柳沢由実子のレビュー一覧
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ネタバレヘニング・マンケル最後の長編小説。マンケル自身ががんの末期であることを承知の上で書かれた小説と考えて読むと色々と考えさせられる。
本作は「イタリアン・シューズ」の続編(時系列のずれはあるけど実質そういうことだろう)で、主人公の外科医崩れフレデリックは相変わらずのクセが強いちょっと根性がヒネくれたクソジジイである。
家が火災で燃え尽きる場面から物語が始まる。前作のタイトルにもなった、イタリアミラノの凄腕靴職人が作ったハンドメイド革靴も金属製のバックルを残して燃え尽き、それ以外の家財もほぼ焼き尽くされて途方にくれるフレデリック。しかも警察からは保険金目当ての自作自演放火と疑われだす始末。
可 -
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「我々の時代、狂気と正常の違いがなくなってきている」
このシリーズ、作者ヘニング・マンケルは、現代社会に対する思いを主人公ヴァランダーを通じて、我々に伝えようとしている。
それは、シリーズの回を重ねるごとに強くなる。
「ゴールドダガー賞」を受賞した前作の事件から数ヶ月後、再び想像を絶する事件がイースタ署を襲う。
穴の中に竹槍で串刺しとなった死体、ポツンと宙吊りにされた死体、生きたまま袋に入れられて水死した死体。ヴァランダーは仲間とともに丹念に捜査を進めるも、全く手掛かりが見出せない。
隠れたDV被害、声をあげることのできない女性たち。凶悪化する犯罪と「夜警」と称した市民暴力集団など、現代 -
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ネタバレへニング・マンケルのミステリーではない(と言い切っていいのか?とにかく謎解きが主体ではないのは確か)長編小説。
主人公は元外科医で偏屈じじい、他人との交流を極力断つために無人島に一人で住む。凍った海に浸かったり、ボロ船を直そうとするだけで眺めたり、船で島に来る郵便配達夫をからかったり…まぁとにかくヘンコなジジイなのであるが。
そんなジジイがかつて手ひどく捨てた恋人がある日、余命いくばくもない重病の末期状態で島にやってくる。付き合っていたころ約束した湖を死ぬまでに見せてくれと言われて、断りきれないじじいは恋人ともに湖を訪れる
そこから、じじいの人生がエラいこと動き始めるのだが、それはじじい -
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警察の仕事というものは基本的に、一枚のメモ用紙に書かれている決定的な情報を確認することの積み重ねにほかならないのだ。
『目くらましの道』というタイトルがまず秀逸だと感じました
自分たちは「目くらましの道」を進んでないよなと、一歩進んでは後ろを振り返り確認する
その積み重ねでちょっとづつ進んでいく
それがいいんですよね
そしてもちろん気がつくと「目くらましの道」に進んでるんですよね
じゃなきゃ小説になんないですもん(それを言っちゃあおしまいよw)
ヴァランダーは捜査の途中で、最初の頃に見聞きした何気ない事柄が事件の重要な鍵を握っていることに深層心理で気付きますが、それがどうしても思い出せま -
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シリーズ最高作の評判はダテじゃなかった。
なぜこのシリーズに惹かれるのかは、これまでさんざん書いてきた。
「文章の読みやすさ」「魅力的な人物による没入感」「物語のスピード感」「時系列というシンプルさ」
今回特に「映像的表現によるドラマチック感」が抜群だと思う。
さらに、そこにとどまらずヘニング・マンケルはここでもメッセージを持っている。
エピローグで描かれているヴァランダーの心情は、変わりゆく社会への作者自身の不安と怒りであろう。
主人公ヴァランダーに代表される感情は、この国の負の良心なのだろう。
移りゆく時の先は、歳を重ねるごとに暗さを増していく……寂しいことですが、仕方ありません。 -
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2015年に亡くなったヘニング・マンケル氏の最後の作品。
これでもう、彼の本を読み続ける楽しみは無くなってしまったのだけれど残された本を再読してゆくじんわりとした楽しみが私には残されている。
相変わらず情けない老境にさしかかった男が主人公で、この本は自身ががんに冒されていることを呑み込んだ上で書かれているので、
「老いること」そしてその先の「死ぬということ」を真に迫って読むことが出来る。
スエーデンの群島でおきた火事や、馴染みの浅い娘との交流、(年がいもない)恋愛への妄想もリアルな表現。
『イタリアンシューズ』の続編だけど登場する靴のその差は大きい。
ミステリーとしてのストーリーだけでなく -
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スウェーデンの群島のひとつの小島に住むフレドリック・ヴェリーン、71歳。フレドリックの家が全焼したというところから始まる。全てを失ったなかで感じる孤独。この先どうすればいいのかという不安の日々に出会ったリーサという女性。リーサとなんとか近づきたいという思いや、一緒にいたいという気持ちを持て余しつつも、利己的に振る舞うフレドリック。決して好きになれないような造形の人物なのに、どんどん引き込まれていってしまう。自分の娘との関係や、近くの住民たちとの交流の不器用さがいいし、もっとフレドリックという人を知りたくなっていく。だからこの物語が著者の最後の作品というのが残念でもある。この文章、世界観がとても
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続編が刊行されたので再読。スウェーデンの東海岸にある群島のひとつの小さな島に一人で暮らしているフレドリック、66歳。そこに40年前にフレドリックが裏切った女性ハリエットが突然尋ねてくる。過去に交わした一番美しい約束を果たしてほしいと。フレドリックの頑固さ、自分勝手な性格と、その裏にある一人でいることの孤独や諦観。ハリエットとの再会から少しずつ人生を見つめ直し、そこにある後悔や苦しみと向き合う。タイトルのイタリアンシューズが登場するシーンは何気ないけれど、フレドリックに希望を与えるような素敵な、読み終わった後も余韻が残るもの。この一冊でもとても濃密で素晴らしい作品なのに続編があることがとても嬉し
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久々に<刑事ヴァランダー>シリーズを読んでみた。
濃い霧の海岸線
一人の男があてもなく彷徨う。
ひとつ前の大作「白い雌ライオン」の終盤で人を殺してしまった主人公ヴァランダーは、ひとり出口のない苦悩の中にいた。
一旦は警察を辞める決断をしたが、知人の弁護士が殺害された事件を知り突然の復帰。
そこからは、署のいつもの顔ぶれに新任の女性刑事を加えた仲間を振り回しながら、事件解決へと突進していく。
よく考えるとヴァランダーはもうムチャクチャで、周りはきっと迷惑しているだろう。
そして物語は初期2作と同様に、主にヴァランダー目線一本で時系列に進む。
この、じっくりと「主人公ヴァランダーを味わう」 -
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「大切なことは最初に言おう、でないと忘れてしまうから」と言ったのは十五世紀のパン屋さんヒマーワリ・メーロンですが、彼の言葉に習って言います
刑事クルト・ヴァランダーシリーズ第三の物語は文庫本で700ページの大長編でしたよ!
うん、この情報は私の感想よりよっぽど重要w
とにかくもうヴァランダーが大好きだ!
あえて言おう、彼こそ男の中の男であると
前にも書いたかもしれないが、本当に男のいいところ(と男たちが思っているところ)と男の恥ずかしい部分が凝縮されたキャラクターと言っていいのではなかろうか
意固地でまっすぐでロマンチストで臆病で怒りっぽくて自分勝手だ
彼は直感によって仕事を進めるタイ -
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残酷な子供時代
それは、殺された男の過去でもあり、
三作目にして次第に明らかにされる、主人公の弟の失踪当時の状況。
クリスマス前のにぎやかなホテルのざわめきと比較して、サンタの姿で地下で殺された男はなんて静かで寂しい。
心配されて誘われるほど嫌いになるクリスマス休暇、突然、主人公エーデンデュルは事件のホテルに泊まることにする(捜査のためではない)。
「あの時から、私は何かを失ったまま……」
殺された男の子供時代と歯車の狂った人生が次第に明らかになっていくにつれ、エーデンデュルは、弟の失踪から何かが狂ってしまった自分を責めて追い詰めてしまう。
そして、問題を抱えたままのエーデンデュルの娘は -
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ネタバレネットで見かけて。
北欧ミステリーの現在、らしい。
アイスランドは寒いのに火山の島だということぐらいしか知らない。
アイスランドのミステリーを読んだこともない。
典型的なアイスランドの殺人、と言われても何のことやら。
それなのに、なぜか懐かしさを感じるのはなぜだろう。
北欧ミステリーに分類されるがゆえだろうか。
ドラッグの蔓延、若者の失業、伝統的な家族の消失が、
他の北欧の国々と共通しているからだろうか。
それは日本の行く末でもあるのだろうか。
湿地の半地下室で老人が殺された。
2時間ドラマをほうふつとさせる重いガラスの灰皿で。
汚くて無意味で証拠を消すこともない、
不器用な典型的なアイ -
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ネタバレスウェーデンの警察小説である『クルト・ヴァランダー』シリーズの第1作。
凄惨な殺人事件の謎を追う警官クルト・ヴァランダーが主人公なのだけれど、起こること起こること(事件関係でもプライベートでも)泣きっ面に蜂が続き、同情を禁じ得ない。次々に事件は起こるし、上司は不在だし、操作情報を外部に漏らす部下もいるし、家では離婚、娘との不和、老父の精神不安定、中年太り、アルコール依存、古い友だちには邪険にされ、新しく出会った人妻にも相手にされない…。お世辞にもスマートとは言えないクルトだけど、事件に関しては(何度も失敗しながらも)「しぶと」く「絶対に放り出さな」い姿に、よれよれながらも応援したくなる。
胸の -
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レビューを書いてないままになっているのにひと月以上経って気づいたものの、もう概要を忘れてしまってきちんとした文章を書けなくなってしまいました。無念。かなりのページ数でしたが内容にひっぱられてぐいぐいと読み進められました。題名が印象的ですがこれも読み終わって納得。事件はただ間違った時間に間違った場所に居合わせてしまっただけの一般市民の女性が殺害され遺体が遺棄されたため行方不明になり、残された夫が地元警察署に届け出てヴァランダー刑事が捜査にあたるが手がかりがほとんど無く難航する捜査という軸と、南アフリカ共和国(執筆された当時はまだアパルトヘイト政策が撤廃される前)で白人優位を死守しようという勢力が