公の文章はあくまで取材記録の体を成しているため、主人公の心情を通してではなく、読者も資料を見て事件の真相に気づくというのが面白い試みだと思った。結局、この構成自体が、木原坂に全て暴露するための本そのものだったという大きな仕掛けがあったのだが、現実の小説をも物語の中の小道具の一つにしてしまう手法には感心した。木原坂は主張どおり、直接手を下してはおらず、2人目の事件は完全に仕組まれたもので、しかも被害者は姉。その首謀者が1人目の被害者の恋人であり、かつこの本の編集者という、複雑な叙述トリックだが、個人的には、もっと淡々とした感じでストーリーが進んで最後にひっくり返るという構成も見てみたかった印象がある。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ今までの自分の読者傾向をもとに、チャットgpt から強烈におすすめされて本だったが、微妙だった。確かに、木嶋とその組織の正体が謎である終わり方もいいと思うし、むしろこの小説にミステリー要素を求めるのはナンセンスなのだろうが、それは読んだ後にわかることで、若くて刺激を求めてしまう自分にはどうしても物足りなかった。やっぱり、主人公の過去、組織の正体、社会体制、構造反転など壮大なものを期待してしまった。この小説の冒頭の私小説的な件も「しゃべり始めたな」と正直思ってしまった。あとがきも真っ直ぐな言い訳を聞かされているようで惹かれなかった。自分は寡黙の美学のようなものを作者や芸術に求めてしまうのかもしれない。