柳沢由実子のレビュー一覧
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1990年代のスウェーデンが舞台の刑事ヴァランダーシリーズ第1作。
一応ミステリー小説にカテゴライズされるのだろうけど、これミステリーじゃない!
殺人事件の捜査が柱にありつつ、謎解きがメインじゃない人間ドラマ。
登場人物たちの内面の葛藤や生活、そして事件捜査としての"自分の仕事"に対する姿勢がとても魅力的。
ヨーロッパらしい自立した考えの大人が議論を交わす形で社会的背景と国家の問題を印象深く盛り込んでもいる。過激な思想の押し付けがなくスマートなので、余計に考えさせられる。
翻って、アクションシーンはハリウッド映画も真っ青の大迫力!
ミステリーの概念吹っ飛んだ。
これまで読んできたミステリーはアメリカが舞台のものばかりだったので、北欧というのもとても新鮮だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレクルト・ヴァランダーシリーズ第1作。
順を追わずにいくつか読んでいるこのシリーズだが、未読作品も読んでみたくなり手を取った。
クルトの私生活描写が生々しい。奥さんに愛想をつかされ、娘には異国の恋人ができ(それを知らされず)、乱れた食生活で太り、酔っ払い運転で部下につかまり、酔った勢いで美人女性検事の腰を抱きかけてどつかれ…、なんという駄目っぷり。
認知症気味の父親とのぎこちないやりとりや、その父親の今後を姉と相談するシーンなどは、駄目なわけではないが、高齢者福祉社会に住む中年男の悲哀感もたっぷりで、妙なところに親近感がわく。
でも仕事になると、猛烈に働くねんなぁ。決して天才肌の名探偵ではないが、綿密にしつこく念入りに事件を捜査し、決して諦めない。行き詰ろうと、迷宮入りしそうになろうと、予測が外れようと、その場では落ち込んで苦しんでも、執拗に粘っこく解決への糸口を探す。
そんなモーレツな業務をこなし、わずかなプライベート時間を家庭の諸事と酒と美人検事にちょっかいかけることで潰してしまうクルト。過労死するんちゃうかと心配になる。
と、本筋から外れた楽しみもできる本作だが、もちろん警察小説としても読み応え十分。ミステリーという意味では、謎解きが弱く、どんでん返しも荒っぽいが、犯罪捜査に取り組む警察の描きっぷりは見事である。
なるほど、これはシリーズ化するはずで、この後傑作も生まれるわけだ、と納得のシリーズ第1作だった。 -
購入済み
ぐいぐい引き込まれました
ぐいぐい引き込まれ一気に読んでしまいました。誰に感情移入するかで読後の感想も変わってくるかも。映画を観ているような面白さでした。
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Posted by ブクログ
アーナルデュル・インドリタソンは「このミス」で見つけた。「湿地」「緑衣の女」に続いて三冊目になる。流行の北欧ミステリなのだが、同じ地域だと大雑把に捕らえても、その作風はそれぞれまったく違っていて面白い。
アーナルデュル・インドリタソンの作品の舞台からは当然北の風土感が伝わってくるが、読みどころは捜査官のエーレンデュルの心理描写や風景描写は、繊細で品がいい。
エーレンデュルが抱えている個人的な悩みも深い、エピソード風に挿入されている過去に起きた出来事、彼の未だに囚われている苦しみに事件解決よりも惹かれるときがある。
今回の事件は、クリスマス前の浮き立つ世間をよそに、有名ホテルのドアマンが、地下に与えられている小部屋で殺されていたことが発端になる。イベントに着るサンタの上着をはだけ、ナイフで滅多刺しにされ、下着は足元までずらした異様な姿だった。
被害者のグロドイグルは28歳から20年間、ドアマンをしながら雑用も引き受け無事に勤めてきた。
グロドイグルは子供時代は天才的なボーイソプラノ歌手で、地方で認められ始めていた。北欧巡業も決まっていた。が初めての大きな舞台で歌い出そうとしたとき突然変声期を向かえ、その後は消えてしまった。
その後彼にまるで関心のなくなって家族は断絶した。
しかし胸に何度も突き刺されたナイフの跡は何を意味するのか。調べを進めるうち、直前に接触した人物が分かる。
彼はイギリスから、殺されたグロドイグルが子供時代に吹き込んだレコードを買いにきたのだった。
残ったレコードは収集家が莫大な値段をつける超レアものだった。彼は手付金を受け取っているはず、が部屋にはなかった。
麻薬も関係がない、ホテルの陰の娼婦斡旋も利用したことがない。不審な人の出入りもない。
彼の過去は、子供スターとして短期間は世間に知れ、それが原因で学校では苛め抜かれ、常に公演の失敗を笑われ実に惨めに生きてきた。
スターにするという夢のために父との過酷な日常を耐えた日々、ついに父と争って動けなくした。姉は手の平を返すように冷淡になり、家を出た。
世間との接触をたって、ホテルの制服の中に逃げ込んでいた。彼がぬいぐるみを着るクリスマスのサンタは子供ちに人気だった。
エーレンデュルとチームが次第に彼の過去に迫るにつれ、形は違っても、自分が抱えている癒されない過去が思いだされ苦しみながら話が進んでいく。
一人の男の人生がこうして幕を閉じた後も、周りの人々の暮らしは続く。グロドイグルと関わった人たちの思いと、犯人の思いが、暗い地下の隅から、人々の前に姿を現す。
しかしグロドイグルには誰にもいえないひそかな悲しい秘密があった。
アイスランドの首都、レイキャヴィクのクリスマス前の数日が舞台である。
一一一
家。
家とはなんだろう?
人生がどうしようもない事態になり、崩壊と不幸の淵に沈んでしまう前に、家族と過ごした子ども時代に戻りたいと思うものだろうか?友達であり親友でもあった母親と父親、そして姉に囲まれて過ごした生家、そこで子ども時代に戻りたいという気持ちだろうか?生きていくのが苦しくてこれ以上耐えられないとき、失いたくない思い出、慰めとなった思い出を求めて、人の目につかないように生家に忍び込んでいたに違いない。
もしかすると彼が忍び込んだのは、宿命と闘うためだったのかもしれない一一一 -
Posted by ブクログ
ネタバレCWAゴールドダガー賞・ガラスの鍵賞。 「湿地」に続く二作目だけれど、アイスランドという国は特に馴染みがないせいか、名前や土地に着く「ヴ」という音のつながりが、遠い国を実感させた。
「湿地」を読むのに、改めて地図帳で拡大されたページを見てみた。北極圏にあるグリーンランドに近い寒いところらしいと思っていたが、日本の1/3くらいの広さを持つ丸い島国で、随分進んだ文化や歴史のある国だと知った。
あまり深入りして調べだすと、夢に見たり、行ってみたくなるので(行けはしないのに)考えるのも程ほどにして、話を楽しんだ。
この「緑衣の女」は訳者のあとがきによると、激しいDV描写があるので、出版についてはその部分が少し気がかりだったそうだ。そういわれるとなかなかハードな部分がある。家庭内の暴力が繰り返されて、心身ともに傷つけられる母親の姿は、三人の子どもの精神まで損なってしまう。
でも、コアなハードボイルドなどを読み出すと、現実として身近ものとは考えない、やはりどこか絵空事で、ストーリーの一部でしかないと思うようになる。現実には身近にあるかもしれないとは思いつつ。最近のニュースなどを見ると平和な世界がほころびてくるようで恐ろしくなるところもあるが。
作り話だと割り切れない世代には訳者のような気配りもいるかもしれない。
アイスランドでは、第二次世界大戦の後の混乱が終わって、時代とともに生活が変化し、街が郊外に広がりだす。その新興住宅地の工事現場の穴から、肋骨が折れ、宙に腕を伸ばした白骨が見つかる。
60年ほど前のものらしい。戦中から戦後のものかもしれないが、当時このあたりはイギリス軍の後アメリカからの兵士が来てバラックを建てていた。現在は全て取り払われて家が建ち始めている。
少し馴染みになったエーレンデュル捜査官と同僚が調べ始める。
現代の犯罪捜査の様子と、戦後、骨が埋められた時代にさかのぼった話になっている。
バラックから離れた古い一軒屋で、繰り返されていたDVの様子や、その家庭の話が同時に進んでいく。
それまで話されなかったエーレンデュルの悩み、荒れた家庭の様子も、明らかになっていく。
骨は誰なのか、聞き込んでいるうちに浮かんでくる影は見えるが、確定するには時間がたちすぎている。
60年(ほど)という長さが丁度いい。当時を知る人々が年老いてしまってはいるが少しは生き残っている。聴き取った話を繋ぎ合わせて現代に結んでいく。
その捜査過程の、紳士的な警察官も、協力する周りの係官の働きもいい。
昔ひとつの家庭があって、それが惨めで恐ろしい形で崩壊していくさま、母親が犠牲になって耐え抜く様子がリアルで、哀しく腹立たしい。
読みにくい土地や人名に慣れると、話に引き込まれる。「湿地」とこの作品で賞をダブルで受賞しているそうだが、物語としては「緑衣の女」がこなれていて、人物の描写も細やかで面白かった。
その前に「冬のフロスト」を読み始めていたが、比べてみるとやはり国民性というか、キャラの違いが面白い。周りが取り散らかって言葉も汚い、それでいて気持ちの優しいフロストに比べて、エーレンデュルと同僚たちの捜査は繊細で思いやりもあり、それぞれ個性的で次第に馴染んできた。
フロストをおいて読んでも後悔しないくらい、読み応えがあった。
一風変わった犯人探しだけでない味わい深いところがとてもいい。
訳者のあとがきもとても参考になった。 -
Posted by ブクログ
<上巻とあわせて>
はじめての北欧ミステリー。
初めは聞きなれない地名や人の名前にとまどったけれど、一文が短くわかりやすく訳されているのでとても読みやすい◎
翻訳をされている柳沢さんの講演に伺った際、「北欧ミステリー作家は、社会小説家だ」とおっしゃっていたことがよくわかる内容だった。
特にジェンダー平等について。
なくならない女性への暴力、人身売買。
女性上司との関係性、女性同僚へ信頼の置き方の変化など…。
そんなことを抜きにしても、最後まで面白く読み進めることができる小説だった!
犯人が分かっているので、犯人と警察の立場から同場面を読めるのが面白い。
「答え」に迫った後半の怒涛の展開は、ページをめくるのがやめられない…。
そして上巻のプロローグと下巻のエピローグが繋がったとき、悲しい結末に思わずうるっときてしまった。
主人公ヴァランダーの感情の変化や行動が、人間味があふれていてとても好感がもてる!
他のヴァランダーシリーズも読みたくなった。 -
Posted by ブクログ
今回は悩み男のヴァランダーが無茶振りでアクションを演じます。てこずった割りに敵はあっさり片がつきますが、まぁイースタ署員の仕事ぶりが面白いし、こういうのもありにします。
シリーズ4作目だけれど、一作目から順不同に読んできたので、残念なことにどうして彼が悩んでいるのかが分からなかった(笑)シリーズというのは話も繋がっていることを改めて確認したが、こういうところは我ながら困ったことだ。
イ-スタ署のヴァランダー警部は、冒頭から正当防衛で射殺した事件で悩んでいる。休暇を勧められて転地しても効果がなく、うつ状態は深まるばかり。
そこに友人の弁護士が尋ねてくる、父親が交通事故で死んだが、腑に落ちないので調べて欲しいと言う。ヴァランダーは警官を辞めようかと思っているときであり、珍しく断ってしまった。
帰宅して読んだ新聞で、その友人が殺された記事を見る。
彼は負い目を感じ、責任感も手伝ってやっと前向きに立ち上がれそうな予感がする。
重い腰を上げて署に復帰、早速父親の事故から調べ始める。
暫く空けていた署内は、新人のアン=ブリッド=フーグルンドが配属されていた。女刑事というのが気に入らなかったが、頭も切れ、その上美しい彼女は、戦力になりそうな有望株だと思えた。
友人の秘書の庭に地雷が埋められたり、自分の車にも爆破装置を仕込まれたが幸いにも生き延びる。
一方では県庁の会計捜査官が自殺をする。ことは重なるものだ。
姿を見せない富豪の城主がいる、次々に起きる事件を繋いでるかのようで、ヴァランダーは何か常に気にかかっている。彼は5年前に郊外の城を買って住み始めた。県内あちこちの施設に高額の寄付をし、研究費を補助し、尊敬されている人物だった。
ヴァランダーは挨拶目的で彼に会いに行く。城はセキュリティーでがっちり固められていた。
非常に紳士的で隙のない男だったが、顔に笑みを張り付かせた様子はなにか無理があるような、笑顔の裏には冷酷さも見えてそれがひっかかった。いつものようにピンときたのだ。
しかし彼だとしても事件の根拠がわからない。調べてみる価値はある、と思うが…… ヴァランダーは働き詰めの同僚を思ってまた惑う、方向を誤ってはいないだろうか。
なすすべも無く、時間が過ぎた。
署長のビュルクは相変わらず事なかれ主義で、長いものには弱腰である。しかし鑑識のニーベリやオーケソン検事に励まされ、同僚も休み返上で動く。ヴァランダーは少しずつ前進する。
ハーデルベリ(城主)に関する情報を確認する捜査に一週間かかった。その間、ヴァランダーもほかの者たちも、平均して5時間も眠らなかった、あとで彼らはその一週間を振り返って、必要とあれば自分たちも高度の捜査能力を(随分無茶をして法を破ってはいるけれど)発揮することが出来ると実感したのだった。
オーケソン検事は言う「この捜査法は時が来たら、警察本庁と法務省がイースタモデルという名で一般に公開することになるだろう」 「私の云っているのは、警察本庁のお偉方の捜査会議のことだ。また政治家のまか不思議な世界のことだ。大勢が集まって御託をならべて<アリを篩にかけ、ラクダを飲み込む>ようなことばかりしているではないか。彼らは実際の仕事をしないで毎晩就寝時に明朝目が覚めたら水がワインに変わっていますようにと祈っているようなものだ」
今回は、完璧に武装した城の中に潜入して調べたいという焦りと、若くして成功した世界的な事業主の闇を暴こうとする執念が、非力なヴァランダーの支えになってパワー全開で猛進する。
事件捜査がハードなら、ソフト面では、ヴァランダーの家庭や親子のつながりなどに紙数を費やしている、彼の人柄を浮き彫りにして親しみを持たせる。事件を追いつつ、同僚や上司の人物の描写も多い。このあたりがヘニング・マンケルの読者サービスでほっとするところ。
「何かおかしい」というヴァランダーの天性の勘と経験に裏打ちされた警官の心が、物語を牽引する。いつものように。
格好のいい警官ではない、逆に悩みも多く、たまにはそれに負けて逃げようとする、そんな身近な人となりが、可愛らしい。
11月初めに起きたこの事件は社会的にも複雑な背景を持っていたが、クリスマス前にやっと目処がつき片付く。
最後、ダイハードもどきのヴァランダーの活躍にはビックリした。やれば出来るのだな!だから☆4のおまけ。 -
Posted by ブクログ
クリスマスは幸せな人たちのもの。
この小説はこの文章に全てが凝縮されていると思った。
色んな出来事が重なって語られる。かつて子供スターになりかけた元ホテルドアマンがサンタクロースの格好でホテルの地下で殺されたのはなぜだったのか。
西欧はクリスマスが特別なお祭り? なのでクリスマスに少しでも家族が幸せになれるというプレッシャーがすごく強いのかなとは思う。この作者の書くアイスランドはとても暗い色の世界に見える。エーレンデュルが10歳の頃から闇を抱えていたことをエヴァ=リンドに告白できて良かった。二人がゆっくり家族になっていくのイライラするけど、次の作品を読むの楽しみ! -
Posted by ブクログ
刑事ヴァランダーシリーズ番外編。
ヴァランダーがまだ新米巡査だったころからシリーズ第一作「殺人者の顔」直前までの中短編五編。
新米巡査なのに刑事の真似事をして、禁じられている単独行動の末に撃たれてるし、その後、念願の刑事になっても相変わらず単独行動を繰り返しては時に銃撃戦になったり揉み合いになったりで、ヴァランダーさんはずっとこんな感じだったんだなぁと改めて思う。
ただヴァランダーの単独行動はスタンドプレーというよりは、自分の推理が独りよがりのものなのかの確認だったり、部下や同僚たちを巻き込んではいけないと考えてのことなので、厭な感じはない。またやっちゃったか、という感じ。
モナとの関係は恋人時代から危うく、その後の離婚という結末が予想できる。それでもヴァランダーが後々まで未練を持つのはモナ。叶うことはないけど。ただ娘リンダとの関係は良好でホノボノする。
父親はヴァランダーそっくりで、感情が先走るタイプ。エジプトで起こした事件はファンキー過ぎてビックリする。度々ヴァランダーと喧嘩しているが、読者から見れば似た者親子。ただ時折仲良くもしてるので、ホッとする。
麻薬犯罪、移民の犯罪などの社会的問題もあれば、容易に他人が立ち入れない理解しがたい個人的な事件もあって、事件ものとしても面白かった。
そして最後、表題作のエピローグにシリーズ第一作『殺人者の顔』のプロローグとなるシーンが描かれている。『殺人者の顔』直前のヴァランダーはこんなに大変だったんだなぁと分かり、再び『殺人者の顔』を読み返したくなる。
訳者あとがきによると、シリーズ未訳作品はあと二作あるらしい。いつになるか分からないが楽しみに待ちたい。