柳沢由実子のレビュー一覧
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馴染みのないアイスランドが舞台の警察小説。
ミステリーとしては犯人探しの側面も興味を引くが、それよりも動機の解明に心血が注がれており、その過程でなんとも言いようのない悲劇が事件の裏に隠されているのが判明する。
解説に「どこかの国のことを知りたければミステリを読めばいい。一番的確な案内書だ」とあるが、まさにその通りで、アイスランドの風土やアイスランド人の気質が、レイキャビクの晩秋のどんよりとした気候や、主人公エーレンデュルの心情と相まってよく描かれている。
またエーレンデュルの捜査は地道で職人気質な所もあり、多くの日本人にもそのキャラはある意味親近感を持たれるのではないだろうか。
事件そのものは陰惨で暗く救いようがない。しかし物語の終わらせ方には痺れた。 -
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■自分の中での傑作
とにかく、全てが淡々と進んでいく描写が非常に自分好み。
登場人物が自分の人生や揺れ動く気持ち等を長々と地文で語ったりせず、会話も常に淡々としていて無駄がなく、余計な風景描写や場面移動にページを割かない。この文章のあり方がとにかく気に入った。
訳者あとがきによれば、インタビューの中で著者本人が「形容詞をいくつも並べたりせず、簡潔で的確な表現を心がけている」と話したことが書かれているが、まさにこのあり方が自分の好みに突き刺さった。
■警察ミステリ
本格推理小説ほどではないが、ミステリ色が強い警察小説。
とはいえいわゆるフーダニット的なものはなく、手がかりに沿って捜査を進めていくうちに自然と犯人や動機が浮かび上がってくるので、「こういうことじゃないか」と自分で考えた結末がそのままピシャリと当たる。
考える楽しみがある一方、楽しむメインのポイントは「謎解き」ではないため、その点やはり警察小説だな、と感じる。
■雰囲気は暗め
「レイプ」「臓器」「悪臭」など、胸くそ悪くなるような描写が多いが、受け入れられないほどではない。
文体自体が淡々としていることもあり、暗め、という印象を受ける作品。
コージーミステリのような明るい作風が好きな人や、登場人物の心理描写やキャラクターを重視する作風が好きな人には、ちょっと合わない作品かもな、と思った。 -
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北欧の警察小説の特徴は静かな捜査と人間ドラマの味わいにある。日本の警察小説は派手な捜査や捕り物が好きで、犯人逮捕のカタルシスに注力しているきらいがある。北欧の警察小説はもっとゆっくりと展開し、それでもじわじわとドキドキが始まり止まらなくなる。
柳沢由実子の翻訳の上手さもあるでしょうね。マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーからドロシー・ギルマン、ヘニング・マンケル、インドリダソンと北欧の名作は昔から彼女の翻訳が一番です。
さてこの話。レイキャヴィクのバーで男が女性に声をかけるところから始まる。男は女性の酒に錠剤を入れて酔わせ、自宅に連れて帰ろうとする。翌日、アパートで喉を切り裂かれた若い男の死体が発見される。男のポケットにはレイプドラッグがあり、どうやらレイプ魔のようだ。現場にはスパイスの香りが残る一枚のスカーフ。エーレンデュル捜査官は休暇を取ったきり行方がわからない。捜査にあたるのは同僚のエリンボルグ。彼女は自分の家族の問題に悩みながら徐々に犯人を追い詰めていく。
インドリダソンは相変わらず上手い。レイプ魔の非道なやり口、しかしレイプ魔の口の中からもレイプドラッグが見つかった。そしてそのレイプ魔を殺したのは被害女性なのか、それは誰なのか、それとも別の人間なのか。ならば動機は…。
面白いですねえ。あんまり語るとネタバレになっちゃうので書けないが、事件に関わる様々な立場の様々な人がそれぞれの怒りや哀しみを抱えて生きている。そっちが解決するわけではない。複数の事件が絡み、主たる事件は解決するが他の事件ははっきりしないまま話は終わる。また別の作品に繋がるのだろうか。
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ネタバレ悲惨な出来事ばかりおこって、陰鬱なシーンばかりだったけれども、最後にエレーンデュルが自然と取ってくれた以下の行動に心が少しだけ救われた。
「エーレンデュルはランプを置いて、棺の始末をつけることにした。(中略)棺に向かって十字を切ると、穴の上から土をかけはじめた。重い土が棺の上にかかる音が響き渡った。そのたびに胸が鋭く傷んだ。」
事実を知ってしまったからこそ、知らなかったときの自分には戻れなくなる。誰もエイナルを救うことができない中で、なんとも言えない感情にさせられた。医療の発展や後世のためにはすべての臓器が貴重なサンプルになるのだろうけども、親として本人に一切傷をつけて欲しくないという気持ちに繋がるのも分かる。どんな思いでエーレンデュルは再びウイドルの棺を埋めたのだろう?
日本では刊行されていないということだったけれどもエーレンデュル捜査官シリーズの1作目、2作目がどんな始まりだったのかが凄く気になってしまった。
娘エヴァ=リンドや今回は登場しなかった息子との関係性がどう変化していくのも興味が湧くので3作目以降も読んでみたい。
解説の「どこかの国を知りたければ、ミステリ小説を読めばいい。いちばん的確な案内所だ」という言葉通り、アイスランドの知識はほぼゼロだったけれども、国の歴史だったり空気感だったりが伝わってきて、丁寧な解説のおかげで1度自分でも足を運んでみたい場所になりました。
終始陰鬱な空気が流れ続けているけれども、その中でも人と人とのやりとりの中に、ユーモアや温かさを感じる場所がいくつもあって、人と人の関係性が存在することの辛さも良さも同時に味わえる小説でした。 -
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(上下)
ヘニング・マンケルを 読もう思った。並んでいた初期のものも面白そうだったが読んだのは順不同、これはシリーズの5作目だった、 これは大正解で面白かった。《目くらましの道 上下巻》
※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。
初めて読むには内部の人間関係の話が少しついていけなくて残念だった。これはもう少し読んでみないといけないと積読山の頂を見下ろしてみたが、まぁいいか、気合も気が抜けていたが 面白かった。
「ミレニアム」で難しかったVの多い名前と、登場人物も多くて頭も目もぐるぐる(笑)
しかしそんなことは二の次で、面白かった。慣れれば一気読みで、解決したときはほっとした。
倒叙型ミステリというのか、はじめの方で犯人がわかる。それを追い詰めるヴァランダーが率いるイースタの警察官チーム、事件が大きくなるにつれ、近隣から応援が来る。
読み始めて少しすると、全貌はこうでないかと予想が付く。
その上で、捜査の過程や、心理上の葛藤が興味をひく、文章も静かで、残忍なシーンもあるが、緊迫した場面でも静かに深く引き込まれた。
ドミニカ共和国にドロレス・マリアという娘がいた。話はここから始まる。
6月の終わり、ヴァランダー警部は、やっと暖かくなったスウェーデンの季節を楽しんでいた。夏休みには恋人と旅行する計画だった。
そこに通報があり、出かけた先は農地一面に菜の花が咲いていた、その中で、ガソリンをかぶって少女が自殺していた。
しばらくして、以前、法務大臣だった人物が鉈で背骨を切りつけられ即死、頭の皮をはがされていた。
次に裕福な画商がパーティの途中に、東屋で頭をまっぷたつに切られ頭の皮をはがされていた。
次に、駅前の工事中の穴から、目を焼かれやはり斧で切られた死体が出た。
暫くして、不審なペーパー取引で話題になり、その後も犯罪の臭いがしていた会計士が殺された。
連続する殺人事件を捜査する警察官は泥のように疲れた体を動かして事件を追っていた、
一方犯人は、特異な儀式のように、綿密な計画でことを成功させてきた。
ヴァランダー警部は発病した父を見舞うことも、夏休みの旅行の期限が迫ることも、菜の花の中で残酷な自死を遂げた少女のことも心から離れない。
捜査官にも個人的な生活があり、性格も違っている。読むうちのそれも事件捜査に深くかかわりつつ、メンバーにもなじんで行く。
指揮を任されたヴァランダー警部は、心の奥深くに自分でも立ち入りたくない思いを抱えている。それがいつの間にか、犯人に向かう捜査線からはずれ「目くらましの道」に踏み入っていたのではないか、と解決した後で自戒することになる。何かと悩む性格だ。
ホラーチックなサスペンスであり、捜査官たちの群像劇でもある。
スウェーデンの変りつつある世相を背景に、穏やかだった昔と違って現代の殺伐な事件を嘆く、ヴァランダー警部の心が迫ってくる、犯人の側から見れば、動機など、殺人の理由もなぜかうら悲しい小説でもある。
1作目 殺人者の顔
5作目 目くらましの道 -
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(上下巻)
同僚のスウェードべりが至近距離から撃たれて死んだ。海岸で起きた若者射殺事件との関係はあるのか。複雑な背景も読みどころだった。
スウェーデン、イースタ署のヴァランダー刑事シリーズ。
今回は、北の国の風土や、気質が参考になった。
プロローグは、8月の夏至前夜、若者たちが集まってパーティを開いている。それを木陰から窺い、パーティー用に扮装した三人を一瞬で射殺した男がいる。
だが、彼らは海外旅行に出たということにして、親たちには旅行先から便りが届いている。
一人の親が子供の行方を不審に思い警察に捜索願いを出すが、旅先から葉書が届いているために、失踪として扱ってもらえないでいた。
ヴァランダーは体調が優れない。れっきとした糖尿病の症状で、のどが渇きトイレに通うのが忙しい。
しかし彼は、糖尿病が恥ずかしくて、診察も治療も受けずにいる。
同僚のスウェードベリが欠勤していた、几帳面な彼が無断欠勤する理由を知るために、訪ねて行って部屋に入ってみると、至近距離から頭を打たれて死んでいた。
彼の部屋から三人の若者と一人の女性の写真が見つかる。
スウェードベリは密かにこの事件を捜査していたらしい。
ヴァランダーの先を行ったようなスウェードベリの捜査の跡を追ってるうちに、さまざまな背景が現れて来る。
写真の女は誰なのか。スウェードベリは向かいあうほどの距離から猟銃で撃たれている、犯人をなぜ部屋に入れたのか。
あの、相棒のスウェードベリはなぜ密かに犯人を追っていたのか。ヴァランダーはなにも気づかなかった。
ヴァランダーを迷わすさまざまな出会いや出来事は、読者まで迷い道に踏み込んでしまう。
それでも面白かった。
ヴァランダーは相変わらず捜査方針が正しいのかと、くよくよ迷い、一方イースタ署の刑事たちは検死官も含めて実に勤勉に働いている。
こういう読者にも親しい仲間が増えるところがシリーズのよさだ。
あれこれと迷いながら、最後になって偶然にも手がかりがみつかりパタパと解決するのはいつものこと(笑)
親しみを感じ始めると、何日も徹夜で頑張るところが涙ぐましい。
今回は人間関係が少し複雑で、細かな会話や背景描写など長い話になるのはやむを得ない、最後まで飽きないでわくわくしながら読めるところがいい。
最後に犯人の目から事件との関わりが明かされるのは、いつもの手法で、それもいいでしょう。
スウェーデンの国情も重く影響して事件の背後に横たわっている。
ヘニング・マンケルのこのシリ-ズは多くの賞を受けている、それも納得。 -
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何年か前に映画化されたのを観ましたが雰囲気しか覚えておらず読んでみました。ミステリー小説って面白い!と思わせてくれた作品です。
物語はレイキャビク(アイスランドの都市)の湿地で殺人事件が発生するところから始まります。これを皮切りにこの地域に眠る陰惨な出来事が浮かび上がり…といった流れです。
作中の天気も内容もずーっとジメッとしてるし内容はかなり重たいのですが、文節が細かく区切ってあり文体も簡潔でスラスラ読めました。
個人的に主人公の偏屈&昔堅気だけど人情味があるところが好きです。作中の境遇を考えると時々可哀想に思いますが…笑
シリーズものの3作目らしいので、翻訳済の他の作品も読んでみようと思います。いつか全シリーズ分翻訳されるといいな。 -
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前作に引き続きエーレンデュルがいないエーレンデュルシリーズ第8弾。今回はシグルデュル=オーリが主役。シッギと呼ばれてて全部これにしてほしいと思った。
性的虐待、殺人事件、金融犯罪の3種類がテーマ。
自分の不始末の後始末を他人に任せるとどんなことが起こるかわからない。シッギの家庭も友人も複雑。
「アイスランドの社会構造の最小単位は家族でなく個人」とあって、日本もそうあってほしいと思いながら、でも他人との関係における葛藤は避けられないものだと思った。
日本も児童ポルノにはもっと嫌悪感を持つ人が増えてほしいし、法律も弱者を虐げる人には厳しくしてほしい。 -
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ネタバレダガー賞読書会のための読書その1。
アイスランドのミステリは初めて読みました。
北欧ミステリのほかの国々と同じく、こちらも凄惨な生々しさでした。読み終わっても、心が重いままです。
発掘される人骨の事件、捜査の指揮を執るエーレンデュル捜査官の娘さんを中心とする家族の話、大戦中に起こっていると思われるとある家族が受けているドメスティックバイオレンス。
この3つの話が次々に描かれ、どう絡み合っていくのか…引き込まれました。
体に受ける暴力も、心に受ける暴力も、何もかもを壊してしまう。暴力をふるっていた人も、壊された人だったのがわかったとはいえ。。。
取り戻すために払った代償は大きいし、とある関係は取り戻せるのか?と思います。
重苦しいけれど、彼らのこれからが気になりました。 -
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エーレンデュル捜査官シリーズ第8弾。
今作品は、今までエーレンデュルの脇役捜査官だったシグルデュル=オーリが、友人から厄介な相談事を受けたことから始まる。
スウィンガー・パーティーで撮られた写真がきっかけで起きた暴力事件が殺人事件となり、関わった者を捜査するうちに銀行員が絡んだ犯罪もまた、この事件と絡んでくる。
もうひとつは、浮浪者で酒浸りのアンドレスと革製のマスクの男である。
何故アンドレスが酒に溺れることになったのか、それは彼の少年の頃の出来事が関係していた。
このシリーズの特徴といってもいいのが、捜査する者(シグルデュル=オーリ)の私生活が明らかになることである。
彼の生い立ちと母親との関係、別れた妻ベルクソラへの未練などが、捜査中にも入ってくる。
何事もなく捜査に邁進できる…わけでもなくちょっとした時間に母親との会話や父親の病気などで心乱されたりする。
だが自身が複雑なだけに捜査においても良い意味で、人の感情に敏感になりプラスとなることも…と思ったりするのだが…。
ラストで、革製のマスクと関わりがあるアンドレスを追った先に…。
これも想像してしまう…。
続編になるのか…
そして、エーレンデュルの休暇は終わったのか、気になるところ。
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大好きなシリーズ新作、これまでザ陰鬱を突きつけてくれたシリーズにしては、銀行がらみでちょっと軽い印象。それでも、アイスランドって全く、、と思わざるを得ないような事件の数々でいやはや、です。まあ、知らないだけで日本もそうでしょうけど。アンドレスが切なくて胸が痛みました。そして、久しぶりのメンバー登場で懐かしさでいっぱい。いつもはサブキャラのシグルデュル-オーリ、スカした奴かと思っていましたが、妻や両親との関係など深くえぐってくれてて、好感持てました。エーレンデュルはまだお出かけのようなので、サブキャラの皆さんで展開してくださっても全然OKです。
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本作もエーレンデュルは不在。同僚のシグルデュル=オーリが殺人事件の捜査を進める様子が描かれる。
エーレンデュルとは違い、やや気取り屋で熱血とは程遠いイメージのシグルデュル=オーリだが、本作では彼の生い立ちや、別れた妻や両親との関係も事件と並行して丁寧に描かれていて、彼の人間らしさに触れることが出来る。
その生い立ち、特に母親との関係のせいで、人を見下すような態度をとってしまう不器用な彼が、父親や悲惨な生活を送っている人達に時折見せる優しさが愛おしい。
事件の内容も読み応え十分で、次作へと続くであろう不穏な展開で物語は終わる。早くも次作が待ち遠しくて仕方ない。