柳沢由実子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ヴァランダーのシリーズ2作目。2作目なのにいきなりスウェーデンを飛び出し、独立後においてもロシア支配が色濃く残るラトヴィアが舞台です。事件の発端は密輸船の乗組員が漂流する救命ボートを発見し回収しようと手繰り寄せたところスーツを着た死体が2体乗っているのに気づき、沿岸まで牽引してきたこと。歯の治療痕などから死体はラトヴィアのギャングであることがわかり、かの国の警察に引継ぎをするべく一人の刑事に来てもらいます。お互いに得意でもない英語で言葉少なに会話し黙って酒を飲んだリエパ少佐とヴァランダーはお互いに尊敬の念と親近感を持ちます。ラトヴィアに引継いだのでこれで一件落着したはずが、帰国したその日にリエパ少佐の身に起きたことによりヴァランダーは全く知らない土地であるラトヴィアに呼ばれ、良く状況がわからないまま大きな渦に巻き込まれてしまいます。距離的には近いラトヴィアとスウェーデンですが政治状況も歴史も社会制度も全然違っていて、ラトヴィアでは軍の支配の名残なのか警察の階級も大佐・中佐・少佐と称されているのでした。短い親交ながら信頼に足る人物とお互いに認め合ったリエパ少佐への義理という細い糸の繋がりだけで、土地勘も無く誰が敵で誰が味方なのかもわからないなかで、ほとんど不可能なのではないかというミッションを与えられて奮闘するヴァランダーの様子は、サスペンスの要素もあり、アクションもありながら、哲学的な思索もあって、不思議な作品でした。読み始めたばかりのシリーズでこの展開で少し戸惑いましたが、面白かったです。
-
Posted by ブクログ
一冊も読んだことが無いのに本屋さんでずらっと並んでいる背表紙を何度も見ていたせいか作家のフルネームと『白い雌ライオン』というタイトルが記憶に残っていたシリーズ、知人の読書家に「すごーく面白い」と聞いたのと、最近北欧の作品を固めて読んでいることもあり遂に読み始めました。日本語版発売から20年経過していますが、自分が主人公ヴァランダーの境遇や感情を理解しやすい年齢になっているので今のタイミングで読んで正解でした。移民の問題や制度が目指したものと実際の運営状態の解離、都市部と農村部の違いなどが、衝撃的な事件とその捜査の合間に丁寧に語られます。中年刑事の常?としてヴァランダーは妻に捨てられて惨めで荒んで、食生活は乱れ不健康に太っているものの、刑事としての矜持と勘をもって諦めずに捜査にあたります。記者会見用の原稿を書いたり捜査のシフトを組んだり引継ぎ報告書を書いたりという他の作品ではあまり見られない刑事の地味な仕事ぶりも出て来たのが新鮮でした。内容が濃い割には短く、スッと読めました。完結しているシリーズなので一気読みが出来るのが嬉しいです。
-
Posted by ブクログ
ヴァランダーが20代の新米警官時代から、40代の中年刑事まで、モナ(若い時はガールフレンド、その後結婚して別居)や父親との関係に悩みながら持ち前の勘と粘り強さで事件を解決する姿を描く。
いつもながら実直なヴァランダーとそれを取り巻く、こらまた実直な刑事たち。みんな何かに悩んでるのは一緒だな。そんな人生を含めて楽しめるのが、このシリーズ。やっぱり長編が読みたいな。3.8
フレーズを読んで思ったのは、the Wireのリアリティ。はつらつとしてるのはマクノルティくらい(それでも中年だけど)、女性刑事も見た目より実力。Boschもそれに近いかな。その点、シカゴPDはイケメン&美人でリアリティという点ではちょっとね。 -
Posted by ブクログ
夫が浮気をした。最近会話もない。妻も夜中に家を飛び出し成り行きで浮気をした。不倫小説かなんだありふれたテーマかと読み始めたら、あちこちで小さい山が鳴動して落石に会うくらい驚いた最後だった。
恋して衝動的に結婚した夫婦は甘える間に甘えておかないと、青春ホルモン(?)と子孫繁栄本能が消えかかると、そこからは思いやりの暮らしになる。それに気がつかない妻のエーヴァ、急に冷たくなったのはなぜかと悩む。自立しすぎた妻は夫の欠点に目をつぶって生活をリードしてきたのだ。
夫は息子の保育園で不倫相手を見つけていた。相手は離婚経験のある、手を差し伸べたくなるようなリンダで、彼は同棲する準備をして、口実を作って二人で船旅をすることにしていた。
エーヴァはそれに気がついて嫉妬に狂う。憎いリンダは保育園から追い出す。夫とはもう一緒に暮らせない。
夫は話しかけても「知らない」とにべもなく、挙句には「君といっしょにいてももう楽しくない」という。
さぁどうやってこの問題を解決するか。
悩み疲れてバーで酒を飲み、近くにいる若者に一杯奢った。酔った勢いで若者(ヨーナス)の部屋で一夜を明かしてしまった。リンダという偽名を使ったが、ヨーナスは美人と寝て舞い上がった。
ヨーナスの恋人は二年半植物状態で病院のベッドに横たわったまま、もう先が長くないと言われていた。彼は病院側の看護も迷惑なほどつきっきりで、たまに泊まり込んで彼女のベッドで寝た。精神科医はそういった行為を異常だと感じていた。
ヨーナスはエーヴァの家の周りを徘徊した、美しい家に住む美しいエーヴァ。常に夜は窓の外からエーヴァを見ている。夫の名はヘンリックだ。
ヘンリックの浮気を探り出したヨーナスはエーヴァを救う任務を遂行しなくてはと思う。
ヨーナスはヘンリックにエーヴァと愛し合っていると告白をする。ここに来ては夫婦の危機はもう救いようがないが、エーヴァはヨーナスにその後会うこともなく記憶もおぼろで。
彼の行動を知らないままリンダを陥れ保育園から出て行かそうと計画する。
ヨーナスの話を信じたヘンリックはエーヴァとの生活の快適さを手放す恐怖に震える。
ここにきてエーヴァまでヘンリックとの生活に未練を感じる。
ヘンリックも自分も哀れで悲しい。
彼を不倫に走らせたのは自分ではないだろうか。
ヨーナスの彼女は死んだが彼にはすでに過去の女になっていた。
船旅に出たには出たが、ヨーナスの話を聞いても、煮え切らないヘンリックを見限ってリンダは逃げようとする。
エーヴァの執拗な嫌がらせに手首を切って瀕死の状態になる。
よくある不倫から始まった登場人物の「裏切り」についてヨ-ナスとエーヴァの最後の会話が面白い。
ヨーナスは
「自分が愛することになっている相手に愛情を感じなくなったらなにも言わずにいつもどおりの生活を続けて、すべてうまくいっているふりをするのがいちばんいいと言っているんだね」
「それもまた、ある種の裏切りじゃないのか?愛していると思っている相手に対し、実は義務感と思いやりからそこに踏みとどまっているだけなら」
「それじゃ全生涯をいっしょに生きた夫婦はみんな幸せなのか?その人たちは単に運がよかったということか?」
こうして変質的な形で愛し愛された夫婦はもう戻れない人生に堕ちてしまう。
あれさえなかったら、と何度も振り返る。そして息子のそばでしみじみと独白する最後の章は胸が詰まる。
と並みでない心理ミステリと解説されるのは、こういう描写で登場人物の特異性や陥った状況を心理や会話から浮き彫りにしていく手並みの鮮やかさにあるのか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレシリーズを続けて読んでいるうち、作者はアイスランドという国そのものを書こうとしているのではないかという気になってきた。
もちろん主人公であるエーレンデュルと、娘や今回初めて姿を見せた息子との関係性の変化や、恋愛事情なども書かれているけれども。
今回発見された白骨死体を調べていくうちに、冷戦時代の東ドイツに留学していたアイスランドの学生たちが浮かび上がってくる。
戦後、ワシントンとモスクワの最短直線経路下にあったため、民主主義の最前線としての米軍基地がおかれ、なのに資本主義では搾取される一方だったアイスランドは、沖縄の米軍基地を思い起こさせる。
そんな時、東ドイツから招待され留学生として社会主義や共産主義について学んだ学生たちは、理想と現実に引き裂かれていく。
都合の悪い存在が消されることはわかっていたはずなのに、恋人が拉致されて行方不明となってしまったトーマスは、結局故国に強制送還されてしまうが、愛する人の存在をなかったことにはできない。
哀しみは決して薄れることがない。
北朝鮮に拉致された人たちの姿が重なる。
解説によると
”2006年にはついにアメリカ軍がアイスランドから引き上げるに至っている。その後もアイスランドは独自の軍事力を保持していない。過去に一度も徴兵制を施行したことがなく、近代的軍事力を持った経験はない。国土の防衛は警察と沿岸警備隊が受け持ち、国外に平和維持の目的で派遣されるアイスランド危機対応部隊は外務省に属するという。”
とある。
読めば読むほど、日本と親和性が高いのではないかと思えてくる。
今まで彼の国のことを知らなかったのがもったいない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ日本の三分の一の面積で、人口30万人の国、アイスランドが舞台。
火山と温泉の国というイメージだったのだけど、この作品を読むと、薬物依存、幼児虐待、DV等、荒廃した社会が見え隠れする。
とはいっても殺人事件は年に2~3件しかないのだそうだけど。
新興住宅街で発見された60~70年前の人間の白骨。
夫のDVで、心も体もボロボロにされる家族。
流産がもとで意識不明状態の娘を見舞いながら捜査の指揮をとるエーレンデュル。
3つの話を柱にストーリーは進むが、DVの部分を読むのがもう辛くて辛くて。
人としての尊厳を踏みにじられ、子どものためにだけ生きる母。
そんな母を見てみぬふりをすることでしか身を守ることの出来ない子どもたち。
ようやく幸せになれるかと思えるような出来事のあとの、絶望的な展開。
捜査部分は展開がゆっくりです。
だって60~70年前の人骨が誰のものかって、関係者すら死んでしまっているかもしれない年数。
そして、その当時って第二次大戦中で、公的書類は紛失しているし、田舎から食い詰めた人たちがレイキャビクに殺到し、イギリス軍やアメリカ軍が駐留し…とにかく社会全体が混乱している時代だった。
そんな時代の手がかりを捜すことの困難。
そしてエーレンデュル。
妻と幼い子ども二人を残して家を出た彼は、自分を探し当て合いに来た娘からいつも家族を捨てたことを罵られている。
しかし初めて娘が「助けて…」と電話がくる。
薬物中毒者の娘は流産が原因で意識不明の重体。
娘の枕元でエーレンデュルが語る、彼にまとわりついて離れない過去。
これがまたアイスランドならではっていう…。
それでも最後に娘が目を開ける。
重くて苦しい話だったけれど、次巻は希望が持てる展開になるといいな。
ところで考古学者が出てくるたびに引っかかるんだけど、スカルプヘディンって名前がどうしても育毛剤っぽく感じてしまう。
私だけ? -
Posted by ブクログ
刑事ヴァランダーシリーズ第2作。
ある冬の早朝、スウェーデンの海岸に救命ボートに乗った二つの死体が漂着する。
彼らは誰で、一体どこから流れ着いたのか。
捜査協力のためバルト三国はラトヴィアの都市リガから、スウェーデンのイースタに派遣された警察官、リエパ中佐。
その彼が帰国当日に殺害され、今度はヴァランダーがリガへ向かい・・・
1990年代、ペレストロイカの煽りで揺れ動くラトヴィア国家。
その病巣を暴くべく革命を企てる活動家たちと協力しながら、事件解明へ動くヴァランダー。
活動家たちとヴァランダーの接触は絶対に知られてはならない。そのために、現実とは思えない(いや小説なんだけども)危険を冒しながら体当たりの捜査を進めるヴァランダーの活躍と、ド派手なアクションシーンに今作もアドレナリン全開!
行ったこともないのに、想像の中でのラトヴィアの暗く寂しい風景が頭を離れない。
はぁー、面白かった・・・。