柳沢由実子のレビュー一覧
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8作目。題名から分かる通り、IT絡みの犯罪で、スウェーデンに居ながらにして世界中に影響が及ぼされる大規模な企みに、アナログ世代のヴァランダーが技術的なことはお手上げのため若い世代や専門職に任せながらも表面的なちんぷんかんぷんな技術的なことに惑わされずに犯罪者の心理と目的と動機を読み取ろうと想像力をふりしぼります。ことの始まりは十代の少女二人がタクシー運転手をハンマーとナイフで襲って金を奪い逮捕され自白もするが一切動揺も後悔もしていないことにイースタ署の警察官たちの方が動揺する、という強盗傷害事件なのですが、少女の一人が脱走したと思ったら殺されて発見されるという衝撃の展開に。一方で夜の散歩中に突
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6作目。少年だった頃は仲が良かったのに警察官になると決意して以降、理由もわからぬままずっと折り合いが悪かった父親がアルツハイマー型認知症を患っているとの診断が下りたのが前作、解説によると時間の経過が現実と揃うペースで一年に一冊刊行されていたシリーズ、長編で込み入った話なのにすごい。今回は父親の念願だったイタリア旅行へ親子水入らずで出かけたところから始まります。アルジェリアで原理主義者が無差別に複数の女性を殺害するテロ行為が書かれた血生臭いプロローグから一転、シリーズでもあまり描かれない心温まる親子の二人旅が丁寧に書かれていました。戻ってきたヴァランダーは、前作で起こった連続殺人事件のこともまだ
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ヴァランダーのシリーズ5作目にして、CWA賞受賞作品。解説によるとシリーズの代表作といわれているともあり、いつも通り読み応え十分のドッシリとした社会派ミステリ。起きる事件は凄惨なもので、犯人の動機もやりきれないものなのですが、作家の力量もありぐいぐいと読まされます。個人的にはこの作品よりも『白い雌ライオン』の方が印象深いのですが、思い返すとヴァランダーが主役なのに名わき役のような存在感で、南アフリカの殺し屋だったりタイトルのもとになった人物だったりの方が存在感があり、そのためヴァランダー・シリーズの代表作、と言うにはちょっと違うのかもしれません。ほかの方のレビューを読んでいたら、名優ケネス・ブ
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4作目。冒頭では3作目の終盤に正当防衛とはいえ人を殺めてしまった事実に押しつぶされそうになり燃え尽きたようになって辞職することを決意しているヴァランダー。旧知の弁護士が父親の事故死に不審な点があると、療養先を探しあてて相談しに訪ねて来たのも断るほどの憔悴ぶりだったのが、療養先から戻るとその弁護士が銃殺されたことを知り、辞職を取りやめて自責の念からその事件の担当刑事として復職。かつての同僚や上司はとまどいながらもヴァランダーの翻意を歓迎し一丸となって事件の解決のために捜査にまい進します。今回は事件そのものの動機や謎解きよりも、その題材を使ってスウェーデンの社会の変遷や警察組織内の旧弊な価値観に対
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長い、とにかく長い700ページ。
だからと言ってつまらないというわけではなく、二冊同時に読み切った感じ。
南アフリカ共和国がまさに変わろうとしているとき、北欧スウェーデンで不思議な殺人事件が起こった。
読み手は前作同様に、ヴァランダーの執拗な行動の行方と次々に巻き起こる新たな展開、その先にあることへの興味でひっぱりこまれていく。
いっぽうで、
ネルソン・マンデラとデ・クラーク大統領による平和的な変革への道筋が、まさに進められているとき、これまでの社会を維持するために暴力による動乱の陰謀が企てられ、陰謀の気配を知ったものとの探り合いが始まる。
……作者はその様子を、これだけで一つ小説が成立 -
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ネタバレ続けて読みどっぷりアイスランドに嵌まった。アーナルデュル・インドリダソンの三冊目。この本のテーマは社会主義国とそこの若者達という感じ。旧ソ連の影が色濃く差す東ドイツに留学した学生たちの重い青春記とも。
東ドイツのライプツィヒ、ベルリンの壁崩壊以前の大学生たちの若さが痛々しく、先頃発見された殺害されたが遺骨の捜査と交互してストーリーは展開してゆく。
お馴染みになった刑事たち、二作目からここまでまた月日が経ったようでそれぞれの身辺少しずつ変化している。
情けないオヤジのエーレンデュルは相変わらず娘、息子と関係は築けてない…。
翻訳者の解説によると、北欧ではこのシリーズ15作目まで出版されてると -
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ネタバレ家族の件など、個人的な苦悩を抱えながらも、捜査官として事件の真相を黙々と追い求めるエーレンデュルの静かな力強さが良い。捜査の進展と並行してある家族の物語が語られますが、描写こそ淡々としているのに、その悲惨さがひしひしと伝わってきて、読んでいてしんどいのだけど目が離せなかった。
ただ捜査していた2つの可能性のうち、片方の√が終盤で割とあっさり無関係とわかってフェードアウトしたのは少し拍子抜け。あと『湿地』のときも思ったけど、締めのラストシーンだけがなんだか妙にメロドラマっぽい。あのラストも、今作を読めば決して安易な結末でない(むしろ人間そんなに簡単には生まれ変われないよ、という事を残酷な形で突 -
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「その国を知りたければ、その国のミステリ小説を読め」と誰かが言っていた(「あとがき」かな…)。
“アイスランド”
その国の正確な位置を知っている日本人はどれだけいるだろう。
よく見る世界地図ではスカンジナビア半島とは遠く離れているように思えるが、北極点を中心とした地図を見ると、この島から南南東にあるイングランドとほぼ同距離で、東にノルウェーがあることが分かる。
と、同時に「小さく」感じる。
離婚した中年刑事と娘、昔ながらの捜査、性差別・蔑視とレイプ事件、麻薬中毒、これらは北欧と言わず欧米ミステリ小説にはよく見られるが、この物語ではさらに「血」が強調されている。
「住民は遡れば皆どこかで血縁