ここに収録されている8編の物語はどこかしら『あなた』の物語かもしれない。地方都市に住む男女の悲喜こもごもを見事なまでに描き出していると思います。こういう話はいつの時代もあるのかもしれませんが…。
ここに描かれているのはある地方都市に住む男女の『悲喜こもごも』を8つの物語に収めた連作小説集です。それぞれがものすごいリアリティがあり、正直なところ、自分自身と物語世界との『距離』を測り損ねていたく難儀してしまいました。
なんと言ったらいいのか…。この吹き溜まり感や、地方都市独特の『けだるい』空気。出てくる登場人物たちの『行き場のなさ』が全体を覆っておりました。ここでは主に女性の登場人物たちが物語の中心で、『3・11』の震災を機に10年にもわたる東京生活に見切りをつけて地方でライターをやっていたり、10代の頃は読者モデルとしてちやほやされるも、20代になって、徐々に仕事がなくなり、地元でスターバックスの店員をしながら婚活に勤しむ女性。
さらには性転換をして、高校時代のあこがれた男の子に思いを打ち明ける大学院生。大阪の大学の寮室でアメリカの地方都市から来た女子留学生。年齢の離れた男性と逢瀬を重ねる女子高生。そして、16歳で処女を捨てようと躍起になる女の子…。
これらの物語を読みながら、僕は学生時代のクラスメイト(現在ではすべて関係が絶たれて久しい)の顔を思い出し、
「まぁ、彼女たちも多かれ少なかれここに出てくるようなことを経験して今ではいいオッカサンになっているんだろうなぁー」
と、そんなことを考えてしまいました。
本書は連作集なのですが、物語全体を貫く存在として、椎名一樹なる男性キャラクターの存在があります。彼は子供の頃から学校の人気者で、サッカー部の花形選手という、まさに『日陰者』のような学生生活を送ってきた自分とは真逆というわけですが、それが高校を卒業して、実業団に入り、それがなくなってしまうと会社を辞めて遊びまわるようになり、大阪へと行ったり、地元に戻ってきてゲームセンターの店長になったりと、少しずつ彼の存在が色あせていくのです。
それを読んでいると
「あぁ、こういうことってきっとあるんだろうなー。実際」
と考えながら椎名君のことを思い浮かべ、
「あいつとアイツとあの野郎を足して割ると、丁度椎名一樹のようになるんだろうなー」
ともう二度と会うことはないであろう。もしくは顔を合わせたとしても口すら利くこともない昔の同級生のことを考えておりました。
結局の所椎名一樹君は自動車学校の教官という安定した職業に就き、結婚し、子供を作る…。そんな彼の10代から30代にかけての『軌跡』が描かれているのです。
個人的には、椎名一樹の存在と彼の人生は、本書の持つもう一つのテーマではないかと勝手にそう思っております。かつて小説に『田園の憂鬱』と『都会の憂鬱』というものがありましたが、本書はその現代版ではないかと確信しているのです。