柳沢由実子のレビュー一覧
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湖が干あがったために発見された一体の白骨。殺害されたことを示す頭蓋骨の穴と、体に結び付けられたソ連製の盗聴器。この死体は誰なのか、なぜ殺されたのか、姿を消した失踪者から辿ろうとエーレンデュルたちの捜査が始まる。
現在進行の捜査活動の叙述の間あいだに、アイスランドから社会主義の理想を信じて東ドイツ、ライプツィヒの大学に留学した学生の生活が挟み込まれる。時はハンガリー動乱直前。そのときの何がが、この白骨死体に関係しているのか。
本作は時代背景が重要なポイントとなっているが、冷戦時代のアイスランドの国際政治的な位置について、初めて知ることが多かった。
主筋のストーリー自体はもちろん、主人公エーレンデュルとその子供たちとの関係、好感情を抱いた女性との交際の深まりなど、シリーズならではの読みどころも多い。
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ミステリを通して社会を描く。最近のミステリの傾向だが、北欧ミステリはマルティン・ベックシリーズを筆頭にそうした傾向が強く、捜査官エーレンデュルを主人公とする本シリーズも同様の指向性を持っている。
冒頭、人骨が発見される。一点、夫から妻に対する暴力の描写。
骨の主は誰なのか、どうして埋められたのか、事件性はあるのか、捜査活動が進んでいく。一方で凄まじい家庭内暴力。人が人に暴力を振るい屈従に追い込んでいく様子がこれでもかと描かれる。
そしてまた、捜査の責任者、主人公エーレンデュルの痛々しい過去が少しずつ明らかにされていく。破綻した家庭生活と捨ててしまった子供たち。ドラッグに身を持ち崩した娘が昏睡状態に陥り、その安否を気遣いつつ捜査をしていかなければならない苦悩。
現在の捜査によって、過去の家族を巡る物語が掘り起こされ、あまりにも哀しい真実が最後に明らかになる。
読み応えあり。
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『ファイアーウォール』以来、約10年振りのヴァランダー。10年と言う時を経て定年間近の60歳になった彼は、健康面の不安や、人間関係の悔恨に苦悩する男になっている。
意味深なプロローグから始まるストーリーはひたすらゆっくり進む。シリーズ最終章という先入観のせいか、刑事ヴァランダーの人となりをなぞるように展開してる気がして、序盤から退屈してしまった。休職中を利用しての個人的な事件追跡というスタイルは、警察ミステリというよりは、私立探偵モノの色合いが濃い。その割に、事件の核心はスウェーデンの国防問題と繋がると言う展開にバランスの悪さも感じてしまって、困惑する読書となった。
元妻が出てきて元恋人が訪ねてきて、人生を振り返ることになるのだが、ここにはシリーズの魅力である深い人生の味わい描かれ、それが退場するヴァランダーの姿と相まって何とも切実。最終巻はヴァランダーの退場のための物語なんだと、悲しいけどそう割り切って読んだ方が楽しめるんだと、下巻になってからシフトチェンジ。
謎解きは小粒で、事件の着地はあっさりし過ぎ。そして物語のラストも煙に巻かれたようで、決して望んだ幕切れではなかったけれど、シリーズを全部読めた満足感は格別。ありがとう、クルト・ヴァランダー。あなたはいつまでも私のヒーローです。 -
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読み終わってレビューを読んで、あ、シリーズ物だったんだ、と知る。
以前読んだ翻訳ミステリー大賞がかなり良かったので、引き続き購入。
鎌谷悠希の「少年ノート」という漫画をふいに思い出した。
最終話まで読んでいないのだけど、音の描き方が素晴らしくて、芸術だなーと思わせる作品です。
その中に登場するボーイソプラノ達を、この小説のグドロイグルに重ね合わせた。
グドロイグルの声が持つ稀有な美しさ。
けれど、それは父親の管理下だからこそ発揮され、変声期を迎えたことで貶められ、果ては家族としての居場所を失ってしまう。
そんなグドロイグルの死を追う警察官エーレンデュルにも、家族としての居場所を求める娘エヴァの存在が描かれる。
そして、父親からの虐待を疑われる事件を担当するエリンボルグのカット。
それぞれのシーンが上手く切り替わりながら進んでいくのだけど、シリーズ物だからか、割と終わり方は雑な印象。
んー。まあ続きを読むにはちょうどいいのかもしれない。 -
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孤独な生活を送っていたドアマンがホテルの地下室で惨殺される。
かつて男は、美しい歌声で人々を魅了したことがあった。だが、避けて通ることのできない変声のため、スポットライトを浴びた初舞台で、一瞬にして「ただの少年」へと変わったのだった。厳しく指導し息子に期待を懸けていた父親。失望と嘲笑、果ての転落。以降の人生はもはや「余生」に過ぎなかった。人々との関係を絶ち、人畜無害となっていた男を殺害した動機とは何か。レイキャヴィク警察の捜査官エーレンデュルは、私生活でのトラブルを抱えつつも、濁りきった事件の底に沈殿する鍵を求めて、再び水中深くへと潜り込んでいく。
インドリダソン翻訳第三弾。「家族」を主題とする著者の主張がより明確となり、前面に出てきている。本作では、親と子の関係性を問い直す三つのケースを扱い、マイノリティに関わる現代的な問題も絡めている。その中心となるのは、世捨て人同然となった男の半生なのだが、挫折の容量は重いとはいえ、人間の業に思いを馳せるような悲劇性は高くない。捜査を主導する主人公エーレンデュルの家族関係とのリンクを一層深めているため、軸となる事件自体の強度が弱められた感じだ。テーマを深めるためのメッセージ性が過多となり、肝心の物語が薄くなってしまっている。前2作「湿地」「緑衣の女」に比べてプロットの構成力も弛緩しているは残念だ。