中島京子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
本書の舞台は、銀婚式を迎え、一人息子は地方の大学院に進み、今は二人暮らしの家庭。夫 守は小さな編集プロダクションを営み、妻 聖子は経理事務所でパートとして働いている。
ある日、夫がある企業のPR誌に女性論の執筆依頼を受け、参考文献として書棚から60年前のベストセラーエッセイ 伊藤整著「女のための十二章」を取り出し、読み直している。その夫から「君も読んでみる?」という勧めもあって、妻はタブレットで読んでみることに。
本書は、妻 聖子の日常で起こる様々な出来事とふたりが読み進める「女のための十二章」が絶妙な塩梅で絡み、展開していく。
一見、平凡に見える日常も、いろんな小波が押し寄せては消え、また新たな小波が押し寄せるその繰り返し。この小説にも、妻の仕事に理解を示そうとしない夫の言動に苛立ち、女っ気のない息子が初めて連れてきた女性の器量のなさに呆れ、挙句に同棲してると聞かされ仰天、仕事先で出会った元ホームレスの初老の男の存在が気になったり…。
いまさらながら妻が担う家事は掃除洗濯料理だけでない。行き場のない案件を総務課が担うように、妻にお鉢が回り対処に当たることしばしば。総じて夫は及び腰で、矢面には立とうとはせず、口だけは評論家よろしくいっぱしのことを語る。
平凡な暮らしを維持するということは、押し寄せるいろんな出来事に苦悩、翻弄、動揺を経て、受容したり諦念を抱いたりしながら、歩みを進めていくことなんですな。
本書の白眉は、現代の出来事と60年前のエッセイの内容が重なり、今も昔も人間の「業」に根差すものは普遍であると同時に不変であることを思い知らされる。
それにしても、この手の小説やテレビドラマに登場するシニア夫の描かれ方が、あまりにもモジュラー化というかカリカチュアライズされ過ぎてるのでないかな。小太りで、小心なくせに不遜、デリカシーに欠け、妻に対し常に「こんなこと知らないの」的上から目線でものを言い、しょっちゅうお腹を空かしては何か作ってくれと言い、静かにしてればソファで口開けてうたた寝をしてる。幼児化が著しく、妻は呆れを通り越し、「なぜこの人と一緒になったんだろ」とトホホな気分に苛まれる。
本書は、妻目線で描かれた小説だからこそ、シニア夫にこそ読み、自己省察に励んでほしい。僕は妻から夫への提言書として読んだ。 -
Posted by ブクログ
ストーリーラインは極めて悲惨、72歳の当主に66歳の妻、30歳の引きこもり長男3人家族に、自己破産した娘婿家族、離婚して未婚の母となる次女、そして姑。よくここまで集めたなといったオールスター軍団がひとつ屋根の下で集う(正確には3つ屋根の下、なんなら一つの敷地でもよい)物語。一つ一つの家族の形は取り出してみると、昔ほどは悲惨ではないが、でもやはり厳しい状況である。そしてそれが一つの敷地に集うとなると通常は「親の育て方が悪い」となるが、それはほとんど感じないのである。なるべくしてなった、そんな自然な形で物語は構成されている。
しかし、である。どことなく明るい。おそらく想像だが少しずつ上向き気味に描かれていて、この展開はあとから振り返るとなるべくしてなったと言いようがない。それは例えば引きこもりがいきなり結婚したり、自己破産した娘婿は新しい生きがいを見つけるし、いじめられないように慎重にストーリー建てした孫は、取り返しのつかない態度を悔い改めることで前向きに吹っ切れ等など。どこはかとなく明るかったものが、物語の展開とともにくっきりとした明るさに変化していうのだ。いつまにかシーンが置き換わる、これを映画ではなんというか知らないが、小説としてはかなり良くできた作りだと思う。
『平成大家族』は『小さなお家』で直木賞を受賞した中島京子の作品。『小さな~』には到達できていないが、全体のトーンを垣間見ることはできる。しかも完全にダークグレーという世界ではなくどちらかと言うと青空が広がる爽快感に包まれる物語で読後感が非常によい。だって、どうみて暗い状況が無頓着な家族のおかげで、明るい喜劇的な小説に仕上がっており、そして最終的には世界と自分の平和を祈ることができるかな!(ご長男とご相談)