柳沢由実子のレビュー一覧
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三年ぶりの新作。
プロローグで明かされる“五番目の女”。なるほどそういう話なのかと了解するも、コトはそう単純ではないことを早々に思い知らされる。
捜査に忙殺されるヴァランダー。父を亡くした喪失感、手掛かりゼロの焦燥感、その合間に将来のプランを空想しては、新たな被害者の出現に絶望を感じてひたすら沈み込む。このヒロイックとは縁遠い主人公に、シリーズ特有の頑固さや堅実さがよく表れていると思う。脇を固める捜査官たちも等身大で人間臭い。プロフェッショナルのいない小さなチームだが、役割分担に長け実に手際が良い。「少数でこれだけ機能している捜査陣とは一緒に働いたことがない」とは、応援に来た捜査員の台詞。
突破口はおろか手掛かりさえ掴めない難関な事件は、バラバラの点が線につながるのか予測も出来ない。ゼロの地点から、集まった少ない手掛かりに対し、角度を変え想像力を働かせ事件の骨格を見出そうとする。そこに偶然の証拠や証人は存在しない。寝る時間を削って歩き聞き、信念と執念を持って追いつめたチームワークの勝利である。そして冒頭のタイトルの意味に帰結する。これこそまさに警察小説の真髄。
読後は余韻が後を引き、じわじわと感情の奥底に沁みこんでくる。いいミステリとはそういうもの。特にこのシリーズは考えさせられることが多い。国や地域の抱える問題が常にストーリーとリンクしているので、北欧ミステリはただの謎解きでは終わらない。エンタメ性に傾斜することもなく、真摯で奥が深く、そして仄暗い。捜査の終焉にある種の脱力を感じながら、一方でどことなく身を引き締めてくれる、私にとっては唯一無二のシリーズなのである。 -
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裏切り、裏切られる男と女の物語。心理描写がもう凄い凄い。リアルというか的を射ているというか、ここまで克明に描写している作品をいまだかつて見た事がない。
6歳の子供が一人いる夫婦の間で、突然夫から「きみといっしょにいてももう楽しくない」と言われたら妻はどうするか。驚き、哀しみ、屈辱、怒り、疑惑、後悔、プライドは傷つきそれでも平静を装おうとし、なんとか反撃して優位に立とうとする…
そういう心の機微を妻の視点から夫の視点から、これでもかこれでもかと見せてくれます。
自分の心に波立つ感情をなんとなく認識はしても、どうにもうまく言葉にならなくて悶々としたことは何度もあった。そういう混沌とした心の動きをきちんと説明しながら見せてくれる、そんな小説です。
サイコ・サスペンスになっていて、ストーリーもかなり面白い。文句なくオススメです! -
Posted by ブクログ
下巻に入っても期待は裏切られませんでした。人物像がはっきりと浮かび上がっていること、1995年当時の世相がよく伝わること、そして着地がすっきりしていることなどがポイントの高さにつながっています。昔読んだ「マルティン・ベック・シリーズ」とは雰囲気が違いますが、こちらのスウェーデン警察小説シリーズもお勧めです。ぜひ一作目の「殺人者の顔」からどうぞ。追記。スウェーデンでドラマ化されたという話は、解説で読んだ記憶があるし、ケネス・ブラナー主演で、去年イギリスでドラマ化された(舞台はスウェーデン)というニュースも聞いていたが、まさか、今日WOWOWで放送されていたとは知りませんでした。しかも一作目が「目くらましの道」。残りの二作はこれから翻訳される作品なのか、それとも、オリジナルなのかは不明ですが。引越しを機に、解約してしまったのが悔やまれる。でも、ソフト化されることを期待しましょう。
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ハッキリ言って、
「こりゃ凄い作家が現れたもんだ!」と思いました。
もちろん、お化けも怪物も、なにも出てきません。
あるのは、誰もが心当たりあるだろう
日常の…家庭の風景…でも、とにかく怖い…
ハラハラするのともドキドキするのともちょっと違う…
ここまで人の心理に分け入っていく…
裏返せば、自分の心理に入り込んでくる…
こんな作品は久しぶりです。
作者はこれを書き上げるにあたって、
2ヵ月間休養を取らなければならなかったという…
作者自身が、執筆中にそれほどまでに
登場人物たちとの精神的関係を深めてしまった…
だから距離を置く必要が生まれてしまった…
きっとそういうことなのでしょう。
これを読んでいくうちに感じるのは、
身近な人たちへの自分の理解の仕方は、
事実なのだろうか…?という、独特の感覚です。
ミステリー好きはもちろん…
おもしろい本を読みたい人すべてにこれはお奨めですよ。
ただし…自分の心も覗くことになるかもしれない…
ということを、ちょっと覚悟しておいてください。
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Posted by ブクログ
北欧ミステリといえば必ず名前の上がる、「クルト・ヴァランダー」シリーズ。その第一作目を書店で見つけ、わくわくしながら読みました。面白かった!
スウェーデン南部のスコーネ地方が舞台の骨太な警察小説。
……とくれば、当然思い出されるのが「マルティン・ベック」シリーズです。
私は本シリーズは半年ほど前に既刊はすべて読みまして、諸般の事情により、シリーズの半分で新訳プロジェクトが終わってしまったのを非常に残念に思っていました。
で、その第一作目「ロセアンナ」に献辞を寄せていたのが、本書の著者ヘニング・マンケル。
ベックシリーズは1960年代、そしてこちらは1990年代が舞台になっており、その影響を色濃く受けたといってよい作品内容に、私がどれだけ喜びと安堵感を覚えたことか!
とはいえ、中年という点は共通していても、クルト・ヴァランダーは飲酒運転はするわ中年太りだわ若い女性検事に手を出すわで、あまり褒められたタイプではないですけどね(^^;
スウェーデンには詳しくないのですが、マルティン・ベックの時代には「スコーネ弁丸出し」の刑事がストックホルムの都会っ子に馬鹿にされるなど、牧歌的な地方という印象を受けました。
それが、今回は凄惨な殺人事件の現場に選ばれてしまった。
もともと地理的に移民が流入しやすい場所ではあるようなのですが、30年という時代の流れを感じました。南部地方でこれなら、ストックホルムなんてどうなってしまったのか?
またこのところヨーロッパで起きているデモのニュースと合わせると、なおさら暗い気持ちになりますね。
警察モノといえば個性ある同僚も魅力の一つですが、今作でも鑑識のベテラン刑事であるリードベリがいい味を出しています。体調が心配なところですが、ぜひ今後もヴァランダーを支えてあげてほしい。
新人のマーティンソンや競馬狂いのハンソンなど、周囲のキャラクターもばっちり覚えましたので、これからの人間模様も気になるところですね。でも夫と子どものいる美人に手を出すのはやめたほうがいいとおもう!
ヘニング・マンケルのクルト・ヴァランダーシリーズ、ちょっと書店では見つけにくいのですが、シリーズを追っていきたいと感じる良作でした〜。 -
Posted by ブクログ
「私は、首筋が固まっている転がる石(ローリングストーン)だ」
物語はいつものようにミステリー以外の描写に溢れている。
今回は、主人公ビルギッタをはじめとして、人生も半ば過ぎた女性たちの虚ろな揺れ動きや頑なさを、それぞれの物語が語られる。
一方で、作者ヘニング・マンケルらしく、依然として続く人種差別や経済格差、資本主義の行き着く先にある暗闇を、描く。
事件の背景にあるのは、19世紀の植民地支配から現代に至る中国があるが、ヨーロッパの現代知識人から見た中国は、日本人から見て少し違うかも。まるで現代の欧米人に、虐げていた人たちの逆襲に怯えよと、警鐘を鳴らしているかのよう。
刑事ヴァランダー同様にミステリーに留まらない物語ではあるが、それでも最初のミステリーの謎をもう少し深掘りしてほしかった。
だからといって面白さが損なわれているわけではない。
「終わりというものは、いつもなにかの始まり」
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Posted by ブクログ
ネタバレ北の湿地の厳しい風土と逃れられない血縁の業を描いた重厚な北欧ミステリー。
アイスランドの重く薄暗い空気感が全体を支配していますが、ストーリー展開は非常にテンポが良く、ぐいぐいと物語に引き込まれます。
本作の魅力、残酷で逃げ場のない人間ドラマにあります。我が子を遺伝疾患で失い、その原因を追う中で「自分が性暴力によって生まれた子」であり、その加害者の遺伝子が娘の命を奪ったという事実に直面する犯人エイナル。彼の味わった絶望は計り知れず、事件の背景には言葉を失うほどの悲劇が横たわっています。
印象的だったのは、主人公エーレンデュルの人物像。捜査官として静かに淡々と職務を全うする一方で、薬物依存の娘や問題を抱える息子との関係に葛藤し、体調の不安を抱えながらも煙草をやめられない。そんな彼の「哀愁と弱さ」が、作品の冷たい世界観に血の通った温かみと哀切をもたらしています。
ラストシーンの、あまりにもささやかで微かな優しさが、冷たい雨が降り続くような物語の最後に、ぽつりと小さな余韻を残してくれます。