あらすじ
雲母(きらず)橋―叶わぬ恋と一度はあきらめた男と再会した女。千鳥橋―我が娘の幸せを、陰から見守る男が零す一筋の涙。思案橋―いがみあう兄弟が掴んだ家族の絆…。江戸府内を預かる北町奉行所の橋廻り同心・立花平七郎の人情裁きが冴えわたる!好評第三弾。
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Posted by ブクログ
内容紹介
行きつ戻りつ、思案橋
橋上で交差する人生模様…
情をもって剣をふるう、江戸・橋づくし物語
第三弾
雲母(きらず)橋−−叶わぬ恋と一度はあきらめた男と再び巡り会った女。千鳥(ちどり)橋−−逢えぬ我が娘の幸せを、陰から見守る男が零す一筋の涙。思案(しあん)橋−−橋を挟んでいがみあう兄弟がつかんだ家族の絆。今戸(いまど)橋−−国を追われ、武士を捨てて市井で生きる男の矜持……。江戸府内の橋を預かる北町奉行所の橋廻り同心・立花平七郎の人情裁きが冴えわたる好評シリ−ズ第三弾。
平成30年12月17日~19日
幕府が巧みに江戸市中を守る
橋廻り同心、立花平七郎は江戸に沢山掛かる橋の検査の役目に就いている。これは奉行所の一つの役目なのだ。木槌で叩いて橋梁や橋板などの腐食、傷みを見つける。単純だが根気の要る仕事だ。もし落ち度があれば、橋の倒壊や流失などの重大な事故に繋がる。だから、たまに平七郎は仕事後には橋の袂の茶屋や居酒屋で相棒の秀太とその日の疲れを癒やすのだった。
江戸は広く大勢の人が橋と係わりがあるようだ。橋のある風景は、時に人を故郷で見た景色を思い出させて懐かしい気持ちにする。また、橋の袂に風雪に耐えてたたずむ老木を眺めては、自身の励みにすることもある。
第三話では、東堀留川に掛かる思案橋。近くに魚市場があり新鮮な魚が手に入りやすいので、蒲鉾屋「万亀堂」がある。一昔前まで兄弟二人で店を営んできたのだが、所帯を持つと、店は元祖万亀堂と本舗万亀堂に橋を挟んで別れてしまった。どちらの店が本店かを争う醜い兄弟喧嘩が始まった。腕の良い調理人を巻き込んだ二人のけんかは、その調理人の自殺を招いたのだった。自殺は自殺なのだが、しかしその後兄の万太郎が拐かされて身代金を要求される事件になった。自殺した調理人の息子新助がその事件に関与していた。しかし、新助が改心して、事件は未然に防がれた。犯人は捕らえられた。この時兄を救うために、弟亀二郎が金の工面したこともあり、その後万太郎と亀治郎の仲は戻り、新助は万太郎から店を任せられるようになった。
物語の筋は、瓦版屋のおこうの美しさや色気に平七郎が一瞬気を散らすことや、新助のすれた女が出てきたり、で二度逸れて元の筋に戻る面白い展開である。
しかし、話し自体は非常にリアルである。それは、兄弟喧嘩の仲裁依頼「公事願い」が奉行所から出てきたというところがあり、古文書を下書きとして書かれたのではないかと思われるからである。
当時の幕政が巧みにそしてきめ細やかに市中に行き渡り、犯罪事件や訴訟などの問題が法律により公平、丁寧に処理されていたことが判り、大変興味深い物語だと思う。