適菜収のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ「神は死んだ」という言葉で有名なドイツの哲学者、ニーチェの「アンチクリスト」の現代語訳。解説にあるとおり、終始知識人が難解な思想を大衆に開陳するという印象はなく、フランクな口語体で読者に迫って語りかけてくるような印象だった。キリスト教世界=精神病院、僧侶=寄生虫だとか。
個人的にはキリスト教と仏教の対比している箇所に感銘を受けた。キリスト教は最下層民が弾圧を受ける中で形成していった、常に敵を求める、人を堕落させる宗教で、仏教は温和な気候の土地で生まれ、中庸の立場や良い意味でのエゴイズム(問題を自分に引き寄せて考える)を説く、成熟された現実的な宗教だという。
そういえばローマ帝国が滅んだのはキリスト教を公認してからだし、十字軍はイェルサレムをイスラム教勢力から奪還してから、同地で殺戮と略奪を繰り広げている。今もアメリカが戦争を仕掛けるのは、常に敵を求めるキリスト教と切り離せない関係にあるからだろう。
他にもイエスの教え≠キリスト教ということも述べられている。イエスが教えたのは「実践」であり、「復讐」とか「罪と罰」ということは説いていない。弟子達がイエスの教えを歪めて、キリスト教を非寛容的で戦闘的なものへと変貌させる。ニーチェは憎悪や怨恨に基づく道徳を「ルサンチマン道徳」と呼んでいますが、これはまさにキリスト教に当てはまるものだと言う。
個人的にはキリスト教が嫌いではないが、読み物としては秀逸だと思った。きっとニーチェが否定したのは、キリスト教によって作られた、偽りの「神」なのだろう。だから彼はこう言ったのだ。
Got ist tot.(神は死んだ) -
Posted by ブクログ
ニーチェの「アンチクリスト」の現代語訳というか超訳ということである。ただこの新書を語るときには、まず、原作よりも翻訳のあり方について語らねばならないだろう。
所詮、「日本語訳」を読むのだから意訳はどうしても必要と思う。原書に忠実?に直訳されても、おそらく自分ら一般人には理解が難しい。ただ、この書のような超訳はどうかという話である。
試しに近くにあった白水社「ニーチェ全集」(西尾幹二訳)の「アンチクリスト」のページをめくると、荘厳で詩的な調べのおそらく忠実に翻訳されたニーチェの言葉として記されている。また、そうであるが故に散文調の哲学的言い回しで(アフォリズム)、日本語文としては・・・という状態なのも確かである。(余談だが、西尾についてはその歴史に対する姿勢から、その思想については信頼が置けないと思っているのだが、この訳はたぶん真面目に訳しているのでしょうね。)
それに比べ本書の訳は大変にわかりやすく、ニーチェ自身の言葉からはかけ離れてしまったが、その意図はよく伝えているのではないだろうか。確かに超訳なのだが曲解までには至っておらず、また本書の巻末の解説にもある通り、逆に論旨が鮮明となりとてもわかりやすいので、実はその試みは成功していると言ってよいと思われる。
ただ、新書タイトルや表紙絵、また、各節の小見出しや固有名詞の解説は、100%訳者の意図でニーチェは関係なく、その趣旨は理解可能だが、論旨とは別の予見を読者に与えかねない行為であり、いただけない。
さて、本書である。(笑)論旨が逆に鮮明になりすぎたおかげで、過激さもUPしたのだが(笑)、くど過ぎるのと他者攻撃が激しいのとで、まるで酔っ払いの愚痴をきいているような感覚をおぼえます。(笑)イエス亡き後、キリスト教を体系化し、下からの宗教として世の中に浸透・発展させたパウロ。だが、ニーチェの目には真理を騙り、自らの利益の手段として神を騙る思想としてみえる。現代日本社会を生きるわれわれには計り知れないのだが、長い期間における、そうしたキリスト教教会とその聖職者の、聖俗を通した抑圧の深さへの最後の怒りの爆発のような感じです。個人的にも彼の怒りと論理に共感できる部分は多い。
ただ、長いものに巻かれているのが心地よい人が多数の世の中で、神が死にキリスト教から解放されてしまった後、人々の立脚すべきよりどころを探す道はとても険しく、ついてこれる人も少ないようにも思う。そうした「その後」についても気軽に考えることができる格好の一書。 -
Posted by ブクログ
いろいろと文句はあるのだが、訳文に対応する徒然草本体からの引用が一部分だけというのは一体どういうことなのか。これでは訳文が原典に忠実なのか著者の主観含みなのかがこの本だけでは判断できず、読者に対して不親切だと思うんですけど。
著者は歴史学者ではないので、引用箇所の歴史的背景の説明が薄っぺらい点にはひとまず目をつぶることにする。そのうえで現代における例示内容の悪趣味さにも目をつぶればその解釈自体はおおよそ同意できるんだけど、専門家との向き合い方の部分に関してだけは、コロナ禍を経験して専門家への信頼が失墜した現代日本でそのまま適用しちゃいけないんじゃないですかね。
総じて本書から先行して読んだ徒然草関連本の充実度と比べると一段か二段落ちる印象ではある。一応すらすらと読めるように構成は工夫されていると思うので、古典の苦手な人が徒然草の主要なエッセンスだけ知っておきたい、という用途であればまあこれもアリかもしれない。