柳沢由実子の作品一覧
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ユーザーレビュー
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マンケル作品として個人的には初となる『イタリアン・シューズ』を読んでから5年。スウェーデン・ミステリーの代表格的存在である刑事ヴァランダー・シリーズは第一作と最終作しか何故か読んでいないという体たらくでお恥ずかしい限りなのだが、作者の遺作となる本作は『イタリアン・シューズ』とセット作と言いながら、
...続きを読むさらに厚みを増して、なおかつ描写の丁寧さ、深さを考えると人生を振り返る作者と本作の主人公フレドリック・ヴェリーンは、分身ではないかと推察される。しかし、ヘニング・マンケルには『流砂』というノンフィクションの遺作が遺されていて、これが彼の<白鳥の歌>として死後に出版されている。
故に本書はフィクションとしては最後の作品である。『イタリアン・シューズ』を継いでの物語となるのだが、作者自らはそれぞれ独立作品として読んで頂いても一向に構わないという立場で本作に臨んだらしい。時制が一作目と矛盾したりするなど、確かに連作と見るには不確かなところもあるらしいのだが、読んだ印象としては登場人物たちも、舞台となるフィヨルド地方にしても両作共通する地平にあると見て構わないというところだ。
内容もまた『イタリアン・シューズ』の正当なる続編と見て良いと思う。但し、本作には謎の火災により島の家が全焼するといういささかショッキングな導入部があり、その犯罪的要素から鑑みて本書は『イタリアン・シューズ』に対し、ミステリーとしての性格を多分に孕む。そもそも刑事ヴァランダー・シリーズがミステリーと言いながら相当に人間の心を描いてしまう純文学的小説としての要素を孕んでいる作品であるように思う。
本書では、主人公フレドリック・ヴェリーンには存在すら知られていなかった実の娘ルイースが登場する。前作『イタリアン・シューズ』の終盤にも登場する娘だが、彼女との改めての関わりの時間が生まれてゆく様子、彼女の秘密などをパリを舞台に描くシーンが挿入されるなど、前作に比べるとバラエティに富んでいる。
しかし、老いたるフィヨルドという舞台は相変わらず静謐過ぎて、孤独を際立たせる舞台である。その中で病や老いによって知人が死んでゆく。全体に初冬から真冬までの時間を設定した一人称小説であるのだが、その中で大きな流れとしての時は過ぎ、家族というこの物語の中では変則的な人間関係、そこに入り込む新しい女性キャラクター、リーサ・モディーンというジャーナリストと年齢差を往還する二人の微妙な恋愛感情なども、どことなくリアルで危うい。
大きな物語としては、家が焼けることで生まれる疑惑。解決しない捜査活動は地味でありながら、フィヨルドの孤島の家が結果的には数棟全焼するに及ぶ。緊張を孕んだフィヨルドの村と美しい冬の景色、そして老齢の主人公の孤独がきんと響いてくるヒューマン・ノヴェル。ヘニング・マンケルでなければ作り出せない空気感と危うい人間関係の紋様を読みながら、この小説の持つ不思議な魅力に強く惹かれつつ、美しい言葉で満ちた一ページ一ページを味わった。
どの作品も優れた小説であり、完成度も高いように思うが、何よりもデリカシーと感性に満ちた一人称文体が味わい深い。ストーリーに派手な動きがなくても、しっかりとしたページターナーと言える辺り、名手ならではの作品である。ヴァランダー・シリーズの未読作についても、じっくり時間をかけて味わってゆきたいと思う。
Posted by ブクログ
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北欧のミステリーシリーズ。エーレンデュルかと思えば彼の部下のエリンボルクが主人公。
彼女の日常が細かく描かれていてとてもリアル。緻密な捜査や被害者の家族の感情が前面に出ている。エーレンデュルはどうしたのか、刑事仲間でなくとも気になる。
Posted by ブクログ
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『エーレンデュル捜査官シリーズ』は非常にメッセージ性の高いミステリーだ
今回は卑劣極まりない犯罪の被害者たちに対して、あなたたちは悪くない、あなたたちに責任はない、世間から隠れて暮らす必要はない、堂々と生きろ!と強く主張している
だけどその主張はまず「社会」に向けられるべきだと思うのだ
「社会」
...続きを読むこそが犯罪被害者たちを日陰の存在に押しやっているのではないか、声を塞いでいるのではないかと思う
そして、作者のアーナルデュル・インドリダソンはこのシリーズを通して、常に家族の絆についてスポットを当てているように思う
そして今作は主人公がいつもと違ってエーレンデュルの部下、女性刑事のエリンボルクとなっている
つまりいつもと違う家族が登場し、また違う種類の家族の問題が母親視点で描かれている
明確な答えは用意されていない
読者に提示されるのは問題だけだ
答えはそれぞれが自分の力で見つけるべきだとアーナルデュル・インドリダソンは言っているのだろうか
そして今、私が強く思うのは、素晴らしい物語なんだが、アーナルデュルとかエーレンデュルとかエリンボルクとか聞いた時点で心折れてる人多いだろうなってことですw
Posted by ブクログ
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『湿地』以来、いずれも高水準を保っているこのアイスランド・ミステリーは『エーレンデュル捜査官シリーズ』として出版社より紹介されてきたが、本書では当のエーレンデュル主任警部が不在というシチュエーションで女性刑事エリンボルクが初の主演を果たす。時に助け役なのか邪魔する役なのか判断が難しいかたちで三人目
...続きを読むの刑事シグルデュル=オーリが登場するが、こちらも友情出演程度の顔出し。本書は、一作を通じてあくまでエーレンデュルを主役とした作品なのだ。
序章にして既にトリッキーである。まず女性にデートドラッグを飲ませレイプするという目的を持つ病的な犯罪者が一軒のバーで獲物を狙うシーンから本書はスタートする。続いて死体発見現場で本書のストーリーは正式発動されるのだが、思いに反して被害者はレイプされた女性ではなくデイトドラッグを仕掛けたほうの犯罪者の方であり、彼は自分の住むアパートの部屋で喉を掻き切られるという無残な姿で死んでいた。
アイルスランドという、北極圏に近くフィヨルド地形が目立つような小さな国。人口は30万ととても少なく、しかもその大半がレイキャビックに集まっているという。この小さな国で世界の言語に翻訳されている作家と言えば本シリーズの原作者の他にラグナル・ヨナソンで、ぼくはこちらの作家も日本語翻訳作品は全読して注目しているのだが、こちらはアイスランド北部にあるシグルフィヨルズルという田舎町の警察署に所属する若き警官アリ=ソウルを主としたシリーズ。ヨナソンでは女刑事フルダのシリーズ三部作が立て続けに翻訳されその衝撃的内容に震えたものである。
アイスランド・ミステリーに何よりも注目を集めたのが本エーレンデュルのシリーズで初邦訳された『湿地』であり、その後も主人公が抱えている過去(雪山で見失って以来行方のわからないままの弟、という未解決な事件)のトラウマは、執拗にシリーズに影を落とし続ける。さらにその事故、あるいは事件の真相究明にのために、エーレンデュルはレイキャビックから毎年決まって姿を消してしまう。
本書でもエーレンデュルが不在であるわけはおそらく雪山の事故を思い出し真実に辿り着くための旅なのだと思う。なので本書では主人公をエリンボルクが務め、日頃あまり語られなかった彼女の私生活の描写が随所に語られつつ、彼女が執拗に本書の事件究明に携わる姿のどこかに、改めてエリンボルクという女性の大切にしているものが明確になってゆく。ちなみに料理へのこだわりが強く料理本を出版までしていることは過去作にも書かれていたたが、その辺りの拘りは本書でも頻出、刑事というよりも女性という側面を主体に男性作家によって書かれた作品である、という捩れのようなものも面白い。
また真相に辿り着くための執念、そしてたった独りの捜査を通じて知り合ってゆく関係者たちとの接し方も通常捜査というよりは、より個人的な被害者である<悪い男>への怒りと殺害者への情さえ感じ取れてしまう辺りが通常のミステリと完全に逆転していて面白い。おそらくこの作品にしか登場しないキャラクターたちも、皆どこか魅力的でしっとりした情景描写に、いつもながらのインドリダソン作品のディープな味わいを感じてしまう。
次作は同じ時期(つまり真の主人公であるエーレンデュル不在時)のシグルデュル=オーリを主人公にしたものだそうである。87分署みたいに人数はいないけれど日替わり主人公のような楽しみまで加わってきた本シリーズの今後、そして何よりもいずれ明らかになるであろうエーレンデュルの行方知れずの弟の行方という解に辿り着くまで本書は読み続けてゆかねばならない。その意味でも順に辿って全作を読んでゆきたいシリーズなのである。
Posted by ブクログ
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本作はエーレンデュルが不在で、同僚のエリンボルクが主役。
今までは脇役だったエリンボルクが、女性への暴力に対し、毅然とした態度で忍耐強く事件解決に向けて奔走する様子が描かれ、好感が持てた。
また、彼女の家族との関わりにも焦点を当てており、新鮮だった。
Posted by ブクログ
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