本書の中で一番印象に残ったのは、「意欲のないところに創造性は芽生えない。そして創造性のないところに感動はやってこない」という言葉です。
IT業界ではAIや新しい技術が次々に登場します。しかし、新しい技術を学ぶ人と、変化を拒む人との差は、頭の良し悪しではなく「面白そうだからやってみよう」という意欲の差なのだと思います。技術者は論理的であるほど、新しいものを否定する理由を探しがちですが、本書は「まず感動すること」「興味を持つこと」が脳を成長させる入口だと教えてくれます。
特に共感したのは、「人は年を取るから創造性を失うのではなく、経験だけで物事を判断し、新しいものを見なくなるから創造性を失う」という考え方です。
会社経営でも同じです。「昔からこのやり方だから」という言葉が一番危険です。IT業界は数年前の常識がすぐ古くなります。だからこそ、自分自身が「初めて」を楽しめる人間であり続けなければならないと改めて感じました。
本書では「本物に触れること」の大切さも繰り返し述べられています。美術館へ行く、音楽を生で聴く、文化財を見る。これは一見すると仕事とは関係ないように思えます。しかし、創造力とはゼロから生まれるものではなく、多くの体験や知識が組み合わさって生まれるという説明には納得しました。
実際、ソフトウェア開発でも、優れたサービスは既存の技術やアイデアの組み合わせから生まれています。モーツァルトが当時流行していたトルコ音楽を取り入れて「トルコ行進曲」を作曲した話は、その象徴でしょう。
新人教育についても考えさせられました。
最近は「考える力」が重視されますが、本書では創造性を育てるには、まず基礎知識をしっかり身につける必要があると述べています。私も現場で新人を見ていると、基礎がない人ほど応用も利きません。自由な発想は、土台となる知識があって初めて生まれるものだと実感しています。
また、「感動したことは表現する」という考え方も印象的でした。
技術者は感情表現が苦手な人が少なくありません。しかし、お客様との仕事では、「ありがとうございます」「すごいですね」「助かりました」といった一言が信頼関係を築きます。感動を言葉にすることは、人間関係だけでなく、自分自身の感動回路も鍛えるという脳科学的な説明は興味深いものでした。
一方で、本書には賛否が分かれそうな主張もあります。例えば、「ゆとり教育は失敗」「日本車のデザインが悪いのは欲望が低いから」といった記述は、やや断定的に感じました。また、男女の脳の違いや日本人とイタリア人の感情表現についても、現在の研究ではより慎重な見方が一般的でしょう。
しかし、本書は厳密な学術書というより、「感動することの価値」を伝える啓発書として読むと、多くの気づきを与えてくれます。
私が経営者として一番心に残ったのは、「感動しないことが老い」という言葉です。
会社も人も、変化を止めた瞬間から老いていきます。新しい技術、新しい人、新しい価値観に感動できる人は、何歳になっても成長できます。
これからAIがますます普及し、プログラムを書くこと自体の価値は小さくなっていくでしょう。その時代に人間に求められるのは、感動し、共感し、新しいものを生み出す力です。本書は、その原点は脳ではなく「感動する心」にあることを教えてくれました。
零細企業の経営者としても、一人の人間としても、「昨日と同じ毎日」と決めつけず、小さな感動を見つけ続けること。それこそが成長し続けるための最大の秘訣なのだと感じた一冊でした。