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  • 大目付光三郎 殿様召捕り候 騒動

    御庭番の行方は?

    将軍家治は、前田加賀藩に不審な動きがあり、御庭番(隠密)3人を送り加賀藩の内偵に当たらせたが、いずれの者も行方不明になった。大目付朽木光三郎はこれら3名を見つけ出すように家治から命じられた。
    3人の御庭番は岸田半左衛門と山中寛次郎、馬原三蔵という者である。
    その内一人、岸田は本所の川で体中傷やあざだらけの土左衛門で発見された。死体から大量の浮き草が出てきたことで、光三郎は奉行所と共に犯行現場を特定しようとした。そして加賀藩の支藩で上野七日市藩江戸下屋敷が怪しいと考えた。
    光三郎と相棒の東雲又一郎は、その屋敷に夜回り中間として忍び込み、蔵に監禁された山中寛次郎を発見し救出したが、屋敷から出て間も...続きを読む

    #怖い #ドキドキハラハラ

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  • 大目付光三郎 殿様召捕り候 謀反

    西国大名の数々の悪事

    長崎近在を領地にする大名たちが、江戸で起こした悪事の数々を描いた物語である。
    南蛮人のことを鬼と勘違いした武家娘が、大川から助けられた。武家娘を掠い、南蛮人に売り飛ばすという第一話の「人身御供」事件を起こしたのは、矢場藩の江戸留守居が首領の事件だ。
    大目付、朽木光三郎は、仲間のお幹とお蘭、芸者市松と近松を囮に仕立てて悪者の根城に乗り込み、犯人一味を捕らえた。しかし、主犯格の矢場藩、江戸留守居役服部は、その時服毒自殺を図り、犯行の動機は不明のままとなった。
    その後しばらくして、両国で阿蘭陀芝居の一座が興行を始めた。この芝居を演じる役者は、混血の若者5人でその顔立ちや姿の美しさで、江戸娘を虜にした...続きを読む

    #ドロドロ #ドキドキハラハラ

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  • 大目付光三郎 殿様召捕り候 刺客

    出世競争

    この物語の4件の事件は、京都から来た謎多き公家、穂波将監とその手下が実行したものである。穂波将監の姿形、すなわち何者なのかがなかなか浮かび上がらない。
    江戸の寺を舞台に、忽然と消える8人の江戸小町の拐かし事件や、化猫で市中を恐怖に陥れ、不正な賭博が開催される事件など、穂波将監が企んだ悪事であった。
    そして馴染みの大目付朽木光三郎は、穂波と連んで城中の奉行や老中たちの犯罪を暴いて成敗する。
    江戸の街の安全と平穏を願う光三郎は、第三話で幼馴染みの東雲又一郎と一緒に穂波の探索を続ける中、忍びの一団に弓矢で襲われて足に深手を負った。大目付、長尾清之進が代わって穂波の行方を追及していたが、長尾自らの援護...続きを読む

    #ドキドキハラハラ #笑える

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  • 大目付光三郎 殿様召捕り候 暗殺

    江戸の街に連続凶悪事件が発生

    第一話は「火附盗賊」事件の話しである。
    江戸の3つの大店に火附盗賊の一味が侵入し、お店者全員を皆殺しにして逃走するという事件が発生した。その際に、速水藩小坂和泉守が頭となる大名火消しがいち早く出動したが、この対応に大目付、朽木光三郎が不信を抱いた。
    光三郎の探索は、幕府内の役職が依然として縦社会で役職の縄張りから生じる厚い壁に邪魔されるのだが、光三郎の下役、幼馴染み東雲又一郎が和泉守の屋敷に中間になりすまして入り込み、光三郎のために真実を掴んだ。
    結局、この事件はすべて和泉守の自作自演で起きたものだと、光三郎が事件の動機と共に鮮やかに解明したのである。
    第二話は「贋金」事件の話しである。
    禹湯...続きを読む

    #ドキドキハラハラ

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  • 大目付光三郎 殿様召捕り候

    大目付、光三郎の鮮やかな活躍

    徒目付の朽木隼人正、通称光三郎は、中山丹後守から推薦されて大目付に抜擢された。大目付は、大名諸侯や高家などの監視に当たるお役目である。
    光三郎がお城に上がったその日、奏者番の控えの間で新米の奏者番を苛める他の古参大名を目撃し、それを咎める事から物語は始まる。
    第一話は、重い病に罹り藩主が参勤交代で江戸に着任できず、代わりを勤める奥方が国元の殿様の病を気遣い、国に帰りたいと想いを巡らせる。家老が奥方によく似た女を身代わりに据えて、奥方が留守する一時を凌ごうと画策した。しかし「出女」は御法度である。
    光三郎は、こうした不正の匂いがするネタを禹湯という湯屋の2階、お休み処で町人たちの会話を通して知る...続きを読む

    #アツい

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  • はぐれ烏 日暮し同心始末帖

    純粋な気持ちの日暮龍平

    北町奉行所の平同心、日暮龍平は三十歳で、身重の妻と子供一人と八丁堀に住んでいた。
    龍平は、元は旗本沢木家の三男の部屋住みだったが、日暮家の娘、麻奈に見初められ、奉行所与力の日暮家に婿養子に入った。作者が描く徳川時代小説は、江戸時代後期、1800年前後の時代背景が多い。その頃は太平の世が永く続き、武士階級が壊れていく頃であり、代わりに商人や町人の活動が盛んな時代であったようだ。旗本でも、この時には落ちぶれ果て貧乏に苦しみ、生計もままならない状態の武士が増えたのである。
    龍平は奉行所では平同心なので、自身の仕事をしている間にも他の同心たちから色々と雑用を頼まれる。しかし龍平が若い時に武道で鍛えた体...続きを読む

    #ほのぼの #タメになる

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  • 夜叉萬同心 風雪挽歌

    凶悪事件を起こした若侍

    北町奉行所勤めの萬七蔵が、定町廻り同心になったばかりの頃に起きた事件の話しである。
    深川近くの洲崎の土手道で男の首切り死体が見つかった。死体は深川界隈の賭場を取り仕切る貸元岩之介で、懐を狙った辻斬り強盗だった。
    七蔵がこの事件を担当したのだが、被害者の関係者の聞き込みに時間を取られて、一向に下手人を捕まえられなかった。その後しばらくして、和菓子屋の番頭羽左衛門が首を斬り落とされて懐の紙入れが盗まれる、という同様の事件が起きた。
    七蔵の探索では同じ人物、田島享之介がしばしば浮かんだ。享之介は北町奉行所年番方与力、殿山竜太郎の奉公人だった。享之介は、表向きは礼儀正しい物静かな若い侍である。同じ侍の...続きを読む

    #怖い

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  • 夜叉萬同心 本所の女

    小太刀遣いの女剣士

    大川のお厩の渡しは浅草と本所を結ぶ船渡しである。
    本所側の河岸通りを少々北に行った大川端に、萱葺屋根の出茶屋が、《お休み処 やき餅くさ餅》の幟を出している。その店の女将は、おはやと言い、嘗て松江藩、松平家の勘定方下役を務めた田部権之助の娘であった。父が勤め先で不正の疑いを掛けられて訴えられ、家は改易にあった。この娘は父譲りの小太刀の遣い手、武士にも劣らぬ強い女剣士だ。父の務めの上役組頭の二人を斬って殺し、仇討ちを果たした。娘は郷里を離れて、父の友が住む江戸へと向かったが、路銀も少なく、旅籠の下働きなど雑用をしながらようやく食いつなぎ、2年の放浪を経て何とか江戸にたどり着いた。しかしすでに父の友...続きを読む

    #怖い #ドキドキハラハラ

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  • 夜叉萬同心 親子坂

    親の敵討ちをする三姉妹

    六百石の旗本、疋田家に仕えていた河野佐治兵衛は、10年前、疋田豪軒の息子、籐軒の供をして柳橋の書画会に出掛けた折、船宿の澤田屋で籐軒が若衆を斬り殺す事件を起こした。
    佐治兵衛は、籐軒の身代わりとして奉行所に出頭して八丈遠島の刑を受けた。
    そして御赦免により、10年経った今、江戸に戻ってきた。戻ってみると妻は労咳で病死していて、三人の娘で長女の椿は吉原の花魁に身を落としていた。
    佐治兵衛と疋田家との約束では、刑を受けた後も、河野の禄高は保障され、不自由無い生活が送れたはずだったが、実際は刑の宣告を受けた直後に破られていたのであった。佐治兵衛はこの違いに抗議するために、籐軒こと現在は大垣藩江戸上屋...続きを読む

    #カッコいい #感動する

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  • 夜叉萬同心 もどり途(みち)

    命は大切、無駄な命はない

    「もどり途」という変わった名の物語は、2件の殺人事件から始まる。
    1つは、浅草界隈を縄張りする貸元、谷次郎が殺された。そしてすぐ次に、2件目の殺しが発生。被害者は小網町、塩問屋「隅之江」の隠居の下女お豊である。
    谷次郎の殺しは縄張り争いで、あやめの権八を頭とした破落戸一味が、谷次郎の縄張りを狙い横取りして、弟の谷三郎まで殺害するという、無法者同士が争う中で起きた殺人事件だ。
    北町奉行所の隠密同心、萬七蔵は、お奉行小田切土佐守の命を受けて、あやめの権八の素性を探る為、手下の樫太郎と共に調べに入るのであった。
    しかし、無法者は所詮味方すら殺害する極悪人である。権八は一味の1人、伊野吉に手下2人と共...続きを読む

    #感動する #深い

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  • 荒地の家族

    「荒地の家族」を読んで

    東日本大震災を題材にした小説で、10年以上も経ったというのに未だ被災者の心が癒えない現実を重々しく物語る。
    主人公、祐治は造園業を営み生計を立てている。造園会社から独立した直後に震災に遭い、造園道具全てを津波に浚われた経験をした。高校を卒業して入った会社が造園業の会社だった。本人の希望とする職業では無いようだが、辛抱強く仕事に励んで造園の仕事を覚えた。その甲斐あって、独立を果たしたが、震災に全てを壊されて、将に裸一貫の出発になった。造園とは関係の無い様々な仕事をして、妻と息子を養うのである。しかし、妻は近所の老人の生活の手助けしていたが、無理がたたり病気で亡くなった。
    祐治は、しばらくして...続きを読む

    #切ない #泣ける

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  • 山桜花 大岡裁き再吟味

    「十一」が越前守から禄をもらう

    大岡越前は本能寺の住持、日彦が死の間際に言い残した悔恨の言葉を聞いて、17年前に起きた寺小姓、直助殺しの事件の再調査を古風十一に依頼する。
    御鷹匠番餌差、古風十一は若く溌剌とし、加えて頭の良い好青年である。十一は越前守に見込まれて、わずかだが禄を貰って仕えている。
    もっとも、事件は17年も経って人の記憶も薄れていて、十一ははっきりと事件の真相は掴めなかったが、ただ事件に関与したであろう人物の名前だけは掴めた。
    真相は鉄砲組百人組与力で、今は隠居の身の上、一色伴四郎から大岡に書状が届き判明した。伴四郎は事件の被害者直助の父でもある。
    本能寺の檀家に野添家があった。野添家主、真親は鉄砲百人...続きを読む

    #切ない

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  • 落暉に燃ゆる 大岡裁き再吟味

    名奉行大岡のお裁き、失敗

    大岡忠介が江戸南町奉行として活躍した時代は、江戸の物価は上がり庶民の生活が苦しい。さらには西国では大飢饉が起きた。影響は江戸にも及び、米の価格が上がり暮らしで食べ物に困る程であった。
    大岡は施策として金銀お吹替(改鋳)を推進して、物価の安定を図ることにした。施策に反対する両替商や大商人は幕閣の反対勢力の応援を得て妨害…その後、大岡は町奉行を退き、寺社奉行の務めを頂き今に到っている。
    当時よりつまり五年前、江戸の庶民が群衆となり高間伝兵衛米問屋を襲い、毀す「高間騒動」が起きた。手代八右衛門が殺されて見つかった。犯人として与佐が捕まった。
    与佐は、犯人では無いとお白州でまっすぐな申し開きをし...続きを読む

    #タメになる #深い #感動する

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  • 金四郎の妻ですが3

    金四郎の得意な潜入捜査 始まる

    おけいは、父、堀田一定に強制的に金四郎のもとに送られ、金四郎の側で暮らしている。おけいは押しかけ女房なのだ。
    その一定が今度は、相手がその気でないのなら家に戻るようにと言い渡した。おけいは、身勝手な父に振り回されていると不満を感じる。おけいは金四郎のことが好きなんだ。今後一月の期限でどちらかに決めろと言われても、おけいには家に戻る気は無い。
    祝言も挙げない男と女が、仲は好いが、長屋暮らしを一緒に送ること自体とても不自然である。
    金四郎の実家におけいが訪れた時、金四郎は夫婦として固めの杯を交わすよう言われも、当てにならず及び腰だ。全くだらしない。優柔不断で決断力のない男である。
    「遠山の...続きを読む

    #カッコいい

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  • 金四郎の妻ですが2

    金さんの妻は「おけい」

    江戸下町、諏訪町で金四郎とおけいが長屋で暮らしていた。おけいは、佐倉藩堀田一定の娘であるからお姫様の身分だ。父の命令で金四郎のもとにやってきた押しかけ女房、それも見習いという。おけいは、長屋の住民たちとも付き合いは良く、住民たちから沢山の手助けを受けて江戸の暮らしに困ることはなかった。
    亭主の金四郎は、長崎奉行の息子であるから武士である。しかし、金四郎は今は無職で稼ぎがない。だから市中を巡り歩いて、好く賭場に出入りしている遊び人である。生活はおけいが勤める舟八の料理屋の奉公で凌いでいる。おけいは、金四郎がいずれ岡っ引きや奉行所同心になることを望んでいる。
    金四郎が或る賭場で稼いでいた時、王...続きを読む

    #笑える #ほのぼの

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  • 潜入 味見方同心(二) 陰膳だらけの宴

    沢山の事件と難問を抱える魚之進

    ボッとして惚けて頼りない態度はしているが頭の良い味見方、月浦魚之進はいよいよ江戸城に登城する日が来た。将にその日、御膳奉行松田欽四郎が朝餉の味噌汁に仕込まれた毒により亡くなる事件が発生した。魚之進は将軍毒殺の計画が身近に迫るのを感じる。
    再度、市中見廻りに戻った魚之進は、高価な根付けや器などを握り飯の中に隠し、天麩羅にして盗む事件で、利介という大阪から来た金持ちの料理人を捕まえた。魚之進は、友人の本田伝八の祖父が書いた疑惑帖が役に立ち、利八が盗人であると確信したためである。
    第二話「スッポンポン」は、スッポン鍋を食べるには裸にならないといけない料理屋の名である。店の主が客を裸にさせてふんど...続きを読む

    #笑える

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  • 潜入 味見方同心(一) 恋のぬるぬる膳

    魚之進の独特な仕事ぶり

    月浦魚之進は南町奉行所の町廻り同心だが、今は味見方として江戸市中の食い物の動向を探る役目に就いている。本来、南蛮渡来の香料や砂糖などの抜け荷の取り締まりが主なお役目であった。この際に魚之進の兄の波之進が犠牲になってしまった。抜け荷の実態がほぼ明らかになり、味見方の役目を潰すという話しもあったが、江戸の町人たちの暮らしを把握するのに必要な役目だというので、南町奉行所筒井和泉守の計らいで存続された。
    今回の物語は、ぬるぬる御膳とひげ抜きどじょう、婆子丼、歯形豆腐という聞き慣れない食べ物が出ている。
    信憑性はわからないが、話しは非常に面白い。兄の波之進に比べればその容姿や仕事の取り仕切り方は格段...続きを読む

    #笑える #切ない

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  • 残り鷺 橋廻り同心・平七郎控

    出世間違いなし、平七郎の働き

    十五間川で久松という男の死体が上がった。奉行所定町廻りでは自殺として処理したのだが、一緒に暮らす女将が久松の死因に疑問を持っていたので、再調査の依頼が橋廻り同心立花平七郎に届いた。
    平七郎が調べると、殺しが疑われた。更に、7月20日に起きた深川、油問屋浪速屋の押し込み強盗と放火事件に絡む重大な犯罪が浮かんだ。
    火付け盗賊の頭領は、深川永代寺の側で骨董品を商う店の主、弥左衛門であった。そして一味の仲間5人が容疑者として浮かんだ。この盗賊一味は、6年前に盗みと放火で江戸市中を震撼させた仁左衛門事件と全く同じやり方であった。北町奉行は総力を挙げて捕り物活動を行う。そして一味全員を取り押さえたので...続きを読む

    #感動する #ほのぼの

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  • 麦湯の女 橋廻り同心・平七郎控

    友情に応えて事件を解決

    第1話「彩雲」は、立花平七郎が青春時代に剣術修行に励んだ頃の友人に係わる事件である。
    上村左馬助と瀬尾鹿之助がその友人だが、それぞれが成人になり、鹿之助は下野国に帰り、黒金藩で藩主のお側で仕えていた。
    この鹿之助に幾つもの不幸が降りかかるのである。御前試合で藩主の遠縁の富山伊一郎からいかさま試合を強要されるが、それを断り、勝利したことから不幸が始まる。その時以降、鹿之助は伊一郎から手酷く苛められる。結局、藩士の資格を取り上げられてしまい、浪人となって江戸で甲州屋の用心棒で生計を立てている。甲州屋が屋根船で武家のお客を接待したある時、宴席で諍いが起き、主が殺される。
    その犯人として鹿之助が...続きを読む

    #切ない #深い

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  • 風よ哭け 橋廻り同心・平七郎控

    気構えも足りない大人の人生

    第1話の「紙人形」は、困難に際しその対応を少しばかり間違えたことで、人生が大きく変ってしまった町人の物語である。
    50両もの借金を抱えた小間物屋の吉兵衛は、その返済に窮してしまい、以前奉公していた小間物屋の「えびすや」を頼って金を借りるべく訪ねた。しかし、主からは相手にもされずに冷たく追い返される。
    借金の返済にこだわり過ぎ、あるいは自分の商売の存続を考えるあまり、えびすやに頼るだけが返済の道であると短絡的に考え、他に考えを巡らすことが無かったこと、それが彼の落ち度であった。1軒の店を持つ大の所帯主であるにも拘わらず、いま少し考えを巡らせれば他の方法もあったのだろうに・・・
    それにしても...続きを読む

    #切ない

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  • 梅灯り 橋廻り同心・平七郎控

    江戸の町人世界を知る

    天下太平の世が長く続く江戸。特権階級の武士はたいした役目や仕事もなく無為に日々を過ごすだけだ。
    反面、町人の世界は盛んになり繁栄するのだが、特に大店と呼ばれる町人の中に取り入る武士が現れる。そこには、金が全てという価値観の変化が見られる。
    第二話は、奉行所の内輪の話である。南町奉行所で威勢を謳歌する楠田宗之進が、市中のお店から金を強請り取るという、悪事の物語である。お店の落ち度や弱みを見つけては取り入り、刑罰の免除をちらつかせ、金を強請るのである。
    南町の岡っ引の伊勢蔵は、父伊助を殺害されたのだが、その犯人は楠田だという証拠を見つけるために、楠田の関係するお店を根気強く廻り調べる。そして...続きを読む

    #感動する

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  • 雪舞い―橋廻り同心・平七郎控

    幕府が巧みに江戸市中を守る

    橋廻り同心、立花平七郎は江戸に沢山掛かる橋の検査の役目に就いている。これは奉行所の一つの役目なのだ。木槌で叩いて橋梁や橋板などの腐食、傷みを見つける。単純だが根気の要る仕事だ。もし落ち度があれば、橋の倒壊や流失などの重大な事故に繋がる。だから、たまに平七郎は仕事後には橋の袂の茶屋や居酒屋で相棒の秀太とその日の疲れを癒やすのだった。
    江戸は広く大勢の人が橋と係わりがあるようだ。橋のある風景は、時に人を故郷で見た景色を思い出させて懐かしい気持ちにする。また、橋の袂に風雪に耐えてたたずむ老木を眺めては、自身の励みにすることもある。
    第三話では、東堀留川に掛かる思案橋。近くに魚市場があり新鮮な魚が...続きを読む

    #ほのぼの #笑える

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  • 蚊遣り火―橋廻り同心・平七郎控

    大阪出の店者の人情ある幸せとは

    第2話「秋茜」は、蝋燭問屋播磨屋の主の自殺に係る投げ文が奉行所にあり、榊原奉行から依頼された平七郎が探索を始めるのである。
    橋廻り同心、立花平七郎は旗本で火付盗賊改方の市岡勘解由の不正を調べることになった。
    市岡は、その屋敷で賭博を開いては市井の人々を餌にしていた。なかでも市岡家と取引のある商人を賭博に誘っては大金を巻き上げ、やがて借金地獄に陥れ、自殺させたり、お店の沽券を奪うという極めて悪くどい事実が判明する。
    平七郎は読売屋のおこうと辰吉などの仲間の助けを借りて証拠をつかみ、榊原奉行を通じて市岡を大目付に訴え成敗する。
    他方、平七郎の下役の秀太が小名木川に架かる万年橋の袂で川に浮か...続きを読む

    #笑える #ほのぼの #切ない

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  • 火の華―橋廻り同心・平七郎控

    平七郎、暗いお江戸を花に変える

    橋廻り同心とは江戸府内の橋梁120余りを管理するのがお役目であるが、毎日が木槌で叩いて点検して回るだけの単純なお役目である。奉行所内でもこのお役目は閑職と見なされている。しかし、仕事の合間には江戸市中の様子が窺えるし、時には事件にも遭遇するのだ。
    この役目を頂いた立花平七郎は、嘗て定町廻り同心を務めていた頃、通り名を「黒鷹」と呼ばれ、奉行所内はもちろん江戸市中でも親しまれていたが、榊原北町奉行から密命を受けて橋廻り同心のお役目に就いた。
    第1話の「菊枕」では、平七郎が臨時廻り、八田力三について調べるようにと奉行から命じられた。
    賭博やけんかで何度となく捕らえた弥市という破落戸を、八田が再...続きを読む

    #カッコいい #笑える #ドキドキハラハラ

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  • 恋椿―橋廻り同心・平七郎控

    奉行所内に「橋廻掛」がある

    北町奉行所定橋掛同心、立花平七郎は日々江戸市中の川に架かる橋を検査し、傷んでいるところがないかを確認するのが役目である。元々は定町廻同心だったが、何か不手際なことをして、降格されて奉行所内では一番格下の橋廻を務めている。この小説は、平七郎が橋を巡りながら江戸の街を歩く間に起こる事件などの物語である。
    「恋椿」の巻には四編の物語が収められているが、三編目の「闇の風」が味わい深く良い物語だ。
    今日、検査が終わったばかりの紀伊野国橋を淫靡な雰囲気を醸して橋を渡る女を見かけた。平七郎が三年前の定町廻りの頃に捕えて島送りにした男、仙吉の女房・おまつだと気づいた。
    仙吉は腕のいい鬼瓦職人だった。そし...続きを読む

    #感動する #ほのぼの

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  • 鳶 新・戻り舟同心

    孫を想う伝次郎

    南町奉行所永尋掛り同心、二ツ森伝次郎は70歳に近い。
    今回の捕り物は、口入れ屋久兵衛が起こす二つの殺しを追う物語である。
    寮番として働く作兵衛。実の名前は懸巣の尚兵衛と言い、大坂や江戸で殺しを請け負って来た殺し屋である。しかし、67歳になった今は高齢で体が思うように動かなくなっていた。
    これらの悪党たちが、江戸で暮らすには塒をいくつも代え、そして名前もいくつも使い分けて暮らさざる得ない。久兵衛は口入れ屋「鳶」と呼ばれる。
    鳶が尚兵衛に最後の仕事として蝋燭問屋「石見屋」の大内儀の殺しを斡旋した。そして十日以内に殺すようにと命じた。
    一ノ瀬真夏が八丁堀近くで、偶然に鳶の手下、蓑吉を見掛け...続きを読む

    #切ない

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  • 雪のこし屋橋 新・戻り舟同心

    歳を感じさせない捕り劇劇

    南町奉行所の永尋掛り同心、二ツ森伝次郎。相変わらず捕り物にかけては年の功を感じさせ、事件の解決に邁進する腕の良い同心である。今回も悪人を取っ捕まえまくる。
    過去に事件を起こした悪人たちの多さ。盗賊、火付け、殺し、誘拐等などの凶悪事件があった。
    悪者が多すぎるとこぼす伝次郎。事件の直後に解決していれば、次の事件にも繋がらずに済んでいたと思う伝次郎である。
    第四話、「鼻水太郎兵衛」は盗賊、斑蜘蛛の一味を捕らえる大捕物物語である。伝次郎と同じ同心の一ノ瀬八十郎は剣の遣い手である。その親友である同じ剣客の枝村収蔵が盗賊の用心棒になっていた。八十郎は枝村と対決して倒した。枝村がどこで悪の道に入った...続きを読む

    #笑える #ドキドキハラハラ

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  • 戻り舟同心 更待月

    犯人の捕獲に血眼になる伝次郎

    永尋同心、通称戻り船同心二ツ森伝次郎。朝八時の出仕である。奉行所内の掛りの部屋でいつものように朝の茶をすすっていると、平右衛門町の空き地で顔を潰された死体が見つかった知らせを聞いた。伝次郎は市中を見廻るのも重要なお役目である故、死体が見つかった現場方面に見廻りに出た。
    その現場に向かう途中、古物や盗品を商いにする倉吉を見つけて問ただした。そして、茅町にある倉吉の家を訪ねると骨董品など細々と置かれている中に、名人早野三郎助が彫った根付を見つけた。
    十二年前、富沢町の薬種問屋「讃岐屋」に盗賊が入り、主夫婦、倅夫婦と住み込みの者六名が殺害されて一千両が盗まれた事件があったのだが、その時一緒に盗ま...続きを読む

    #エモい

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  • 戻り舟同心 逢魔刻

    伝次郎親子の連係で事件を解決

    元御用聞きの多助は77歳の隠居の暮らしだが、嘗て捕り物の取り調べで無実の人を誤って島送りしたことを非常に悔いていた。流人船が出る船番所辺りに来ては腰を下ろして、海を眺めて罪滅ぼしの日々を過ごしていた。そんな折、家路に着く途中、子どもの拐かしを目撃し、犯人を追いかけたものの、年寄りの体には尾行すら辛い。そこにちょうど通り掛かったのが永尋掛りの二ツ森伝次郎たちである。
    犯人の夫婦連れは逃がしてしまったが、子どもは取り戻してなんとか命を救った。
    奉行所に連絡を入れて、担当を伝次郎の息子の新治郎に引き継いだ。
    その翌日、伝次郎はいつものように町廻りを東海道大門方面へと始めるのだが、金杉橋近くの手...続きを読む

    #感動する

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  • 戻り舟同心 夕凪

    布目屋お近の執念が実る

    隠居をしていた二ツ森伝次郎は、以前仕えていた南町奉行所内に永尋掛りが新設された機会に、同心として再出仕していた。そしてすでにいくつかの手柄を挙げていた。伝次郎の長年の相棒、鍋寅やその孫娘・隼、そして手下の半六を従えて、日毎、江戸の町廻りをしていた。
    伝次郎は捕り物が大好きなのだろう。伝次郎は町廻りで犯罪や事件に関係する事柄にすぐに目が行く。長年の経験の賜物であろう。
    ある日、いつものように江戸の町廻りをしていて、橋のたもとで道を行き交う人の顔を食い入るように見つめている乞食とおぼしき老婆一人が座っているのを見つけた。
    18年前、畳表問屋「布目屋」に盗賊・鬼火一味が押し入り、店の者たち11...続きを読む

    #感動する #ハッピー

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  • 戻り舟同心

    江戸の治安を守る元気な元同心

    元南町奉行所定回り同心二ツ森伝次郎は、家督を息子新治郎に譲り、隠居暮らし10年、気ままに過ごしていた。
    25年前江戸を軽追放されたはずの弁天の常七の姿を目にした。伝次郎は事件の起こる予感がした。探索には人がいる。同じ元同心の染葉忠右衛門を誘った。第一話の「一番てがら」の始まりである。
    このところ江戸では他国より流れ来て、住み着く者が多く、犯罪数も増えていた。奉行所では人手が足りなくなり、元同心などを集めて再出仕組という部署を立ち上げて、永尋ねになっている事件の探索に当たらせる永尋ね掛りを作ることにした。永尋ね掛りとは未解決事件で俗にお蔵入りの事件を再調査する役目である。
    この臨時の部署に...続きを読む

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  • 鉄の絆~若鷹武芸帖~

    成長ぶり著しい鷹之助


    新宮鷹之助は、日光奉行所の武芸を見聞して来るよう命じられて、日光の旅へ出るのであった。新宮家の若党、原口鉄太郎と中間の平助が鷹之助の供をすることになった。
    日光からの帰府の途中、今市宿で鷹之助達三人は猪鍋を食したのだが、好奇心の強い鷹之助が猪を捕る猟師の技術を見てみたいと言い出した。宿で訊ねると、この辺りの山間にある長田村に土橋忠三郎という鉄砲の名人がいると、教えて貰った。
    忠三郎は、嘗て幕府の鉄砲方で鉄砲磨き方同心と仕えていたのであったが、鉄砲撃ちの衝動を抑えきれず、妻子を捨てて長田村の猟師万造に弟子入りをしたのだった。そして、万造亡き後長田村に残り、日ごろ山を歩いて猟を続けていた。...続きを読む

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  • 黄昏の決闘~若鷹武芸帖~

    抜刀術とは

    新宮鷹之助は、火付盗賊改方同心の大沢要之助から江戸、神楽坂付近で起きた辻斬り事件の話しを耳にした。
    目撃者の話しでは刀を抜いた様子がないというので、居合いによる一瞬の間で斬り殺されたと判断された。
    鷹之助の武芸帖編纂所は今回、この事件で遣われた抜刀術を調査し始めるのである。
    大奥で薙刀を指南している鈴姫よって、抜刀術の達人、中倉田之助の存在が分かる。彼は、出羽守・船津家の江戸屋敷で剣術指南役を務めている。中倉家は、父・平右衛門から羽州七万石、船津家に仕える家柄であった。平右衛門も水鷗流を遣い、腕の立つ抜刀術の武芸者であった。ある時、平右衛門は上司の命令で同家の家来を居合いで倒したのだが、...続きを読む

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  • 二刀を継ぐ者~若鷹武芸帖~

    剣豪の使命

    新宮鷹之助が頭取の武芸帖編纂所で編纂方をしている松岡大八は、播州龍野の出身で円明流の遣い手である。円明流こそ宮本武蔵を教祖とする流派である。それゆえ、今回の調査対象である二刀流の調べを鷹之助から任されるのである。
    大八は領主の脇坂家に将来を見込まれ、江戸に出て武芸を一層磨いて、名を上げるよう期待された。江戸に来たのが20歳代と言う。やがて脇坂家の支援を受けて目黒白金に道場を開いた。さらに、八重という妻を得て娘ができ、一介の家庭を持つまでに至った。
    いくらかの門弟を抱えるようになり生活基盤も整ったのだが、剣の腕は一流だが、生来の田舎武士で不器用者だ。剣の教え方一つをとっても、門弟の心中も考え...続きを読む

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  • 父の海~若鷹武芸帖~

    老練な白波流師範と海女の水術

    京極周防之守からの勧めで、武芸帳編纂所の頭取・新宮鷹之助は今回、「水術」の武芸を調べることになった。
    泳ぎの知らない鷹之助は、調査するにあたって先ずは自分が泳ぎを覚えようとの思いになった。夏の暑い盛りである。海に出掛けるのも悪くは無いと思い、芝浜に日々通うようになった。そして、そこで知り合った若い海女のお光から泳ぎ方を習うようになった。お光は、漁師村でのけ者扱いを受けながらもたくましく生きていた。ある騒動からお光を守るため、鷹之助はお光を武芸編纂所に連れて来てしばらく滞在させることにした。
    一方、水軒三右衛門が浪人の頃知り合った相模国出身の明石岩蔵を訪ねた。金杉橋の近く芝浜で釣具屋を営んで...続きを読む

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  • 姫の一分~若鷹武芸帖~

    鈴姫は薙刀の凄腕使い

    将軍家斉からの命を受けて、新宮鷹之助は大奥女中たちを指導する薙刀女武芸者を探すことになった。
    広い大江戸のこと。なんとか探した大原家という薙刀道場だったが、その稽古の様子からみると、おおよそ武芸の類にもならない女の舞い踊りだ。
    そんな中、同僚の編纂方の中田郡兵衛が2年前に起きた五万石の大名、豊後守の事件を思い出した。
    豊後守が江戸家老・樽山大膳にたぶらかされて、家政を怠り、領民からは怒りの一揆を起こされた。その結末は藤波家の鈴姫が筑紫薙刀を振るい、家老始め奸臣の2人を誅殺したのである。当然お家は取り潰しの処分受けたが、当の鈴姫は将軍の計らいもあり、自儘な生活が許された。
    鷹之助はこの姫...続きを読む

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  • 鎖鎌秘話~若鷹武芸帖~

    護身術としての鎖鎌術

    武芸帖編纂所頭取の鷹之助は、老練剣士、水軒三右衛門と松岡大八と共に隣に設えた道場で、大名や大身旗本から寄せられた武芸帳を基に、その流派の太刀筋などの研究を日々重ねるのであった。そして整理された流派の目録は、黄表紙作家であった編纂方担当の中田郡兵衛により武芸帖に書き加えられた。
    ある日、鷹之助が嘗て士学館で剣術を共に習った幼友達の大沢要之助が訪ねて来た。彼は火付盗賊改の同心になっていたが、彼の先輩格宮島充三郎同心が本所の柳島村の土手で殺害されたのだが、殺され方が普通の刀で切られたものではなかったことで、武術に詳しい鷹之助に助言を求めて来たのである。しかしその時は鷹之助等はまだ満足に答えられなか...続きを読む

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  • 若鷹武芸帖

    家斉の武芸帳編纂所が無事始まる

    主人公の新宮鷲之助はお城で小姓組番で仕えていた。小さいときから熱心に剣術道場に通い、稽古に励んで立派な剣豪になった。小姓組番は将軍の身辺警護にあたるのが勤めである。彼は剣に強いのと育ちの毛並みの良さがあるが、反面世間を余り知らないという欠点もある。
    そんな彼は、将軍家斉から武芸帳編纂を命じられた。廃れゆく武士の武芸を調べて書き留める仕事である。新宮家の敷地内に武芸帳編纂所が建てられようとしている。鷲之助の相棒として柳生心陰流の水軒三右衛門が来る。それから彼の知古である円明流の松岡大八も加わり、仕事始めに「角野流手裏剣術」を調べる。
    この手裏剣術は角野源兵衛を流れの元とするが、その時は富澤秋...続きを読む

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  • 薬研堀小町事件帖 冬景色

    気になるおちかの目の病い

    御殿医を務めたことがある漢方医、賀川玄旭の末娘おちかが、門前の小僧・・・ではないが、父の漢方医の仕事を見よう見まねで習い、女医になった。おちかは父玄旭、次男と一緒に江戸の薬研堀に居を構えている。まだ年若く美しい姿から、世間からは小町娘と噂されるが、本人は目の病を持っている。そんな女医おちかは、病人が出ると、診察に患家を訪れて治療を施して病人を治す話しである。
    患者は花街の女郎や江戸の町人、子どもから立派な旗本の母堂までと、様々である。
    江戸時代も終わりに近づく18世紀の末は、幕府の体制にほころびが目立つようになる。反面、江戸の町人達で中には莫大な財産を築き、武士をも凌ぐ勢いの者が現れるそん...続きを読む

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  • 八丁堀の忍(四) 隻腕の抜け忍

    抜け忍、鬼市に仲間が増える

    伊賀の隠れ砦は、子どもを拐かして連れて来ては、厳しい訓練で鍛え、忍󠄄を仕込み育てるという恐ろしいところだ。
    江戸の街を守る南町奉行所奉行の鳥居耀蔵がこの砦を考え、秘密裏に造られた。
    その砦から命からがら脱出して江戸に来た鬼市は、南町奉行所同心の城田新兵衛に拾われた。
    抜け忍は砦からの追っ手に襲われ殺されるのが宿命だが、鬼市はことごとくそれらを斃した。
    追っ手の中にくノ一の花がいたが、砦の頭の呪縛から解放してやり、鬼市と一緒に新兵衛の家で家族同様の扱いを受けて暮らしていた。
    城田新兵衛は鳥居耀蔵の奉行所の方針に嫌気が差し、病を理由に同心を辞めて「若隠居」に。まもなく柳生心陰流の免許皆伝...続きを読む

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  • 源 頼朝(上)

    源頼朝の思いの変化

    平治の乱の後、京を追われた源氏が再びその家を再興する歴史物語だ。
    源頼朝は、父・義朝に従い兄の義平と共に平治の乱を起こした。平治の乱は藤原信頼と義朝が、政から上皇派の排除を計った蜂起だが、上皇派の首謀者鎮西を殺害して一時は義朝に有利だった。しかし平清盛の巻き返しに遇い、成果も横取りされた。敗れた義朝は尾張で殺され、義平と頼朝は死罪の刑を受けた。
    その時、頼朝だけ15歳という若さ故、池禅尼の口添えで伊豆に流刑となった。
    源頼朝は、伊豆に流された当初は仏道修行で写経などをして謹慎に近い生活を送るが、段々とその地の人たちとの交わいもあり、穏やかな生活を送っていた。夏には海沿いの豪族の家で過ごし...続きを読む

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  • 海賊とよばれた男(下)

    石油事業で生きる国岡鐵蔵

    ここにある国岡鐵蔵のように戦前、戦中、戦後を通して大事業を為した実業家は多い。
    特に、敗戦後の日本の復興期、主に製造品の輸出を伸ばして、人々を豊かにして社会の発展に寄与した企業は数多くある。
    日本は戦後めざましい発展をした。
    こうした大事業を為した実業家はいずれの方々も立派な哲学を持って会社を経営しておられた訳で、鐵蔵をそうした人の代表者としてこの小説を読めば、そうした人たちの人生、生き様を知ることが出来ると思う。
    非常に感動的な物語である。

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  • 海賊とよばれた男(上)

    幾重もの苦労を乗り越える鐵蔵

    国岡鐵蔵の国岡商店、エネルギーの将来は石油にあると考え、石油の販売を始める。
    明治の終わりから戦前の昭和そして戦後と一貫して石油製品の販売事業に携わった。
    事業の初期は、日本は未だ家の燃料は薪や炭が中心であり、自動車も数えるほどしか走っていなかった。
    そん中、機械油に活路を開くも、外資系との品質の差は歴然だった。
    国内市場は既存の大手会社が市場を形作り、石油を売りたくても売れないという状況ではあったが、販売の地を満州に移したことで、満州鉄道に機械油を納入することが出来、なんとか商店の活動も軌道に乗るのだった。
    国岡商店は社長、鐵蔵の「社員は全員家族である」という経営理念と、生産者と消...続きを読む

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  • 不義 刃鉄の人

    赤穂浪士事件のもう一つ顛末

    こんな「赤穂浪士討ち入り事件」の顛末があるのかと感じさせられた作品である。
    主人公は一戸舞国包󠄃で、彼の縁筋から人の始末を依頼される。これは前作と同じ流れである。
    討ち入り事件で犯した二人の不忠者がいる。一人は吉良方の家臣、山陰甚左。もう一人は赤穂浪士の河井太助である。彼を探して郷里赤穂から江戸に来た内儀の由良との悲しく切ない物語だ。
    しかし、この物語を読んでいると、一見ありそうに無いと考えてしまうのだが、いや有るかもしれないと思わさせる不思議な物語である。そもそも主人公の国包󠄃は市中の刀鍛冶であり、その人がなぜ人の始末を依頼されなければならないのかが、どうしても腑に落ちない。赤穂浪士の...続きを読む

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  • レジェンド歴史時代小説 高杉晋作(下)

    幕末の志士、高杉晋作の活躍

    西洋列強の国々が日本の海に現れた時、長州は藩是を尊皇攘夷主義に統一した。幕府が、アメリカと通商条約を締結して鎖国から開国に政策を変更したことで、そのことを不服として長州藩の若き志士だった高杉晋作は、仲間の久坂玄瑞、桂小五郎らと倒幕を目指した。京都で「禁門の変」と呼ばれる戦さを引き起こしたが、薩摩藩と佐幕派の会津藩の同盟により失敗、敗北して長州は京から一掃されてしまった。
    自ら髪を切り故郷に帰った高杉は野山獄に監禁された。この後、幕府の長州征伐が始まるのが当然予想される。
    長州藩政はそれまで勤王派でまとまっていたものの、徳川幕府に従う佐幕派が優勢になり、藩内は内部分裂、内戦の状態に陥る。この...続きを読む

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  • 仕舞屋侍 夏の雁

    年齢を顧みない九十郎の仕事ぶり

    町民文化が盛んになり、武士と町民の身分の垣根も低くまる時代、九十九九十郎の仕舞屋の仕事は相変わらずに忙しい。仕舞屋とは世の中の揉め事やごたごたを話し合いで解消するという仕事である。要するにもみ消し屋である。
    江戸に酒卸の大店となっている三雲屋の女将お曽良が九十郎のところにやって来て、岩槻にいる七雁新三の出生と素性を調べて欲しいと、50両の金子を先払いで置いて依頼した。三雲屋は元は岩槻の酒卸の小店であったが、運がよかったのか江戸に出店を出すまでに大きくなった。
    九十郎は早速、藤五郎を伴って岩槻の金吾親分のもとに寄宿している七雁新三を訪ねて、旅に出た。しかし、行き違いで新三に逢うことができなか...続きを読む

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  • 仕舞屋侍 青紬の女

    青紬の女、おまさの災難

    関東8州の賭場で賽子を転がす女つぼ振り「おまさ」は渡世暮らしである。賭場ではいつも青紬を着てつぼを振る。
    今、青梅に宿を取り、江戸への旅路に思いを馳せているところだった。
    その時ちょうど江戸から秩父へ帰る親子3人連れと同宿になったが、江戸からの追っ手に親二人は殺されてしまい、「お玉」という小さな女の子を殺される寸前に預けられた。こうしたふとした縁から江戸に向かうおまさに様々な災難が降りかかる。
    さて一方、江戸神田小柳町に住む仕舞屋九十九九十郎は、旗本が飼う秋田犬の散歩の途中に不手際で手綱を放してしまい、町内の子供3人がけがをするという事件の処理つまり示談の依頼を受けた。相手の旗本は身分の...続きを読む

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  • 八丁堀の忍

    忍びの痛快な仕事そして働き

    鬼市は幼子時にかどわかされて、人体兵器となるべく、忍びの里に連れて来られた。悲しくも親の顔も知らない時の出来事だ。その定めの鎖を自ら断ち切り、鬼市は裏伊賀の隠れ砦を抜け出してはるばる遠くの江戸まで逃げて来たのだった。
    鬼市は、江戸の賑いに戸惑い、大川近くの食べ物屋で岡っ引きに捕えられたが、見回り同心城田に見初められその家の小者となり、長屋に住むことなる。
    江戸の町の営みは鬼市が過ごしてきた伊賀の里とは大きく違い、人情があり心休まるものがあった。
    だが、数奇な運命に翻弄されてきたこの若者は、常人にはない、おのれもまだ分からぬ力を持ち合わせているようだ。
    このところ江戸の町の夜には辻斬りが...続きを読む

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  • 走るジイサン

    老人たちの静かな喜び

    鋳物職人として働いてきた作次が退職をして毎日家で過ごすようになると、果たして何をして過ごせばいいのかと戸惑い、悩みそしていらだちすら感じるようになった。普段の生活の中でだんだん彼は独り言が多くなっていった。その内、猿が彼の頭に座っているのに気付いた。作次だけに見えるこの猿は彼の独り言の聞き役なのだろうか。
    作次が住む地域に「ちゃちゃ」という喫茶店があり、そこでほぼ毎日午前中は近所の仲間二人とおしゃべりで暇を潰している。彼らは皆、老人特有のひがみや被害者意識いわゆる疎外感を抱いているから、おしゃべりといってもほとんどが愚痴り合いだ…
    作次が喫茶店の娘の悩み相談に乗っているところでは、娘の一途...続きを読む

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  • 格闘する者に○

    自分の若い頃を思い出す

    就職活動をする女子大生の姿が生き生きと描かれている。家柄を考えれば、無理して就職をする必要も無いと思われるが、それに対して反発してなんとか自活して生きていこうと考えている。
    漫画を趣味とする主人公の可南子は出版社で働きたいと願う。未だ男性優位の考えがうっすらと残るのが会社であり、筆記試験では合格しても面接では面接官のなんとなく女性を馬鹿にしたような質問に窮して、上手くいかない。大手業界は落ちてしまうのだが、中小の業界への就職活動を諦めずに続けていく。
    大学の友人たちとの気心の知れた気軽な会話には、はやり言葉など世代の違いがあって意味が分からず、辞書を引いて理解するという面倒を感じたが、正直...続きを読む

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