辻堂魁の作品一覧
「辻堂魁」の新着作品・人気作品や、最新のユーザーレビューをお届けします!
-
作者をフォローする
- フォローするとこの作者の新刊が配信された際に、お知らせします。
ユーザーレビュー
-
純粋な気持ちの日暮龍平
北町奉行所の平同心、日暮龍平は三十歳で、身重の妻と子供一人と八丁堀に住んでいた。
龍平は、元は旗本沢木家の三男の部屋住みだったが、日暮家の娘、麻奈に見初められ、奉行所与力の日暮家に婿養子に入った。作者が描く徳川時代小説は、江戸時代後期、1800年前後の時代背景が多い。その頃は太平の世が永く続き、武士
...続きを読む階級が壊れていく頃であり、代わりに商人や町人の活動が盛んな時代であったようだ。旗本でも、この時には落ちぶれ果て貧乏に苦しみ、生計もままならない状態の武士が増えたのである。
龍平は奉行所では平同心なので、自身の仕事をしている間にも他の同心たちから色々と雑用を頼まれる。しかし龍平が若い時に武道で鍛えた体と私塾で学んで得た才能で、そつなく頼まれ事をこなすのである。
菓子問屋鹿取屋の娘が拐かされているという訴えがあり、調べると娘は惚れた男のもとに嫁ぎたいのだけれど、お店を大事と考える親との意見の相違があって、娘が勝手に家出をして惚れた男のもとに走っただけであった。ただ、龍平には武家には無い町人たちの暮らしぶりが新鮮なものに感じられて魅せられるのであった。
この後、鹿取屋は破落戸たちに強請られたのだが、龍平は武士二人を含む破落戸を、武士は斬り殺して、後は捕縛して見事一味を退治する。
最後は、鹿取屋の娘が年が明けた春に、新たに婿を迎えるという目出度い筋書きだ。
鹿取屋の娘が惚れた男、川太郎もその出自を辿ると、武士生まれだが貧しさゆえ幼い頃に捨てられたという。
豊かな人がいる反面、貧しくても逞しく生き生きと暮らす町人たちの営みを直接肌で感じるこの仕事に、龍平は彼らから教えられるものが多く、そして憧れに似た感情に駆り立てられるのである。しかも彼らに対してもっと純粋な気持ちが龍平に湧くのかもしれない。とても興味があり面白い物語だった。
奉行所の他の同心たちは、その性根には江戸の商人や町人、大名などから事あれば金のために動く者ばかりである。それはそれとして良いのであろうが、プラス何かを感じさせる龍平である。
-
凶悪事件を起こした若侍
北町奉行所勤めの萬七蔵が、定町廻り同心になったばかりの頃に起きた事件の話しである。
深川近くの洲崎の土手道で男の首切り死体が見つかった。死体は深川界隈の賭場を取り仕切る貸元岩之介で、懐を狙った辻斬り強盗だった。
七蔵がこの事件を担当したのだが、被害者の関係者の聞き込みに時間を取られて、一向に下手人を
...続きを読む捕まえられなかった。その後しばらくして、和菓子屋の番頭羽左衛門が首を斬り落とされて懐の紙入れが盗まれる、という同様の事件が起きた。
七蔵の探索では同じ人物、田島享之介がしばしば浮かんだ。享之介は北町奉行所年番方与力、殿山竜太郎の奉公人だった。享之介は、表向きは礼儀正しい物静かな若い侍である。同じ侍の七蔵は享之介を疑惑の目で見られなかった。
しかし、享之介は裏では賭場通いなど素行が悪い。深川の賭場で遊んでいた時賭場の取り締まりに遭遇し、その際、お金を使って見逃して貰った。
しかしながら、その時の同心が主の殿山に告げ口をして、主から享之介は厳しく叱られ切腹を宣告された。その場で享之介は主の殿山と内儀を斬って殺し、逃げる途中で告げ口した同心の首も刎ねた。享之介は、箱崎から舟を使って逃走し、行方不明になり、事件は未解決になってしまった。七蔵のちょっとした見過ごしが大失態を起こしたのであった。
奉行所は直ぐに御触書を各地に出したが成果がなかった。
それから7年が過ぎて、七蔵はお役替えで隠密同心として奉行所に務めている。奉行所の与力、山木大三郎が奉行所の大失態の無念をしたためて、せめて八州の本陣屋、出張陣屋の元締め宛に享之介捕縛に協力を願う書状を送っていた。成果は直ぐに出て、上野国群馬郡の岩鼻の手代がそれに応えて知らせをよこした。
それによると、享之介らしき人物は三一凶之介を名乗る侠客らしいことが分かった。
早速、七蔵らは上州に享之介捕縛に向かった。しかし享之介は七蔵らに執拗な抵抗を見せて、捕縛は困難になり剣術での決着となってしまった。七蔵の手下のタイミングのよい助けに支えられて、七蔵がかろうじて享之介を倒したのだった。
「享之介は、自分の生い立ちと境遇の中で、子供の頃から怒りをずっと腹の中に溜めて生きてきた。それがある時、自分の腹の底からこみ上げる怒りを抑えられなくなった・・・」と言う七蔵の言葉に強く印象を受けた物語である。成長しきれない未熟な大人が犯した凶悪事件である。
-
【内容紹介】
牢屋敷の首打役と刀の試し斬り御用を生業にする浪人、別所龍玄二十二歳。
武家からの依頼を受け切腹の介錯を務めることもある。
剣術において天稟の才を持ち、刀一本で首打ちに臨む凄腕の龍玄、その真の姿を知る者は少ない。
太平の世、罪と不条理、生と死の狭間にあって、江戸の市井を気高く生きた一人
...続きを読むの侍の姿を描き出す。
静かな感動を呼ぶ傑作シリーズ第二作。
令和5年10月2日~4日
Posted by ブクログ
-
親の敵討ちをする三姉妹
六百石の旗本、疋田家に仕えていた河野佐治兵衛は、10年前、疋田豪軒の息子、籐軒の供をして柳橋の書画会に出掛けた折、船宿の澤田屋で籐軒が若衆を斬り殺す事件を起こした。
佐治兵衛は、籐軒の身代わりとして奉行所に出頭して八丈遠島の刑を受けた。
そして御赦免により、10年経った今、江戸に戻ってきた。戻ってみ
...続きを読むると妻は労咳で病死していて、三人の娘で長女の椿は吉原の花魁に身を落としていた。
佐治兵衛と疋田家との約束では、刑を受けた後も、河野の禄高は保障され、不自由無い生活が送れたはずだったが、実際は刑の宣告を受けた直後に破られていたのであった。佐治兵衛はこの違いに抗議するために、籐軒こと現在は大垣藩江戸上屋敷、留守居役、根津籐軒に日々通うのである。しかし、佐治兵衛は籐軒に邪魔者扱いにされてしまい、彼の悪ガキ時代の仲間の浪人に殺されてしまう。
そこで、佐治兵衛の娘三人が父の敵を討つために立ち上がるのである。
萬七蔵は、彼の探索で様々な事実が証されて、三姉妹の敵討ちに正当性を加えるのであるが、あくまで彼は脇役である。三人姉妹は見事に敵討ちを成し遂げた。江戸の町に明るい話題をわき起こしたのである。
物語の筋書きはこんなものだが、吉原の風景や花魁の豪華な衣装、きらびやかな部屋の様子などが物語に細かく紡がれていて、とてもきれいである。柳橋の花街の情景では、江戸節と言われる長唄や常磐津が流れる風情に、物語を読んでいて癒やされる。また、敵討ちの場面では、見事な殺陣が見られてとても鮮やかである。読んでいて飽きない物語だ。
それにしても、幕藩政治のがたつきようにはあきれ果てる。特に武士階級の不祥事が多いのには、時代の末期症状が出始めているのかもしれない。大変残念な事だ。
-
やっぱり、この作品は面白い。3作目も一気に読み終わってしまった。読んでしまうのが惜しい作品というのは、久しぶりだ。
Posted by ブクログ
辻堂魁のレビューをもっと見る