寺地はるなのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
男なら、女なら、母なら、世の中には数えきれないほどの「普通」が存在する。
手芸が好きな高校一年生、松岡清澄。彼は「男の子なら普通は」と自分の好きなものを、世間から受け入れてもらえない。
かわいいものに抵抗がある姉の水青。彼女は「女の子なら普通は」と自分の怖いものを受け入れてもらえない。
この二人を見ていて、好きなものも怖いものもその人を形作る一部なんだと感じた。だから、否定されると自分ごとバツ印をつけられたような気持ちになってしまう。
シングルマザーとして子ども二人を育てる母、さつ子。彼女は「母親なら普通は」に苦しんでいる。ここの描写が私にはかなーりズシンときた。
母親=我が子に無限の愛を注げる人、となりがちだけど、子どもに心底腹が立つこともあるし、疲れてると「もう一人にしてよ」と思うこともある。
私もそう。その度に「母親なのにな」と罪悪感が顔をのぞかせる。でも、それは愛してないわけじゃない。子どもたちには幸せになってほしいし、辛い思いはなるべくしてほしくない。だから、さつ子さんの気持ちが手に取るようにわかった。
『子どもは親とは別個体で、所有物ではない』
わかってる。わかってるけど…「もし立ち直れないくらい傷ついたら」「人生が大きく狂ったら」ってところまで想像しちゃう。だから先回りしたくなる。子どもを支配したいというより、取り返しがつかないことから守りたい。
そんな私なので、祖母である文枝さんが話した「失敗する権利」「雨に濡れる自由」がグッサグサ刺さる。もう、本当に目の前でお説教されてる気分。
ただ、文枝さんもお気楽なおばあちゃんの立場からこの話をしているわけではなく、自身の経験からかなりの決意を持って「雨に濡れる自由」を尊重している。だから「親じゃないからって無責任なこと言わないで」とは言い返せないんだよな。
この辺り本当に身につまされました…
水青が仮縫いのウェディングドレスを着たシーンでは理由もわからず目頭が熱くなった。分析して言語化できないけど、「心が動かされた」瞬間だったのは間違いない。
最後、ドレスに刺繍をして、タイトルの「水を縫う」に収束するまでとても鮮やかだったな。
爽やかな、晴れ晴れした気持ちで読書を終えられました。 -
Posted by ブクログ
主人公とその周りの登場人物を章ごとに丁寧に描いていて、それぞれの視点から読み進めることで物語全体に深みと広がりが生まれ、読後の満足感がすごい。
テーマとしてはセンシティブなものだけど、大阪弁でのやりとりが、軽やかさや温かみを与えていて、読んでいても暗くならずに前向きな気持ちで読み進められるところもよく考えられていると思う。
世間の空気やイメージよりも自分の好きを大切にすることを最終的に選んだ清澄や水青を通して、
男らしさ、女らしさや性別による役割固定といったアンコンシャスバイアスへのアンチテーゼを暗に投げかけているところも時代にあっていてよかった。
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Posted by ブクログ
ネタバレすごく良かった。実際に、そしてどこにでもいるように思える登場人物の思いや人生観を軽やかに切り取って、さらに1つの物語にしていくことの凄さ。
回復魔法をかけられてるみたいな小説で、元気が出てきた。そうだ、平凡な暮らしをしている私のなかにもドラマや思いがあって、それをわかってくれたような感覚になったのかもしれない。
物語に出てくる登場人物は、どこか世間の「らしさ」から外れている、または世間の「らしさ」どっぷりだけどそんな自分を見つめ直さざるを得ない人たち。
時田翼はなよなよしてる32歳の農協職員だが、内面にはやりたくないこと、やるべきでないことをしっかり持ってる、存外芯の強い男に見える。
自分の今の生活を「あの家で暮らすことを、俺は毎日選び続けてるんだよ」と言ったり、お酌文化をなくすために偉くなりたいと言ったり、頑固な父親ゆずりなのか、不器用ながら好きになってしまう主人公。
ラストで先の事ばかりを考えず、年の離れた小柳さんに好きを伝えられたところに、私もガッツポーズをしてしまった。
素敵な話ばかりだったが、特に好きなところ。
連れ子の小柳さんと、継父の小柳さんが会話しているシーン。
継父の小柳さんが「家族って、僕は、会社みたいなもんだと思う」と言い、
連れ子の小柳さんは「…けど会社の目的って、なにか売ったり、利益出したりすることでしょ。家族という組織の目的ってなんなの。わかんない」と言う。
それに対して、「え。目的は、そりゃ、『生きていく』ことだよ」
生きていくことは簡単ではなくて、ただ息をして、食事をして、働いてということだけでもやり通すには一大事だと、そしてその一大事それを全うするには家族とはどんな編成でもいいこと。
一人でも、連れ子でも、片親でも、血のつながりがなくても、大家族であっても、なんでもいいのだと。
世間に認められることが家族の前提条件と考えていると、生きていくための共同体である家族を忘れてしまう。そうだ、生きていければ、どんな編成でもいいんだと軽やかに言う継父の小柳さんが、格好良かった。
次は、時田翼の母の言葉。長年連れそった翼の父と別れ、友人と会社を立ち上げた。
「摘まれた花は、摘まれない花よりはやく枯れる。だから翼は花を摘まない。でも、わたしは花を摘む。摘まれた花はだって、咲いた場所とは違うところに行ける。違う景色を見ることができる。たとえ命が短くても」
長く咲くことも大切だけど、しんどくてもなんでも、自分が見たい景色を選んだ覚悟を感じた。
花を摘む、摘まないは、どっちがいいとかではなく、どっちの生き方もあるということと思う。
最後に時田翼の幼馴染で、性格は真逆な鉄腕の存在に助けられた。
気は優しくて力持ちを地で行く人だが、言いたいことを言い出せない翼に助け舟を出してくれたり、自分が周りから思われてる男らしさの正体を客観的に見たり、こいつが自分の幼馴染にいたらなぁと思わざるを得ない。
晴れやかな気持ちになった。明日からまた頑張ろう。
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たくさんの思いが込み上げました。
何かを始めるのに年齢は関係ない。
遅すぎることはないということ。
諦めるのではなく 心を閉ざすのではなく
自分を守るために声をあげ戦うことの大切さ。
失敗だけの人生って本当にあるのだろうか。
自分が失敗と決めつけた人生の中でさえも
かけがえのない人との出会いと
確かな幸せがある。
誰にでも「失敗する権利」と
「雨に濡れる権利」があるのだということを。
私らしくありたい。
そのために自分が本当に好きなもの
大切なものを求め 動きつづけたい。
血縁関係だけが家族なのではない。
そのことをあらためて強く感じさせられた。
優しさと 愛 強さがこもった物語。
それぞれの視点から
教えられることが多い本でした。
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Posted by ブクログ
ラピスラズリの紺色に、雨上がりの光が当たったような色が混ざっている雫型のペンダントのイラストが、とても美しい表紙です。
中学生の頃からお互いを知り、大人になってからも同じビルでそれぞれ仕事をしていた4人。永瀬珠、木下しずく、高峰能見(よしみ)、森侑(たすく)の間で起こった30年間の出来事が、5年ごとにさかのぼり綴られていました。
ジュエリーデザイナーの永瀬珠は、自分に自信がないけれど、なぜか人から相談される人。木下しずくは、不器用だけれど努力家で、見守ってあげたくなる人。長峰能見は、お坊ちゃんで人気者だけれど、本当は「味わい深い」人。森侑は、つらさや悲しみをさりげなく支えてくれる優しい人。もうひとり、いい味を出していたのが、4人の中学時代の美術教師、田村先生。主な登場人物の5人がそれぞれ魅力的な人物でした。
時の流れを遡りつつ読んでいくと、「変えることって、勇気がいるよね」という言葉に出会い、今の私にはとても響きました。他にも、うなづける言葉がたくさんありました。
30年間って、過ぎてしまうとあっという間ですが、色々な出来事や思いがたくさんつまっていることにも気づかされました。
「今日が雨でよかった」と、感じるようになれる小説でした。登場人物の人生がこれから上向きでありますように······。
読者の私は、この本、大好きです。
〈目次〉
2025年 4月
2020年 2月
2015年 12月
2010年 7月
2005年 4月
2000年 8月
1995年 9月
2025年 10月
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Posted by ブクログ
主人公の三葉雨音と自分自身が似通っているところが多く「わかるなぁ」なんて思いながら読んでいました。
そして
自分自身を他人のために無理に自分の気持ちを
我慢したり捻じ曲げたりしたりせず
世の中の「ふつう」という型にはめる必要もない。
世の中の「ふつう」にはまっていない部分を
他人に「変わってるね」と言われることを恐れる必要もない。
三葉はいつも
自分の心に正直で
人のことを簡単に決めつけたくないから
目の前のありのままを受け止めている。
一見冷酷に見られてしまいがちだけれど
心の中はとても温かい。
それをわかってくれる人との交流のなかで
少しずつ三葉の心も変化していく。
どうしても分かり合えない人はいる。
それが親ということもあるわけで
世の中生きていくことは大変なことだけれど
私もこれから先、三葉のように少しずつ気づきながら成長していけたらいいなと温かくて前向きな気持ちになりました。 -
Posted by ブクログ
好きで仕事をしている人がいるわけじゃないという現実的な角度から描いたお仕事小説
すっごいいい!私はどちらかと言えば今までマイナスに感情が振り切れた小説ばかりを読んでいたかも知れない。何かに夢中になるでも何かが決定的に嫌でもないグレーな感情を持つ人物たちが出てくる小説は初めて。そのグレーの感情は生い立ちなどで生まれたものもあるけど、誰かに言うことはない、でも自分の頭の中では何度も反芻している卑屈さで、寺地さんは人間の描写がお見事だと思った。
転職したばかりの人、なんだか最近友達の高いテンションに乗り切れない時や特に何かあったわけじゃないけど心が上向きにならない人におすすめ★