ブロンズ
レビュアー
  • 黄昏の決闘~若鷹武芸帖~
    ネタバレ 購入済み

    抜刀術とは

    新宮鷹之助は、火付盗賊改方同心の大沢要之助から江戸、神楽坂付近で起きた辻斬り事件の話しを耳にした。
    目撃者の話しでは刀を抜いた様子がないというので、居合いによる一瞬の間で斬り殺されたと判断された。
    鷹之助の武芸帖編纂所は今回、この事件で遣われた抜刀術を調査し始めるのである。
    大奥で薙刀を指南している鈴姫よって、抜刀術の達人、中倉田之助の存在が分かる。彼は、出羽守・船津家の江戸屋敷で剣術指南役を務めている。中倉家は、父・平右衛門から羽州七万石、船津家に仕える家柄であった。平右衛門も水鷗流を遣い、腕の立つ抜刀術の武芸者であった。ある時、平右衛門は上司の命令で同家の家来を居合いで倒したのだが、殺すことまでは考えていなく、抜刀術の未熟さ故、過剰に対応したことを大いに反省し、その行為を非常に悔いたのであった。その為、自ら出羽を離れて遠方の地、楢葉で百姓をして暮らしてきた。
    平右衛門はそこで息子の田之助に自らの抜刀術、大地流を伝授したのだが、田舎暮らしに飽き足りぬ田之助は江戸に出て、父と同じ船津家に剣術指南役として仕えることになった。
    その田之助が、奇しくも国表の目付役を斬った作田嘉兵の殺害を国家老から命じられるが、長く肺病を患っていた彼は使命を果たすことなく亡くなってしまった。
    こうした不遇の武芸者に鷹之助はお節介を焼いて、田之助の代わりに父・平右衛門がその役目を果たすのを助太刀するのである。
    鷹之助の細やかな配慮と機微があってこの事件が大事にならないで、平右衛門がそのまま編纂所に留まり、抜刀術が武芸帳に詳しく記述されるのだった。非常に痛快で面白い物語である。

    0
    2021年04月21日
  • 二刀を継ぐ者~若鷹武芸帖~
    ネタバレ 購入済み

    剣豪の使命

    新宮鷹之助が頭取の武芸帖編纂所で編纂方をしている松岡大八は、播州龍野の出身で円明流の遣い手である。円明流こそ宮本武蔵を教祖とする流派である。それゆえ、今回の調査対象である二刀流の調べを鷹之助から任されるのである。
    大八は領主の脇坂家に将来を見込まれ、江戸に出て武芸を一層磨いて、名を上げるよう期待された。江戸に来たのが20歳代と言う。やがて脇坂家の支援を受けて目黒白金に道場を開いた。さらに、八重という妻を得て娘ができ、一介の家庭を持つまでに至った。
    いくらかの門弟を抱えるようになり生活基盤も整ったのだが、剣の腕は一流だが、生来の田舎武士で不器用者だ。剣の教え方一つをとっても、門弟の心中も考えずに、ただ厳しく愚直に教えるだけでは、やがては門弟が徐々に辞めていき、数が少なくなり、これでは生活の糧を稼ぐ事ができない。脇坂家から世慣れた師範代を送られたが、剣の道を究める剣豪という者は世間から少し離れた孤独な存在だ。師範代ともそりが合わなかったのだろう。結局、貧しさから娘を事故で亡くしたことで、妻との仲も壊れて離縁する始末だ。
    門弟に残った者に小谷長七郎と桑原千蔵の二人がいて、特に長七郎は武蔵を崇拝して、二刀流を極めたいという強い意志を持っていた。
    結局、大八は道場の経営に行き詰まり道場を閉めて、失意のもと回国修行へ旅立ったのである。
    大八が再び江戸に戻り、編纂所を手伝うようになり、二刀流の使い手を探すとき、今時二刀流に励む武芸者がいないだろうとの思いがする。しかし長七郎のことが気になり、消息を訪ねて探し出した。
    思いもかけず、長七郎は相変わらす二刀流の稽古に励んでいたのである。しかも他流試合で負かした相手の武士の兄弟に追われる身であった。寸でのところで大八は鷹之助や三右衛門と共に長七郎を助けた。
    武芸者の心得というものは、まさに他流試合を重ねてその技量を高めていくことである。そこには命のやり取りがあり、それが武芸者の宿命である。大八は書を読み漁りあらゆる工夫をして、円明流を学ぶ傍らで二刀流の稽古をしたという。それでも勝ち続けることはできないと大八は悟るのである。
    全く世の中はそれだけのものではない。物語を読み進めていくと、平凡で普通の生活を営むことがどんなにか大切なことかが見えてくる。そして、この話が、人と人の繋がりがどんなに大切かが読める良い物語だ。

    0
    2021年03月29日
  • 父の海~若鷹武芸帖~
    ネタバレ 購入済み

    老練な白波流師範と海女の水術

    京極周防之守からの勧めで、武芸帳編纂所の頭取・新宮鷹之助は今回、「水術」の武芸を調べることになった。
    泳ぎの知らない鷹之助は、調査するにあたって先ずは自分が泳ぎを覚えようとの思いになった。夏の暑い盛りである。海に出掛けるのも悪くは無いと思い、芝浜に日々通うようになった。そして、そこで知り合った若い海女のお光から泳ぎ方を習うようになった。お光は、漁師村でのけ者扱いを受けながらもたくましく生きていた。ある騒動からお光を守るため、鷹之助はお光を武芸編纂所に連れて来てしばらく滞在させることにした。
    一方、水軒三右衛門が浪人の頃知り合った相模国出身の明石岩蔵を訪ねた。金杉橋の近く芝浜で釣具屋を営んでいた。還暦を過ぎ現在は海に出て泳がないが、泳ぎに関しては天下一品の腕前だ。嘗て江戸で水術を教えようと国を出てきたのである。
    その岩蔵の教えを受けて鷹之助は泳ぐ楽しさと、海に戯れる面白さを知った。
    その後、上司の周防之守から、神君家康公の軍資金2万両が佃島の沖に沈められているという古文書が出てきたことが証されて、その探索を始めるのである。しかし成果はでない。夏も残暑の頃と終わりに近づく。
    老人の岩蔵の意見を参考に聞きたいと使いを遣り、この岩蔵もやる気満々になり、潜水に役立つ水松明と足ひれを作り、鷹之助のもとに来るのである。編纂所の一同と新宮家の家来達総出で探して、やっとの事で千両箱を見つけたが、この後はいつものような筋書きで、幕府内部に深く巣くう悪者、すなわち将軍側近の伯耆之守を罰するといった物語だ。
    今回の題材は、「水術の調査」ということで、水術が武芸の類なのかとの疑問が残る作品だ。薄々疑問だという思いを抱きながら読ませる作品になっている。徳川の時代は戦国時代に勝利を経て至った時代である。武芸をまずは誇りとすべきものであるが、その徳川の世が長くなるほどに、それにもやがて緩みやほころびが出てきて、皮肉にも商人や職人たちも勢力を持つ世に変わっている。そういった時代変化がこの作品から読み取れると思うのだが・・・

    0
    2021年03月09日
  • 姫の一分~若鷹武芸帖~
    ネタバレ 購入済み

    鈴姫は薙刀の凄腕使い

    将軍家斉からの命を受けて、新宮鷹之助は大奥女中たちを指導する薙刀女武芸者を探すことになった。
    広い大江戸のこと。なんとか探した大原家という薙刀道場だったが、その稽古の様子からみると、おおよそ武芸の類にもならない女の舞い踊りだ。
    そんな中、同僚の編纂方の中田郡兵衛が2年前に起きた五万石の大名、豊後守の事件を思い出した。
    豊後守が江戸家老・樽山大膳にたぶらかされて、家政を怠り、領民からは怒りの一揆を起こされた。その結末は藤波家の鈴姫が筑紫薙刀を振るい、家老始め奸臣の2人を誅殺したのである。当然お家は取り潰しの処分受けたが、当の鈴姫は将軍の計らいもあり、自儘な生活が許された。
    鷹之助はこの姫君に目星をつけた。
    しかし、出自は申し分ないのだが、いくら悪人とはいえ3人も殺めてしまった人である。大奥女中達の薙刀指導にふさわしいかどうか、慎重にならざるを得ない。
    鷹之助は、しばらく染井村の植木屋「福智屋」に身を寄せている姫君の様子を観察し、調査することにした。過去の事件のことが姫の心に深い傷となって残っていたが、鷹之助は、その植木屋で働く嘗ての家臣とも連携しながら、足繁く通い親しくなるうち、姫君は鷹之助に信頼を置くようになり、心の傷もやがて癒えるのである。
    そして鷹之助は姫君を薙刀師範に誘うことに成功するのである。
    鈴姫は無事に大奥の薙刀師範になり、目出度くお家の再興もなり、お城の近くに家も与えられて家臣たち共々暮らすのであった。
    若武者らしい純真な輝きを放つ新宮鷹之助が武芸帖編纂所の頭取をすでに勤めているのだが、仕事は相手のいることだし成果が見込めないときもある。また相手のことを思いやる余裕も必要である。ここは彼の大人への変身ぶりが面白い。

    0
    2021年02月23日
  • 鎖鎌秘話~若鷹武芸帖~
    ネタバレ 購入済み

    護身術としての鎖鎌術

    武芸帖編纂所頭取の鷹之助は、老練剣士、水軒三右衛門と松岡大八と共に隣に設えた道場で、大名や大身旗本から寄せられた武芸帳を基に、その流派の太刀筋などの研究を日々重ねるのであった。そして整理された流派の目録は、黄表紙作家であった編纂方担当の中田郡兵衛により武芸帖に書き加えられた。
    ある日、鷹之助が嘗て士学館で剣術を共に習った幼友達の大沢要之助が訪ねて来た。彼は火付盗賊改の同心になっていたが、彼の先輩格宮島充三郎同心が本所の柳島村の土手で殺害されたのだが、殺され方が普通の刀で切られたものではなかったことで、武術に詳しい鷹之助に助言を求めて来たのである。しかしその時は鷹之助等はまだ満足に答えられなかった。
    それが機会となり、鷹之助が要之助の家を出向かうようになった。要之助の妹、三津とも会うようになるが、鷹之助にとってはとうに昔の話しなのだが、三津は初恋の女だった。お互い適齢期になった若者として、鷹之助は三津に自身を最下部の結婚相手として見做してくれるようにと、率直に己を曝け出して伝えるのであった。非常に爽やかで男らしい若者ぶりだ。
    鷹之助は、心が晴れないまま、切ない気分を晴らす為酒を憶える人となり、春太郎芸者の馴染み客になる。色々愚痴話しをこぼした中に、充三郎の殺しの事件もあった。そんなある時、春太郎が編纂所を訪ねて話してくれた鎌術に事件解決のヒントなるものを教えられる。
    江戸市中に伊藤一水が教える伏草流鎖鎌術の道場があり、その師範代は小松杉蔵である。彼に嫌疑が掛かるのだが、要之助が夜間見回りの時に、鎖鎌術を使う賊に襲われたということで、事件の元凶はむしろ火盗改方の中にいるとの思いに至った。さらに柳島村の又兵衛は、農民自らの護衛術として鎖鎌術を使うことが判るのだが・・・この後、物語は複雑な展開になり、思わぬ方向へと進む。
    結局、鷹之助は機を得た自らの行動力や彼の人柄にして様々な情報が集まる事、そして2人の老練剣士とのチームワークもあり、火付盗賊改方の内部の悪巣を暴くのである。

    0
    2021年02月05日
  • 若鷹武芸帖
    ネタバレ 購入済み

    家斉の武芸帳編纂所が無事始まる

    主人公の新宮鷲之助はお城で小姓組番で仕えていた。小さいときから熱心に剣術道場に通い、稽古に励んで立派な剣豪になった。小姓組番は将軍の身辺警護にあたるのが勤めである。彼は剣に強いのと育ちの毛並みの良さがあるが、反面世間を余り知らないという欠点もある。
    そんな彼は、将軍家斉から武芸帳編纂を命じられた。廃れゆく武士の武芸を調べて書き留める仕事である。新宮家の敷地内に武芸帳編纂所が建てられようとしている。鷲之助の相棒として柳生心陰流の水軒三右衛門が来る。それから彼の知古である円明流の松岡大八も加わり、仕事始めに「角野流手裏剣術」を調べる。
    この手裏剣術は角野源兵衛を流れの元とするが、その時は富澤秋之助が流派を継いでいる。その秋之介を探し出して、流派の詳細を聞き出すことを目指したものの、秋之介はある事件に関係して亡くなっていた。札差の主の殺しに関係しているのだが面白い事件である。面白く感じるのは、やはり世間知らずの秋之介がいるからであろうか。
    もちろん、角野流手裏剣術も武芸帳の始めに載ったのである。

    0
    2021年01月25日
  • 薬研堀小町事件帖 冬景色
    ネタバレ 購入済み

    気になるおちかの目の病い

    御殿医を務めたことがある漢方医、賀川玄旭の末娘おちかが、門前の小僧・・・ではないが、父の漢方医の仕事を見よう見まねで習い、女医になった。おちかは父玄旭、次男と一緒に江戸の薬研堀に居を構えている。まだ年若く美しい姿から、世間からは小町娘と噂されるが、本人は目の病を持っている。そんな女医おちかは、病人が出ると、診察に患家を訪れて治療を施して病人を治す話しである。
    患者は花街の女郎や江戸の町人、子どもから立派な旗本の母堂までと、様々である。
    江戸時代も終わりに近づく18世紀の末は、幕府の体制にほころびが目立つようになる。反面、江戸の町人達で中には莫大な財産を築き、武士をも凌ぐ勢いの者が現れるそんな時代である。
    病人はそうした時代の流れや変化に乗れない、ついて行けない弱い立場の人で、苦労して毎日の生活を送る人々である。
    この物語を読むと、この当時の華やかで爛熟した江戸町人の文化や世俗が驚くほど詳しく書かれていて、非常に興味を引かれて勉強にもなった。
    有名な小石川養生所が患者を診ることもせずに、腑分けに専心しているのを見た時、やがては、漢方医学も当時日本に入ってきた西洋医学の蘭学に取って代わってしまうのだろうと容易に想像できる。
    玄旭の医者としての基本精神は「病を治すのではなく、病人を治す」ことであり、おちかもこの精神で病人に真剣に対峙するのだ。治療のお陰で、患者が快方に向かえばこちらもふっと安心する。だが、薬の名前はちんぷんかんぷんでどこか異国にいるかのような気持ちになる。

    0
    2020年12月14日
  • 八丁堀の忍(四) 隻腕の抜け忍
    ネタバレ 購入済み

    抜け忍、鬼市に仲間が増える

    伊賀の隠れ砦は、子どもを拐かして連れて来ては、厳しい訓練で鍛え、忍󠄄を仕込み育てるという恐ろしいところだ。
    江戸の街を守る南町奉行所奉行の鳥居耀蔵がこの砦を考え、秘密裏に造られた。
    その砦から命からがら脱出して江戸に来た鬼市は、南町奉行所同心の城田新兵衛に拾われた。
    抜け忍は砦からの追っ手に襲われ殺されるのが宿命だが、鬼市はことごとくそれらを斃した。
    追っ手の中にくノ一の花がいたが、砦の頭の呪縛から解放してやり、鬼市と一緒に新兵衛の家で家族同様の扱いを受けて暮らしていた。
    城田新兵衛は鳥居耀蔵の奉行所の方針に嫌気が差し、病を理由に同心を辞めて「若隠居」に。まもなく柳生心陰流の免許皆伝の新兵衛は日比谷町に新志館という名の道場を開く。
    抜け忍がまた一人が八丁堀近辺で見つかり、追っ手を斃したものの腕に深手を負っていた。医者の処置もあり、左腕は失ったが命は助かった。「風」という名の抜け忍で、新兵衛の家で療養するうち鬼市の良き仲間となるのである。
    裏伊賀の頭、高尾の南は秘密を守るため、鬼市と花の抜け忍二人を殺害するために、今度は呪術でおのれと同身となるよう額に鍼を仕組んだ追っ手二人を江戸に送り込んだ。鬼市、新兵衛と花はもちろん、道場の門弟達と力を合わせて、彼らと死闘が繰り広げられたが、なんとか追っ手を斃した。
    鬼市は、子どもを人体兵器に変えるこうした砦をどうしても潰したいと心に思うのである。囚われの子ども達をいつかは親の元に帰すことを誓うのである。
    敵は伊賀の隠れ砦と彼らから氏神様と呼ばれる鳥居耀蔵である。倒すのは簡単に出来ることではない。
    風が鬼市に新しく仲間に加わり、さらに道場主の城田新兵衛と師範代の良知大三郎、門弟の朝比奈源太郎などみな剣豪揃い。鬼市の仲間は増えたが、果たして鬼市の夢は叶うのか・・・
    刀を抜いて戦う時はどちらも強豪で迫力を感じる。思わず手に汗を握ってしまう。息の抜けない面白い物語だった。

    0
    2020年10月23日
  • 源 頼朝(上)
    ネタバレ 購入済み

    源頼朝の思いの変化

    平治の乱の後、京を追われた源氏が再びその家を再興する歴史物語だ。
    源頼朝は、父・義朝に従い兄の義平と共に平治の乱を起こした。平治の乱は藤原信頼と義朝が、政から上皇派の排除を計った蜂起だが、上皇派の首謀者鎮西を殺害して一時は義朝に有利だった。しかし平清盛の巻き返しに遇い、成果も横取りされた。敗れた義朝は尾張で殺され、義平と頼朝は死罪の刑を受けた。
    その時、頼朝だけ15歳という若さ故、池禅尼の口添えで伊豆に流刑となった。
    源頼朝は、伊豆に流された当初は仏道修行で写経などをして謹慎に近い生活を送るが、段々とその地の人たちとの交わいもあり、穏やかな生活を送っていた。夏には海沿いの豪族の家で過ごし、秋には伊豆天城山で狩りを楽しみもした。
    穏やかに時が過ぎていき、10年ぐらい過ぎた頃に北条政信の娘、政子と結婚する。幸せな生活を送る中、頼朝の心には源氏再興の思いが消えていくのだった。
    ただ、騒ぎが一向に収まる気配がない京。京の情勢については頼朝に都の三善康信から書状が送られてくる。
    時もまた数年余りが経った頃、平家は力を背景に京で横暴、傲慢な政治の有様。奢る者ひさしからずや。
    伊豆や関東では北条と並ぶ勢力のある山木兼隆が目代に登用された。平家との関係が親しい彼は、頼朝への目配りが厳しくなるのである。京からの知らせで、平宗盛は伊豆の源氏に対して天皇からの令旨を受けたかどで追補吏、相模国大庭景親が派遣されると知らされる。
    1180年(治承4年)8月17日、伊豆国で源頼朝は挙兵して、目代、山木兼隆を討つと相模国へ進軍する途中、石橋山の戦いで大庭景親と伊豆祐親らの平家軍に敗れ、山中に逃亡・・・
    命からがら真鶴岬から土肥実平が用意した小舟で安房国へ向かった。
    もともと関東は源氏との関係が深い。地の利がある。
    これからは頼朝のもとには多くの武者たちが集まり、彼は大軍を引き連れることになるのか。そして高みの権力を目指して、京に上れるのだろうか。

    0
    2020年08月31日
  • 海賊とよばれた男(下)
    ネタバレ 購入済み

    石油事業で生きる国岡鐵蔵

    ここにある国岡鐵蔵のように戦前、戦中、戦後を通して大事業を為した実業家は多い。
    特に、敗戦後の日本の復興期、主に製造品の輸出を伸ばして、人々を豊かにして社会の発展に寄与した企業は数多くある。
    日本は戦後めざましい発展をした。
    こうした大事業を為した実業家はいずれの方々も立派な哲学を持って会社を経営しておられた訳で、鐵蔵をそうした人の代表者としてこの小説を読めば、そうした人たちの人生、生き様を知ることが出来ると思う。
    非常に感動的な物語である。

    0
    2020年07月14日
  • 海賊とよばれた男(上)
    ネタバレ 購入済み

    幾重もの苦労を乗り越える鐵蔵

    国岡鐵蔵の国岡商店、エネルギーの将来は石油にあると考え、石油の販売を始める。
    明治の終わりから戦前の昭和そして戦後と一貫して石油製品の販売事業に携わった。
    事業の初期は、日本は未だ家の燃料は薪や炭が中心であり、自動車も数えるほどしか走っていなかった。
    そん中、機械油に活路を開くも、外資系との品質の差は歴然だった。
    国内市場は既存の大手会社が市場を形作り、石油を売りたくても売れないという状況ではあったが、販売の地を満州に移したことで、満州鉄道に機械油を納入することが出来、なんとか商店の活動も軌道に乗るのだった。
    国岡商店は社長、鐵蔵の「社員は全員家族である」という経営理念と、生産者と消費者直接結びつける斬新な販売方法をもってしても赤字続き、やがては運転資金の枯渇に見舞われて借金を重ねるほどの苦労続きだった。
    上海に支店を出して、灯油の販売で売り上げを伸ばすのに成功する。
    しかしその頃から、この地域に戦争の影が色濃くなった。やがて、満州事変が起きて、それから太平洋戦争に発展していった。
    資源がもともと少ない日本は戦争の始めだけ奇襲作戦が成功したのみで、その後は負け戦さ続き。
    シンガポール進出で獲得とした蘭印石油の発掘を援助することにはなるが、制海権を失った日本への石油の搬送は多くの運搬船が沈められて困難を極めた。敗戦は当然の結果だった。
    鐵蔵の国や社会を思う気持ちは強かった。敗戦後もひたすら、他の企業がしないタンクの浚いや石油とは関係ないラジオの修理などの事業をして食いつないだ。
    若い頃、鐵蔵に送られた「士魂商才」の言葉通り、そのままを体現した人の物語である。

    0
    2020年06月25日
  • 不義 刃鉄の人
    購入済み

    赤穂浪士事件のもう一つ顛末

    こんな「赤穂浪士討ち入り事件」の顛末があるのかと感じさせられた作品である。
    主人公は一戸舞国包󠄃で、彼の縁筋から人の始末を依頼される。これは前作と同じ流れである。
    討ち入り事件で犯した二人の不忠者がいる。一人は吉良方の家臣、山陰甚左。もう一人は赤穂浪士の河井太助である。彼を探して郷里赤穂から江戸に来た内儀の由良との悲しく切ない物語だ。
    しかし、この物語を読んでいると、一見ありそうに無いと考えてしまうのだが、いや有るかもしれないと思わさせる不思議な物語である。そもそも主人公の国包󠄃は市中の刀鍛冶であり、その人がなぜ人の始末を依頼されなければならないのかが、どうしても腑に落ちない。赤穂浪士の話しは歴史小説なのだからリアルで真実である。しかしこの作品を読でいると、どこからフィクションで物語られているのか見分けるがの難しく解らない。歴史小説と時代小説が巧妙に入り交じる作品である。赤穂浪士の事件が詳しく述べられていたりおそらく歴史考証も正しいのだろうが、だからこそ無さそうで有る、有りそうで無いという相反する思いが読んでいながら感じてしまう不思議な物語である。読み人にそうした感情を湧かせるというのも魅力なんだろう。

    0
    2020年05月14日
  • レジェンド歴史時代小説 高杉晋作(下)
    ネタバレ 購入済み

    幕末の志士、高杉晋作の活躍

    西洋列強の国々が日本の海に現れた時、長州は藩是を尊皇攘夷主義に統一した。幕府が、アメリカと通商条約を締結して鎖国から開国に政策を変更したことで、そのことを不服として長州藩の若き志士だった高杉晋作は、仲間の久坂玄瑞、桂小五郎らと倒幕を目指した。京都で「禁門の変」と呼ばれる戦さを引き起こしたが、薩摩藩と佐幕派の会津藩の同盟により失敗、敗北して長州は京から一掃されてしまった。
    自ら髪を切り故郷に帰った高杉は野山獄に監禁された。この後、幕府の長州征伐が始まるのが当然予想される。
    長州藩政はそれまで勤王派でまとまっていたものの、徳川幕府に従う佐幕派が優勢になり、藩内は内部分裂、内戦の状態に陥る。この二分された藩内を一つにすべく、再び高杉晋作が指名されるのあった。
    高杉はわずかな同士たちと奇兵隊でこの内戦に勝利して、再び藩は尊皇攘夷主義にまとまり、幕府との戦さに備えを進める。
    高杉に志を同じくするたくさんの援助者がいたが、なかでも坂本龍馬の援助と仲立ちで西洋式の最新の武器を購入したり、薩摩の西郷とも連携が計られ、幕府の征長戦に対する長州の護りが強固になった。
    幕府の長州との戦さは、将軍家茂の死去により幕府軍が後退して終わる。そしてその後、更に幕府は薩摩藩などの追撃を受け、徳川の世は終焉となり、新しい時代に突き進んでいくのである。
    この幕末期を生きた高杉晋作は、自ら天命を受けた革命家と自認し、自らの命も顧みず大活躍を果たした。一方で、戦さのかたわら、花街や郭に足繁く通う俗人間だった。しかし、これも又、天命を受けた人間だけが、難しい世の中を生き抜くために天が与えた特別な機能であると言うのである。血なまぐさい戦さに明け暮れる人間のささやかな息抜き、心の癒やしの時であったらしい。
    彼は27歳8カ月という若さで労咳を患いその人生が終えたが、その名は今日まで聞こえている。

    0
    2020年03月13日
  • 八丁堀の忍
    購入済み

    忍びの痛快な仕事そして働き

    鬼市は幼子時にかどわかされて、人体兵器となるべく、忍びの里に連れて来られた。悲しくも親の顔も知らない時の出来事だ。その定めの鎖を自ら断ち切り、鬼市は裏伊賀の隠れ砦を抜け出してはるばる遠くの江戸まで逃げて来たのだった。
    鬼市は、江戸の賑いに戸惑い、大川近くの食べ物屋で岡っ引きに捕えられたが、見回り同心城田に見初められその家の小者となり、長屋に住むことなる。
    江戸の町の営みは鬼市が過ごしてきた伊賀の里とは大きく違い、人情があり心休まるものがあった。
    だが、数奇な運命に翻弄されてきたこの若者は、常人にはない、おのれもまだ分からぬ力を持ち合わせているようだ。
    このところ江戸の町の夜には辻斬りが頻発していた。その犯人を追い詰めるべく、城田は見回りを続けていたが、その捜索を鬼市の忍びの能力が助けるのだった。痛快な物語である。

    0
    2019年04月26日
  • 走るジイサン
    購入済み

    老人たちの静かな喜び

    鋳物職人として働いてきた作次が退職をして毎日家で過ごすようになると、果たして何をして過ごせばいいのかと戸惑い、悩みそしていらだちすら感じるようになった。普段の生活の中でだんだん彼は独り言が多くなっていった。その内、猿が彼の頭に座っているのに気付いた。作次だけに見えるこの猿は彼の独り言の聞き役なのだろうか。
    作次が住む地域に「ちゃちゃ」という喫茶店があり、そこでほぼ毎日午前中は近所の仲間二人とおしゃべりで暇を潰している。彼らは皆、老人特有のひがみや被害者意識いわゆる疎外感を抱いているから、おしゃべりといってもほとんどが愚痴り合いだ…
    作次が喫茶店の娘の悩み相談に乗っているところでは、娘の一途な恋心を傷つけないように上手く心をなだめ、娘が将来の希望の職業であるデザイナーへの道に気持ちを集中させるのに成功する。
    作次は息子夫婦との同居生活をしている。息子の嫁に最近無言電話が掛かってきていて気になるのだ。不倫でもしているのかと勘ぐる。しばらくして、嫁の方から過去の不倫の件で脅されていると打ち明けられて、是非止めさせて貰いたいと頼まれる。
    更には、健造の夫婦仲の悪さの愚痴を聞いたり、逆に夫婦仲の良い正光夫婦の自慢話に耳を貸したりと付き合いに忙しい。ただ、作次は年齢からか体力面や精神面で衰えを見せ始める。ある時、作次は家で失禁をしてしまう。そしてそのことで作次は落ち込む。しかしそこにある息子の嫁の下着を見て連想し、想像を膨らませることで気を紛らわせ、失禁で落ち込んだ自分を慰めてその場を逃れるのだが、もちろんそんな不徳な自分に気付いて反省もするのだ。
    息子の嫁から頼まれていた不倫相手の社長に会いに行くが、社長は作次が予想していたような人柄の人ではなく、非常に紳士的な対応に安心する。
    こうして作次は息子夫婦との共同生活にも喜びと幸福を感じるのである。しかし相変わらずふだんの生活を送る中、独り言が益々増えていくのである。
    老齢期はいわば不毛の時期だとも言える。何か実りあるものを得たい、暗い夜空に煌めく星を見たいと願うのは何も老人だけに限らないが。毎日独り言をブツブツと言いながらも生きる意欲を失なわないことが大切だと、この物語が教えているようだ。

    0
    2018年11月16日
  • 格闘する者に○
    購入済み

    自分の若い頃を思い出す

    就職活動をする女子大生の姿が生き生きと描かれている。家柄を考えれば、無理して就職をする必要も無いと思われるが、それに対して反発してなんとか自活して生きていこうと考えている。
    漫画を趣味とする主人公の可南子は出版社で働きたいと願う。未だ男性優位の考えがうっすらと残るのが会社であり、筆記試験では合格しても面接では面接官のなんとなく女性を馬鹿にしたような質問に窮して、上手くいかない。大手業界は落ちてしまうのだが、中小の業界への就職活動を諦めずに続けていく。
    大学の友人たちとの気心の知れた気軽な会話には、はやり言葉など世代の違いがあって意味が分からず、辞書を引いて理解するという面倒を感じたが、正直、逆に余計に興味をそそられた。面接試験で面接官とのやりとりのことなども、若い人の考えていることがここでは感受性たっぷりに描かれている。
    物語は、試験に受かるかもしれないと期待をしていた小さな出版社から不採用の通知を受けて意気消沈していた時、家出をしていた弟が帰るという幸な結果が同時にもたらされる。そして家族の暖かい絆に改めて気付いてそれを抱きつつ、おそらくは再び出版社への就職活動に挑戦するというところで終わる。読後感が良い。

    0
    2018年11月01日
  • むかしのはなし
    購入済み

    大人の「おとぎ話」

    大人の話と言えば、エロティックなもの。加えて乱暴な、暴力的な諍いものが大概だろう。いわゆるえげつない話しである。そうした先入観があるから、読んでいても大して面白いとは思われない。突飛な作り話でバカバカしいと思う。でも、大人が集まればたぶん似たような話しをするだろうから…
    この小説に出てくる人物も、ヤクザの女に手をつけて殺されかけているホスト、空き巣の話し、父の弟と関係を持ち、精神科で強制的に治療受けている自殺願望がある女性(高校生)、過疎地の若い漁師の話し、美容整形治療中の女を乗せたタクシー運転手の話し、新種の花の開発に携わる研究員と付き合っているが無気力に生きる女性の話し、などが収められている。
    8つの話を読んで話しの終わり方が変わっていると感じる。つまり、物語を水の流れに例えると、その水が突然、瞬間蒸発して跡形もなく消えてしまうよ
    うな終わり方だと感じる。上手いと感じる。おとぎ話のようなものだからという訳でも無い…。
    「隕石が地球に衝突する」という大きな命題があるのだ。
    非常に長い地球の歴史を考える時、人間を含めて生物の世界では、今ここに生存している生物の確率は非常に低い、という話しを聞いたことがある。生きてここに生存しているということは真に奇跡に近いというのだ。
    ふだんはこうしたことを考えることはない。しかし、考え始めると取り留めのないようなものであり、考えが及ばない。
    最後の物語で、物語の終わりに、主人公の「僕」が「私」に変化していることに、作者がこの命題を誠実に考えていたんだと感じる。
    全体を読んで、少しややこしい話しだけれども読んでみる価値はあるかもしれない。

    0
    2018年08月21日
  • まほろ駅前多田便利軒
    購入済み

    不思議な作品

    この物語を読んでいて、初めの設定がつまらない。読む気が起きない。考えてみれば、物語の場所が東京郊外の架空の町「まほろ市」だからなのからかもしれない。さらに、便利屋を営む主人公の多田と店に転がり込んできた級友の行天という人物に、物語の中で通常の生活実態が窺われないのだ。だから共感を持って読み進むことが出来ない。非常に読みづらい物語だ。
    しかし、無理にでも読んでいくと、いつの間にか物語が面白くなり引き込まれて、読むスピードも上がってしまう。あっという間に読み終えてしまう。そこに不思議さと魅力を感じる作品だ。

    0
    2018年07月11日
  • 居酒屋お夏 八 兄弟飯
    購入済み

    お夏のさりげない助太刀

    第二話 お前のそばで……
    大阪から仕官を求めてここ目黒で居を構えた鬼王虎之助は、なかなか良い仕官の道が見つからないでいた。確かに名前は豪快ではあるが、名前には似つかない容貌である。ただ器用な性格で、口入れ屋の龍五郎からの賃仕事で日々を暮らしている。
    同じ目黒不動のそばにある”たけや”というそば屋におえんという年増がいて、虎之助とおえんは気を通わせる仲である。虎之助は長い浪人暮らしに疲れを感じているのだが、武士の身分を捨てる覚悟が定まらない。
    武士として身を立てることとおえんを妻に迎えたいという二つの気持ちが空回りする。淡々と大人の恋が描かれていく。話しは流れるように進んでいき、虎之助とおえんに降りかかる面倒事など誰にもあるようなありふれたもののようだ。話しの運びの良さが決して読む人を退屈にはさせない。

    0
    2018年04月19日
  • 隠密 味見方同心(八) ふふふの麩
    購入済み

    不思議な物語の進展

    魚之進が怪しいと思っていた河内山宗俊と中野石翁は見当違いであった。この両者は江戸時代後期の歴史上の人であり、悪を働いた人物かもしれないが、江戸の町民、庶民たちからは人気があった。
    シリーズ物の物語で、物語がいかようにも発展していくのだが、結局は彼らは魚之進の兄、波之進を殺した下手人ではなかった。
    下手人とおぼしき人は、どうやら水戸藩が絡んでいるようだが・・・
    こと、抜け荷が罪の話になって、果たして最後は本当に徳川御三家の水戸藩内に下手人がいるのかと疑いを残しながら、読む楽しみがある。

    0
    2018年01月19日
  • 隠密 味見方同心(七) 絵巻寿司
    購入済み

    いよいよ物語が佳境に入る

    味見方同心だった兄、月浦波之進が殺された理由を探してきた弟の魚之進がだんだんとその確信に近づこうとしている。
    波之進が残した言葉、「おいしいものの裏にある悪」とは。
    おいしいものは「ケイク」であることが判明。
    特に「まぐろの千切り」の段では、料亭「おくやま」の板長・丁次が殺される。
    その犯人「出島屋」の修二郎は西方の美味神で丁次を誘惑する。
    当時は得体の知れないバニラを丁次が修二郎から盗んだがか、食べしまい殺された。
    物語のこの辺りが微妙でとても面白い。香料が思わせる話しだ。
    そして、さらに北谷道海こと河内山宗俊と向島に住む中野石翁が抜け荷に絡んでいることが浮かび上がる。
    もう少しで波之進が殺された動機が判明するのだが…
    物語が続いていく。

    0
    2018年01月11日
  • 慕情の剣 女だてら 麻布わけあり酒場5
    ネタバレ 購入済み

    幕閣鳥居耀蔵の執拗な追跡

    麻布一本坂の女将の名をそのまま付けた「小鈴」という小さな飲み屋。
    毎晩飲みにやって来る町人たちが提供する様々な悩み事や事件。
    それらを明快に解決する女将とその仲間たち、すなわち、小鈴と以前は瓦版屋で今は岡っ引きの源蔵そして引退した同心の星川、裏に義賊の面を持つ日之助の活躍。
    その物語を挟んで同時に進行するのが、解明は派の文人や武士たちの「捲土重来」の筋書き。
    大砲を撃って大阪の天満一帯を焦土として逃亡して、後に爆死したという大塩平八郎。
    図らずも、彼は生き残り再び乱を起こす計画を抱いている。
    彼を中心に、鎖国政策を続ける幕府に異を唱える開明派の人たちは幕閣の鳥居耀蔵の厳しい弾圧が加えられる物語であり、
    そしてそこから逃れるため彼らの逃亡を小鈴が手助けしていく物語である。
    非常に痛快な時代ドラマである。

    0
    2017年10月10日