あらすじ
浅草・花川戸で貸元の谷次郎が殺され、前後して唇に艶紅の塗られた若い女の死体が見つかった――。夜叉萬と綽名される北町奉行所の隠密廻り方同心・萬七蔵は、内与力・久米信孝の命により、谷次郎殺しの下手人との差口のあった「あやめの権八」なる男の裏を探り始めるが、事態は急展開をみせる。著者の原点であるシリーズ、待望の書下ろし新作。一寸先の闇を斬れ。
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命は大切、無駄な命はない
「もどり途」という変わった名の物語は、2件の殺人事件から始まる。
1つは、浅草界隈を縄張りする貸元、谷次郎が殺された。そしてすぐ次に、2件目の殺しが発生。被害者は小網町、塩問屋「隅之江」の隠居の下女お豊である。
谷次郎の殺しは縄張り争いで、あやめの権八を頭とした破落戸一味が、谷次郎の縄張りを狙い横取りして、弟の谷三郎まで殺害するという、無法者同士が争う中で起きた殺人事件だ。
北町奉行所の隠密同心、萬七蔵は、お奉行小田切土佐守の命を受けて、あやめの権八の素性を探る為、手下の樫太郎と共に調べに入るのであった。
しかし、無法者は所詮味方すら殺害する極悪人である。権八は一味の1人、伊野吉に手下2人と共に殺されてしまう。七蔵の探索は打ち切らざる得なかった。
お豊の事件では、向島、木母寺辺りにある隅之江の寮で暮らしていた隠居、お純から話しを聞いて、犯人が徐々に判明するのである。
お豊には、結婚を約束した塩問屋手代恵吉がいて、腹に子を宿していたが、恵吉には他の大店の娘と結婚話が浮かんでいた。いずれはその大店の主になる可能性もあり、欲についつい目がくらみ、お豊が邪魔になり亡き者にしたことが判った。
七蔵は、夜叉萬の別名で江戸の町に知れていた。夜叉とは理不尽な事に対して容赦しない魔物である。魔物は、悪人の中でも理不尽な者は決して許さない、強い意志を持つ。「夜叉萬組」には、北町の内与力久米信孝、髪結いの嘉助、樫太郎とお甲などが仲間となっている。奉行所内では、町廻りとは違った働きがあるようだ。事件で犯人の生い立ち、素性を調べたり、事件で汲むべき事情があれば、お奉行に報告して詮議や裁きに反映させる役目があるようだ。
伊野吉は、谷次郎兄弟と権八一味の5人を殺害した。そこには伊野吉なりの特別な理由があっての犯行だった。
この事件に関連する死者数は7名に昇る。夜叉萬組にとり、後味の全く悪い事件だった。気持ちの悪さを、お純とお藤の二人の老女の生きながらえる姿が和らげているかのようだ。
簡潔な文章が物語を読み易くしてる。文章と文章の間に深い意味がありとても考えさせられた。