【あらすじ】
妃真加島で再び起きた殺人事件。その後、姿を消した四季を人は様々に噂した。現場に居合わせた西之園萌絵は、不在の四季の存在を、意識せずにはいられなかった……。犀川助教授が読み解いたメッセージに導かれ、二人は今一度、彼女との接触を試みる。四季に知られざる一面を鮮やかに描く、感動の第三弾。
【感想】
四季の春夏と違って、西之園萌絵視点で物語が進む。S &Mシリーズ、Vシリーズが交差する話で、単発で読んで楽しいというよりも今まで追ってきたファンが読んでこそ楽しい作品だと思う。
なぜあの研究所を出たのか、というのが確かに今まで描かれていなかったし、夏で出てきた通りドクタースワニィとの関係性が分かって、面白かった。
保呂草さんと各務亜樹良の関係性が良いし、萌絵が紅子さんに会ったシーンが好き。
【好きな箇所】
「いえ、それはわかるの。でもね、正しく理解して、充分に評価することと、愛情は、また別ものでしょう?」
「考えることだけが、自由なんだ」犀川は言う。「行動なんて、些細な問題だ。考えたことを、僅かに具体的に、ほんの部分的に試すに過ぎない。完全なサブセットなんだ。考えたことの百分の一だって実現することはできない。行動するだけで時間やエネルギィが消費される。真賀田博士くらいの思考能力を持っていれば、行動はすなわ無駄だ」
(略)
「それって、つまり、生きていることが無
駄、ということになりませんか?」
「いや、思考は生きていなければできない。肉体を動かすこと、物体を移動させることが無駄だという意味だよ。そう考えている人間が、何故、あんなことを、つまり研究所を抜け出したりしたのか、という問題」
「自身の中にどれだけの自由を取り入れることができるかしら。 時間と空間を克服できるのは、私たちの思想以外にありません。生きていることは、すべての価値の根元です。」
「意志?」
「可能か不可能か、という問題では、きっとない」 犀川は鋭い視線を萌絵に返した。
「それを可能にする意志が、あるかどうかだ」
「その価値を認めるかどうか。そして、それを許すかどうかだ」
「歴史的に築かれたモラルは、そのほとんどが、生命を守るために、我々が存続するために選ばれた手法の一部なんだ。人を殺してはいけない。人を食べてはいけない。血縁者と交わってはいけない。生命は神聖なものだ。人は神によって作られた。堕胎をしてはいけない。自殺をしてはいけない。しかし…………」 犀川は煙草を吸い、そして煙を吐いた。「それらはすべ
て、結局のところ、人の集団を守るためのエゴでしかない。自然を破壊してはいけない、何故か?それは人が生きにくくなるからだ。あらゆる道徳は、そのエゴから発している。それが良い、悪いという話をしているのではない。(略)」
「私が許しても、許さなくても、あの人は存在している。」
「そうだ。君が許さなくても、地球はある。誰も許さなくても、太陽の周りを回っているんだ」
ハンカチを出して、涙を拭った。
四季も泣いただろうか?
人間は、どうして泣くんだろう。
どうして、どうして、どうして、それを言うのが人間?
けれど、涙を見てくれる人がいる。
疑問を受け止めてくれる人がいる。
それだけで、充分ではないか。
静かに。
自分が泣くことを許すように、沢山のことを許さなくてはいけない、と彼女は思った。
「国枝先生は、人のクロンを作ることを、どう思いますか?」
「動物のクロンを作ることと、あまり変わらないと思う」
「いや、賛成も反対もするつもりはない。そういうのは専門家が判断することで、充分な情報を持たない私が、どちらか決めても意味はないね。ただ、クロン技術で生まれた人間は、本当の人間であって、もし実現するならば、そういった人たちを守る法体制が必要だろうとは思う」
(略)
「肉体が単なる入れものに過ぎない、問題はハードではなくて、そこに芽生えるソフトなんだって、なんていうのかしら、そういったフィジカルな拘束から精神が解放される日が、いつか来るでしょうか?」
「眺めていても、いくら近くで見ていても、その理想には近づかないわ」
「それはそうですけれど、その理想の人を、自分の方へ向かせれば、その一部だけでも、自分のものにできるかもしれないって・・・・・・」
「何が自分のものにできるの?」
「えっと….....」
同じだと萌絵は気づいた。
他人の何を自分のものにできるのか。
その実体は、何なのか。
同じ概念に自分は拘っている。
「幻想ですね」 萌絵は頷いた。
「扇風機のように、前にしか風が来ないのなら、こちらを向いてくれないと困りますけれどね。たとえば、太陽はどう? メキシコが晴れていたら、その分、日本は損をしますか?」
「つまり、その差は、何ですか?」
「貴女が、太陽を好きになったか、扇風機を好きになったか、の差です」
「結局は、私の問題なの。私の認識だったのね」
「それは、人を許すということですか?」
「いいえ、自分を許すということ」
(略)
「人は、自分が許せないときに、悲しくて泣く、そして、自分が許せたときに、嬉しくて泣くの」
なにかの答を得たような気がする。
何だろう?
どんな問題だったかしら?
解けてしまったときには、問題も消えている。
それが、本来の問題だ。
消えたあとに、優しい気持ちだけが残る。