「東京を詠う。東京を笑う。
都市という舞台で諧謔と洞察が織りなす、思考遊戯の最上階へ。」
面白かった!あまりにも面白かったので、感謝を込めてレビューポエムを書いてみました。いうなれば、マンションポエム東京論ポエム。
拙いながら、小ワザをいくつも仕込めたので満足です。
(マンションポエム=分譲マンションの広告キャッチコピー。詩的で独特な物言いが多いため、戯れにポエムと呼ぶ)
あとは感想および壮大な余談。
めちゃめちゃ楽しかった。読みながら何度も噴き出しちゃった。
なぜそんなに楽しかったかというと、私自身が一時期、マンションポエムを書く仕事をしていたから。
東京ではなく地方都市ではあったけど、この分野の広告制作に携わるものは常に、東京を観測しながら仕事に臨む。それはもう皆が、必ず。
だから「東京論」を読んでも隔絶感は意外に少ない。本書の中でもかなり早い段階で、それに近いことを書いてある。頼もしい。
そんなわけで、ここに書かれてあるセオリー、全部知ってる。
「物件よりも立地の話しようぜ!」は基本中の基本
「刻」と書いて「とき」、「邸」と書いて「いえ」と読む
「住む」は「棲む」「栖む」ときには「澄む」と書く、ただし「住まう」は「住」
都市は「手中にする」「誇る」「使いこなす」そして「享受する」ものであり
生活の気配は「奏でる」「薫る」「醸し出す」もの
(「紡ぐ」「纏う」といった紡績系もあるよね、いずれにせよ丁寧さが肝要)
二つの語を対比させて世界観を作る「都心と緑」「華やぎと静謐」「先進と歴史」は定番中の定番
「都市機能」「プロジェクト」「愉しむ」「識る」「羨望」「憧憬」「叡智」「由緒」「迎賓」「奥座敷」ここでしか見かけない独特な語彙
あるあるすぎる。ねるねるねるねじゃなくてあるあるあるね。
なにかと揶揄されおもちゃにされがちなマンションポエム。(なんなら著者が揶揄の本丸でもある)
でも、この本が凄いのは、揶揄を超えて大真面目に考え、調査し根拠を導いた上で「論」としているところ。
1960年代まで遡ってポエムの成立年代を探るのはさすが。マンションの前身ともいえる「団地」を得意とされてきただけある。
さらに凄味を放っているのが、鉄道路線とマンション立地を並べて論じる章。
3.11の帰宅難民を調査し、列車の通勤ルートと徒歩の帰宅ルートを比較。
あるいは各路線のユーザーに「どこまでが東京か」をSNSでヒアリングし「イメージの東京」と「行政区画の東京」の差を炙り出す。
このあたり、東京在住の方にとってはきっと肌感覚でわかるのではないかな。
「イメージの東京」と「びっくりドンキー」の出店エリアを重ねて「東京の境目」を描き出し「東京の外は北海道」と結論づけるのには笑った。目の付け所が面白すぎ!
でもこれ、お遊びトンデモ論とも言い切れない。逆に北海道民から見れば、札幌から飛行機に乗って90分で東京。「札幌から最も近い内地は東京」と感じている人は、そこそこいそうな気がする。
新千歳空港は札幌じゃないよって?あそこはまあ札幌の飛び地みたいなもんですよ(北海道全域の飛び地でもある、お土産の品揃え的に)。
後半に入り、論はますます冴えわたる。
タワーマンションとは「垂直に伸びた郊外」
それを足掛かりに、私たちがタワーマンション、ひいては「高い建物」に漠然と抱いてきた不安や違和感が一気に噴出する。
たびたび引用される「ラピュタ」の「人は土から離れては生きられない」。
アニメの名言をもてあそんでいるだけかと思えば、「団地妻」「仄暗い水の底から」「タワーリング・インフェルノ」「AKIRA」と畳み掛け、社会の歪みや人間の異常さを描き出す舞台としての、都市や高層建築の例を並べ上げていく。
その極みが旧約聖書「バベルの塔」、さらに行き着くところは「東京ディズニーランド」。「主語が大きい」はネットで度々見かけるけど「比喩が大きい」のツッコミは使えますか?
「マンションポエムはマンションを隠している」という命題の核心を探して、辿り着いたのはカルチャーとフィクションの境地、そして東京を対岸から眺める湾岸のタワー群。
そこは埋立地。かつての辺境。
あと、あちこちで笑わせながらも
「マンショポエムがここまで分析に耐えうるものとは思わなかった。やはりマンションポエムはコピーライターほか関係者によって真剣に作られている。」
と、きちんと述べてくれたのもうれしかった。
そう、われわれ、常に大まじめにやってんですよ、この仕事。
ありがとうございます!
2段組、約340ページの超力作。大山顕さん、デイリーポータルZが好きでいくつか記事を読んでいたけど、ここまで一気に論を浴びたのは初めて。ほんとに楽しかった。
他の本も読んでみたくなる。団地やジャンクションの写真集とかも絶対かっこいいはず。でもジャンクションについてはここまで真剣に考えたことがないな…。
あとは余談の余談。
関西のポエムに歴史キャラが出すぎ問題も面白かった。足利将軍家に藤原道長に紫式部。大河ドラマかな? 理想の立地で理想の暮らしを体現するモデルケースは鴨長明。羨望の日々、その源泉を古都に見いだす。そもそも「キャラ」って言うのおかしくない?
ちなみに私が仕事をしてた街は歴史が浅く、遡ってせいぜい「開拓使」、偉人キャラも乏しい。ただ、この地の物件はみんな同じ条件にあるので、それほどハンデにもならないのだけど。
緑は豊かなようで、ポエム素材として強いものは少数。円山公園、大通公園、中島公園、そして北海道大学が四天王。
中でも円山公園は、地下鉄、北海道神宮と開拓の歴史、隠れ家的飲食店群などの魅力要素が集中していてダントツで強い。
北大は2000年代、札幌駅北口エリア再開発あたりからの興隆。公園ではないながら観光地としてのポテンシャルを持ち、都心駅への近さと、こちらも開拓の歴史、さらに叡智と緑のコンボが決められる。
あるあるが楽しすぎて、バカみたいに長いレビューになってしまいました。こういう話ならまだまだできるけど、ぼちぼち終わりにしましょう。
さて。
ここまで読んでる人ももうあまりいないと思うので、最後に。自作レビューポエム、けっこう気に入っているので小ワザを解説してみます。
「東京を詠う。東京を笑う。
都市という舞台で諧謔と洞察が織りなす、思考遊戯の最上階へ。」
0 本体よりも立地の話しようぜ!
「東京」というパワーワード、一度使ってみたかった地方ポエマーです。うれしい。うれしすぎてリフレイン。
1 本のレビューだけどマンションぽく見せる
「東京」「都市」をそれぞれ行頭に置き、「最上階」という高層マンション語彙で締めることで、文字面をマンショポエムの顔つきに。
2 マンションポエムのセオリー1
詩情あふれる言い回し
「詠う」「織りなす」「舞台」そして「〇〇へ。」で止める文末。「笑う」はこの本の核なので書き換えない。「嗤う」「微笑う」にすると意味が変わっちゃう。
3 マンションポエムのセオリー2
対比をなす2語を立てる。音の揃え方にも気を使った。
「詠う」と「笑う」
「諧謔」と「洞察」
4 海外やフィクションの文脈を借りる
2行目、「最上階」で高層感を出しつつ、映画「死亡遊戯」を絡めてみた。語呂合わせだけじゃなく、戦いながら最上階を目指すブルース・リーの姿を重ねて。さらにこのポエム自体が遊びですよ〜というメタメッセージでもある。
5 韻を入れる
これは個人的なこだわり。字面だけでなく、音としても整えたい。
1つめは「とうきょう」をリスペクトして語末に「u」を多用。
「うたう」「わらう」「いう」「ぎゃく」「どう」「さつ」「なす」「こう」「ゆう」「じょう」
10個。やりきった。
2つめは、単調にならず、でも音を入れすぎないように。「とし」「たい」「かい」「おり」「かい」、「i」で2行目を固める。
6 本のレビューで「本を隠す」
0、1、 と少し連動している。本の話も著者の話もしない。ごんべんの漢字で正体を匂わせつつ、他のなにか(でもなに?と言われるとなんなんだ)として語る。
楽しかったです。
ここまで読んでくれた方、
ほんとにお疲れ様でした。
ありがとうございます。