マッシーさんのレビュー一覧
レビュアー
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人情味ある伊織の仕事ぶり
伊織は、自らの生計を立てる為だるま屋の下で見届け人として働くのである。伊織の実家は兄が幕府目付頭の役に就いて、家を護り継いでいた。伊織は、この仕事を続けることでいつかはよい転機が訪れることを待っているかのようだ。
第1話「霧の路」は、江戸っ子を騒がせた忠臣蔵再来の物語である。
陸奥国広岡藩主襲撃未遂事件が、1昨年4月、秋田白沢宿で起こった。盛山藩士十数名が広岡藩主を襲ったのであるが、計画が事前にばれて藩主殺害には到らなかった。
盛山藩と広岡藩は、本家分家の関係であり同じ陸奥国を治める。幕府から蝦夷地の防衛と警護を任されている。
只ここに来て、広岡藩主は侍従という栄誉を賜り、家格が盛山藩と同じになった。藩主の歳の差で幕府内の序列に差は無かったが、盛山藩主の死去に伴い家格が広尾藩が高くなった事で、これを不満に感じた盛山藩士の一部が脱藩して事件を引き起こしたのだった。その際、犯行に及んだ藩士はほとんど斬り殺され又自害をしたが、残党3名が江戸で剣道場を構えて暮らしていた。
容認出来ない広岡藩士が、残党狩りと称して一人を斬殺。残り2名、道場主小宮山と弟子の関谷が彼らから狙われた。
伊織と源之助らは、2人の逃亡を応援すべく、小宮山の家族は国元の寺に送り、預かって貰うよう計らい、2名を大阪に逃がすことにした。しかし、小宮山は広岡藩に捕まり、裁きで磔獄門が決まった。弟子の関谷も素直に伊織に従わずに面倒を掛けるのだが、最後は伊織の説得に応じて大阪に逃げ延びたのである。
かわら版を読んだ江戸っ子の元盛山藩士への同情が大きくなり、広岡藩主は江戸市民の声に恐れをなし、また公儀に圧力を掛けられて藩主は隠居したのだった。
第2話「猩々」は、猩寿と猩美の兄弟が神楽舞で京都などで人気を博し、江戸に来ても高い人気になった。親代わりに彼らの面倒を見る与七が、能楽の役者と笛師になりたい2人の望みを叶えるべく奮闘の物語である。
第3話「蕗摘み」は、去年の夏、目明かし鉄三が盗賊かまいたちに殺された事件で、死因が違うとだるま屋に苦情を持ってきた娘のお馬の話である。
お馬は、鉄三は仕事では功名心などとは無縁の人だと食い下がり、伊織がお馬と鉄三の手下の源吉を連れて調べ直すのだった。3人は、行徳や今戸の聞き込みから意外な犯人を見つけた。それは奉行所与力の佐久間の乱行だった。
物語全体にもっと具体性が欲しいと感じた。 -
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伊織、勘当扱いで家を出る
秋月伊織と浪人、土屋源之助、元目明かしの長吉が、だるま屋吉蔵が書くかわら版の見届け人を務める。見届け人は記事内容の正義と正確さを判断する異色の仕事人で、危険な調査では刀を抜くこともある。だるま屋は古本屋だが、吉蔵のかわら版は人気で、店には姪のお藤と手代の文吉を働いている。
第1話「寒紅」は、播磨小原藩から江戸に来た侍2人と団子屋の奉公人で同郷の娘の話しである。すすり泣く地蔵の話しを錦団子屋で奉公人として働くお波が、だるま屋の吉蔵に持ってきた。
お波は、故郷の播磨小原藩の町娘だが、昔、通りで泥棒呼ばわりされて困っている所を、通りがかった厚田淳一郎に助けられた。だが今は江戸で厚田が筆職人になっていて、金のことで不自由している。それを救いたいお波。特ダネを売って小金を渡して助けたいと考えたのだ。泣く地蔵の話しは甚兵衛橋近く地蔵堂にあるという。
小原藩は財政逼迫を解決するため、三十数名家臣を放逐した。厚田もその一人で、江戸に来て筆職人としての生業がある。厚田は、ある居酒屋で昔の上司栗原平助と偶然会い、その際妻の病で生活に困っていることに同情して、仕事の前金として受け取った10両をまるごと貸したのだった。
ところで、地蔵がすすり泣くという話しは、地蔵の裏手で泣いていたのは、博打打ちの弥太郎と言う無法者の弟弥吉であった。弥太郎は博打場で喧嘩をして相手に大けがをさせて、裁きで所払いを言い渡された。それだけではなく、油問屋山城屋に仲間2人と押し込み金を盗んでいた。
奉行所の同心蜂谷が、見届けん人の一人長吉を引き連れ調べを担当していた。地蔵堂の場所全体が掘り返され、弥太郎の亡骸が掘り出された。
お波は、ほんの数日前たまたま、出前の帰り道弥太郎とは、甘酒の屋台で会って言葉を交わした。以来、お波も狙われた。どうやら、盗賊たちがある浪人に殺人を頼んだのである。その浪人とは、厚田の元上役の栗原だった。下駄職人の又蔵とたばこ屋の倅三之助、そして弥太郎の3人が押し込み強盗の犯人であった。そして、弥太郎は口封じのために仲間2人に依頼された栗原に殺される。また、お波も栗原に切られて重傷を負い、介抱の甲斐もなく亡くなるのだった。
残り3話も江戸下町の人情味にあふれ、銀座を含めた今の江東・墨田・台東を舞台にする。盛り場が多く、無法者にも住むのに好都合な場所だ。だるま屋吉蔵には語る材料が尽きないだろう。
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若殿に難題が襲い続ける
天明7年春、昨年一昨年と関東以北は冷害による凶作で、江戸では米不足と共に米価上昇の影響で諸物価が上昇して、平穏で不安のない暮らしが送れない状況だった。地方も飢饉ゆえ食うにも困る有様で、穀物の不足が続く中、生活を維持するだけでも精一杯となり、安定した暮らしを諦めてまで生計を立てようとする人々が増え、江戸へ流入する 大勢の人がいた。江戸奉行所は、街の治安を守る責務に追われ、日々の事件の始末に忙殺される日々を送っていた。
上総高岡藩の若殿井上正紀は、藩財政の逼迫を憂え、資金繰りの難局に立ち向かいながら、これまでに利根川堤の補強を進め、高岡河岸の整備を図り、取手の商店からの借財返済を確実に果たすべく尽力してきた。
井上家は三河浜松藩が本家である。正紀の高岡藩と正広が後継ぎの下妻藩は共に井上家の分家になる。この三家が集まる会合があり、井上家菩提寺、浄心寺の本堂改築の件が提案され、既にこの計画が進んでいるのだった。
本堂建て替えの費用は1300両で、浜松藩がこの半分600両を負担する。高岡藩と下妻藩は200両ずつを拠出し、残りは寺の檀家衆に寄付を募るという。
難題が次から次へと正紀を襲う。
正紀は高岡藩に婿入りする際、江戸家老と国家老の妨害を徹底的に排除し、最終的に彼らを切腹に追い込んだ。下妻藩の正広も、後継者問題で家来の多くが藩主正棠に従い分裂状態にある。
それゆえ、浄心寺の改築について、正紀と正広が失態を犯せば若殿の座を退くことになりかねない。
そのために何としても200両ずつを確保しなければならない。二人は100両は勘定方の力を借りて工面したが、残り半分は当てがなかった。
正紀は、江戸街中で破落戸に因縁を付けられて暴力を受けそうになる両替屋の房太郎という若者を助けた。房太郎は、予々米などの穀類の値段の動きを調査していた。房太郎は正紀に、この先大麦の値が上がると助言した。
早速、正紀と正広は併せて160両買い入れて、相場が上がるのを待った。やがて房太郎の言うとおり数日後には2倍近い値になり、売り抜けたのである。その後も房太郎の助言で為替相場を利用、200両ずつを調達出来た。
物語のこうした筋書は魔法のように感じる。展開して益々謎を深め、終盤には将軍らしい人物が姿を現す。天が見捨てぬ人、正紀と正広だったのだと示唆される。読み終えて誠に不思議な物語だと実感した。 -
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難事続きの正紀
利根川高岡河岸の建設は、行徳の塩製造問屋桜井屋の援助で高岡藩に無事完成した。藩財政逼迫状況は少しは改善されるはずだ、と安堵する正紀だ。
しかし、難事は続いたのである。
藩主正国の大阪奉行所代としての赴任に伴う、生活費用の負担増により諸費用が借金で賄われていたのである。その額は120両余りに及び、藩の家老、園田頼母の妻の実家である取手の戸川屋からの借金だった。正国の大阪奉行所務めは、江戸幕府内の出世に影響する重要な出向先である。それと頼母は、前回の高岡河岸建設の際の不祥事で切腹させられている。
小さな藩はこの時代貧乏な所が多い。米作に頼るのみで豊作の年ばかりではなく、天候に恵まれず凶作、不作の年もあり、度々飢饉に見舞われた。播磨龍野藩は淡口醤油を醸造して、名産品に仕立て上げて、大坂や江戸に送ることが出来る。数少ないゆとりある藩であり、そうした藩は西国に多かった。
正紀は、戸川屋からの返済要請に応えようと、馴染みのお店や知人縁戚に借金の依頼で奔走するが断れるばかりだった。貧乏小藩に婿入りした正紀は再度難題が襲われたのだった。
江戸の醤油問屋大松屋が、播磨龍野の名産の淡口醤油を仕入れた時、大松屋を商売敵とする津久井屋がこれを船ごと横取りするという事件が発生した。しかも船頭の酉蔵が死体で発見された。高積み方与力の高野辺は、奉行所の人手不足で町廻り方に代わり事件を調べる。この事件が、やがて盗品の預け先として取手の戸川屋に繋がるのであった。
何とかして借金を返済をしたいと金の工面を考える時、正紀は尾張藩の縁筋でもあるので、家宝の掛け軸や茶道具などの名品を処分する瀬戸際に追い込まれるのだが、事件の解決により救われる形になった。
正紀は、毛並みの良さが自然と湧き出る若者らしい。周りを囲む友人や支援者にも恵まれて、今回も無事乗り切った。後味が爽やかな物語である。 -
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不器用な武士、大事業を為す
高岡藩主井上正国の後継ぎとして正国の娘と結婚した竹越正紀であった。
新婚であるにも拘わらず、正紀は藩の内情が厳しいことに考えを巡らせるのである。米の不作で藩財政逼迫の状況を何とか助けたいと考えた。とは言え、17歳の若さはどう見ても未だ半人前だ。また、以前利根川堤防の補強のため領地の小浮村を訪れたものの、正紀は高岡藩について詳しくない。正紀が想い描いたのは、利根川を利用する弁財船の中継地として河岸場と納屋の建設であった。
ただ、事業を始めるには段取りが必要だ。見積もり費用や施工者の選定、工事期間、施設の規模と図面、需要の確保など、予想しなければいけない事が山とあるだろう。しかし、正紀は元より江戸藩邸内の家老や中老までまるでそれに考えが及ばない。
侍というのは何んとおおらかなものだと思う。
物語は、江戸の塩問屋伊勢屋の萬太郞が、通り掛かりの醤油問屋武蔵屋の前に積まれた醤油樽が崩れ、下敷きになって亡くなる。伊勢屋は瀬戸内産の下り塩を仕入れて、商いは江戸市中の他、遠く北関東の上野、下野、常陸に販路を持った江戸でも屈指の大店である。
伊勢屋は、登録外の流しの杵造が持つ船を使い、塩等を常陸に運ばせた際、船が行方知れずになり荷物を掠われた。その時以来、伊勢屋の経営は行き詰まり、金貸し大和田屋から借金をするのだが、商いは元に戻らず借金が膨らみ、この返済の為に萬太郞が金策に歩き廻り、遭遇した事件だった。
高積み見廻り与力で正紀の友人の高野辺は、この事件が事故ではなく殺人の疑いがあると判断した。そして背後に同じ塩問屋都倉屋と大和田屋が伊勢屋の身代を乗っ取る企みを暴いたのである。
行徳の塩製造桜井屋の隠居長兵衛が萬太郞の話しを聞き及び、江戸に塩問屋の進出を計画していた。これが幸いして、伊勢屋は桜井屋にお店の権利などを長兵衛に譲渡して、その代金で伊勢屋は借金を返済した。
また、正紀も河岸場の建設を長兵衛に話したところ、長兵衛は快く納屋の建設を引き受け、荷物保管場所として利用することを約束すしてくれた。
土地の工面も、小浮村の農民が1000坪を10両で譲ってくれることになり、納屋建設に向うことになった。
正紀が荷物の搬入の際にも、乱暴狼藉に遭い苦労の連続であった。
こうして物語を読むと、正紀の事業が成功裏に成し遂げられたとは言えない。その辺りを作者が上手く描いていると感じた。
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くらまし屋人の為に再び無賃働き
二人の女方の歌舞伎役者が、煌びやかに華やかに「娘道成寺」を演じて評判を博していた時代だった。一人は浜村屋瀬川菊之丞、もう一人は天王寺屋中村富十郎である。今回、この歌舞伎にまつわる物語だ。
浜村屋は5年前に菊之丞が亡くなると、主役の後継ぎが年端もいかない若者に代わり、未だ芸も未熟であるため、脇役の優秀な役者が浜村屋を去るなどあり、益々浜村屋は落ち目となった。浜村屋の台所を預かる将之介がこれを立て直そうと、米の先物取引に手を出したが、失敗して大損した。家を売り払って損失を埋めたが、浅草の見窄らしい家宅で稼業をかろうじて続ける始末だった。
そんな時に、浜村屋と天王寺屋との湯島天神の宮地芝居合戦の噂が流れた。天王寺屋を応援する豪商越後屋が、贔屓筋を煽って娘道成寺の出来映えに勝敗を付けるということだ。その中には幕府の幕閣、重鎮が含まれる。
くらまし屋の堤平九郎は、目黒の五百羅漢寺の置き手紙に基づき、早速浜村屋の二代目吉次と接触し話しを訊いたが、その内容は死人を現世に戻してくれとの依頼で、まるでおとぎ話ようなものでその場で即、断ったのである。
平九郎はこの依頼の内容や辞退したことを、仲間の赤也と七瀬に伝え、その場では皆了解した。だが、赤也は元々浜村屋の菊之丞の息子であり、親子喧嘩で抜け出たとはいえ、芸事が好きな上に役者に未練が残っていた。しかも、浜村屋の存亡に関わることでもあるため、何とか力になりたいと考えた。赤也等は合戦の中止を求めたが、勢いを止めることは出来なかった。
更に、浜村屋にとって不幸が続く。二代目吉次が、芸の上達祈願に愛宕山を訪れた時、階段から落ちて腕を骨折。役者が出来なくなった。
赤也は代役となり芝居合戦に出演する決心をするのである。
ただ、これにも邪魔が入る。道中奉行同心、篠崎瀬兵衛は、赤也が以前、中山道の蕨宿で鰔党一味の和太郎を殺害した罪でお尋ね者として、赤也を捕らえる構えを見せていた。
また、虚が、幕府にいる上役の命令で芝居合戦を取り締まるため、怪力で巨体、金棒を使う九鬼段蔵を使って赤也を殺す算段を企てた。
しかし、いずれの策謀は七瀬の舞台の細工と平九郎の太刀の腕により阻まれて、赤也は歌舞伎を無事演じて観衆を魅了した。浜村屋を助けたのであった。
物語は回りくどく、とても長い。でも上手く詳細に書かれており、読み応え十分な物語だった。 -
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晦まし屋、平九郎の仕事の1年
堤平九郎が裏稼業とする「晦まし屋」のこの1年は、正月から本草家、阿部将翁を皐月15日までに故郷、南部の村に届ける約束に始まったのである。高尾山で大勢の幕府家臣が警護する中、いわゆる監禁状態の将翁を救い出し、江戸湊に連れ出して船で南部の村に約束の期日に送り届けることが出来た。
次は、3年前に解散した鰄党の残党が堅気になって江戸で働く中、鰄党の別の組に属した銀蔵が描いた筋書き、亡くなった頭の一万両の在処を平九郎が知っているという筋書きで、平九郎は利用され接触されるのであった。元鰄党の和太郎は、蕨宿で平九郎を脅して聞き出そうとしたが、逆に平九郎に斬り殺された。当の銀蔵は早々に姿を消す。仁吉の番が来て、仁吉が多勢の浪人を連れて平九郎の前に現れたが、平九郎の剣の強さが勝りやはり殺された。この物語は、人物が入れ替わったりと、複雑な話しであるとともに、どこか不穏な場面があり恐ろしいと感じた。
そして、最後は師走の二十日に1日だけ晦まして貰いたいという話しが飛び込んだ。幕閣、老中松平武元の依頼だった。
武元は今でこそ上野国、館林藩藩主あるが、若い頃は次男で部屋住みの気楽な若者時代を過ごした。江戸の街に出る機会も多かったのだろう、紙屋の娘と知り合いになり、借金で傾きかけているお店の稼業に助言するのである。それでお互い惹かれ合い二人は将来を約束し合う仲になった。そして紙屋の娘は武元の子を身籠もったが、娘が生まれて、今将に二十日に結婚するという。その様子を一目見たいと願ってのくらまし依頼であった。「虚」という不信な凶暴団を相手に、殿様の側用人曽和一鉄の協力で、江戸の中川の一之江の渡しで、殿様が娘の婚礼を無事見送った。
どの仕事もしんどいものだった。
この物語で、1年の仕事内容を述べるには私には能力不足である。地名など宿場も色々あるし、もしかしたら草加宿だったかもしれないとあやふやな記憶は否めない。登場人物も多いし、平九郎だけでなく相手方も優秀な家臣が出て来たり、又入れ替わりもあり複雑な物語だと感じた。しかし、解らないこと、理解出来ないことが、歴史を語る上では多いと思う。自ずから調べても良いし、他人に尋ねても良し。そのままにしておいて、ある時偶然に答えに出会うこともあるだろう。
要は、そんなことに臆することなく読んでくれと作者は語りかけているようで、ふっと安心している。
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晦まし屋稼業三人、高尾山の奮闘
くらまし屋、堤平九郎が今回仕事を受けた相手は、幕府に召し抱えられていた本草家、阿部将翁という八十八歳の老人である。この老人、幕府に採薬使として仕えてきて十年前に御役引退の願いを出して許可された。だが、気の毒なことに自由な行動を制限されていた。
本草家は、主に植物を採取し薬の抽出を役目とする。薬草を探して山野を歩き回るのだが、植物のちょっとした変化で土や岩の特徴が見分けられる。いわく、鉱脈を見つけることもたまにあった。釜石の磁鉄鉱脈は将翁の発見とも言われる。
また、朝鮮人参を種から育てることに成功して、安価にして世間に出した人物でもある。優秀な人物ゆえ、悪人たちからも狙われたし、やたら外出して話し回れては幕府は困るのである。将翁宅には薬園奉行与力、住岡仙太郎他数名が常に警護として就いていた。
将翁は、老体ゆえ病弱になり残り僅かな命の時を、故郷盛岡藩閉伊通豊間根村で過ごしたいと強く願っていた。
平九郎はこの老人の願いを三つの条件全て飲み込み、八十両で受けたー旅程は船であること。皐月15日に村に着くこと等。
平九郎は、晦まし稼業仲間の赤也、七瀬と馴染みの波積屋で綿密に打ち合わせを行った。
赤也の調べで、将翁は自宅から小石川養生所に移され、やがて幕府の命で死亡した人と扱われた。しかし将翁は高尾山の幕府の隠れ薬園に幽閉されていた。そこでは、薬園奉行与力、住岡他役人五十余名が警護に当たっていた。また薬園奉行の極秘の命令で道中奉行与力の篠崎瀬兵衛他十人の同心が助っ人として高尾山に入るのだった。さらに、赤也の調べによると御庭番が2名が紛れ込んでいた。
赤也は、将翁が自宅にいる時からひたすら近くで見張りに徹して、高尾山でも薬園を観察しその全体像を掴み、地図に描いた。やがて赤也が平九郎、七瀬と共に高尾山近辺の旅籠に逗留した時、赤也が近隣の農民十名を使い、高尾山の将翁の住居に続く登山道に別の脇道を作たり、呼子を吹いて相手を攪乱し、相手の人数を少しずつ削ぐのだった。勢力は平九郎側に分が悪かったが、赤也の働きが際立っていたのである。
将翁の救出は夜間決行され、平九郎が警護の役人を当て身と峰打ちで無力にし、将翁を担いで下山。麓で待っていた七瀬が、用意した馬で将翁を江戸の街に運び入れた。その後も手際良く、平九郎が江戸湊から将翁を船に乗せ豊間根村まで無事送り届けた。
三人の奮闘ぶりがとても頼もしく感じた。 -
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平九郎仕事は成功するも代償無し
江戸近在多摩村では凶作に見舞われ、小作農家の娘お春は少しでも家計を助けるため、江戸の呉服店「菖蒲屋」に奉公に出た。未だ11歳の子供だった。
お春が健気に奉公に励んでいたある日、店主の留吉から部屋に呼び出されて乱暴されようとした。その際、助けを求めて声を上げた為、番頭が留吉を諫めてお春は難を逃れたが、留吉が言い訳をでっち上げてお春のせいにするのである。
留吉はケチで意地悪な性格だが、物語ではそこばかりを強調しているように思える。留吉は当然、店主として商店街や組合等の会合に出席する程の人物であり、一時の気の迷い、魔が差したとは言え物語にあるような悪事を重ねるほどの悪人なのかと、不信に思われるところだが・・・
ただ、お春には母の危篤の文が届き、帰郷の許しを請うのだが留吉に拒否された。止む無くお春はお店から抜けて逃亡した。逃亡の途中、飛脚の風太の援護を受けるが、結局留吉が雇った鳶の連中に捕まり、店に連れ戻されて蔵に監禁されてしまった。
更にお春への留吉の仕返しは続く。留吉は、回船問屋にお春の身柄を引き取ってもらう代償として抜け荷船の名義をお店名義に代えて、荷下ろし出来るようにしたのである。
一つの嘘が次の悪事に繋がっていく連鎖の様子が、非常に丁寧かつ事細かに書かれている。
そして、ここでくらまし屋平九郎の出番だ。今回の依頼主お春を多摩村に届けるため、平九郎が動いた。
平九郎は、蔵に閉じ込められたお春を救出する為、奇想天外の大掛かりな仕掛けを考えた。それは、菖蒲屋の斜向かいの一軒家を借りて、その蔵まで穴を掘りお春を救い出そうというものだ。佐渡金山で磨いた穴掘り名人、風太の技を頼りに地下を掘り進め、誰にも気付かれないようにお春を救出したのである。
ここは将に物語の真骨頂だ。
その後、平九郎はお春を連れて甲州街道を府中に進み、多摩村の実家に無事お春を届けた。
道中にもう一つ見せ場があるが、それは省略する。
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「くらまし屋稼業」を読んで
堤平九郎は浅草雷門近くに飴細工の露店を出している。飴の商いは仮のものでありもう一つの別の稼業が「くらまし屋」といって、この江戸を逃れてよそ地で暮らしたいという者の望みを叶えるという商売である。 浅草界隈のヤクザの元締め、丑蔵の第一、第二の子分、万次と喜八は、予てよりヤクザの暮らしに嫌気が差して抜け出したいと願っていた。 万次には、日本橋の飲み屋で手伝いをするお利根という女がいる。万次はヤクザ家業の足を洗い大阪で店を出し、お利根と二人で暮らす願いがある。 喜八は故郷、小諸に病いの妻と娘がいる。その治療代を稼ぐために江戸に出て治療代を送っていたのだった。そして更に娘が流行病に罹り、せめて家に戻って欲しいとの妻からの連絡があった。 いよいよ江戸脱出の日、月末に親分の信頼が厚い二人が集金して廻って集めた二日分の金を持って決行する。 しかし、異変に気付いた丑蔵は手下など多数の人数を出して各街道筋を見張らせ、万次と喜八はやむを得ず高輪の香具師禄兵衛親分の下で匿って貰った。
平九郎に、万次と喜八を江戸から逃すという仕事が入った。平九郎は、丑蔵に負けじと大掛かりな手立てを考え、仲間の七瀬と赤也を手伝わせて、八十丁の駕籠を用意させ、二人を中山道の板橋から逃がす事に成功した。
時は江戸時代中頃の宝暦、地方では不作が続き、飢饉や一揆が多く出た時代だった。 物語は読み始めからゾクゾクさせれる。あるいは異質な世界の物語でもあり、凄みがあって、読んでいる自分も最後は殺されるのではと思うほどの恐怖心を抱いた。太平の世が続いてはいるが、つまる所、二本差しの侍が社会の中心を為している。未だどこかに事件が起こっては血生臭さがしばしば漂う江戸市中が舞台だ。 万次と喜八は、いずれにせよ無事に板橋宿から江戸を抜けて浦和、蕨宿に至る中山道を逃げた。
しかし、ここでもう一波乱ある。 中山道は喜八の郷里まで真直ぐ1本道である。万次が甲州街道を逃げるのをわざわざそれに付き合うのだが、喜八は平九郎の懐の大金目当てについて来たのである。平九郎は、止む無く喜八を斬り殺す。平九郎にとって悔やまれる事態になり商売は失敗だった。喜八は平九郎との面談では嘘をついていないが・・・武士の傲慢あるいは身勝手さだろうか。或いは喜八の理性を狂わせてしまったのは、邪心に似た惑いが生じたからかもしれない。
物語はもう一波乱あるが、それは省いても非常に読み応えのある。 -
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心暖まる喫茶店の物語
明治に建てられた建物の地下にある「フニクリフニクラ」という喫茶店を舞台にした小説です。この喫茶店には、過去未来に行ける、すなわちタイムトラベルができる特別の座席があり、その座席を通じて4つの心暖まる物語が展開されます。小説はオムニバス形式と考えました。
第2話の「夫婦では、若年性アルツハイマーを患った夫とその妻の物語が中心です。夫の記憶障害が進行する中、妻は離婚を考えますが決断出来ません。妻は、夫の行きつけのこの喫茶店で、夫が妻宛に手紙を書いていたことを知らされた。そして特別な座席を利用して過去の戻り、夫が書いた手紙を読むことで夫の覚悟を知ります。その結果、妻は夫とともに病気を乗り越える決意を固めます。
確かに世の中にはどうにもならないことがあります。この特別な座席は、他の物語でも不安や悩みを抱える人々を優しく助けて、彼らの不安や悩みを解消する役割を果たしています。まさにカウンセラーのような存在です。そして読んで非常に心暖まる物語です。 -
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不思議な魅力を持つ弐吉
江戸時代中期以降、侍の生活は困窮し、幕府の俸禄だけでは生活がままならなくなっていた。侍たちは俸禄として支給される米を札差で金に換え、江戸での生活を支えていたが、幕府からの俸禄が増えない中、物価は上昇し、借金漬けになる侍が増加していた。笠倉屋では、五年先までの俸禄を担保にして貸金を行っていたが、新しい札差仕法の噂が流れ、その対応に追われていた。
笠倉屋の手代、弐吉は金利を下げて借金の借り換えを札旦那に勧め、返済の負担を軽減しようと試みたが、様々な妨害に遭遇した。特に同じ店の手代である猪作からの恨みを買い、命を狙われることもあった。最終的に幕府より棄損令が出され、弐吉の対策が功を奏し、笠倉屋は被害を最小限に抑えることができた。
物語を通じて、弐吉は困難に立ち向かい、持ち前の勘の良さと行動力で難題を解決する才能ある若者として描かれている。人柄も真面目で信頼でき、人間性豊かな一面を持つ弐吉の姿に読者は魅了される。物語は、弐吉の不思議な魅力に惑わされて、自然と読み進められてしまう。 -
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札差弐吉の勇敢な働き
札差・笠倉屋では、後継ぎの若旦那が相変わらずお店に迷惑になることばかりしている。
今回は、外で女を孕ませる事態を引き起こし、主人・金左衛門が息子貞太郎を連れて女宅を訪れて、金で事態を収めるのだった。貞太郎の軽率な行動は、一つ間違えればお店の暖簾に傷を付けるような事ばかりである。
手代の弐吉は、大得意先の御納戸組頭黒崎が連れてきた御納戸衆能美彦兵衛の金談の対応をした。本来能美の借金には応じられないところ、黒崎の要請を汲んで弐吉は能美に5両を貸し出して金談を済ませた。
だが、弐吉は無理を押す能美の要求を不審に思い、番頭・清蔵に相談した。そして清蔵は弐吉に黒崎の周辺を調べるように指図した。
弐吉は、父の死亡事件に黒崎が関係しているとの疑念を抱いていたこともあり、札差仕事と黒崎の調査を合わせて行う忙しい日々が始まった。特に、外出する用が出来た時には、容疑に浮かんだ者の屋敷に聞き取りを行ったり見張ったりした。
町回り同心、城野原の岡っ引き冬太がこれに加わり、協力し合い細かい調べを行った。そして黒崎と用人篠田を公儀呉服屋・玉置屋の主人と番頭が料亭で接待する所を見た。
公儀の注文品白絹500反に絡む、玉置屋と能美、黒崎の贈収賄事件が暴かれる。
能美が玉置屋に白絹500反を注文して、その代金の一部を黒崎に還元したことが判明したのである。黒崎は、かねてより上役溝口監物に贈り届けをして、自らの出世を望んでいたのである。その贈答品の購入に賄賂として得た金を当てていた。
弐吉は黒崎が本当に父の敵なのかを古着屋女房に面通し、確認してもらった。黒崎が父の敵と知った弐吉は復讐心に火が付き、更に贈収賄の証拠となる玉置屋の裏帳簿を見つけ、奉行所に届けた。奉行所経由で目付に訴えが回り、溝口監物も同時に事件を届け出て、黒崎と用人篠田、能美は切腹、お家は取り潰しとなり裁かれた。
弐吉の非常に勇気ある行動、即ち細かな調査活動と時に命知らずに侍に向かう態度は、とても立派で感銘を受ける。優秀な若い手代だ。
物語は捕り物風である。この若い弐吉が、自らの商売に一意専心務めれば、また別な面での課題を解決するだろうと期待が持てる。楽しみである。
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札差屋小僧のお手柄
浅草森田町にある札差、笠倉屋の小僧、弐吉は将軍直参の侍に支給される切米を侍の自宅に配達した帰り道に、魚油屋上総屋五平が侍と思しき二人連れに殺されて、集金したばかりの金子、十数両を盗られた事件を目撃した。遠くからであり、日が暮れて辺りは暗かったため、顔や姿までははっきりとは解らない。目撃者は複数人いて、犯人は一人だ証言する者もいた。
魚油屋五平殺しと金子十数両の窃盗事件を調べるため町廻り方が探索に動いた。
事件の容疑者が聞き込みから3人が浮かんだ。旗本の梶谷と塚本、そして御大身の宇根崎将監とその用人阿部である。
町方の調べで梶谷が下手人の可能性が濃厚になったのだが、弐吉の証言どおりなら下手人が一人足りない。町方は梶谷を下手人として有力視していて、何度も笠倉屋を訪ねては弐吉の人柄や生い立ちなど、信用が出来る男かを確かめようとする。弐吉はお店では他の奉公人たちからも嫌われていて、普段から孤立している。弐吉に有利な面はなく、益々皆から疑われ弐吉も窮してしまう。梶谷は笠倉屋の札旦那である。下手人なら、72両という貸し金が未回収となり店の損失にもなる。そこで、こうした事情を勘案した笠倉屋は、独自に手代の猪作と小僧の弐吉に事件を調べさせるのである。
このままでは、弐吉にしても出世の道が遠のく。弐吉は事件の探索に力を注ぎ、自らの証言の信憑性を明らかにするのであった。
弐吉は事件の真相を捜して粘り強く街中を歩き回り、また細かく丁寧に調べて、やがて弐吉の証言通り下手人が、御大身宇根崎将監とその用人阿部の二人であると確信した。
宇根崎は将軍のお側仕えの役目に神経を擦り減らし、吉原の高級な郭で花魁遊びなどで気を紛らわすなど荒れた生活を送っていた。そして、もっとも酷いことは、憂さばらしに町人の辻斬りを働いていたことだった。
物語は短い文章が連なりとても読みやすい。私自身、読解力に欠ける点があるが、解らずに何度も同じ箇所を読み返す箇所もあったのだが・・・おもわず弐吉に同情してしまった。 -
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前途洋々の新宮鷹之助
武芸帖編纂所頭取、新宮鷹之助は、今回、若年寄・京極周防守より幕府の番方、即ち大番、小姓番、書院番、小十人組でそれぞれで一番上位の剣客の腕前調査を命じられた。
早速、小姓組番の増子啓一郎から調べ始め、次に書院番方、子上礼蔵そして大番方の剣持十兵衛を自宅訪問して取材すると、番方侍は将軍を護るという重役を担うことから、役目に忠実で自宅で日々剣術稽古を行い腕を磨いて怠りなかった。
増子啓一郎と子上礼蔵については、取材して報告書を書き上げて周防守に報告したが、将軍家斉の御前試合が開かれて、鷹之助は両者との仕合で両者を破った。家斉は、両者に武芸の鍛錬に怠りなくと申し付けた。
大番方組頭、剣持十兵衛は、他の番士からは神仏と崇められるほどの剣豪だ。十兵衛が役目を果たすために大切にしてきた信念がある・・・侍は何処にあっても戦場に居る
従って稽古にあっても命を賭けるのが信条だった。非常に過激な考え方である。十兵衛の道場に通う番方たち、その数は多数に上っている。
しかしながら、侍にとって強くなることが優先されるのだが、自らの生活がそれに縛られる障害が出る場合もある。だから門弟の中にも十兵衛の信念に賛同しつつも、不満を抱く者もいる。人によりけりだが・・・十兵衛は自身の信念を他の弟子たちに強制して、その為稽古中に死者を出したり、怪我をして隠居に追い込まれた番方が出た。十兵衛には、少しも反省の態度が無く自分の信条をを曲げなかった。
将軍家斉は、鷹之助と十兵衛との御前仕合の後、負けた十兵衛に厳しい処分を下したのである。生きる者は十人十色、人其れ其れが違って当たり前で、それを勘案してこその組頭であろうと。十兵衛に厳しく自省するように警告した。
この物語は、鷹之助が仕事をそつなくこなし成長著しく、27歳の立派な男性になった姿が浮かぶ。それほどまでに鷹之助の華々しい手柄が目立つ内容の物語になっている。さらには、お家の繁栄のために嫁取りの話しが出るほどの彼の人となりに好感を持てる物語である。だが、もっともライバルもいるのだが・・・ -
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剣豪だといえ、結局生身の人間
将軍家斉の命で、新宮鷹之助は自宅内にある武芸帖編纂所で、廃れゆくそして人から忘れ去られる剣豪たちの武術を書き残している。
編纂所の編纂方は、いずれもその道に通じる達人たちであった。
そうした剣豪たちも思いも寄らないことで普通の人間に立ち返る。
三右衛門は風邪を引き高熱を出して3日間療養する羽目となった。その間、三右衛門は己自身の来し方行く末に思いを馳せるのである。
それを見た鷹之助は、病み上がりの三右衛門に3日ほどの休暇を与えた。
三右衛門は内藤新宿で噂に上る剣豪が、昔三右衛門が大和柳生で修行したとき、相弟子の和平剣造だと知り彼の住まいを訪れた。剣造は労咳を病んでいたが、果たし合いの約束を抱えていた。決闘の勝負は、見事に剣造が相手を倒して決着するのだが・・・剣造もその後体力気力をすり減らして病死する。思わぬ相弟子との死別だった。
剣造には柳生にいた頃、つき合う女、向田秀がいた。お互い武芸者故に離ればなれになり、しばらくして秀は娘を生んで、娘を武芸者として生きる術を授けて亡くなり、娘の行方も不明だった。
剣の道を極めるには、強い体で厳しい修行に耐えて、情熱を傾け、太刀型を求めてひたすら稽古に励む。しかもいつ果てるとも知れない孤独な人生を歩まねばならない。思いを寄せる女ができたとしても、寄り添うこともかなわない。
三右衛門は、今47歳。病気が引き金となり、己の身の処し方を想うに、大きな間違いは無かったと確信している。
休暇の後、頭取の鷹之助から、浅草の外れで道場を開いて、気炎流小太刀術の女師匠がいると教えられた。
芸者春太郎がこの道場に通い、小太刀術を習得した。そして武芸帖に書き残す資格があるほどの武芸と話すのである。
三右衛門が調査でその道場に通う中、その女師匠こそあの剣造と秀の間に生まれた娘、登世だと確信。
三右衛門には、登世に情が湧いた。周りの頭取始め編纂方からは、優しく応援の言葉を掛けられた。
しかし結末は、三右衛門の武芸者としての生き方で締めくくられている。 -
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長崎に帰る猪三郎、鹿之丞、お蝶
筒井和泉守が長崎奉行から江戸南町奉行に赴任した時、村雨卯之介と彼に養育された猪三郎、鹿之丞、お蝶が一緒に江戸に来た。村雨は南町奉行所で与力として筒井の働きを助けていた。
猪三郎と鹿之丞、お蝶は深川に住処を得て、町人としての生業、すなわち猪三郎は使の者として、鹿之丞は団扇の張替、そしてお蝶は楊枝屋の店者として、稼ぎながら暮らし始めた。しかし彼らの実態は、筒井の指示を受けて表立って処罰できぬ悪人たちを葬る為に人殺しの仕事人である。これまで深川で沢山の悪人を退治してきた。死人はその数を数えることが出来ない程、山のように積み上がってしまった。
その為、深川界隈では町は破壊され、その賑わいは影を落として訪れる人も少なくなっていた。
ただ、相変わらず武士道をわきまえぬ無法な侍が多数出没した。
将軍はこの事態を憂い、町の賑わいを取り戻すべく安心安全な町にすべき、小十人組を取り締まりに従事させた。
南町奉行の筒井が村雨等に指示をして仕事をさせたことと、この小十人組の仕事が被ることになる。
鹿之丞とお蝶は、早々にその正体を暴かれ、身の危険を感じて江戸を離れる決断をする。
しかし、何も知らない猪三郎は、深川の飲み屋で辰巳芸者と遊び人の喧嘩に巻き込まれた。この喧嘩は小十人組が仕掛けた芝居であって、猪三郎は騙されたのである。村雨と猪三郎はそれにも気付かず、小十人組と対決したのだが、村雨は瀕死の重傷を負って奉行所内で療養をすることになってしまう。猪三郎は一人なった。
結局、鹿之丞とお蝶も奉行所内に匿われていて元気だった。村雨の傷も何とか癒えた。
猪三郎と鹿之丞、お蝶は品川から船で生まれ故郷の長崎へと旅立っていった。
最後に、話しは、将軍が直接命令して取り締まりに乗り出したことで、筒井の計画とかち合うことになってしまう。少し物語がややこしいが・・・
物語の時代は江戸後期だ。長く太平の世が続いて、武士道精神を守らない無法な武士が多くなる。また、生活の糧を稼ぐべく役職にも就けない武士も出る。深川では、抜け荷や密輸などの悪事に手を染める大名がいる。更に、公儀に謀反を企てる脱藩藩士がいる。
幕府の威信は衰えて、全国各地の勢力の構図が変わり始める。その上、外国の船が日本の周辺に頻繁に現れる。
そんな事情を考えて読んでいた。ちょっと難しいと感じたが、面白い物語だった。
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人殺しが頻発する深川界隈
この物語の内容を私はどうしても掴めない。ここに描かれている世界は、俗に言い方をすれば、普通の人つまり堅気の人の世界とは全く別の世界だ。理解の及ばぬ遠い世界の出来事であると感じて、リアル感を持てない。港町深川で人殺し事件が山のように発生している。死人が積もって山になっている。
深川一帯を縄張りとする地廻り一味を全滅させる南町の町廻り同心の話し。
そして平和の象徴ともいえる美人コンテストの催事の後、コンテストで2位と3位になった小町娘の殺し。
更に、高利貸し業と深川芸者の殺し・・・など
いずれの事件に共通しているのが、南町奉行所の町廻り同心の存在である。
町廻り同心は、普段、街中を歩いて治安を護る。町人や商人と接する機会が多く、困りごとや警備の相談などを受ける。そしてその際には礼としてお金を受ける事も多いだろう。これが慣習になっている。不浄役人とも言われる所以だ。
今回の事件では、奉行所同心が街中に資金源となる場所を増やそうとして、殺人を犯してしまう。
南町与力村雨と猪三郎、鹿の丞、お蝶の家来三人がそうした同心を殺し、事件を決着するやり方が良いか悪いか、私にはよく判らない。
誰かを殺して事件が起き、犯人を殺して事件を終わらせるというやり方は、ただ死人を増やすだけで、私にはどうしてもなじめない。犯人の同心を捕縛して、裁きを受けさせるのが筋だだろう。法に従って裁きを受けさせるべきだ・・・
いずれにせよ、南町奉行所内が殺伐とした状態になり、まるでヤクザような乱暴な集団に見える。奉行所の内部が乱れに乱れる。
物語の終盤では村雨一同の殺しの仕方をまねた事件まで発生する。更に、将軍家の親類筋にあたる殿様を探索しようする。明らかに奉行所の仕事ではなく、将軍直属の目付の仕事であろう。
村雨の上司、奉行の筒井憲政が物語に一度も顔を出さないのもおかしな事だ。奉行筒井にこの始末が出来るのかヒヤヒヤ心配しながら読んでいた。 -
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事件に係わる異色の仕事人
長崎奉行だった筒井和泉守が江戸、南町奉行に着任する際、混血の3人若者を連れてきた。名前は猪三郎と鹿之丞で深川一色町で湯屋の裏長屋に住んでいる。そして同じ深川黒江町楊枝屋の看板娘として働くお蝶。この3人組が外国渡りの武器を使い、地元の悪者を退治するという痛快な物語だ。南町奉行内与力の村雨卯之介は和泉守の配下にいて、これら3人を家来にして町の治安と安全を守る物語だ。
第一話は、美人の深川一番の売れっ子芸者、大吉姐さんを追いかける二人の男。大店の息子の福助と旗本侍の平川市之進が起こした事件だ。
とにかく、女を巡っての争い事は執念深いものである。慕いが深くなればなるほど危険を孕む。福助が殺されたが、向島の岡っ引き、米六が嘘の証拠をでっち上げ、猪三郎を福助殺しの罪で捕まえる。南町同心の守本が彼を救い出す。村雨も推理を働かせて探索すると、米六を裏で操る男の存在が…それが旗本の平川市之進だった。平川は、自らがばれないようにと手口が込んだ犯行を企てるが、目当ての大吉までも殺してしまう。
第二話では、前述の守本が萩の湯で殺される事件が発生する。米六の弟、岡っ引き沢七が兄が殺されたのを恨んでの犯行だった。そしてこの事件にも裏があった。
北町奉行所の本所方町回り同心、前田数馬が沢七の守本殺しにかこつけて、町廻りで自ら犯した数々の不正、汚職を守本に被せるのである。
面白い物語が第三話、第四話と次々と続いていく。
とかくこの世にあって美しい女性に無我夢中になったり、また湯屋で男女を仕切る壁板に覗き穴を見つければ、好奇心からついつい覗きたくなるのが当たり前かもしれない。酒や金に溺れる奴もいる。この世は誘惑と好奇心を煽るものにあふれている。危なっかしい浮世で、人は右左とやじろべえのように揺れながらも、転けることなく何とかバランスを取って生きている存在だと…
もう一つ別の主題が浮かぶ。それは、犯罪は当然法によって罰せられるべきだが、この物語では犯人をその場で斬り捨てている。この時代では、重い犯罪は打首獄門、又武士においては切腹の沙汰やお家取り潰しの処分が出る。村雨がそうした罪人をその場で始末して事件を葬るやり方は、多分、重罪人が法に従って裁けば、その本人だけを処分することに留まらず家や家族、あるいはその親類まで累が及ぶからだ。罪の範囲を極力小さくしようと配慮したのだろう。
とにかく面白い物語だ。 -
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御庭番の行方は?
将軍家治は、前田加賀藩に不審な動きがあり、御庭番(隠密)3人を送り加賀藩の内偵に当たらせたが、いずれの者も行方不明になった。大目付朽木光三郎はこれら3名を見つけ出すように家治から命じられた。
3人の御庭番は岸田半左衛門と山中寛次郎、馬原三蔵という者である。
その内一人、岸田は本所の川で体中傷やあざだらけの土左衛門で発見された。死体から大量の浮き草が出てきたことで、光三郎は奉行所と共に犯行現場を特定しようとした。そして加賀藩の支藩で上野七日市藩江戸下屋敷が怪しいと考えた。
光三郎と相棒の東雲又一郎は、その屋敷に夜回り中間として忍び込み、蔵に監禁された山中寛次郎を発見し救出したが、屋敷から出て間もなく弓矢を放つ一味に遭遇して、山中は矢に打たれ殺された。
更に、光三郎の相棒、又一郎が毒薬で殺されそうになるという事件が発生した。馴染みの禹湯で酒に石見銀山が仕込まれていた。禹湯には最近、富山の薬売りが顔を出していたのを光三郎は疑った。
富山藩江戸屋敷留守居役の江畑孫助は、嘗て本家加賀藩の財政の立て直しに手腕を振るい藩の危機を救った大槻伝蔵の一派である。もう15年も前の話だ。大槻は、藩主が代わった時、家老職を追放され五箇山に蟄居、更に藩主の側室と不義密通をしたという廉󠄃で切腹して果てた。江畑はその大槻派を本家に復権させようと目論んでいた。
これまでに、光三郎は一連の事件の詳細を掴んだ。
すなわち、加賀藩の過去の騒動が未だにくすぶり続けていること、この先加賀藩を探索する光三郎たちの命を狙う加賀藩とその支藩がいることが判った。
但し、弓矢を使う一味は偸(ぬすみ)組と呼ばれる忍びの集団で富山藩との関係は無いことも判った。そしてこの一味は第3の行方不明の御庭番、馬原三蔵に通じていた。
馬原は、前田藩江戸屋敷に侵入し、いたずらに藩の家臣を刺激した。加賀藩では長安という名の藩医となり藩内の大槻派を煽り、江戸にいては加賀藩に何の問題も無いと幕府の田沼意次に報告するのである。
江戸家老下役の刈谷玄蕃と本家の家老前田直躬は、いずれは前田加賀藩を乗っ取るつもりで、馬原の援助を歓待したのである。
馬原の母は、加賀藩主、吉徳の側室で真如院と呼ばれた人だが、江戸で既婚者あった時の子供が馬原である。馬原の母に対する加賀藩が下した罰を恨んで今回の混乱や事件を起こしたのであった。
難しい筋書きの時代劇だが、味わって楽しく読んだ。 -
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西国大名の数々の悪事
長崎近在を領地にする大名たちが、江戸で起こした悪事の数々を描いた物語である。
南蛮人のことを鬼と勘違いした武家娘が、大川から助けられた。武家娘を掠い、南蛮人に売り飛ばすという第一話の「人身御供」事件を起こしたのは、矢場藩の江戸留守居が首領の事件だ。
大目付、朽木光三郎は、仲間のお幹とお蘭、芸者市松と近松を囮に仕立てて悪者の根城に乗り込み、犯人一味を捕らえた。しかし、主犯格の矢場藩、江戸留守居役服部は、その時服毒自殺を図り、犯行の動機は不明のままとなった。
その後しばらくして、両国で阿蘭陀芝居の一座が興行を始めた。この芝居を演じる役者は、混血の若者5人でその顔立ちや姿の美しさで、江戸娘を虜にしたのである。なかでも、武家娘は別の場所に連れて行かれ、アヘン中毒にさせられて淫らなあそびに呆けるという貞操観念を失わせたばかりでなく公序良俗にも反する行為に発展するのである。
そして、この5人の若者を育てたのが藤代藩であり、犯行現場は藩の寮であった。
光三郎と相棒の又一郎は、中間になりすまして藤代藩の寮に入り込み無事事件を収めた。
第三話「謀反」は、鉄砲500丁を江戸に運び込んで将軍家治のお膝元、江戸の街で暴動を起こすという物語で海戸藩が起こした事件。
第四話は、命中精度の高いヘーゲル銃で将軍を射殺しようとする矢場藩の企てで、光三郎とその仲間の活躍と、長崎奉行になったばかりの新垣新三、そして江戸老中たちの加勢もあり、事件は未然に防げたのである。
ここに出てきた藩に共通するのは、徳川が全国を平定した際に、家臣たちの褒美の分け方に不満を持つ大名たちが起こした事件ということだ。邪魔者扱いされて、遠ざけられた大名の根深い恨みが引き起こした事件だった。
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出世競争
この物語の4件の事件は、京都から来た謎多き公家、穂波将監とその手下が実行したものである。穂波将監の姿形、すなわち何者なのかがなかなか浮かび上がらない。
江戸の寺を舞台に、忽然と消える8人の江戸小町の拐かし事件や、化猫で市中を恐怖に陥れ、不正な賭博が開催される事件など、穂波将監が企んだ悪事であった。
そして馴染みの大目付朽木光三郎は、穂波と連んで城中の奉行や老中たちの犯罪を暴いて成敗する。
江戸の街の安全と平穏を願う光三郎は、第三話で幼馴染みの東雲又一郎と一緒に穂波の探索を続ける中、忍びの一団に弓矢で襲われて足に深手を負った。大目付、長尾清之進が代わって穂波の行方を追及していたが、長尾自らの援護者である、城中で奏者番を務める大名に殺害された。光三郎は、奏者番たちに言葉巧みにカマを掛けて犯人を突き止め、長尾清之進殺害の咎で三輪丹後守を召し捕り、見事に清之進の仇を討った。
光三郎の活躍は見事であり、物語は快調に進んで読み易い。そして物語の核心は「出世」だといえる。
最後、第四話「側室」。
この一連の物語は、宮家の姫の嫁取りの話しが光三郎に寄せられた事が始まりである。しばらくすると、相手が変わり京都西奉行、新垣新三がその相手に変わる話になり、その話が変わったことに何か不信感を感じたる光三郎だった。
更に、将軍家治に、五摂家の一つ鷹司家の姫を側室にという話しが来る。家治には正妻との間に娘ばかり二人がいるが、世継ぎの男子がいないからだった。京都より旅して来て、姫君が城中大奥に入ったところを、光三郎はその時も依然と真偽を疑い、将軍に代わって大奥に入り確認をしようとした。姫が光三郎に短刀で向かってきたが、光三郎は姫を成敗し将軍を救ったのである。その姫君こそが穂波将監であり、当の穂波はすでに老人だという。ただ、穂波には二人の子供がいてそれも双子の姉妹、一人は先に述べた三輪丹後守の妻女であり、もう一人は男女不明の者になっていて、物語を読んで非常に惑わせるところである。
物語を読んで意外や意外、どんでん返しを喰らったが、非常に面白い物語で家治治世がどんな時代だったのか、リアルに考えるきっかけになった。
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江戸の街に連続凶悪事件が発生
第一話は「火附盗賊」事件の話しである。
江戸の3つの大店に火附盗賊の一味が侵入し、お店者全員を皆殺しにして逃走するという事件が発生した。その際に、速水藩小坂和泉守が頭となる大名火消しがいち早く出動したが、この対応に大目付、朽木光三郎が不信を抱いた。
光三郎の探索は、幕府内の役職が依然として縦社会で役職の縄張りから生じる厚い壁に邪魔されるのだが、光三郎の下役、幼馴染み東雲又一郎が和泉守の屋敷に中間になりすまして入り込み、光三郎のために真実を掴んだ。
結局、この事件はすべて和泉守の自作自演で起きたものだと、光三郎が事件の動機と共に鮮やかに解明したのである。
第二話は「贋金」事件の話しである。
禹湯の2階のたまり場で光三郎は矢五郎親分から市中に贋金が出回っていることを聞く。光三郎は又一郎と一緒に禹湯からの帰り道で、両替屋国松屋の手代、佐吉が殺されるところに遭遇した。佐吉を近くの蘭方医雨夜俊庵に運び、治療を試みたが甲斐も亡くなった。俊庵の娘、お蘭が検死に当たり、着物付着した黄色い柘の木クズを見つけた。更に口入れ屋の黒飛屋に佐吉から受け取った紙束が、小判のきり餅を包む紙であると教えられた。
江戸城内でも、贋金が横行していることで、将軍始め老中方々が心配することしきりだった。
やがて国松屋と取引する大名が関係していると考えた光三郎は、国松屋の取引ある十五藩の中から、深川に下屋敷を持つ藩、飯田山藩を見つけ出した。そして結局光三郎が飯田山藩江戸留守居役の奥山采女守の犯罪を暴いて、奥山采女守を切腹に処して事件を解決した。
第三話は「毒殺」事件、第四話「暗殺」事件の話し。どの事件も凶悪な事件ばかりだ。一つ間違えば、幕府内だけでなく江戸市中が混乱に陥る事件である。
物語を読んでいると、幕政を担う幕閣や老中、大名たちの身勝手な言動に閉口させられるが、特に不満を抱えた尾張藩の支藩の狼藉、妨害が目に余る。本来城中内で片付ける事柄が、江戸市中に及んで下手をすれば江戸町民の生活が危険に晒され、重大な損害を受け兼ねない。武士の世が末であると感じさせられたが、同時に、大目付朽木光三郎の目覚ましい活躍が江戸の町を救い、全く頼もしい大目付様だと感じた。 -
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大目付、光三郎の鮮やかな活躍
徒目付の朽木隼人正、通称光三郎は、中山丹後守から推薦されて大目付に抜擢された。大目付は、大名諸侯や高家などの監視に当たるお役目である。
光三郎がお城に上がったその日、奏者番の控えの間で新米の奏者番を苛める他の古参大名を目撃し、それを咎める事から物語は始まる。
第一話は、重い病に罹り藩主が参勤交代で江戸に着任できず、代わりを勤める奥方が国元の殿様の病を気遣い、国に帰りたいと想いを巡らせる。家老が奥方によく似た女を身代わりに据えて、奥方が留守する一時を凌ごうと画策した。しかし「出女」は御法度である。
光三郎は、こうした不正の匂いがするネタを禹湯という湯屋の2階、お休み処で町人たちの会話を通して知るのである。禹湯の女中、お幹もまた光三郎の良い助っ人になる。また、大名の事情を知るために草子本などを商う荒木屋の主人とも懇意になる。さらに、光三郎は、同じ町内の幼馴染み、東雲又一郎も仲間に入れた。
第二話の抜け荷、第三話、お世継ぎのお家騒動、第四話の辻斬り、試し斬りの話しでも、事件性が疑わしい話しを禹湯で交わされる会話で知り、情報通の荒木屋で大名家の最新情報を聞き取る。
光三郎は、頭も切れるし剣の腕も確かだ。芯が通り、身を立てる歳の武士であり、これら四つの事件を鮮やかにそして明快に解決した。
しかしながら、光三郎を大目付に推薦した中山丹後守からは、光三郎の働きぶりが逆に非常に迷惑なものであったようで、丹後守は光三郎に刺客を送り殺害しようとする。
参勤交代や鎖国は、大名にはとても厳し過ぎる制度だ。彼らから不満が湧き出るのも当然だ。しかも譜代大名でも、災害や飢饉など財政上の問題がよく出る。他方で徳川幕府の硬直した体制が依然と続いている。不満を持つ大名も多かれ少なかれ居るのだろう。束縛がきつく融通の効かない幕府の政策。
光三郎も役目とはいえ、ためらう気持ちが全くなかったのだろうか。もちろんそうした気持ちがあれば、お役目を果たすのに陰りが出てしまう・・・
生きづらさを感じる時代である。物語の続編を楽しみにしたい。 -
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純粋な気持ちの日暮龍平
北町奉行所の平同心、日暮龍平は三十歳で、身重の妻と子供一人と八丁堀に住んでいた。
龍平は、元は旗本沢木家の三男の部屋住みだったが、日暮家の娘、麻奈に見初められ、奉行所与力の日暮家に婿養子に入った。作者が描く徳川時代小説は、江戸時代後期、1800年前後の時代背景が多い。その頃は太平の世が永く続き、武士階級が壊れていく頃であり、代わりに商人や町人の活動が盛んな時代であったようだ。旗本でも、この時には落ちぶれ果て貧乏に苦しみ、生計もままならない状態の武士が増えたのである。
龍平は奉行所では平同心なので、自身の仕事をしている間にも他の同心たちから色々と雑用を頼まれる。しかし龍平が若い時に武道で鍛えた体と私塾で学んで得た才能で、そつなく頼まれ事をこなすのである。
菓子問屋鹿取屋の娘が拐かされているという訴えがあり、調べると娘は惚れた男のもとに嫁ぎたいのだけれど、お店を大事と考える親との意見の相違があって、娘が勝手に家出をして惚れた男のもとに走っただけであった。ただ、龍平には武家には無い町人たちの暮らしぶりが新鮮なものに感じられて魅せられるのであった。
この後、鹿取屋は破落戸たちに強請られたのだが、龍平は武士二人を含む破落戸を、武士は斬り殺して、後は捕縛して見事一味を退治する。
最後は、鹿取屋の娘が年が明けた春に、新たに婿を迎えるという目出度い筋書きだ。
鹿取屋の娘が惚れた男、川太郎もその出自を辿ると、武士生まれだが貧しさゆえ幼い頃に捨てられたという。
豊かな人がいる反面、貧しくても逞しく生き生きと暮らす町人たちの営みを直接肌で感じるこの仕事に、龍平は彼らから教えられるものが多く、そして憧れに似た感情に駆り立てられるのである。しかも彼らに対してもっと純粋な気持ちが龍平に湧くのかもしれない。とても興味があり面白い物語だった。
奉行所の他の同心たちは、その性根には江戸の商人や町人、大名などから事あれば金のために動く者ばかりである。それはそれとして良いのであろうが、プラス何かを感じさせる龍平である。 -
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凶悪事件を起こした若侍
北町奉行所勤めの萬七蔵が、定町廻り同心になったばかりの頃に起きた事件の話しである。
深川近くの洲崎の土手道で男の首切り死体が見つかった。死体は深川界隈の賭場を取り仕切る貸元岩之介で、懐を狙った辻斬り強盗だった。
七蔵がこの事件を担当したのだが、被害者の関係者の聞き込みに時間を取られて、一向に下手人を捕まえられなかった。その後しばらくして、和菓子屋の番頭羽左衛門が首を斬り落とされて懐の紙入れが盗まれる、という同様の事件が起きた。
七蔵の探索では同じ人物、田島享之介がしばしば浮かんだ。享之介は北町奉行所年番方与力、殿山竜太郎の奉公人だった。享之介は、表向きは礼儀正しい物静かな若い侍である。同じ侍の七蔵は享之介を疑惑の目で見られなかった。
しかし、享之介は裏では賭場通いなど素行が悪い。深川の賭場で遊んでいた時賭場の取り締まりに遭遇し、その際、お金を使って見逃して貰った。
しかしながら、その時の同心が主の殿山に告げ口をして、主から享之介は厳しく叱られ切腹を宣告された。その場で享之介は主の殿山と内儀を斬って殺し、逃げる途中で告げ口した同心の首も刎ねた。享之介は、箱崎から舟を使って逃走し、行方不明になり、事件は未解決になってしまった。七蔵のちょっとした見過ごしが大失態を起こしたのであった。
奉行所は直ぐに御触書を各地に出したが成果がなかった。
それから7年が過ぎて、七蔵はお役替えで隠密同心として奉行所に務めている。奉行所の与力、山木大三郎が奉行所の大失態の無念をしたためて、せめて八州の本陣屋、出張陣屋の元締め宛に享之介捕縛に協力を願う書状を送っていた。成果は直ぐに出て、上野国群馬郡の岩鼻の手代がそれに応えて知らせをよこした。
それによると、享之介らしき人物は三一凶之介を名乗る侠客らしいことが分かった。
早速、七蔵らは上州に享之介捕縛に向かった。しかし享之介は七蔵らに執拗な抵抗を見せて、捕縛は困難になり剣術での決着となってしまった。七蔵の手下のタイミングのよい助けに支えられて、七蔵がかろうじて享之介を倒したのだった。
「享之介は、自分の生い立ちと境遇の中で、子供の頃から怒りをずっと腹の中に溜めて生きてきた。それがある時、自分の腹の底からこみ上げる怒りを抑えられなくなった・・・」と言う七蔵の言葉に強く印象を受けた物語である。成長しきれない未熟な大人が犯した凶悪事件である。 -
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小太刀遣いの女剣士
大川のお厩の渡しは浅草と本所を結ぶ船渡しである。
本所側の河岸通りを少々北に行った大川端に、萱葺屋根の出茶屋が、《お休み処 やき餅くさ餅》の幟を出している。その店の女将は、おはやと言い、嘗て松江藩、松平家の勘定方下役を務めた田部権之助の娘であった。父が勤め先で不正の疑いを掛けられて訴えられ、家は改易にあった。この娘は父譲りの小太刀の遣い手、武士にも劣らぬ強い女剣士だ。父の務めの上役組頭の二人を斬って殺し、仇討ちを果たした。娘は郷里を離れて、父の友が住む江戸へと向かったが、路銀も少なく、旅籠の下働きなど雑用をしながらようやく食いつなぎ、2年の放浪を経て何とか江戸にたどり着いた。しかしすでに父の友は亡くなっていた。他に身寄りも無く、力尽きて大川端で動けなくなった。一人座り込んでいたところを、その出茶屋の夫婦に助けられたのである。その後、おはやは出茶屋の息子と夫婦になりお店を継いだ。
そして今、今度は斬った上役の息子から敵と見なされて戦う状況に置かれたのである。
おはやは強く、逆に上役の息子を打ちのめした。おはやは逃げないでお裁きに従うつもりだった。お甲はその仇打ちの様子を目撃して萬七蔵に働きかけて、おはやの罪は赦免され無罪になった。しかし、出茶屋夫婦は、江戸でのお店の営業をしずらくなり、息子の郷里に帰り農業で暮らすことにしたのである。「本所の女」は真に芯のある女だった。
しかしながら、この時代の江戸は、公儀が許可する金銀為替商・嶋屋の手代、惣三郎の行方不明の事件が出た。お堅い両替商の手代とは思えない程惣三郎の問題行動が原因である。この事件は惣三郎の身から出たサビであるが、惣三郎は殺されて見つかる。
また、下級武士の逼迫する生活でご内儀を岡場所で働かせる、といった淫らな態度に憤る者が犯行に及び、内儀誘拐事件が次々と起きた。江戸の治安は一体どうなっているのかという荒れた社会になっている。そして奉行所の取り締まりや治安の回復が益々難しくなっていくのである。
そん中、七蔵や奉行所の他の同心たちが踏ん張り、江戸を守るのであった。 -
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親の敵討ちをする三姉妹
六百石の旗本、疋田家に仕えていた河野佐治兵衛は、10年前、疋田豪軒の息子、籐軒の供をして柳橋の書画会に出掛けた折、船宿の澤田屋で籐軒が若衆を斬り殺す事件を起こした。
佐治兵衛は、籐軒の身代わりとして奉行所に出頭して八丈遠島の刑を受けた。
そして御赦免により、10年経った今、江戸に戻ってきた。戻ってみると妻は労咳で病死していて、三人の娘で長女の椿は吉原の花魁に身を落としていた。
佐治兵衛と疋田家との約束では、刑を受けた後も、河野の禄高は保障され、不自由無い生活が送れたはずだったが、実際は刑の宣告を受けた直後に破られていたのであった。佐治兵衛はこの違いに抗議するために、籐軒こと現在は大垣藩江戸上屋敷、留守居役、根津籐軒に日々通うのである。しかし、佐治兵衛は籐軒に邪魔者扱いにされてしまい、彼の悪ガキ時代の仲間の浪人に殺されてしまう。
そこで、佐治兵衛の娘三人が父の敵を討つために立ち上がるのである。
萬七蔵は、彼の探索で様々な事実が証されて、三姉妹の敵討ちに正当性を加えるのであるが、あくまで彼は脇役である。三人姉妹は見事に敵討ちを成し遂げた。江戸の町に明るい話題をわき起こしたのである。
物語の筋書きはこんなものだが、吉原の風景や花魁の豪華な衣装、きらびやかな部屋の様子などが物語に細かく紡がれていて、とてもきれいである。柳橋の花街の情景では、江戸節と言われる長唄や常磐津が流れる風情に、物語を読んでいて癒やされる。また、敵討ちの場面では、見事な殺陣が見られてとても鮮やかである。読んでいて飽きない物語だ。
それにしても、幕藩政治のがたつきようにはあきれ果てる。特に武士階級の不祥事が多いのには、時代の末期症状が出始めているのかもしれない。大変残念な事だ。 -
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命は大切、無駄な命はない
「もどり途」という変わった名の物語は、2件の殺人事件から始まる。
1つは、浅草界隈を縄張りする貸元、谷次郎が殺された。そしてすぐ次に、2件目の殺しが発生。被害者は小網町、塩問屋「隅之江」の隠居の下女お豊である。
谷次郎の殺しは縄張り争いで、あやめの権八を頭とした破落戸一味が、谷次郎の縄張りを狙い横取りして、弟の谷三郎まで殺害するという、無法者同士が争う中で起きた殺人事件だ。
北町奉行所の隠密同心、萬七蔵は、お奉行小田切土佐守の命を受けて、あやめの権八の素性を探る為、手下の樫太郎と共に調べに入るのであった。
しかし、無法者は所詮味方すら殺害する極悪人である。権八は一味の1人、伊野吉に手下2人と共に殺されてしまう。七蔵の探索は打ち切らざる得なかった。
お豊の事件では、向島、木母寺辺りにある隅之江の寮で暮らしていた隠居、お純から話しを聞いて、犯人が徐々に判明するのである。
お豊には、結婚を約束した塩問屋手代恵吉がいて、腹に子を宿していたが、恵吉には他の大店の娘と結婚話が浮かんでいた。いずれはその大店の主になる可能性もあり、欲についつい目がくらみ、お豊が邪魔になり亡き者にしたことが判った。
七蔵は、夜叉萬の別名で江戸の町に知れていた。夜叉とは理不尽な事に対して容赦しない魔物である。魔物は、悪人の中でも理不尽な者は決して許さない、強い意志を持つ。「夜叉萬組」には、北町の内与力久米信孝、髪結いの嘉助、樫太郎とお甲などが仲間となっている。奉行所内では、町廻りとは違った働きがあるようだ。事件で犯人の生い立ち、素性を調べたり、事件で汲むべき事情があれば、お奉行に報告して詮議や裁きに反映させる役目があるようだ。
伊野吉は、谷次郎兄弟と権八一味の5人を殺害した。そこには伊野吉なりの特別な理由があっての犯行だった。
この事件に関連する死者数は7名に昇る。夜叉萬組にとり、後味の全く悪い事件だった。気持ちの悪さを、お純とお藤の二人の老女の生きながらえる姿が和らげているかのようだ。
簡潔な文章が物語を読み易くしてる。文章と文章の間に深い意味がありとても考えさせられた。 -
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「十一」が越前守から禄をもらう
大岡越前は本能寺の住持、日彦が死の間際に言い残した悔恨の言葉を聞いて、17年前に起きた寺小姓、直助殺しの事件の再調査を古風十一に依頼する。
御鷹匠番餌差、古風十一は若く溌剌とし、加えて頭の良い好青年である。十一は越前守に見込まれて、わずかだが禄を貰って仕えている。
もっとも、事件は17年も経って人の記憶も薄れていて、十一ははっきりと事件の真相は掴めなかったが、ただ事件に関与したであろう人物の名前だけは掴めた。
真相は鉄砲組百人組与力で、今は隠居の身の上、一色伴四郎から大岡に書状が届き判明した。伴四郎は事件の被害者直助の父でもある。
本能寺の檀家に野添家があった。野添家主、真親は鉄砲百人組之頭に就ている。そして跡継ぎとして息子の泰秀がその組に属していた。鉄砲の訓練は練習場にて行われていたが、泰秀は練習熱心の余り、禁止されていた練習場外、郊外の雑木林近くにある湖沼で、鳥の小群を撃ち落とすために発砲したが、的を外して近くにいた百姓、達吉に当たり死なせてしまった。不慮の事故であったが一人の命が奪われた。
この事件の処置は、公にはされず内々に示談で解決された。その役目を担ったのが裁定所留役、水下藤五である。
その後、水下は野添家の妻、野江と本能寺で密会するようになり、その様子を直助に目撃されたので、直助は口封じで殺されたのであった。
更に謀り事は続き、水下は直助の父、一色伴四郎を騙して下手人御免の願い状を書かせて、本能寺の2人の所化、知念と本好を無罪とした裁きをさせたのである。
切れ者として通っていた水下が、自らの欲に目がくらみ、暴走して事件を勝手に処分したのである。
殺された直助が余りに不憫で可哀想である。
大岡越前は江戸の庶民に愛された名奉行であり、将軍からも憶えが好いが、反面、城内の一部の家臣や重臣からは妬まれていたことが判る。概して言えば、武士や大富豪たちは、庶民のことなどどうであろうと良いのであり、大岡の庶民を大切に思う気持ちとは相容れない考え方だったようだ。 -
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名奉行大岡のお裁き、失敗
大岡忠介が江戸南町奉行として活躍した時代は、江戸の物価は上がり庶民の生活が苦しい。さらには西国では大飢饉が起きた。影響は江戸にも及び、米の価格が上がり暮らしで食べ物に困る程であった。
大岡は施策として金銀お吹替(改鋳)を推進して、物価の安定を図ることにした。施策に反対する両替商や大商人は幕閣の反対勢力の応援を得て妨害…その後、大岡は町奉行を退き、寺社奉行の務めを頂き今に到っている。
当時よりつまり五年前、江戸の庶民が群衆となり高間伝兵衛米問屋を襲い、毀す「高間騒動」が起きた。手代八右衛門が殺されて見つかった。犯人として与佐が捕まった。
与佐は、犯人では無いとお白州でまっすぐな申し開きをした。しかし、厳しい拷問を受け、自白し罪を認めた。
寺社奉行の今になり、忠介はその一件が心に引っかかる。鷹匠の十一に再調査を依頼するのである。
大岡忠介は、南町奉行所を辞める直前に罪もない指物職人に打首のお裁きを下したのではないかと、苦しんでいる。十一の粘り強い調査により事件の真相が明かされる。
定町廻りの前並甚之介は自らの借金を清算するために、博打仲間の広助と五平、道三郎の3人と結託。連んで与佐に殺しの罪をなすりつける。本当の犯人は、広助と五平、道三郎であった。手代八右衛門はお店で米俵を検査する差し米の仕事をして、相当な量の米を横流して、大金を貯め込んでいた。その大金目当てに八右衛門を殺して4人で分け合ったのだ。
そしてその後、町人3人は江戸に暮らし、甚之介は本庄で用心棒の仕事で暮らしている。
十一は各人に直接面会して、話しを聞き事実を知ったのである。
忠介は、社会の変化の激しい時代にあって、多忙を極めていた。また、高間騒動では騒動を主導した首謀者の探索が優先されるのであろうが、殺しが発生したためその調べに手が回らないばかりか、殺しの調べにも慎重さが不足した。その為、八右衛門殺しの裁きで間違いを犯してしまったのだろうと感じる。
本来、幕府内では、意見は違えども合議が為されて、一つに纏まるのであろうが、この時は働かなかった。部下の同心からも裏切られていた。忠介にとってその事件は大変無念な出来事でいつまでも忘れられないのであった。
だが、完全無欠な人はいないと側人が忠介を擁護するのだった。 -
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金四郎の得意な潜入捜査 始まる
おけいは、父、堀田一定に強制的に金四郎のもとに送られ、金四郎の側で暮らしている。おけいは押しかけ女房なのだ。
その一定が今度は、相手がその気でないのなら家に戻るようにと言い渡した。おけいは、身勝手な父に振り回されていると不満を感じる。おけいは金四郎のことが好きなんだ。今後一月の期限でどちらかに決めろと言われても、おけいには家に戻る気は無い。
祝言も挙げない男と女が、仲は好いが、長屋暮らしを一緒に送ること自体とても不自然である。
金四郎の実家におけいが訪れた時、金四郎は夫婦として固めの杯を交わすよう言われも、当てにならず及び腰だ。全くだらしない。優柔不断で決断力のない男である。
「遠山の金さん」は、お白州で悪人たちの嘘や言い逃れを見破り、裁きを下す名奉行ぶりが頭に浮かんでくる程の人だ。
この物語の舞台では、金四郎は未だ奉行所勤めではなくただの「遊び人」だが・・・それでも社会の常識は当然わきまえているはずである。祝言も挙げずに女と暮らすことなど許されない。
そして今回の捕り物でも、金四郎はおけいと一緒に取り仕切った。夫婦だったからこそ、今回の捕り物劇は成功したのである。盗賊・血煙一味が、江戸市中の呉服屋の大店を襲って、店の者全員殺害し大金を盗む極悪の大泥棒の事件をだ。
そして血煙一味の次なる標的である薬師問屋の被害を未然に防いだ。盗賊の頭領から気に入られた金さんが得意な潜入捜査で、事件は素早く片付けられた。
けれど最後に言いたいのは、物語を読み進めていると気になるところが多少あった。金四郎夫婦が滝浴みを済ませて王子から家に帰る際、夏の真っ只中、袷の着物を着て帰るというのは妙である。袷は冬の着物であるはずだ。もう一つは、金四郎が自分の弟を父と呼ぶのである。明らかに間違いでは無いか。物語をこの先読み進めるには、読者は普通の状態で読めない。だから私は一人の見物人になりきって読んでいくしかなかった。不甲斐ないが、私は野次馬の感想を書いたのかもしれない。
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金さんの妻は「おけい」
江戸下町、諏訪町で金四郎とおけいが長屋で暮らしていた。おけいは、佐倉藩堀田一定の娘であるからお姫様の身分だ。父の命令で金四郎のもとにやってきた押しかけ女房、それも見習いという。おけいは、長屋の住民たちとも付き合いは良く、住民たちから沢山の手助けを受けて江戸の暮らしに困ることはなかった。
亭主の金四郎は、長崎奉行の息子であるから武士である。しかし、金四郎は今は無職で稼ぎがない。だから市中を巡り歩いて、好く賭場に出入りしている遊び人である。生活はおけいが勤める舟八の料理屋の奉公で凌いでいる。おけいは、金四郎がいずれ岡っ引きや奉行所同心になることを望んでいる。
金四郎が或る賭場で稼いでいた時、王子に住む天一という天麩羅料理人から借金の請人になることを頼まれた。天一は金四郎にとって初対面の男であり、場所がらから考えれば奇妙な話しである。しかし、金四郎の人の良さが前に出て請人を引き受けてしまう。
王子は江戸とは離れて、町奉行の管轄が及ばない場所である。それ故、面白い商売が繁盛している。天麩羅も江戸では火事の元になるので、料理として提供することは禁止されているが、王子では気にせずに営業できた。趣向を凝らした商売、風俗営業などいかがわしい商売も多い。江戸とは違うという珍しさで客を集めていた。
吉兵衛は、天一に金を貸し、店の大家でもあった。
そこで、天麩羅が未だ人々に知られないことを残念に思う吉兵衛が打った芝居であった。金四郎の身分を慮り、引き込んでの謀り事のように思える。そうした催しを行い、天麩羅料理が世に広がることを期待したのである。
天麩羅の料理の味比べの勝負が仕組まれた。金四郎はこの勝負にどうしても勝たなければならない。天一と金四郎夫婦の味比べである。そして料理時の演出では、刺青を纏った金四郎と梅の絵を肌に描いたおけいの華やかな姿。勝負は金四郎夫婦の勝ちであった。
こと、刺青に関して言えば、武士としての存在を失う程のものだが、おけいが自らの肌に梅の絵を描かせたのは亭主を庇うためでもあり亭主を立てたのかもしれない。
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沢山の事件と難問を抱える魚之進
ボッとして惚けて頼りない態度はしているが頭の良い味見方、月浦魚之進はいよいよ江戸城に登城する日が来た。将にその日、御膳奉行松田欽四郎が朝餉の味噌汁に仕込まれた毒により亡くなる事件が発生した。魚之進は将軍毒殺の計画が身近に迫るのを感じる。
再度、市中見廻りに戻った魚之進は、高価な根付けや器などを握り飯の中に隠し、天麩羅にして盗む事件で、利介という大阪から来た金持ちの料理人を捕まえた。魚之進は、友人の本田伝八の祖父が書いた疑惑帖が役に立ち、利八が盗人であると確信したためである。
第二話「スッポンポン」は、スッポン鍋を食べるには裸にならないといけない料理屋の名である。店の主が客を裸にさせてふんどしを確認したいという阿呆らしい理由からだ。探していたふんどしの男を見つけ、魚之進は見事に犯人を捕らえた。
第三話「幽霊そば」は、備中松山藩中屋敷で女中奉公をしていた女が、その家の用人から誘われるのを断った。それを根に持った用人が女を苛めて、その果てに女は井戸に身を投げて自殺した。その女中の姉が敵討ちするのを魚之進が援助して果たさせるという話しだ。
第四話「陰膳だらけの宴」は、深川の料亭「平きよ」に総勢30名の宴会の注文が入ったが、当日出席した者が四人だけだった。その理由を魚之進が探ると、城内で旗本の辻岡亀五郎と西国、吉野ヶ里藩藩主との口論が起き、刃傷沙汰になったという。その後、吉野ヶ里藩は改易されたことで、藩内では敵討ちとお家再興の二派に割れた。そして旗本屋敷の隣にある「平きよ」で、復興派が敵討ち派を止めるために宴を開いたと言うことだった。この結末は同心の魚之進の力では処理することは出来ず、お奉行を通して解決して貰うことになるのだが・・・
将軍の毒殺計画や藩の改易などの事件は、当然、江戸幕府の体制に係わる事件であり、その体制が少しずつ壊れだしたと言えるかも知れない。魚之進の周りには事件や難問題が沢山あると感じるが、物語があちらこちらに飛んで焦点が見えにくい。今後どんな展開になるのか全く不透明である。読者としても先を続けるべきか、大変迷うところである。 -
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魚之進の独特な仕事ぶり
月浦魚之進は南町奉行所の町廻り同心だが、今は味見方として江戸市中の食い物の動向を探る役目に就いている。本来、南蛮渡来の香料や砂糖などの抜け荷の取り締まりが主なお役目であった。この際に魚之進の兄の波之進が犠牲になってしまった。抜け荷の実態がほぼ明らかになり、味見方の役目を潰すという話しもあったが、江戸の町人たちの暮らしを把握するのに必要な役目だというので、南町奉行所筒井和泉守の計らいで存続された。
今回の物語は、ぬるぬる御膳とひげ抜きどじょう、婆子丼、歯形豆腐という聞き慣れない食べ物が出ている。
信憑性はわからないが、話しは非常に面白い。兄の波之進に比べればその容姿や仕事の取り仕切り方は格段と劣る。しかし、仕事にやる気があるのか無いのか、惚けた魚之進の振る舞いが滑稽である。
元々が食べ物の話し。当時の江戸の町人の生活風景は意外と豊かである。多分、様々に多くの物資が江戸に集められたからだろう。江戸時代の成熟した時代感が垣間見える。魚之進を通して見える市中の人々は、食うに困らないのだから幸福な人たちばかりだ。食べ物屋を営む人たちの奇抜なアイデアと、商魂にあふれるメニューの数々の物語である。
そんな中でも、殺人事件が起きるのである。その一つ一つ何れもを魚之進が自信のなさそうに淡々とマイペースで捜査して、犯人を捕らえて解決する。その姿は、さながら江戸時代の「刑事コロンボ」に似ている。
非常に滑稽な場面もあり、読んでいて飽きない。羽目を外さないというか難解な事柄は書かないという作者の心遣いが窺われる。文章のテンポが良く全く読み易い。
魚之進には、将軍の毒殺の噂もあり、毒味役として登城のお役目が出来たようだ。 -
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出世間違いなし、平七郎の働き
十五間川で久松という男の死体が上がった。奉行所定町廻りでは自殺として処理したのだが、一緒に暮らす女将が久松の死因に疑問を持っていたので、再調査の依頼が橋廻り同心立花平七郎に届いた。
平七郎が調べると、殺しが疑われた。更に、7月20日に起きた深川、油問屋浪速屋の押し込み強盗と放火事件に絡む重大な犯罪が浮かんだ。
火付け盗賊の頭領は、深川永代寺の側で骨董品を商う店の主、弥左衛門であった。そして一味の仲間5人が容疑者として浮かんだ。この盗賊一味は、6年前に盗みと放火で江戸市中を震撼させた仁左衛門事件と全く同じやり方であった。北町奉行は総力を挙げて捕り物活動を行う。そして一味全員を取り押さえたのであった。
一方、捕り物物語と並行するように、おこうと平七郎の結婚に関する話しが進むのである。平七郎とおこうは幼馴染みあり、今やともに立派な成人となりお互いを意識する間柄である。そして平七郎には旗本の娘との縁談が過去にあった。おこうには今、絵双紙屋の跡継ぎ息子、仙太郎との縁談話がある。おこうは仙太郎との見合いの場で、おこうの父親の代から保管し貯めてきた瓦版を本にしないかと打診される。更に、仙太郎はおこうが仕事を続けることも許すというのである。
最後に平七郎がおこうに告白するのだが、おこうは素直に喜べない。おこうの気持ちはすでに定まっているようだが、平七郎との結婚では、家庭を守ることが第一だろう。すなわち、今の仕事は辞めるという覚悟がいる。仙太郎に嫁いだとしても、父親の代から録り溜めてきた瓦版は、貴重なものであり、本などにして出したくないのだろう。悩むおこうだ。しかし、ここら辺で一つの区切りを引きたいと言うことだろうか?
橋廻り同心、立花平七郎の捕り物話しは非常に面白かった。そして平七郎とおこうの幸せをいつまでも祈りたい。 -
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友情に応えて事件を解決
第1話「彩雲」は、立花平七郎が青春時代に剣術修行に励んだ頃の友人に係わる事件である。
上村左馬助と瀬尾鹿之助がその友人だが、それぞれが成人になり、鹿之助は下野国に帰り、黒金藩で藩主のお側で仕えていた。
この鹿之助に幾つもの不幸が降りかかるのである。御前試合で藩主の遠縁の富山伊一郎からいかさま試合を強要されるが、それを断り、勝利したことから不幸が始まる。その時以降、鹿之助は伊一郎から手酷く苛められる。結局、藩士の資格を取り上げられてしまい、浪人となって江戸で甲州屋の用心棒で生計を立てている。甲州屋が屋根船で武家のお客を接待したある時、宴席で諍いが起き、主が殺される。
その犯人として鹿之助が捕らえられて、小伝馬町送りにされた。
平七郎は、鹿之助の妻の依頼受けて探索を始め、やがて殺しの現場の目撃者が現れた。更に、鹿之助を現場から引き離した男、徳次を捕らえて無事鹿之助の無実を証した。
国元で鹿之助といざこざを起こした伊一郎こと、江戸では丹羽弥左衛門が甲州屋主を殺害したのだが、その罪を鹿之助に擦り付けようとしたのである。そして、鹿之助の不幸は未だ続き、丹羽とその一味に殺害されてしまった。
この物語の結末を読んで、すっきりと納得できたわけでは無い。
当時陰間と呼ばれたおかまの化粧品の辻売りから物語が始まる。男は強い者という観念があるが、おかまとは女のような優しさを持ち、少し病的な性質の者を感じるのだが・・・。それと伊一郎という人物のひがみや負けず嫌い、妬み強さは異常な程で、これは男の強さを極端にした性格でやはり病的なものであろう。
どちらも普通の性格ではない。鹿之助がその犠牲になったことは気の毒な思いがする。
黒金藩の内部の事件として、これを処分するのも止む無しと思えるが、江戸で起きた事件を秘密裏に処理しているようで、納得できない部分も残るのだ。友情に応えるという美しい話しで、鹿之助を牢から出した平七郎の活躍の部分までが、物語の中で至誠な事として印象に残った。
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気構えも足りない大人の人生
第1話の「紙人形」は、困難に際しその対応を少しばかり間違えたことで、人生が大きく変ってしまった町人の物語である。
50両もの借金を抱えた小間物屋の吉兵衛は、その返済に窮してしまい、以前奉公していた小間物屋の「えびすや」を頼って金を借りるべく訪ねた。しかし、主からは相手にもされずに冷たく追い返される。
借金の返済にこだわり過ぎ、あるいは自分の商売の存続を考えるあまり、えびすやに頼るだけが返済の道であると短絡的に考え、他に考えを巡らすことが無かったこと、それが彼の落ち度であった。1軒の店を持つ大の所帯主であるにも拘わらず、いま少し考えを巡らせれば他の方法もあったのだろうに・・・
それにしても、その吉兵衛に魔が差したのは、えびすやからの夜の帰り道のことであった。
ある家の軒を借りて雨宿りをしていると、家から人が出て行くのが見えた。しかも戸は開けっぱなしだった。吉兵衛が覗いても人の気配が無い。中に入るとタンスに巾着があった。それを盗んで戸口に戻る途中に寝ていた女主が起きて来て、手に包丁を握り吉兵衛に迫ってきた。だが、その時女は着ていた着物の裾に足を取られて転び、自分で自分の胸元を刺して死んでしまった。
これが事件の全てである。
この女主は江戸の大店の隠居の妾をして、田舎にいる親思いの優しい女であった。隠居の子どもを身籠もったが、跡継ぎ問題を避けるために止む無く中絶をした。そうしたことで、心が荒んで酒に手を出すだらしない生活を送ってきた。当然、行儀作法を教えなければならい下女がいるにも拘わらず、逆に女は冷たくあたっていた。
下女は事件の目撃者である。
橋廻り同心、立花平七郎は、2ヶ月前に京橋で油がこぼれた事件があった際、この下女が足を滑らして転んだのを目にしている。
いつも明快で優秀な平七郎とその仲間たち、すなわち、秀太に加えて今回から町廻り同心から左遷された亀井市之進と工藤豊治郎の2名が加わった橋廻り同心たちが、手際よく事件を調べ上げて無事全容を解決する。吉兵衛への裁きは、「重所払い」であった。 -
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江戸の町人世界を知る
天下太平の世が長く続く江戸。特権階級の武士はたいした役目や仕事もなく無為に日々を過ごすだけだ。
反面、町人の世界は盛んになり繁栄するのだが、特に大店と呼ばれる町人の中に取り入る武士が現れる。そこには、金が全てという価値観の変化が見られる。
第二話は、奉行所の内輪の話である。南町奉行所で威勢を謳歌する楠田宗之進が、市中のお店から金を強請り取るという、悪事の物語である。お店の落ち度や弱みを見つけては取り入り、刑罰の免除をちらつかせ、金を強請るのである。
南町の岡っ引の伊勢蔵は、父伊助を殺害されたのだが、その犯人は楠田だという証拠を見つけるために、楠田の関係するお店を根気強く廻り調べる。そして、和泉屋で20両の盗みの事件が起こり、伊助はその犯人が伊助の知人であることが判り、金を和泉屋に返還することで事件の解決を計った。だが、楠田は約束を裏切り、その知人と伊助共々を殺害して事件を終わらせたのである。
立花平四郎、平塚秀太と瓦版屋おこうと辰吉、いつもの仲間が伊勢蔵を助けて、楠田は切腹お家取り潰しで見事に敵を取るのである。
市中の人たちの一生懸命に生きる様子、誠実な人間関係、商売に精を出す町人の姿などが際立ち、反面悪人の悪度さが酷く哀れで、不気味にさえ感じられる。読んでいて興味が湧く物語だった。 -
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幕府が巧みに江戸市中を守る
橋廻り同心、立花平七郎は江戸に沢山掛かる橋の検査の役目に就いている。これは奉行所の一つの役目なのだ。木槌で叩いて橋梁や橋板などの腐食、傷みを見つける。単純だが根気の要る仕事だ。もし落ち度があれば、橋の倒壊や流失などの重大な事故に繋がる。だから、たまに平七郎は仕事後には橋の袂の茶屋や居酒屋で相棒の秀太とその日の疲れを癒やすのだった。
江戸は広く大勢の人が橋と係わりがあるようだ。橋のある風景は、時に人を故郷で見た景色を思い出させて懐かしい気持ちにする。また、橋の袂に風雪に耐えてたたずむ老木を眺めては、自身の励みにすることもある。
第三話では、東堀留川に掛かる思案橋。近くに魚市場があり新鮮な魚が手に入りやすいので、蒲鉾屋「万亀堂」がある。一昔前まで兄弟二人で店を営んできたのだが、所帯を持つと、店は元祖万亀堂と本舗万亀堂に橋を挟んで別れてしまった。どちらの店が本店かを争う醜い兄弟喧嘩が始まった。腕の良い調理人を巻き込んだ二人のけんかは、その調理人の自殺を招いたのだった。自殺は自殺なのだが、しかしその後兄の万太郎が拐かされて身代金を要求される事件になった。自殺した調理人の息子新助がその事件に関与していた。しかし、新助が改心して、事件は未然に防がれた。犯人は捕らえられた。この時兄を救うために、弟亀二郎が金の工面したこともあり、その後万太郎と亀治郎の仲は戻り、新助は万太郎から店を任せられるようになった。
物語の筋は、瓦版屋のおこうの美しさや色気に平七郎が一瞬気を散らすことや、新助のすれた女が出てきたり、で二度逸れて元の筋に戻る面白い展開である。
しかし、話し自体は非常にリアルである。それは、兄弟喧嘩の仲裁依頼「公事願い」が奉行所から出てきたというところがあり、古文書を下書きとして書かれたのではないかと思われるからである。
当時の幕政が巧みにそしてきめ細やかに市中に行き渡り、犯罪事件や訴訟などの問題が法律により公平、丁寧に処理されていたことが判り、大変興味深い物語だと思う。 -
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大阪出の店者の人情ある幸せとは
第2話「秋茜」は、蝋燭問屋播磨屋の主の自殺に係る投げ文が奉行所にあり、榊原奉行から依頼された平七郎が探索を始めるのである。
橋廻り同心、立花平七郎は旗本で火付盗賊改方の市岡勘解由の不正を調べることになった。
市岡は、その屋敷で賭博を開いては市井の人々を餌にしていた。なかでも市岡家と取引のある商人を賭博に誘っては大金を巻き上げ、やがて借金地獄に陥れ、自殺させたり、お店の沽券を奪うという極めて悪くどい事実が判明する。
平七郎は読売屋のおこうと辰吉などの仲間の助けを借りて証拠をつかみ、榊原奉行を通じて市岡を大目付に訴え成敗する。
他方、平七郎の下役の秀太が小名木川に架かる万年橋の袂で川に浮かんで息も絶え絶えの花輪糖売り男を助けた。
そして医者で介抱していると、五歳ぐらいの男の子が自分の父親だと名乗りがあり、花輪糖売りの与太郎だと名前が判った。大阪の米問屋の息子で、店を継ぐのにその才能があるかどうかを試されて、100両を渡されて旅に出されて江戸にやってきた。半年の期間内にどうしても商売を広げるような妙案が出なかった。やがて彼は疲れ果て生きる自信を失う。彼は郭に入り浸るが、そこで子持ちのおしかと知り合いになる。
残った有り金全てを果たいておしかを身請けして、子どもも一緒に暮らし始めるのだが、おしかの方は派手な暮らしを忘れられず家を出てしまう。このおしかの奉公先が市岡の屋敷だったことで、おしかも市岡の悪事に加担していたのだが、平七郎の説得など、また最後は子どもと与太郎への情けに絆されて元の鞘に無事収まるのである。与太郎は女房子どもと花輪糖売りで地道な商売を続けて暮らすのである。
この物語は非常に淡々としかも丁寧に話されていて、良い話しである。しかし与太郎の大阪への想い、郷愁はないのかどうなんだろうと少々浮かぶと同時に、それに触れていないことに少し物足りなさを感じる物語でもある。
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平七郎、暗いお江戸を花に変える
橋廻り同心とは江戸府内の橋梁120余りを管理するのがお役目であるが、毎日が木槌で叩いて点検して回るだけの単純なお役目である。奉行所内でもこのお役目は閑職と見なされている。しかし、仕事の合間には江戸市中の様子が窺えるし、時には事件にも遭遇するのだ。
この役目を頂いた立花平七郎は、嘗て定町廻り同心を務めていた頃、通り名を「黒鷹」と呼ばれ、奉行所内はもちろん江戸市中でも親しまれていたが、榊原北町奉行から密命を受けて橋廻り同心のお役目に就いた。
第1話の「菊枕」では、平七郎が臨時廻り、八田力三について調べるようにと奉行から命じられた。
賭博やけんかで何度となく捕らえた弥市という破落戸を、八田が再三庇ったからである。放免された弥市は挙げ句の果て、死体となって発見された。定町廻りは弥市が八田を脅していたことを突き止めて、八田に殺人犯の疑いがかかる。そして、とりあえず八田を自宅謹慎処分にして、事件解決を進めるのである。
平七郎は八田の人柄を考えるとこの処分に納得が出来ずに、自ら事件を追い始めた。
そして、八田の妻女おみのが嘗て女郎だったこと。離縁がそのことと無関係ではなかったこと。娘の登美が出先であばずれ達と喧嘩をして乱行を働いたことなど、新しい事実が次々と明かされるのである。
更に、八田は古着屋の利倉屋を内偵していて、弥市もその店に関係があるのだが、縮緬の偽反物の荷物が上方から届くことを突き止めていた。平七郎は八田から依頼されて、その荷を押さえると同時に利倉屋一味を捕縛したのだった。そして弥市殺しは利倉屋の用心棒だ、と僧・珍念が証言した。
平七郎は20代半ば、未だ独身の若さだが十分に男性として魅力を備えているらしい。人を引きつける容姿、その上色気さえ感じさせる男であると言っても過言ではない。
だから、彼の周りには、見習い同心の平塚秀太、瓦版「よみうりや」のおこうと辰吉、与力の一色弥一郎ら多才の人が集まるのだ。将に人の連係と協力で平七郎は事件を解決できたのだ。
物語は、真実が一つ明かされるとまた次の真実が出るという意外性に富み、また他人を慮るあまりつい庇う情け深さもあり、読み応えのある楽しい物語である。
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奉行所内に「橋廻掛」がある
北町奉行所定橋掛同心、立花平七郎は日々江戸市中の川に架かる橋を検査し、傷んでいるところがないかを確認するのが役目である。元々は定町廻同心だったが、何か不手際なことをして、降格されて奉行所内では一番格下の橋廻を務めている。この小説は、平七郎が橋を巡りながら江戸の街を歩く間に起こる事件などの物語である。
「恋椿」の巻には四編の物語が収められているが、三編目の「闇の風」が味わい深く良い物語だ。
今日、検査が終わったばかりの紀伊野国橋を淫靡な雰囲気を醸して橋を渡る女を見かけた。平七郎が三年前の定町廻りの頃に捕えて島送りにした男、仙吉の女房・おまつだと気づいた。
仙吉は腕のいい鬼瓦職人だった。そして女房のおまつと仲睦まじく平穏に暮らしていた。ある時、仙吉は親方から、女房について卑猥な言葉を言われ、喧嘩になり相手の腕に深手を負わせてしまった。奉行所に捕まり、島送りの刑を言い渡された。おまつは、普段はおとなしい仙吉がいとおしく、島送り船が出る時は見送りにも来るほどで、非常に悲しんだ。そんなおまつに更に不幸が重なり続ける。
仙吉が傷つけた親方から体を求められて、申し訳ない気持ちもあり許してしまったり、島送り船の船頭に騙されて、仙吉の御赦免のためには米や役人にお金を送るようにと言われ、花街の料亭に勤めて金を稼ぐのである。そして、その通いの時ちょうど平七郎の目に付いたのである。平七郎の活躍が始まる。
おまつは元々貞淑な女房である。普段の生活も質素でしっかりしていて、稼いだ金は貯まれば船頭に渡して仙吉の御赦免を願い続けていた。そして、島流しから三年経ち、三月前に仙吉は赦免されて江戸に戻ってきた。しかし船頭がおまつの金を目当てに仙吉は殺されてしまうのである。
平七郎により犯罪の全てが証されて、おまつは同じ幼馴染みの幸吉と一緒になり幸せで平穏な暮らしに戻った。
人情の機微に触れる良い物語ある。 -
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孫を想う伝次郎
南町奉行所永尋掛り同心、二ツ森伝次郎は70歳に近い。
今回の捕り物は、口入れ屋久兵衛が起こす二つの殺しを追う物語である。
寮番として働く作兵衛。実の名前は懸巣の尚兵衛と言い、大坂や江戸で殺しを請け負って来た殺し屋である。しかし、67歳になった今は高齢で体が思うように動かなくなっていた。
これらの悪党たちが、江戸で暮らすには塒をいくつも代え、そして名前もいくつも使い分けて暮らさざる得ない。久兵衛は口入れ屋「鳶」と呼ばれる。
鳶が尚兵衛に最後の仕事として蝋燭問屋「石見屋」の大内儀の殺しを斡旋した。そして十日以内に殺すようにと命じた。
一ノ瀬真夏が八丁堀近くで、偶然に鳶の手下、蓑吉を見掛けた。この時から、犯罪の匂いを感じて伝次郎たちが探索し始めるのだった。
他方、鳶は手下の宗吉を大垣に遣り、二刀流の遣い手青墓の忌左次と目潰し投げ名人の霞の得兵衛を江戸に呼んだ。そして、嘗て関谷上総守の事件で鳶の殺し請負人三名が、処刑されたことに対する復讐として、伝次郎と花島太郎兵衛の殺しを依頼するのである。
犯行は二件の殺しとも同じ日の1月28日である。
事件までの期間は伝次郎たちにとっては、探索期間で色々と内偵しつつ、推理して犯人の割り出しやら犯行現場や時刻など想像する期間である。伝次郎は、孫の正次郎に同心としての、そして家督を継ぐ者として心得を様々に忠告しつつ、身を以て示し教えるのだった。
結局、二件の事件は防がれて未然に終えた。大阪へ逃亡を謀った口入れ屋、久兵衛と手下の宗吉は、孫の正次郎の機転で東海道筋、江戸の出口で捕らえられたのである。
この物語が作者の最後の作品となった。病を患い、病床で書いていたという。私は時代物が好きでこの本に巡り逢えた。しかし、このような終わり方は2度と無いというのが感想だ。誠に残念なことだが、心よりご冥福をお祈りいたします。 -
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歳を感じさせない捕り劇劇
南町奉行所の永尋掛り同心、二ツ森伝次郎。相変わらず捕り物にかけては年の功を感じさせ、事件の解決に邁進する腕の良い同心である。今回も悪人を取っ捕まえまくる。
過去に事件を起こした悪人たちの多さ。盗賊、火付け、殺し、誘拐等などの凶悪事件があった。
悪者が多すぎるとこぼす伝次郎。事件の直後に解決していれば、次の事件にも繋がらずに済んでいたと思う伝次郎である。
第四話、「鼻水太郎兵衛」は盗賊、斑蜘蛛の一味を捕らえる大捕物物語である。伝次郎と同じ同心の一ノ瀬八十郎は剣の遣い手である。その親友である同じ剣客の枝村収蔵が盗賊の用心棒になっていた。八十郎は枝村と対決して倒した。枝村がどこで悪の道に入ったのかと思わざるを得ないが、些細は判らない。捕り物前夜には八十郎は枝村と一緒に夜通し飲み明かした仲なのに、結末は意外であった。
それにしても伝次郎の仕事ぶりは鋭いが、何処かとんがりが消えて余裕すら出た姿を感じる。お宮入りの事件を扱うということは、事件当時は解決できなかったことであり、新しい事実が出てきた今それを解決しなければという思いが強い余り、その解決にのめり込むのであるが、しかし、今回は捕り物の話しばかりではなく、夕餉の支度やら買い物の時の様子や茶店でのおしゃべりなどが出てきて、読んでいて心を和ませる。そうならば、伝次郎の愚痴る様も理解できるが、汚いやり口も相変わらずでそれが彼の人柄なのだろう。
盗賊、斑蜘蛛を一網打尽にして事件解決となる。
捕り物の最中は伝次郎はピリピリしている。しかし、ほかの手下は勝手放題である。夕餉のけんちん汁を仕込む時の様子などが物語に出てくるが、江戸の生活も感じられて読む者の心を和ませる物語になっている。 -
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犯人の捕獲に血眼になる伝次郎
永尋同心、通称戻り船同心二ツ森伝次郎。朝八時の出仕である。奉行所内の掛りの部屋でいつものように朝の茶をすすっていると、平右衛門町の空き地で顔を潰された死体が見つかった知らせを聞いた。伝次郎は市中を見廻るのも重要なお役目である故、死体が見つかった現場方面に見廻りに出た。
その現場に向かう途中、古物や盗品を商いにする倉吉を見つけて問ただした。そして、茅町にある倉吉の家を訪ねると骨董品など細々と置かれている中に、名人早野三郎助が彫った根付を見つけた。
十二年前、富沢町の薬種問屋「讃岐屋」に盗賊が入り、主夫婦、倅夫婦と住み込みの者六名が殺害されて一千両が盗まれた事件があったのだが、その時一緒に盗まれた根付であった。
伝次郎はその根付の出処を探るのである。そして今回の殺人事件との繋がりが出てきた。殺しの被害者は渡り大工の繁次郎で、その大工が仕事先から盗み取った根付だと判明する。当時の大工の棟梁から繁次郎の仕事先を聞き出すと、太物問屋の伊勢屋、足袋股引問屋の相模屋そして扇問屋の池田屋が浮かんだ。池田屋はお店を構えて十五年目で新しい。主は善兵衛。伝次郎は、倅の新治郎と一緒になり、この池田屋に絞り事件の探索に入った。
そして、十二年前の讃岐屋事件と六年前の小川屋事件の関係盗品、キセルと掛け軸などが池田屋の橋場町の寮から見つかり扇問屋「池田屋」を騙った盗賊一味七名、お店を装い盗賊たちの隠れ家や逃亡を手助けした柳原岩井町菱田鴻鵠他三名、池田屋の寮から関と作蔵の二人、新に見つかった塒から三名の総勢十五名の盗賊を捕らえる大捕物だった。
この物語、読み進めると読む意欲が削がれる部分がある。たとえば、倉吉への聞き込みは少し職権の乱用気味だ。また、池田屋をホシとする決め手も、推理が少し乱暴な気がしたし、更に、殺し事件の担当は、本来新治郎たちなど定回り同心の仕事であるはずで、永尋の伝次郎の出しゃばりや先走った行動がどうしても鼻についたのだが・・・ -
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伝次郎親子の連係で事件を解決
元御用聞きの多助は77歳の隠居の暮らしだが、嘗て捕り物の取り調べで無実の人を誤って島送りしたことを非常に悔いていた。流人船が出る船番所辺りに来ては腰を下ろして、海を眺めて罪滅ぼしの日々を過ごしていた。そんな折、家路に着く途中、子どもの拐かしを目撃し、犯人を追いかけたものの、年寄りの体には尾行すら辛い。そこにちょうど通り掛かったのが永尋掛りの二ツ森伝次郎たちである。
犯人の夫婦連れは逃がしてしまったが、子どもは取り戻してなんとか命を救った。
奉行所に連絡を入れて、担当を伝次郎の息子の新治郎に引き継いだ。
その翌日、伝次郎はいつものように町廻りを東海道大門方面へと始めるのだが、金杉橋近くの手習所から子ども達が出てくるのが目に付いた。昨日の事もあり、その手習所に聞き込みに入った。真面目な師匠と面会したのだが・・・
伝次郎の勘の働きが鋭く、その師匠は25年前、85両の金を盗んだ昔たばこ屋の佐太郎というお尋ね者だった。
手習所の家の持ち主、畳表問屋「名張屋」から聞き取りをする中、名張屋の倅も、21年前この辺りの大火で行方知らずになったことが判明する。そしてこのような事件は、28年前に3人、49年前に3人が被害に遇っていた。いずれも行方知れずのままである。もっともそれだけでは済まない。数年間隔で拐かしが起きている可能性が浮かんできた。奉行所と番所の連絡不足が原因で、犯罪として報告されない事件が多くあるらしい。そして伝次郎の相棒、鍋寅の息子吉三がその探索に当たっていた。吉三は病になり道半ばで倒れたのだが。
大火事が多い江戸。それが逆に盲点となり、拐かし事件に利用されている。更に、その裏には大がかりな組織が動いていることが浮かんだ。今こそ事件の解明に南町奉行所の力量が問われているのであった。 -
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布目屋お近の執念が実る
隠居をしていた二ツ森伝次郎は、以前仕えていた南町奉行所内に永尋掛りが新設された機会に、同心として再出仕していた。そしてすでにいくつかの手柄を挙げていた。伝次郎の長年の相棒、鍋寅やその孫娘・隼、そして手下の半六を従えて、日毎、江戸の町廻りをしていた。
伝次郎は捕り物が大好きなのだろう。伝次郎は町廻りで犯罪や事件に関係する事柄にすぐに目が行く。長年の経験の賜物であろう。
ある日、いつものように江戸の町廻りをしていて、橋のたもとで道を行き交う人の顔を食い入るように見つめている乞食とおぼしき老婆一人が座っているのを見つけた。
18年前、畳表問屋「布目屋」に盗賊・鬼火一味が押し入り、店の者たち11人全員を殺した上に、有り金一千三百両を盗んで、まんまと逃げ果たしたという1件があった。その時の御内儀が一命を取り留め、奉公人の伝で府中で暮らしてきた。年老いて江戸を見ておきたいと願い、江戸に出た際に、両国広小路であの時の盗賊一人を見かけた。それ以来、その老婆が薬研堀の宇兵衛長屋に居を移して、日毎乞食姿で往来に座り続けて犯人を捜しているのである。この御内儀の名は「近」という。
伝次郎たちは、この御内儀を見守る必要があり、又同時に力になりたいと考えるのである。同じ長屋の空き店を借りて近の見張りを続けるのであった。
糸が不忍池の側の墓所で襲われたことで、この手がかりを伝次郎は逃さない。鬼火一味の中に侍らしい賊がいると判断し、しかも今も江戸で姿を変えて、お店の主に納まっているいるのではないかと推測した。
やがて、大店、但馬屋の主・利右衛門が犯人として浮かんできた。伝次郎はほどなく利右衛門を捕縛するのである。
伝次郎68歳。歳からして奉行所内でも何処でもかまわず、上下の隔てなく誰とも気軽に話しをする。江戸っ子丸出しの会話が気持ちいい。そして老練な推測と勘や足を使った精力的な仕事ぶりが、事件を快く解決に導いている。 -
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江戸の治安を守る元気な元同心
元南町奉行所定回り同心二ツ森伝次郎は、家督を息子新治郎に譲り、隠居暮らし10年、気ままに過ごしていた。
25年前江戸を軽追放されたはずの弁天の常七の姿を目にした。伝次郎は事件の起こる予感がした。探索には人がいる。同じ元同心の染葉忠右衛門を誘った。第一話の「一番てがら」の始まりである。
このところ江戸では他国より流れ来て、住み着く者が多く、犯罪数も増えていた。奉行所では人手が足りなくなり、元同心などを集めて再出仕組という部署を立ち上げて、永尋ねになっている事件の探索に当たらせる永尋ね掛りを作ることにした。永尋ね掛りとは未解決事件で俗にお蔵入りの事件を再調査する役目である。
この臨時の部署に二ツ森伝次郎が選ばれた。
盗賊、夜烏の伊兵衛一味が狙うは元大坂町の白粉問屋「紅屋」であった。伝次郎は、嘗て岡っ引きをしていた寅吉、通称鍋寅を仲間として誘った。そこに鍋寅の手下の卯之介や孫娘隼が加わった。もちろん、息子の新治郎など二ツ森家の家族も伝次郎の周りに集まるのだが・・・
集まった者たちは、侍を除けば学問などに疎く、文字すら満足に読めないのだろうが、事が一旦捕り物となれば、上の者の指示命令を良く理解した。そして仲間で息を合わせて、一糸乱れぬ行動を取り、その役目を果たす高い能力の持ち主であった。
「五平」という居酒屋を住処とする盗賊一味。東海道を来て、日を追って続々と集まりっていた。その数15名に増えていた。盗み決行の日、一味が五平を発った。見張りを続けていた伝次郎たちはその後を追い、その道の途中で、盗賊一味を見事に捕らえたのである。
第二話の「いやな奴」、第三話の「何も聞かねえ」にも伝次郎の精力的な仕事ぶりと仲間の与えられた役目を果たす高い能力などが窺われ、読み応えがあると同時にある意味当時を伺える作品と感じた。 -
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成長ぶり著しい鷹之助
新宮鷹之助は、日光奉行所の武芸を見聞して来るよう命じられて、日光の旅へ出るのであった。新宮家の若党、原口鉄太郎と中間の平助が鷹之助の供をすることになった。
日光からの帰府の途中、今市宿で鷹之助達三人は猪鍋を食したのだが、好奇心の強い鷹之助が猪を捕る猟師の技術を見てみたいと言い出した。宿で訊ねると、この辺りの山間にある長田村に土橋忠三郎という鉄砲の名人がいると、教えて貰った。
忠三郎は、嘗て幕府の鉄砲方で鉄砲磨き方同心と仕えていたのであったが、鉄砲撃ちの衝動を抑えきれず、妻子を捨てて長田村の猟師万造に弟子入りをしたのだった。そして、万造亡き後長田村に残り、日ごろ山を歩いて猟を続けていた。猪や熊を一発で仕留める確かな腕前を持っていた。
長田村ではちょっとした騒動が起こっていた。根太七という百姓が熊に襲われて死んだ事件だ。事の発端は、村の管理下にあった入会地の一部は、根太七が所有者であると言い出したことにあった。外所者が入らずしかも迷信のようなものを信じる村故に、根太七の死亡が山神の祟りだとか呪いだとかで片付けられた。しかし、鷹之助はそれを撥ね除けて死因を探るのである。しばらくして鉄太郎と平助、土橋忠三郎と共に、根太七の縁者の喜助を犯人として捕まえて、見事に事件を解決するのである。
この物語を読んでいると、時に私は時代感覚の錯乱を覚えたのだが・・・
しかも鷹之助の目覚ましい成長ぶりには目を瞠るものがある。非常に頼もしいし、頼りがいのある頭取に変わっている。鷹之助は江戸の頃の成熟した自信みなぎる人物なのだろう。
私もまたいつの間にか時空を超えて、将に今こそ自信を持って生きていけと言われるような気がしてならない。元気を貰える物語である。