作家・宮本輝の初期の代表作2編が収録されています。
本作収録の2編の短編により、宮本輝は作家としての地位を確立しました。
宮本輝は教科書では村上春樹や吉本ばなななどと並んで文学作家として紹介されることが多いです。
ただ、大体"第三の新人"あたりからの文学作品は大衆文学との境が薄れていて、宮本輝作品
...続きを読むも文学といわれると違和感を感じます。
この頃に登場した作家達は、共通した思想や定義などはなく、各作家が作品毎に思想を込めている部分があります。
また、2022年8月現在も活動中である作家も少なくなく、本作は純文学と大衆文学の境目がなくなってきた時期の文学作品と言えるかと思います。
各作品の感想は以下の通りです。
・泥の河...
宮本輝氏の作家デビュー作品。太宰治賞受賞作。
戦後の傷跡が残る大阪で、安治川の畔に住む少年「信雄」と、船に住む姉弟との交友を描いた作品です。
姉弟の母はその船で体を売って糊口を凌いでいます。
信雄は、船に住む「喜一」と友達になるのですが、喜一の母が客を取っている様子を垣間見てしまう。
周囲の大人に下劣な冗談を言われ、それでも喜一と友人でいようとする信雄の心理描写に長けた作品だと思います。
信雄が育ちの異なる喜一の"楽しいと言っていること"を理解できず、ラストは切なさがありました。
本作は宮本輝氏の幼少期をモチーフとしているようで、少年ゆえに処理できない自分の中の感情が書かれた名作です。
・螢川...
芥川賞受賞作です。
富山県を舞台にした作品で、こちらも重要な舞台として"川"が登場します。
もう一編『道頓堀川』という作品があり、こちらを併せて「川三部作」をなすそうです。
中学二年生の「竜夫」を中心として書かれています。
かつては戦後復興時にタイヤ販売で成功し、北陸有数の商人にのし上がった父でしたが、行き詰まり、家には借財のみが残ってしまった。
老いた父は病に倒れ、母も看病のためにろくな仕事につけずにいる。
竜夫には関根という親友がおり、関根は同級生の英子と同じ高校へ進学するために猛勉強をしています。
実は竜夫も英子に憧れをもっているのですが、それを隠しています。
テーマとして、少年が直面する2つの死を描き、生命が対比されて浮かび上がってくるように思いました。
交尾に勤しむ蛍の、恐ろしいまでに幻想的な光によって浮かび上がる英子の姿は、竜夫にとっては正しく生命の輝きそのものであったのであろうと思います。
本作も、登場人物の心理描写や情景描写が巧みで、ノスタルジーを呼び起こします。
また、シンプルに読み物としておもしろい作品でした。