【感想・ネタバレ】苦悩する男 下のレビュー

あらすじ

退役した海軍司令官、ホーカン・フォン=エンケは、自宅であるストックホルムのアパートメントから散歩にでかけ、そのまま戻らなかった。ヴァランダーは娘リンダのため、そして初孫クラーラのために、ホーカン失踪の謎を調べ始める。海軍時代の経歴になんらかの秘密が隠されているのか? 海軍時代のホーカンの知り合いに話を聞くが、彼の行方は杳として知れない。そんな中、今度は妻のルイースまでもが姿を消してしまったのだ。ときおり襲う奇妙な記憶の欠落に悩まされながら、ヴァランダーは捜査を進めるが……。刑事ヴァランダー最後の事件。

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Posted by ブクログ

刑事クルト・ヴァランダー終幕の物語である

ここではスウェーデンの田舎町の刑事の、この長いシリーズが、なぜこれほどまでに人を惹きつけるのか考えてみたい

それはひとえに主人公であるクルト・ヴァランダーがいついかなるときも『苦悩する男』だったからではないだろうか

クルト・ヴァランダーは非常に欠点の多い男だった
とりわけ彼を象徴するのは、その怒りっぽい短気な性分であったと思う

ただし、その怒りが向けられる先は、ほとんどの場合、人々の生活を脅かす者たちであり、その存在を許す社会であり、世界であり、自分自身だったのではなかったか

時に全身で怒り、時に自らの無力を嘆き、時に見えない不安に迷う彼が、決してしなかったこと
それは「逃げる」ことではなかったか

全ての不条理に正面から向き合い、闘い続けたからこそ、彼は『苦悩する男』だったのではなかったか

今、彼は記憶の彼方に消えようとしているが、彼が私たちに残したものはなんだったのか

それは、「苦悩せよ」ということではないだろうか
世界に、社会に、隣人に、暴力に、欺瞞に、差別に、裏切りに、家族に、自分自身に、そして人生に正面から向き合い、逃げずに「苦悩する」のだ

クルト・ヴァランダーのように

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2025年02月17日

Posted by ブクログ

ヴァランダーシリーズ ラスト
スウェーデンの、政治的背景(自由主義的国家と、共産、社会主義的国家の、狭間における立場)等、元潜水艦艦長らの事件に絡めて深く考察する事の出来る作品。
ヴァランダー刑事の、人間性と、その生活も合わせて、愛すべきシリーズだった。人生の、終末期における葛藤が、哀しく心に残った。ヘニングマンケルが、亡くなってしまっていることが、尚更悲しさを、感じてしまった
全シリーズを、通して只の刑事物ではない素晴らしい作品達だ。

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2021年05月18日

Posted by ブクログ

大好きなヴァランダーシリーズの最終巻。
北欧ミステリーはだいたいそうだが、事件そのものよりも登場人物達の背景や抱えている問題の描き方が面白くて次々シリーズを読んでしまう。
ヴァランダーが最後こうなるのか…と悲しい気持ちにもなったが、彼にとってリンダと産まれてきた孫のいる世界は幸せな世界なのかな…と思いながら名残惜しく読み終わりました。

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2021年03月03日

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ひとつはっきりしてるのは、何事も外側から見える姿とは違うということ。
シリーズの終わり方が、らしいな。やっぱ最高だった。

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2021年02月07日

Posted by ブクログ

これまで様々な社会的あるいは政治的な出来事を背景に事件を解決してきた連作の一番最後に国家の運命に関わる直截且つ強烈な謎を持ってきた。遠い北欧の一国の話を読んできたつもりの日本人にも響く主題である。その一方で、娘と孫との往来を繰り返しながら主人公の老境が深まっていきシリーズのエンディングに至るのは見事な幕引きだった。

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2021年01月06日

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クルト・ヴァランダーを生み出したヘニング・マンケルは2015年に他界している。内容的に“最終章”の本作は2009年に発表されている。従って本作は、その2009年頃の少し前の出来事ということになっている。
ヴァランダー刑事が活躍するシリーズ…1990年代に入った辺りで、難しい年代の娘が在って、妻との関係が面倒になって別居、離婚という状況になる男、1970年代位に社会に出た世代の男が主人公だが、1990年代というのは、そういう世代の人達が想像するような範囲を超えてしまうような出来事も平気で起こってしまうような時代に突入していた…そんな中でヴァランダー刑事は奮戦する。そして、他方でヴァランダー刑事自身の人生の頁も繰られている。
そんなシリーズが幕を引いた…読後に何やら大きな感慨を覚えてしまった…

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2020年12月06日

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あ~ヴァランダーよ、さようなら。1行ごと、むさぼるように味わった1冊。読むながら、どこかで見た記憶があったと思えば、海外ドラマ「刑事ヴァランダー 4シーズン3作」の内容。だが、もう一度読むと、かなり換骨奪胎している。

とは言え、終始、ヴァランダーが突如訪れる、「飛んでしまう記憶」に悩まされているので読み手の方も気を抜けない。
解説にもあるが海の風景がいつにもまして豊富。世界一島の数が多いというスェーデン。ラスト、散歩に出かけるヴァランダーの姿は「これから残された時間は自分と孫クラーラだけのモノ・・と独り言ちる・・涙が出てしまう。

リンダの夫ハンスの両親を巡る話の複雑さは冷戦以降のスェーデンの複雑さを思わせ、面白かった。
作中、ヴァランダーが呟く―自分の世代の特徴は冷戦の在り方、中立性、同盟を結ぶ自由、NATOと密接な関係を持つことの重要性など如何に知らなかったか と。
自分はグラスの泡の中で生きてきたようだ と。

そして2人の女性 モナとバイパ。ラストでまたしても女を買ったヴァランダーは余りの嫌悪感で逃げ出す(笑)・・彼は男の世界を出て人間として残りの時間を歩むのだろう と思わせる。

真実は見えているが起案とまったく違う と何度もつぶやくヴァランダー

重厚な11作目、有難う。

マンケル未訳があと2冊あるダイヤ  楽しみだ

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2020年09月30日

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ヴァランダーシリーズ。娘のリンダの義理の父が失踪。事件か事故か。ヴァランダーの捜査が始まるけれどなかなか思うようにいかない。ヴァランダーは60歳になり色々考える。仕事、生活、死。そういうところがこのシリーズの好きなところでもある。ヴァランダーの迷いや怒りが溢れてくる瞬間とかとても読み応えがある。捜査を通して、娘や自分との向き合い方を考える。行方不明者の捜索とヴァランダーの体の不調や時折起こる記憶喪失への恐怖。事件そのものよりそちらが気になる。苛立ちや悲しみ、孤独が襲ってくる中にあって孫ができたことで変わったもの。シリーズの中で登場した過去の女性も出てきたりと懐かしさもあった。とうとう終わってしまったこのシリーズ。訳者あとがきによればもう一作あるみたいだけれど実質的には今作がラスト。一番好きなシリーズ物で本当に楽しませてもらった。翻訳ものは途中で発売されなくなるものもあるなかで20年近く経っても最後まで読めたのはありがたい。また一作目から読み返してみようと思う。

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2020年09月20日

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ネタバレ

スウェーデンの歴史をなぞるようにこの物語は過去から2000年代まで進んでくる。
潜水艦の艦長だった失踪した男の闇の部分が見え隠れする。スウェーデンの実際にあった事件、1986年のパルメ首相暗殺事件が深く影を落とす。それに並行してスパイの存在や過去の潜水艦の攻撃・作戦がいつまでもその、苦悩する男を精神的に追い詰めてゆく。そしてその妻をも。
ヴァランダー自身もかつての事件時携わった人物や土地や苦い思い出に次々と追われヴァランダーシリーズの総決算大サービスセールのよう。
実際、警察官として捜査した事件ではなかったので、あのケジメのつけ方は少し疑問が残るけれど、リンダの父親、クラーラの祖父としてはよかったのでは・・・
年老いて自分の父親と似てきたと感じているヴァランダーの思いには納得して、苦笑い。

ほかの著作「流砂」や「イタリアンシューズ」を彷彿とさせるシーンもあって、ヘニング・マンケルファンとしては実際泣けてくる。
「私の秋が終わったら誰かの春が始まる」のセリフにはマンケル氏の思いが充分込められている。
訳者のあとがきからすると、もう一冊著作があるらしい。これで最後と思っていたけれど、やっとひとつ私ももう少し頑張って待ってみようと思う(忍び寄る老いに恐れをなして・・・のスタンスがうつってしまった)

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2020年09月14日

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ヘニング・マンケル『苦悩する男 下』創元推理文庫。

北欧ミステリーの最高峰クルト・ヴァランダー・シリーズ第11作の下巻。刑事・ヴァランダー最後の事件……

リアリティあふれる北欧の警察小説。スウェーデンの文化や風土を背景に繰り広げられるミステリー。間違いなく北欧ミステリーの面白さを最初に日本へ伝えてくれた傑作シリーズであろう。

時折襲う奇妙な記憶欠落症状に苦しみながらもヴァランダーは捜査を進める。さらには心臓に痛みを覚えるなど満身創痍のヴァランダーが辿り着いた真実とは。

失踪した娘のパートナーの両親。ホーカンの失踪の後にルイースも失踪。そして、ルイースは何者かに殺害される。やはり、事件の背景にあったのは……

静かに幕を閉じたヴァランダー最後の事件。しかし、シリーズはこれで終わりではない。近日、第12作の『手』が邦訳されるとのこと。我が郷土、岩手県一関市出身の柳沢由美子さんの偉業に感謝。

本体価格1,200円
★★★★★

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2020年09月13日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ヴァランダーシリーズ最終作。
最後までヴァランダーはヴァランダーで、ドタバタしながらもきちんと仕事をこなして面白く読めた。
エピローグでのヴァランダーのその後については少し寂しいところもあるが、それも良いのかも。
面白いシリーズでした。

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2025年05月01日

Posted by ブクログ

クルト・ヴァランダー最後の事件である。最後は悲しくて寂しくて泣いた。でも彼にはお疲れ様と言ってあげた方が良かったか。老いへの恐怖、死への恐怖、年を取れば取るほど私自身にも迫りつつある。若い時に政治に関わらなかった後悔も、体力や気力を失いつつあっても、生きねばならない虚しさも。人種も環境も全く違うのに、いつも共感があり、親しみを覚えた。大好きなシリーズ。

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2024年03月20日

Posted by ブクログ

お〜〜!
なんだか切ない終わり方。。
今作をもって、しみじみとヴァランダーとお別れ。

なんか世話の焼ける、
めんどくさいけど放っておけない友人と過ごすような、そんなシリーズだった。
最初はヴァランダーのやらかしに苦笑いしたり大笑いしたり、気楽に読んでいたけれど、
今回はヴァランダーの年齢が自分と同じくらいに近づいたこともあって、その失敗を笑えなくなり、
心配すると共に、他人事ではないこの先の自分の在り方というものもひしひしと考えさせられた。

あと二作、短編などがあるようだけど
わたしの中では終わった感。
ありがとうヴァランダー。
おつかれさまヴァランダー!

最後に気になったことを彼に告げたい。

飼い犬、預けすぎ。

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2025年05月03日

Posted by ブクログ

『ファイアーウォール』以来、約10年振りのヴァランダー。10年と言う時を経て定年間近の60歳になった彼は、健康面の不安や、人間関係の悔恨に苦悩する男になっている。

意味深なプロローグから始まるストーリーはひたすらゆっくり進む。シリーズ最終章という先入観のせいか、刑事ヴァランダーの人となりをなぞるように展開してる気がして、序盤から退屈してしまった。休職中を利用しての個人的な事件追跡というスタイルは、警察ミステリというよりは、私立探偵モノの色合いが濃い。その割に、事件の核心はスウェーデンの国防問題と繋がると言う展開にバランスの悪さも感じてしまって、困惑する読書となった。

元妻が出てきて元恋人が訪ねてきて、人生を振り返ることになるのだが、ここにはシリーズの魅力である深い人生の味わい描かれ、それが退場するヴァランダーの姿と相まって何とも切実。最終巻はヴァランダーの退場のための物語なんだと、悲しいけどそう割り切って読んだ方が楽しめるんだと、下巻になってからシフトチェンジ。

謎解きは小粒で、事件の着地はあっさりし過ぎ。そして物語のラストも煙に巻かれたようで、決して望んだ幕切れではなかったけれど、シリーズを全部読めた満足感は格別。ありがとう、クルト・ヴァランダー。あなたはいつまでも私のヒーローです。

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2020年10月17日

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