マッシーさんのレビュー一覧
レビュアー
-
ネタバレ 購入済み
家斉の武芸帳編纂所が無事始まる
主人公の新宮鷲之助はお城で小姓組番で仕えていた。小さいときから熱心に剣術道場に通い、稽古に励んで立派な剣豪になった。小姓組番は将軍の身辺警護にあたるのが勤めである。彼は剣に強いのと育ちの毛並みの良さがあるが、反面世間を余り知らないという欠点もある。
そんな彼は、将軍家斉から武芸帳編纂を命じられた。廃れゆく武士の武芸を調べて書き留める仕事である。新宮家の敷地内に武芸帳編纂所が建てられようとしている。鷲之助の相棒として柳生心陰流の水軒三右衛門が来る。それから彼の知古である円明流の松岡大八も加わり、仕事始めに「角野流手裏剣術」を調べる。
この手裏剣術は角野源兵衛を流れの元とするが、その時は富澤秋 -
ネタバレ 購入済み
気になるおちかの目の病い
御殿医を務めたことがある漢方医、賀川玄旭の末娘おちかが、門前の小僧・・・ではないが、父の漢方医の仕事を見よう見まねで習い、女医になった。おちかは父玄旭、次男と一緒に江戸の薬研堀に居を構えている。まだ年若く美しい姿から、世間からは小町娘と噂されるが、本人は目の病を持っている。そんな女医おちかは、病人が出ると、診察に患家を訪れて治療を施して病人を治す話しである。
患者は花街の女郎や江戸の町人、子どもから立派な旗本の母堂までと、様々である。
江戸時代も終わりに近づく18世紀の末は、幕府の体制にほころびが目立つようになる。反面、江戸の町人達で中には莫大な財産を築き、武士をも凌ぐ勢いの者が現れるそん -
ネタバレ 購入済み
抜け忍、鬼市に仲間が増える
伊賀の隠れ砦は、子どもを拐かして連れて来ては、厳しい訓練で鍛え、忍󠄄を仕込み育てるという恐ろしいところだ。
江戸の街を守る南町奉行所奉行の鳥居耀蔵がこの砦を考え、秘密裏に造られた。
その砦から命からがら脱出して江戸に来た鬼市は、南町奉行所同心の城田新兵衛に拾われた。
抜け忍は砦からの追っ手に襲われ殺されるのが宿命だが、鬼市はことごとくそれらを斃した。
追っ手の中にくノ一の花がいたが、砦の頭の呪縛から解放してやり、鬼市と一緒に新兵衛の家で家族同様の扱いを受けて暮らしていた。
城田新兵衛は鳥居耀蔵の奉行所の方針に嫌気が差し、病を理由に同心を辞めて「若隠居」に。まもなく柳生心陰流の免許皆伝 -
ネタバレ 購入済み
源頼朝の思いの変化
平治の乱の後、京を追われた源氏が再びその家を再興する歴史物語だ。
源頼朝は、父・義朝に従い兄の義平と共に平治の乱を起こした。平治の乱は藤原信頼と義朝が、政から上皇派の排除を計った蜂起だが、上皇派の首謀者鎮西を殺害して一時は義朝に有利だった。しかし平清盛の巻き返しに遇い、成果も横取りされた。敗れた義朝は尾張で殺され、義平と頼朝は死罪の刑を受けた。
その時、頼朝だけ15歳という若さ故、池禅尼の口添えで伊豆に流刑となった。
源頼朝は、伊豆に流された当初は仏道修行で写経などをして謹慎に近い生活を送るが、段々とその地の人たちとの交わいもあり、穏やかな生活を送っていた。夏には海沿いの豪族の家で過ごし -
ネタバレ 購入済み
幾重もの苦労を乗り越える鐵蔵
国岡鐵蔵の国岡商店、エネルギーの将来は石油にあると考え、石油の販売を始める。
明治の終わりから戦前の昭和そして戦後と一貫して石油製品の販売事業に携わった。
事業の初期は、日本は未だ家の燃料は薪や炭が中心であり、自動車も数えるほどしか走っていなかった。
そん中、機械油に活路を開くも、外資系との品質の差は歴然だった。
国内市場は既存の大手会社が市場を形作り、石油を売りたくても売れないという状況ではあったが、販売の地を満州に移したことで、満州鉄道に機械油を納入することが出来、なんとか商店の活動も軌道に乗るのだった。
国岡商店は社長、鐵蔵の「社員は全員家族である」という経営理念と、生産者と消 -
購入済み
赤穂浪士事件のもう一つ顛末
こんな「赤穂浪士討ち入り事件」の顛末があるのかと感じさせられた作品である。
主人公は一戸舞国包󠄃で、彼の縁筋から人の始末を依頼される。これは前作と同じ流れである。
討ち入り事件で犯した二人の不忠者がいる。一人は吉良方の家臣、山陰甚左。もう一人は赤穂浪士の河井太助である。彼を探して郷里赤穂から江戸に来た内儀の由良との悲しく切ない物語だ。
しかし、この物語を読んでいると、一見ありそうに無いと考えてしまうのだが、いや有るかもしれないと思わさせる不思議な物語である。そもそも主人公の国包󠄃は市中の刀鍛冶であり、その人がなぜ人の始末を依頼されなければならないのかが、どうしても腑に落ちない。赤穂浪士の -
ネタバレ 購入済み
幕末の志士、高杉晋作の活躍
西洋列強の国々が日本の海に現れた時、長州は藩是を尊皇攘夷主義に統一した。幕府が、アメリカと通商条約を締結して鎖国から開国に政策を変更したことで、そのことを不服として長州藩の若き志士だった高杉晋作は、仲間の久坂玄瑞、桂小五郎らと倒幕を目指した。京都で「禁門の変」と呼ばれる戦さを引き起こしたが、薩摩藩と佐幕派の会津藩の同盟により失敗、敗北して長州は京から一掃されてしまった。
自ら髪を切り故郷に帰った高杉は野山獄に監禁された。この後、幕府の長州征伐が始まるのが当然予想される。
長州藩政はそれまで勤王派でまとまっていたものの、徳川幕府に従う佐幕派が優勢になり、藩内は内部分裂、内戦の状態に陥る。この -
購入済み
忍びの痛快な仕事そして働き
鬼市は幼子時にかどわかされて、人体兵器となるべく、忍びの里に連れて来られた。悲しくも親の顔も知らない時の出来事だ。その定めの鎖を自ら断ち切り、鬼市は裏伊賀の隠れ砦を抜け出してはるばる遠くの江戸まで逃げて来たのだった。
鬼市は、江戸の賑いに戸惑い、大川近くの食べ物屋で岡っ引きに捕えられたが、見回り同心城田に見初められその家の小者となり、長屋に住むことなる。
江戸の町の営みは鬼市が過ごしてきた伊賀の里とは大きく違い、人情があり心休まるものがあった。
だが、数奇な運命に翻弄されてきたこの若者は、常人にはない、おのれもまだ分からぬ力を持ち合わせているようだ。
このところ江戸の町の夜には辻斬りが -
購入済み
老人たちの静かな喜び
鋳物職人として働いてきた作次が退職をして毎日家で過ごすようになると、果たして何をして過ごせばいいのかと戸惑い、悩みそしていらだちすら感じるようになった。普段の生活の中でだんだん彼は独り言が多くなっていった。その内、猿が彼の頭に座っているのに気付いた。作次だけに見えるこの猿は彼の独り言の聞き役なのだろうか。
作次が住む地域に「ちゃちゃ」という喫茶店があり、そこでほぼ毎日午前中は近所の仲間二人とおしゃべりで暇を潰している。彼らは皆、老人特有のひがみや被害者意識いわゆる疎外感を抱いているから、おしゃべりといってもほとんどが愚痴り合いだ…
作次が喫茶店の娘の悩み相談に乗っているところでは、娘の一途 -
購入済み
自分の若い頃を思い出す
就職活動をする女子大生の姿が生き生きと描かれている。家柄を考えれば、無理して就職をする必要も無いと思われるが、それに対して反発してなんとか自活して生きていこうと考えている。
漫画を趣味とする主人公の可南子は出版社で働きたいと願う。未だ男性優位の考えがうっすらと残るのが会社であり、筆記試験では合格しても面接では面接官のなんとなく女性を馬鹿にしたような質問に窮して、上手くいかない。大手業界は落ちてしまうのだが、中小の業界への就職活動を諦めずに続けていく。
大学の友人たちとの気心の知れた気軽な会話には、はやり言葉など世代の違いがあって意味が分からず、辞書を引いて理解するという面倒を感じたが、正直 -
購入済み
大人の「おとぎ話」
大人の話と言えば、エロティックなもの。加えて乱暴な、暴力的な諍いものが大概だろう。いわゆるえげつない話しである。そうした先入観があるから、読んでいても大して面白いとは思われない。突飛な作り話でバカバカしいと思う。でも、大人が集まればたぶん似たような話しをするだろうから…
この小説に出てくる人物も、ヤクザの女に手をつけて殺されかけているホスト、空き巣の話し、父の弟と関係を持ち、精神科で強制的に治療受けている自殺願望がある女性(高校生)、過疎地の若い漁師の話し、美容整形治療中の女を乗せたタクシー運転手の話し、新種の花の開発に携わる研究員と付き合っているが無気力に生きる女性の話し、などが収められて -
購入済み
お夏のさりげない助太刀
第二話 お前のそばで……
大阪から仕官を求めてここ目黒で居を構えた鬼王虎之助は、なかなか良い仕官の道が見つからないでいた。確かに名前は豪快ではあるが、名前には似つかない容貌である。ただ器用な性格で、口入れ屋の龍五郎からの賃仕事で日々を暮らしている。
同じ目黒不動のそばにある”たけや”というそば屋におえんという年増がいて、虎之助とおえんは気を通わせる仲である。虎之助は長い浪人暮らしに疲れを感じているのだが、武士の身分を捨てる覚悟が定まらない。
武士として身を立てることとおえんを妻に迎えたいという二つの気持ちが空回りする。淡々と大人の恋が描かれていく。話しは流れるように進んでいき、虎之助とお -
購入済み
いよいよ物語が佳境に入る
味見方同心だった兄、月浦波之進が殺された理由を探してきた弟の魚之進がだんだんとその確信に近づこうとしている。
波之進が残した言葉、「おいしいものの裏にある悪」とは。
おいしいものは「ケイク」であることが判明。
特に「まぐろの千切り」の段では、料亭「おくやま」の板長・丁次が殺される。
その犯人「出島屋」の修二郎は西方の美味神で丁次を誘惑する。
当時は得体の知れないバニラを丁次が修二郎から盗んだがか、食べしまい殺された。
物語のこの辺りが微妙でとても面白い。香料が思わせる話しだ。
そして、さらに北谷道海こと河内山宗俊と向島に住む中野石翁が抜け荷に絡んでいることが浮かび上がる。
もう -
ネタバレ 購入済み
幕閣鳥居耀蔵の執拗な追跡
麻布一本坂の女将の名をそのまま付けた「小鈴」という小さな飲み屋。
毎晩飲みにやって来る町人たちが提供する様々な悩み事や事件。
それらを明快に解決する女将とその仲間たち、すなわち、小鈴と以前は瓦版屋で今は岡っ引きの源蔵そして引退した同心の星川、裏に義賊の面を持つ日之助の活躍。
その物語を挟んで同時に進行するのが、解明は派の文人や武士たちの「捲土重来」の筋書き。
大砲を撃って大阪の天満一帯を焦土として逃亡して、後に爆死したという大塩平八郎。
図らずも、彼は生き残り再び乱を起こす計画を抱いている。
彼を中心に、鎖国政策を続ける幕府に異を唱える開明派の人たちは幕閣の鳥居耀蔵の厳しい弾圧が加