正直云って、島田荘司氏は迷走してます。皆が云うように島田信望者に祭り上げられて浮かれていたんではないだろうか?そう思わざるを得ない今回の作品集。
なんせ御手洗潔が幼稚園児のときと小学2年生に既に刑事事件を解決していたというお話である。特に御手洗潔が幼稚園児のときの話「鈴蘭事件」では、幼稚園児にして明察な頭脳と観察力を持っていたという設定で、もはや小説中の人物でしかありえないスーパーマンぶりにがっかりした(なんせ幼稚園児の時点でモーツァルトを弾き、因数分解をしていたというから驚きだ)。
もう何でもいいや、何が来ても驚かないぞという感じがした。
里美の大学に幼少時代の御手洗の写真と彼を語った文章が記された資料があるとの知らせから始まる「鈴蘭事件」は当時御手洗を好いていた女の子、鈴木えり子の父親が事故死した寸前、彼女の家のお店であるバーの透明グラスのみがことごとく割られているという事件を扱っている。
ここでは事件に御手洗の伯母が関わっていたという衝撃の事実が明かされ、御手洗の孤高ぶりが既に幼稚園時代で確立されているというエピソードが語られている。この事件でトリックとして扱われる鈴蘭に毒が含まれているという真相は先の「IgE」にも似ており、この頃は化学的なトリックに凝っていたのかもしれない。
御手洗潔小学2年生の時の事件は表題作「Pの密室」。
横浜市長賞という小・中学生を対象に毎年開かれる絵のコンクールの審査員をしている画家、土田富太郎が自宅で殺されるという事件が起きた。しかも現場は密室で愛人と噂されていた弟子の天城恭子とともにめった刺しにされ、絶命していたという。しかも奇妙な事に室内にはびっしりとコンクールの応募作が敷き詰められ、それら全てが真っ赤に染められていたというのだった。
小学2年生の時点で御手洗潔が事件の全容を最初から掴んで、刑事達を煙に巻いている、しかも刑事の中には協力的なものもいる、この現実性の無さというか、ご都合主義に呆れた。
もしこれが「鈴蘭事件」同様のただの本格推理小説ならば、今回は2ツ星だったろう。しかし、またしても島田氏のストーリー・テラーの才能にやられた。犯人である被害者の妻と息子の境遇にガツンと打ちのめされたのだ。
土田少年が大きな模造紙でカブトを折るその理由にショックを受け、最後の結末に涙がにじんだ。これがあるから島田氏は見捨てられないのだ。
題名の「Pの密室」の意味はパズラー純度100%だが、犯人の事情はまたしても私の心に残るだろう。よって+1ツ星の3ツ星としよう。