マッシーさんのレビュー一覧
レビュアー
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くらまし屋人の為に再び無賃働き
二人の女方の歌舞伎役者が、煌びやかに華やかに「娘道成寺」を演じて評判を博していた時代だった。一人は浜村屋瀬川菊之丞、もう一人は天王寺屋中村富十郎である。今回、この歌舞伎にまつわる物語だ。
浜村屋は5年前に菊之丞が亡くなると、主役の後継ぎが年端もいかない若者に代わり、未だ芸も未熟であるため、脇役の優秀な役者が浜村屋を去るなどあり、益々浜村屋は落ち目となった。浜村屋の台所を預かる将之介がこれを立て直そうと、米の先物取引に手を出したが、失敗して大損した。家を売り払って損失を埋めたが、浅草の見窄らしい家宅で稼業をかろうじて続ける始末だった。
そんな時に、浜村屋と天王寺屋との湯島天神の宮地芝居合戦の噂 -
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晦まし屋、平九郎の仕事の1年
堤平九郎が裏稼業とする「晦まし屋」のこの1年は、正月から本草家、阿部将翁を皐月15日までに故郷、南部の村に届ける約束に始まったのである。高尾山で大勢の幕府家臣が警護する中、いわゆる監禁状態の将翁を救い出し、江戸湊に連れ出して船で南部の村に約束の期日に送り届けることが出来た。
次は、3年前に解散した鰄党の残党が堅気になって江戸で働く中、鰄党の別の組に属した銀蔵が描いた筋書き、亡くなった頭の一万両の在処を平九郎が知っているという筋書きで、平九郎は利用され接触されるのであった。元鰄党の和太郎は、蕨宿で平九郎を脅して聞き出そうとしたが、逆に平九郎に斬り殺された。当の銀蔵は早々に姿を消す。仁吉の番が来 -
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晦まし屋稼業三人、高尾山の奮闘
くらまし屋、堤平九郎が今回仕事を受けた相手は、幕府に召し抱えられていた本草家、阿部将翁という八十八歳の老人である。この老人、幕府に採薬使として仕えてきて十年前に御役引退の願いを出して許可された。だが、気の毒なことに自由な行動を制限されていた。
本草家は、主に植物を採取し薬の抽出を役目とする。薬草を探して山野を歩き回るのだが、植物のちょっとした変化で土や岩の特徴が見分けられる。いわく、鉱脈を見つけることもたまにあった。釜石の磁鉄鉱脈は将翁の発見とも言われる。
また、朝鮮人参を種から育てることに成功して、安価にして世間に出した人物でもある。優秀な人物ゆえ、悪人たちからも狙われたし、やたら外出して話 -
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平九郎仕事は成功するも代償無し
江戸近在多摩村では凶作に見舞われ、小作農家の娘お春は少しでも家計を助けるため、江戸の呉服店「菖蒲屋」に奉公に出た。未だ11歳の子供だった。
お春が健気に奉公に励んでいたある日、店主の留吉から部屋に呼び出されて乱暴されようとした。その際、助けを求めて声を上げた為、番頭が留吉を諫めてお春は難を逃れたが、留吉が言い訳をでっち上げてお春のせいにするのである。
留吉はケチで意地悪な性格だが、物語ではそこばかりを強調しているように思える。留吉は当然、店主として商店街や組合等の会合に出席する程の人物であり、一時の気の迷い、魔が差したとは言え物語にあるような悪事を重ねるほどの悪人なのかと、不信に思われるところ -
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「くらまし屋稼業」を読んで
堤平九郎は浅草雷門近くに飴細工の露店を出している。飴の商いは仮のものでありもう一つの別の稼業が「くらまし屋」といって、この江戸を逃れてよそ地で暮らしたいという者の望みを叶えるという商売である。 浅草界隈のヤクザの元締め、丑蔵の第一、第二の子分、万次と喜八は、予てよりヤクザの暮らしに嫌気が差して抜け出したいと願っていた。 万次には、日本橋の飲み屋で手伝いをするお利根という女がいる。万次はヤクザ家業の足を洗い大阪で店を出し、お利根と二人で暮らす願いがある。 喜八は故郷、小諸に病いの妻と娘がいる。その治療代を稼ぐために江戸に出て治療代を送っていたのだった。そして更に娘が流行病に罹り、せめて家に戻って
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心暖まる喫茶店の物語
明治に建てられた建物の地下にある「フニクリフニクラ」という喫茶店を舞台にした小説です。この喫茶店には、過去未来に行ける、すなわちタイムトラベルができる特別の座席があり、その座席を通じて4つの心暖まる物語が展開されます。小説はオムニバス形式と考えました。
第2話の「夫婦では、若年性アルツハイマーを患った夫とその妻の物語が中心です。夫の記憶障害が進行する中、妻は離婚を考えますが決断出来ません。妻は、夫の行きつけのこの喫茶店で、夫が妻宛に手紙を書いていたことを知らされた。そして特別な座席を利用して過去の戻り、夫が書いた手紙を読むことで夫の覚悟を知ります。その結果、妻は夫とともに病気を乗り越える決意 -
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不思議な魅力を持つ弐吉
江戸時代中期以降、侍の生活は困窮し、幕府の俸禄だけでは生活がままならなくなっていた。侍たちは俸禄として支給される米を札差で金に換え、江戸での生活を支えていたが、幕府からの俸禄が増えない中、物価は上昇し、借金漬けになる侍が増加していた。笠倉屋では、五年先までの俸禄を担保にして貸金を行っていたが、新しい札差仕法の噂が流れ、その対応に追われていた。
笠倉屋の手代、弐吉は金利を下げて借金の借り換えを札旦那に勧め、返済の負担を軽減しようと試みたが、様々な妨害に遭遇した。特に同じ店の手代である猪作からの恨みを買い、命を狙われることもあった。最終的に幕府より棄損令が出され、弐吉の対策が功を奏し、笠倉屋は被 -
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札差弐吉の勇敢な働き
札差・笠倉屋では、後継ぎの若旦那が相変わらずお店に迷惑になることばかりしている。
今回は、外で女を孕ませる事態を引き起こし、主人・金左衛門が息子貞太郎を連れて女宅を訪れて、金で事態を収めるのだった。貞太郎の軽率な行動は、一つ間違えればお店の暖簾に傷を付けるような事ばかりである。
手代の弐吉は、大得意先の御納戸組頭黒崎が連れてきた御納戸衆能美彦兵衛の金談の対応をした。本来能美の借金には応じられないところ、黒崎の要請を汲んで弐吉は能美に5両を貸し出して金談を済ませた。
だが、弐吉は無理を押す能美の要求を不審に思い、番頭・清蔵に相談した。そして清蔵は弐吉に黒崎の周辺を調べるように指図した。
弐吉は、 -
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札差屋小僧のお手柄
浅草森田町にある札差、笠倉屋の小僧、弐吉は将軍直参の侍に支給される切米を侍の自宅に配達した帰り道に、魚油屋上総屋五平が侍と思しき二人連れに殺されて、集金したばかりの金子、十数両を盗られた事件を目撃した。遠くからであり、日が暮れて辺りは暗かったため、顔や姿までははっきりとは解らない。目撃者は複数人いて、犯人は一人だ証言する者もいた。
魚油屋五平殺しと金子十数両の窃盗事件を調べるため町廻り方が探索に動いた。
事件の容疑者が聞き込みから3人が浮かんだ。旗本の梶谷と塚本、そして御大身の宇根崎将監とその用人阿部である。
町方の調べで梶谷が下手人の可能性が濃厚になったのだが、弐吉の証言どおりなら下手人が一 -
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前途洋々の新宮鷹之助
武芸帖編纂所頭取、新宮鷹之助は、今回、若年寄・京極周防守より幕府の番方、即ち大番、小姓番、書院番、小十人組でそれぞれで一番上位の剣客の腕前調査を命じられた。
早速、小姓組番の増子啓一郎から調べ始め、次に書院番方、子上礼蔵そして大番方の剣持十兵衛を自宅訪問して取材すると、番方侍は将軍を護るという重役を担うことから、役目に忠実で自宅で日々剣術稽古を行い腕を磨いて怠りなかった。
増子啓一郎と子上礼蔵については、取材して報告書を書き上げて周防守に報告したが、将軍家斉の御前試合が開かれて、鷹之助は両者との仕合で両者を破った。家斉は、両者に武芸の鍛錬に怠りなくと申し付けた。
大番方組頭、剣持十兵衛は、他の -
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剣豪だといえ、結局生身の人間
将軍家斉の命で、新宮鷹之助は自宅内にある武芸帖編纂所で、廃れゆくそして人から忘れ去られる剣豪たちの武術を書き残している。
編纂所の編纂方は、いずれもその道に通じる達人たちであった。
そうした剣豪たちも思いも寄らないことで普通の人間に立ち返る。
三右衛門は風邪を引き高熱を出して3日間療養する羽目となった。その間、三右衛門は己自身の来し方行く末に思いを馳せるのである。
それを見た鷹之助は、病み上がりの三右衛門に3日ほどの休暇を与えた。
三右衛門は内藤新宿で噂に上る剣豪が、昔三右衛門が大和柳生で修行したとき、相弟子の和平剣造だと知り彼の住まいを訪れた。剣造は労咳を病んでいたが、果たし合いの約束を抱え -
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長崎に帰る猪三郎、鹿之丞、お蝶
筒井和泉守が長崎奉行から江戸南町奉行に赴任した時、村雨卯之介と彼に養育された猪三郎、鹿之丞、お蝶が一緒に江戸に来た。村雨は南町奉行所で与力として筒井の働きを助けていた。
猪三郎と鹿之丞、お蝶は深川に住処を得て、町人としての生業、すなわち猪三郎は使の者として、鹿之丞は団扇の張替、そしてお蝶は楊枝屋の店者として、稼ぎながら暮らし始めた。しかし彼らの実態は、筒井の指示を受けて表立って処罰できぬ悪人たちを葬る為に人殺しの仕事人である。これまで深川で沢山の悪人を退治してきた。死人はその数を数えることが出来ない程、山のように積み上がってしまった。
その為、深川界隈では町は破壊され、その賑わいは影を落として -
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人殺しが頻発する深川界隈
この物語の内容を私はどうしても掴めない。ここに描かれている世界は、俗に言い方をすれば、普通の人つまり堅気の人の世界とは全く別の世界だ。理解の及ばぬ遠い世界の出来事であると感じて、リアル感を持てない。港町深川で人殺し事件が山のように発生している。死人が積もって山になっている。
深川一帯を縄張りとする地廻り一味を全滅させる南町の町廻り同心の話し。
そして平和の象徴ともいえる美人コンテストの催事の後、コンテストで2位と3位になった小町娘の殺し。
更に、高利貸し業と深川芸者の殺し・・・など
いずれの事件に共通しているのが、南町奉行所の町廻り同心の存在である。
町廻り同心は、普段、街中を歩いて治安を護る -
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事件に係わる異色の仕事人
長崎奉行だった筒井和泉守が江戸、南町奉行に着任する際、混血の3人若者を連れてきた。名前は猪三郎と鹿之丞で深川一色町で湯屋の裏長屋に住んでいる。そして同じ深川黒江町楊枝屋の看板娘として働くお蝶。この3人組が外国渡りの武器を使い、地元の悪者を退治するという痛快な物語だ。南町奉行内与力の村雨卯之介は和泉守の配下にいて、これら3人を家来にして町の治安と安全を守る物語だ。
第一話は、美人の深川一番の売れっ子芸者、大吉姐さんを追いかける二人の男。大店の息子の福助と旗本侍の平川市之進が起こした事件だ。
とにかく、女を巡っての争い事は執念深いものである。慕いが深くなればなるほど危険を孕む。福助が殺されたが、向 -
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御庭番の行方は?
将軍家治は、前田加賀藩に不審な動きがあり、御庭番(隠密)3人を送り加賀藩の内偵に当たらせたが、いずれの者も行方不明になった。大目付朽木光三郎はこれら3名を見つけ出すように家治から命じられた。
3人の御庭番は岸田半左衛門と山中寛次郎、馬原三蔵という者である。
その内一人、岸田は本所の川で体中傷やあざだらけの土左衛門で発見された。死体から大量の浮き草が出てきたことで、光三郎は奉行所と共に犯行現場を特定しようとした。そして加賀藩の支藩で上野七日市藩江戸下屋敷が怪しいと考えた。
光三郎と相棒の東雲又一郎は、その屋敷に夜回り中間として忍び込み、蔵に監禁された山中寛次郎を発見し救出したが、屋敷から出て間も -
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西国大名の数々の悪事
長崎近在を領地にする大名たちが、江戸で起こした悪事の数々を描いた物語である。
南蛮人のことを鬼と勘違いした武家娘が、大川から助けられた。武家娘を掠い、南蛮人に売り飛ばすという第一話の「人身御供」事件を起こしたのは、矢場藩の江戸留守居が首領の事件だ。
大目付、朽木光三郎は、仲間のお幹とお蘭、芸者市松と近松を囮に仕立てて悪者の根城に乗り込み、犯人一味を捕らえた。しかし、主犯格の矢場藩、江戸留守居役服部は、その時服毒自殺を図り、犯行の動機は不明のままとなった。
その後しばらくして、両国で阿蘭陀芝居の一座が興行を始めた。この芝居を演じる役者は、混血の若者5人でその顔立ちや姿の美しさで、江戸娘を虜にした -
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出世競争
この物語の4件の事件は、京都から来た謎多き公家、穂波将監とその手下が実行したものである。穂波将監の姿形、すなわち何者なのかがなかなか浮かび上がらない。
江戸の寺を舞台に、忽然と消える8人の江戸小町の拐かし事件や、化猫で市中を恐怖に陥れ、不正な賭博が開催される事件など、穂波将監が企んだ悪事であった。
そして馴染みの大目付朽木光三郎は、穂波と連んで城中の奉行や老中たちの犯罪を暴いて成敗する。
江戸の街の安全と平穏を願う光三郎は、第三話で幼馴染みの東雲又一郎と一緒に穂波の探索を続ける中、忍びの一団に弓矢で襲われて足に深手を負った。大目付、長尾清之進が代わって穂波の行方を追及していたが、長尾自らの援護 -
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江戸の街に連続凶悪事件が発生
第一話は「火附盗賊」事件の話しである。
江戸の3つの大店に火附盗賊の一味が侵入し、お店者全員を皆殺しにして逃走するという事件が発生した。その際に、速水藩小坂和泉守が頭となる大名火消しがいち早く出動したが、この対応に大目付、朽木光三郎が不信を抱いた。
光三郎の探索は、幕府内の役職が依然として縦社会で役職の縄張りから生じる厚い壁に邪魔されるのだが、光三郎の下役、幼馴染み東雲又一郎が和泉守の屋敷に中間になりすまして入り込み、光三郎のために真実を掴んだ。
結局、この事件はすべて和泉守の自作自演で起きたものだと、光三郎が事件の動機と共に鮮やかに解明したのである。
第二話は「贋金」事件の話しである。
禹湯 -
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大目付、光三郎の鮮やかな活躍
徒目付の朽木隼人正、通称光三郎は、中山丹後守から推薦されて大目付に抜擢された。大目付は、大名諸侯や高家などの監視に当たるお役目である。
光三郎がお城に上がったその日、奏者番の控えの間で新米の奏者番を苛める他の古参大名を目撃し、それを咎める事から物語は始まる。
第一話は、重い病に罹り藩主が参勤交代で江戸に着任できず、代わりを勤める奥方が国元の殿様の病を気遣い、国に帰りたいと想いを巡らせる。家老が奥方によく似た女を身代わりに据えて、奥方が留守する一時を凌ごうと画策した。しかし「出女」は御法度である。
光三郎は、こうした不正の匂いがするネタを禹湯という湯屋の2階、お休み処で町人たちの会話を通して知る -
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純粋な気持ちの日暮龍平
北町奉行所の平同心、日暮龍平は三十歳で、身重の妻と子供一人と八丁堀に住んでいた。
龍平は、元は旗本沢木家の三男の部屋住みだったが、日暮家の娘、麻奈に見初められ、奉行所与力の日暮家に婿養子に入った。作者が描く徳川時代小説は、江戸時代後期、1800年前後の時代背景が多い。その頃は太平の世が永く続き、武士階級が壊れていく頃であり、代わりに商人や町人の活動が盛んな時代であったようだ。旗本でも、この時には落ちぶれ果て貧乏に苦しみ、生計もままならない状態の武士が増えたのである。
龍平は奉行所では平同心なので、自身の仕事をしている間にも他の同心たちから色々と雑用を頼まれる。しかし龍平が若い時に武道で鍛えた体 -
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凶悪事件を起こした若侍
北町奉行所勤めの萬七蔵が、定町廻り同心になったばかりの頃に起きた事件の話しである。
深川近くの洲崎の土手道で男の首切り死体が見つかった。死体は深川界隈の賭場を取り仕切る貸元岩之介で、懐を狙った辻斬り強盗だった。
七蔵がこの事件を担当したのだが、被害者の関係者の聞き込みに時間を取られて、一向に下手人を捕まえられなかった。その後しばらくして、和菓子屋の番頭羽左衛門が首を斬り落とされて懐の紙入れが盗まれる、という同様の事件が起きた。
七蔵の探索では同じ人物、田島享之介がしばしば浮かんだ。享之介は北町奉行所年番方与力、殿山竜太郎の奉公人だった。享之介は、表向きは礼儀正しい物静かな若い侍である。同じ侍の -
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小太刀遣いの女剣士
大川のお厩の渡しは浅草と本所を結ぶ船渡しである。
本所側の河岸通りを少々北に行った大川端に、萱葺屋根の出茶屋が、《お休み処 やき餅くさ餅》の幟を出している。その店の女将は、おはやと言い、嘗て松江藩、松平家の勘定方下役を務めた田部権之助の娘であった。父が勤め先で不正の疑いを掛けられて訴えられ、家は改易にあった。この娘は父譲りの小太刀の遣い手、武士にも劣らぬ強い女剣士だ。父の務めの上役組頭の二人を斬って殺し、仇討ちを果たした。娘は郷里を離れて、父の友が住む江戸へと向かったが、路銀も少なく、旅籠の下働きなど雑用をしながらようやく食いつなぎ、2年の放浪を経て何とか江戸にたどり着いた。しかしすでに父の友 -
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親の敵討ちをする三姉妹
六百石の旗本、疋田家に仕えていた河野佐治兵衛は、10年前、疋田豪軒の息子、籐軒の供をして柳橋の書画会に出掛けた折、船宿の澤田屋で籐軒が若衆を斬り殺す事件を起こした。
佐治兵衛は、籐軒の身代わりとして奉行所に出頭して八丈遠島の刑を受けた。
そして御赦免により、10年経った今、江戸に戻ってきた。戻ってみると妻は労咳で病死していて、三人の娘で長女の椿は吉原の花魁に身を落としていた。
佐治兵衛と疋田家との約束では、刑を受けた後も、河野の禄高は保障され、不自由無い生活が送れたはずだったが、実際は刑の宣告を受けた直後に破られていたのであった。佐治兵衛はこの違いに抗議するために、籐軒こと現在は大垣藩江戸上屋 -
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命は大切、無駄な命はない
「もどり途」という変わった名の物語は、2件の殺人事件から始まる。
1つは、浅草界隈を縄張りする貸元、谷次郎が殺された。そしてすぐ次に、2件目の殺しが発生。被害者は小網町、塩問屋「隅之江」の隠居の下女お豊である。
谷次郎の殺しは縄張り争いで、あやめの権八を頭とした破落戸一味が、谷次郎の縄張りを狙い横取りして、弟の谷三郎まで殺害するという、無法者同士が争う中で起きた殺人事件だ。
北町奉行所の隠密同心、萬七蔵は、お奉行小田切土佐守の命を受けて、あやめの権八の素性を探る為、手下の樫太郎と共に調べに入るのであった。
しかし、無法者は所詮味方すら殺害する極悪人である。権八は一味の1人、伊野吉に手下2人と共 -
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「十一」が越前守から禄をもらう
大岡越前は本能寺の住持、日彦が死の間際に言い残した悔恨の言葉を聞いて、17年前に起きた寺小姓、直助殺しの事件の再調査を古風十一に依頼する。
御鷹匠番餌差、古風十一は若く溌剌とし、加えて頭の良い好青年である。十一は越前守に見込まれて、わずかだが禄を貰って仕えている。
もっとも、事件は17年も経って人の記憶も薄れていて、十一ははっきりと事件の真相は掴めなかったが、ただ事件に関与したであろう人物の名前だけは掴めた。
真相は鉄砲組百人組与力で、今は隠居の身の上、一色伴四郎から大岡に書状が届き判明した。伴四郎は事件の被害者直助の父でもある。
本能寺の檀家に野添家があった。野添家主、真親は鉄砲百人 -
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名奉行大岡のお裁き、失敗
大岡忠介が江戸南町奉行として活躍した時代は、江戸の物価は上がり庶民の生活が苦しい。さらには西国では大飢饉が起きた。影響は江戸にも及び、米の価格が上がり暮らしで食べ物に困る程であった。
大岡は施策として金銀お吹替(改鋳)を推進して、物価の安定を図ることにした。施策に反対する両替商や大商人は幕閣の反対勢力の応援を得て妨害…その後、大岡は町奉行を退き、寺社奉行の務めを頂き今に到っている。
当時よりつまり五年前、江戸の庶民が群衆となり高間伝兵衛米問屋を襲い、毀す「高間騒動」が起きた。手代八右衛門が殺されて見つかった。犯人として与佐が捕まった。
与佐は、犯人では無いとお白州でまっすぐな申し開きをし -
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金四郎の得意な潜入捜査 始まる
おけいは、父、堀田一定に強制的に金四郎のもとに送られ、金四郎の側で暮らしている。おけいは押しかけ女房なのだ。
その一定が今度は、相手がその気でないのなら家に戻るようにと言い渡した。おけいは、身勝手な父に振り回されていると不満を感じる。おけいは金四郎のことが好きなんだ。今後一月の期限でどちらかに決めろと言われても、おけいには家に戻る気は無い。
祝言も挙げない男と女が、仲は好いが、長屋暮らしを一緒に送ること自体とても不自然である。
金四郎の実家におけいが訪れた時、金四郎は夫婦として固めの杯を交わすよう言われも、当てにならず及び腰だ。全くだらしない。優柔不断で決断力のない男である。
「遠山の -
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金さんの妻は「おけい」
江戸下町、諏訪町で金四郎とおけいが長屋で暮らしていた。おけいは、佐倉藩堀田一定の娘であるからお姫様の身分だ。父の命令で金四郎のもとにやってきた押しかけ女房、それも見習いという。おけいは、長屋の住民たちとも付き合いは良く、住民たちから沢山の手助けを受けて江戸の暮らしに困ることはなかった。
亭主の金四郎は、長崎奉行の息子であるから武士である。しかし、金四郎は今は無職で稼ぎがない。だから市中を巡り歩いて、好く賭場に出入りしている遊び人である。生活はおけいが勤める舟八の料理屋の奉公で凌いでいる。おけいは、金四郎がいずれ岡っ引きや奉行所同心になることを望んでいる。
金四郎が或る賭場で稼いでいた時、王 -
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沢山の事件と難問を抱える魚之進
ボッとして惚けて頼りない態度はしているが頭の良い味見方、月浦魚之進はいよいよ江戸城に登城する日が来た。将にその日、御膳奉行松田欽四郎が朝餉の味噌汁に仕込まれた毒により亡くなる事件が発生した。魚之進は将軍毒殺の計画が身近に迫るのを感じる。
再度、市中見廻りに戻った魚之進は、高価な根付けや器などを握り飯の中に隠し、天麩羅にして盗む事件で、利介という大阪から来た金持ちの料理人を捕まえた。魚之進は、友人の本田伝八の祖父が書いた疑惑帖が役に立ち、利八が盗人であると確信したためである。
第二話「スッポンポン」は、スッポン鍋を食べるには裸にならないといけない料理屋の名である。店の主が客を裸にさせてふんど -
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魚之進の独特な仕事ぶり
月浦魚之進は南町奉行所の町廻り同心だが、今は味見方として江戸市中の食い物の動向を探る役目に就いている。本来、南蛮渡来の香料や砂糖などの抜け荷の取り締まりが主なお役目であった。この際に魚之進の兄の波之進が犠牲になってしまった。抜け荷の実態がほぼ明らかになり、味見方の役目を潰すという話しもあったが、江戸の町人たちの暮らしを把握するのに必要な役目だというので、南町奉行所筒井和泉守の計らいで存続された。
今回の物語は、ぬるぬる御膳とひげ抜きどじょう、婆子丼、歯形豆腐という聞き慣れない食べ物が出ている。
信憑性はわからないが、話しは非常に面白い。兄の波之進に比べればその容姿や仕事の取り仕切り方は格段 -
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出世間違いなし、平七郎の働き
十五間川で久松という男の死体が上がった。奉行所定町廻りでは自殺として処理したのだが、一緒に暮らす女将が久松の死因に疑問を持っていたので、再調査の依頼が橋廻り同心立花平七郎に届いた。
平七郎が調べると、殺しが疑われた。更に、7月20日に起きた深川、油問屋浪速屋の押し込み強盗と放火事件に絡む重大な犯罪が浮かんだ。
火付け盗賊の頭領は、深川永代寺の側で骨董品を商う店の主、弥左衛門であった。そして一味の仲間5人が容疑者として浮かんだ。この盗賊一味は、6年前に盗みと放火で江戸市中を震撼させた仁左衛門事件と全く同じやり方であった。北町奉行は総力を挙げて捕り物活動を行う。そして一味全員を取り押さえたので -
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友情に応えて事件を解決
第1話「彩雲」は、立花平七郎が青春時代に剣術修行に励んだ頃の友人に係わる事件である。
上村左馬助と瀬尾鹿之助がその友人だが、それぞれが成人になり、鹿之助は下野国に帰り、黒金藩で藩主のお側で仕えていた。
この鹿之助に幾つもの不幸が降りかかるのである。御前試合で藩主の遠縁の富山伊一郎からいかさま試合を強要されるが、それを断り、勝利したことから不幸が始まる。その時以降、鹿之助は伊一郎から手酷く苛められる。結局、藩士の資格を取り上げられてしまい、浪人となって江戸で甲州屋の用心棒で生計を立てている。甲州屋が屋根船で武家のお客を接待したある時、宴席で諍いが起き、主が殺される。
その犯人として鹿之助が -
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気構えも足りない大人の人生
第1話の「紙人形」は、困難に際しその対応を少しばかり間違えたことで、人生が大きく変ってしまった町人の物語である。
50両もの借金を抱えた小間物屋の吉兵衛は、その返済に窮してしまい、以前奉公していた小間物屋の「えびすや」を頼って金を借りるべく訪ねた。しかし、主からは相手にもされずに冷たく追い返される。
借金の返済にこだわり過ぎ、あるいは自分の商売の存続を考えるあまり、えびすやに頼るだけが返済の道であると短絡的に考え、他に考えを巡らすことが無かったこと、それが彼の落ち度であった。1軒の店を持つ大の所帯主であるにも拘わらず、いま少し考えを巡らせれば他の方法もあったのだろうに・・・
それにしても -
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江戸の町人世界を知る
天下太平の世が長く続く江戸。特権階級の武士はたいした役目や仕事もなく無為に日々を過ごすだけだ。
反面、町人の世界は盛んになり繁栄するのだが、特に大店と呼ばれる町人の中に取り入る武士が現れる。そこには、金が全てという価値観の変化が見られる。
第二話は、奉行所の内輪の話である。南町奉行所で威勢を謳歌する楠田宗之進が、市中のお店から金を強請り取るという、悪事の物語である。お店の落ち度や弱みを見つけては取り入り、刑罰の免除をちらつかせ、金を強請るのである。
南町の岡っ引の伊勢蔵は、父伊助を殺害されたのだが、その犯人は楠田だという証拠を見つけるために、楠田の関係するお店を根気強く廻り調べる。そして -
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幕府が巧みに江戸市中を守る
橋廻り同心、立花平七郎は江戸に沢山掛かる橋の検査の役目に就いている。これは奉行所の一つの役目なのだ。木槌で叩いて橋梁や橋板などの腐食、傷みを見つける。単純だが根気の要る仕事だ。もし落ち度があれば、橋の倒壊や流失などの重大な事故に繋がる。だから、たまに平七郎は仕事後には橋の袂の茶屋や居酒屋で相棒の秀太とその日の疲れを癒やすのだった。
江戸は広く大勢の人が橋と係わりがあるようだ。橋のある風景は、時に人を故郷で見た景色を思い出させて懐かしい気持ちにする。また、橋の袂に風雪に耐えてたたずむ老木を眺めては、自身の励みにすることもある。
第三話では、東堀留川に掛かる思案橋。近くに魚市場があり新鮮な魚が -
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大阪出の店者の人情ある幸せとは
第2話「秋茜」は、蝋燭問屋播磨屋の主の自殺に係る投げ文が奉行所にあり、榊原奉行から依頼された平七郎が探索を始めるのである。
橋廻り同心、立花平七郎は旗本で火付盗賊改方の市岡勘解由の不正を調べることになった。
市岡は、その屋敷で賭博を開いては市井の人々を餌にしていた。なかでも市岡家と取引のある商人を賭博に誘っては大金を巻き上げ、やがて借金地獄に陥れ、自殺させたり、お店の沽券を奪うという極めて悪くどい事実が判明する。
平七郎は読売屋のおこうと辰吉などの仲間の助けを借りて証拠をつかみ、榊原奉行を通じて市岡を大目付に訴え成敗する。
他方、平七郎の下役の秀太が小名木川に架かる万年橋の袂で川に浮か -
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平七郎、暗いお江戸を花に変える
橋廻り同心とは江戸府内の橋梁120余りを管理するのがお役目であるが、毎日が木槌で叩いて点検して回るだけの単純なお役目である。奉行所内でもこのお役目は閑職と見なされている。しかし、仕事の合間には江戸市中の様子が窺えるし、時には事件にも遭遇するのだ。
この役目を頂いた立花平七郎は、嘗て定町廻り同心を務めていた頃、通り名を「黒鷹」と呼ばれ、奉行所内はもちろん江戸市中でも親しまれていたが、榊原北町奉行から密命を受けて橋廻り同心のお役目に就いた。
第1話の「菊枕」では、平七郎が臨時廻り、八田力三について調べるようにと奉行から命じられた。
賭博やけんかで何度となく捕らえた弥市という破落戸を、八田が再 -
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奉行所内に「橋廻掛」がある
北町奉行所定橋掛同心、立花平七郎は日々江戸市中の川に架かる橋を検査し、傷んでいるところがないかを確認するのが役目である。元々は定町廻同心だったが、何か不手際なことをして、降格されて奉行所内では一番格下の橋廻を務めている。この小説は、平七郎が橋を巡りながら江戸の街を歩く間に起こる事件などの物語である。
「恋椿」の巻には四編の物語が収められているが、三編目の「闇の風」が味わい深く良い物語だ。
今日、検査が終わったばかりの紀伊野国橋を淫靡な雰囲気を醸して橋を渡る女を見かけた。平七郎が三年前の定町廻りの頃に捕えて島送りにした男、仙吉の女房・おまつだと気づいた。
仙吉は腕のいい鬼瓦職人だった。そし -
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孫を想う伝次郎
南町奉行所永尋掛り同心、二ツ森伝次郎は70歳に近い。
今回の捕り物は、口入れ屋久兵衛が起こす二つの殺しを追う物語である。
寮番として働く作兵衛。実の名前は懸巣の尚兵衛と言い、大坂や江戸で殺しを請け負って来た殺し屋である。しかし、67歳になった今は高齢で体が思うように動かなくなっていた。
これらの悪党たちが、江戸で暮らすには塒をいくつも代え、そして名前もいくつも使い分けて暮らさざる得ない。久兵衛は口入れ屋「鳶」と呼ばれる。
鳶が尚兵衛に最後の仕事として蝋燭問屋「石見屋」の大内儀の殺しを斡旋した。そして十日以内に殺すようにと命じた。
一ノ瀬真夏が八丁堀近くで、偶然に鳶の手下、蓑吉を見掛け -
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歳を感じさせない捕り劇劇
南町奉行所の永尋掛り同心、二ツ森伝次郎。相変わらず捕り物にかけては年の功を感じさせ、事件の解決に邁進する腕の良い同心である。今回も悪人を取っ捕まえまくる。
過去に事件を起こした悪人たちの多さ。盗賊、火付け、殺し、誘拐等などの凶悪事件があった。
悪者が多すぎるとこぼす伝次郎。事件の直後に解決していれば、次の事件にも繋がらずに済んでいたと思う伝次郎である。
第四話、「鼻水太郎兵衛」は盗賊、斑蜘蛛の一味を捕らえる大捕物物語である。伝次郎と同じ同心の一ノ瀬八十郎は剣の遣い手である。その親友である同じ剣客の枝村収蔵が盗賊の用心棒になっていた。八十郎は枝村と対決して倒した。枝村がどこで悪の道に入った -
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犯人の捕獲に血眼になる伝次郎
永尋同心、通称戻り船同心二ツ森伝次郎。朝八時の出仕である。奉行所内の掛りの部屋でいつものように朝の茶をすすっていると、平右衛門町の空き地で顔を潰された死体が見つかった知らせを聞いた。伝次郎は市中を見廻るのも重要なお役目である故、死体が見つかった現場方面に見廻りに出た。
その現場に向かう途中、古物や盗品を商いにする倉吉を見つけて問ただした。そして、茅町にある倉吉の家を訪ねると骨董品など細々と置かれている中に、名人早野三郎助が彫った根付を見つけた。
十二年前、富沢町の薬種問屋「讃岐屋」に盗賊が入り、主夫婦、倅夫婦と住み込みの者六名が殺害されて一千両が盗まれた事件があったのだが、その時一緒に盗ま -
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伝次郎親子の連係で事件を解決
元御用聞きの多助は77歳の隠居の暮らしだが、嘗て捕り物の取り調べで無実の人を誤って島送りしたことを非常に悔いていた。流人船が出る船番所辺りに来ては腰を下ろして、海を眺めて罪滅ぼしの日々を過ごしていた。そんな折、家路に着く途中、子どもの拐かしを目撃し、犯人を追いかけたものの、年寄りの体には尾行すら辛い。そこにちょうど通り掛かったのが永尋掛りの二ツ森伝次郎たちである。
犯人の夫婦連れは逃がしてしまったが、子どもは取り戻してなんとか命を救った。
奉行所に連絡を入れて、担当を伝次郎の息子の新治郎に引き継いだ。
その翌日、伝次郎はいつものように町廻りを東海道大門方面へと始めるのだが、金杉橋近くの手 -
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布目屋お近の執念が実る
隠居をしていた二ツ森伝次郎は、以前仕えていた南町奉行所内に永尋掛りが新設された機会に、同心として再出仕していた。そしてすでにいくつかの手柄を挙げていた。伝次郎の長年の相棒、鍋寅やその孫娘・隼、そして手下の半六を従えて、日毎、江戸の町廻りをしていた。
伝次郎は捕り物が大好きなのだろう。伝次郎は町廻りで犯罪や事件に関係する事柄にすぐに目が行く。長年の経験の賜物であろう。
ある日、いつものように江戸の町廻りをしていて、橋のたもとで道を行き交う人の顔を食い入るように見つめている乞食とおぼしき老婆一人が座っているのを見つけた。
18年前、畳表問屋「布目屋」に盗賊・鬼火一味が押し入り、店の者たち11 -
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江戸の治安を守る元気な元同心
元南町奉行所定回り同心二ツ森伝次郎は、家督を息子新治郎に譲り、隠居暮らし10年、気ままに過ごしていた。
25年前江戸を軽追放されたはずの弁天の常七の姿を目にした。伝次郎は事件の起こる予感がした。探索には人がいる。同じ元同心の染葉忠右衛門を誘った。第一話の「一番てがら」の始まりである。
このところ江戸では他国より流れ来て、住み着く者が多く、犯罪数も増えていた。奉行所では人手が足りなくなり、元同心などを集めて再出仕組という部署を立ち上げて、永尋ねになっている事件の探索に当たらせる永尋ね掛りを作ることにした。永尋ね掛りとは未解決事件で俗にお蔵入りの事件を再調査する役目である。
この臨時の部署に -
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成長ぶり著しい鷹之助
新宮鷹之助は、日光奉行所の武芸を見聞して来るよう命じられて、日光の旅へ出るのであった。新宮家の若党、原口鉄太郎と中間の平助が鷹之助の供をすることになった。
日光からの帰府の途中、今市宿で鷹之助達三人は猪鍋を食したのだが、好奇心の強い鷹之助が猪を捕る猟師の技術を見てみたいと言い出した。宿で訊ねると、この辺りの山間にある長田村に土橋忠三郎という鉄砲の名人がいると、教えて貰った。
忠三郎は、嘗て幕府の鉄砲方で鉄砲磨き方同心と仕えていたのであったが、鉄砲撃ちの衝動を抑えきれず、妻子を捨てて長田村の猟師万造に弟子入りをしたのだった。そして、万造亡き後長田村に残り、日ごろ山を歩いて猟を続けていた。 -
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抜刀術とは
新宮鷹之助は、火付盗賊改方同心の大沢要之助から江戸、神楽坂付近で起きた辻斬り事件の話しを耳にした。
目撃者の話しでは刀を抜いた様子がないというので、居合いによる一瞬の間で斬り殺されたと判断された。
鷹之助の武芸帖編纂所は今回、この事件で遣われた抜刀術を調査し始めるのである。
大奥で薙刀を指南している鈴姫よって、抜刀術の達人、中倉田之助の存在が分かる。彼は、出羽守・船津家の江戸屋敷で剣術指南役を務めている。中倉家は、父・平右衛門から羽州七万石、船津家に仕える家柄であった。平右衛門も水鷗流を遣い、腕の立つ抜刀術の武芸者であった。ある時、平右衛門は上司の命令で同家の家来を居合いで倒したのだが、 -
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剣豪の使命
新宮鷹之助が頭取の武芸帖編纂所で編纂方をしている松岡大八は、播州龍野の出身で円明流の遣い手である。円明流こそ宮本武蔵を教祖とする流派である。それゆえ、今回の調査対象である二刀流の調べを鷹之助から任されるのである。
大八は領主の脇坂家に将来を見込まれ、江戸に出て武芸を一層磨いて、名を上げるよう期待された。江戸に来たのが20歳代と言う。やがて脇坂家の支援を受けて目黒白金に道場を開いた。さらに、八重という妻を得て娘ができ、一介の家庭を持つまでに至った。
いくらかの門弟を抱えるようになり生活基盤も整ったのだが、剣の腕は一流だが、生来の田舎武士で不器用者だ。剣の教え方一つをとっても、門弟の心中も考え -
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老練な白波流師範と海女の水術
京極周防之守からの勧めで、武芸帳編纂所の頭取・新宮鷹之助は今回、「水術」の武芸を調べることになった。
泳ぎの知らない鷹之助は、調査するにあたって先ずは自分が泳ぎを覚えようとの思いになった。夏の暑い盛りである。海に出掛けるのも悪くは無いと思い、芝浜に日々通うようになった。そして、そこで知り合った若い海女のお光から泳ぎ方を習うようになった。お光は、漁師村でのけ者扱いを受けながらもたくましく生きていた。ある騒動からお光を守るため、鷹之助はお光を武芸編纂所に連れて来てしばらく滞在させることにした。
一方、水軒三右衛門が浪人の頃知り合った相模国出身の明石岩蔵を訪ねた。金杉橋の近く芝浜で釣具屋を営んで -
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鈴姫は薙刀の凄腕使い
将軍家斉からの命を受けて、新宮鷹之助は大奥女中たちを指導する薙刀女武芸者を探すことになった。
広い大江戸のこと。なんとか探した大原家という薙刀道場だったが、その稽古の様子からみると、おおよそ武芸の類にもならない女の舞い踊りだ。
そんな中、同僚の編纂方の中田郡兵衛が2年前に起きた五万石の大名、豊後守の事件を思い出した。
豊後守が江戸家老・樽山大膳にたぶらかされて、家政を怠り、領民からは怒りの一揆を起こされた。その結末は藤波家の鈴姫が筑紫薙刀を振るい、家老始め奸臣の2人を誅殺したのである。当然お家は取り潰しの処分受けたが、当の鈴姫は将軍の計らいもあり、自儘な生活が許された。
鷹之助はこの姫 -
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護身術としての鎖鎌術
武芸帖編纂所頭取の鷹之助は、老練剣士、水軒三右衛門と松岡大八と共に隣に設えた道場で、大名や大身旗本から寄せられた武芸帳を基に、その流派の太刀筋などの研究を日々重ねるのであった。そして整理された流派の目録は、黄表紙作家であった編纂方担当の中田郡兵衛により武芸帖に書き加えられた。
ある日、鷹之助が嘗て士学館で剣術を共に習った幼友達の大沢要之助が訪ねて来た。彼は火付盗賊改の同心になっていたが、彼の先輩格宮島充三郎同心が本所の柳島村の土手で殺害されたのだが、殺され方が普通の刀で切られたものではなかったことで、武術に詳しい鷹之助に助言を求めて来たのである。しかしその時は鷹之助等はまだ満足に答えられなか