宮本輝のレビュー一覧
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「螢川」「泥の河」について
「螢川」
宮本輝の芥川賞受賞作「螢川」は宮本文学の永遠の傑作だ。この小説の舞台は富山。
主人公は中学三年生の竜夫。昭和三十七年三月から物語は始まる。
この物語において、竜夫の父の死や竜夫の友人・関根の死が主人公の人生に陰翳をもたらす。
同級生の英子に想いを寄せる竜夫の恋心にすら、友人の死の影が伸びてゆき、そこに思春期の複雑な心理の綾が描き出される。
宮本作品では登場人物がどんなに若年であろうと、厳然とした死が突きつけられる。
しかし、惑いながらも死を受け止め前を向いて生きてゆく登場人物たちに、私は読みながら知らぬ間に心が鼓舞されているのだ。
この「螢川」では四月に大雪に見舞われると、螢の -
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薩摩、長州など、幕末維新に関わる様々な人たちが、どのように関わり合っていたのか、江戸や京都ではどのような事が起こっていたのか、恥ずかしながら今まで知らなかった事がたくさんありました。大政奉還、明治維新、、、日本が大きく変化した時代が細やかに描かれていて、歴史を深く学ぶことが出来ました。
さらに、この本の主役である富山売薬人たちの果たした役割と、これから新しい時代を切り拓いていく未来が見えてきたところで、いよいよ第4巻へ突入です。今からワクワクしています。
p68で、才児さんと弥一さんの会話の中に書かれていた弥一さんの言葉が心に残りました。
「苦楽が合わさって、ひとつの人生になる。日月の -
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安政の大獄、桜田門外の変、寺田屋事件など、有名な出来事が次々に登場しました。その度に、幕末の不安定だった世の中に思いを馳せながら、心が痛みました。
そんな状況の中で、薩摩藩と富山売薬人たちの深い繋がりが要所要所に読み取れました。この本を読んで初めて知りました。
最終章の「禁門の変」では、薩摩藩を守るため富山売薬人たちが京都で壮絶な場面に遭遇し、命を奪われることなく無事に富山へ帰り着いた時には、ホッとして涙が出てしまいました。
弥一さんや、彼を取り巻く人々(長吉さんや才児さん他、たくさんの仲間たち)が、とても温かくて魅力的に感じます。そして、弥一さん&お登勢さん夫妻の愛情の深さも随所に散りばめら -
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大阪千鳥橋・中古車センター編(伸仁16歳から17歳・高2から高3)
房江さんの哀しみと諦めと、伸ちゃんの涙…
第8部は、房江さんの気持ちに寄り添いながら読みました。
城崎で自らの命を絶とうとした房江さんだったけれど、様々な要因(幸運)が重なり、命を救われました。
人生には、「もしも、あの時〇〇だったら…」という偶然の巡り合わせがあると思います。房江さんが最期と決心して鰻重をお腹いっぱい食べたこと、麻衣子さんが家に引き返したことなど、色々なことが重なり房江は一命をとりとめました。
これらは決して偶然ではないのかもしれないと、「流転の海」シリーズを読み重ねる中で感じるようになりました。
(以 -
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大阪鷺洲・中古車販売のハゴロモ編(伸仁14歳から16歳・中3から高2)
この巻で、私が一番心に残った熊吾の言葉は、ハゴロモの社員・神田三郎との会話の中にあります(p1 96)
自分の鶏すき鍋が運ばれてくると、熊吾は焼酎の水割りを飲みながらトクちゃんが守屋忠臣の弟子となるために京都へ引っ越して行ったときのことを神田に話して聞かせ、「行」というものがいかに大切かを教わったのは十二歳のころだと言った。
「ぎょう…?行なうの行ですか?」
と神田は箸を置いて訊いた。
「うん、その行じゃ。ひとつのことを実際にやり続ける。ひたすら、やり続ける。そういう意味では、わしは家庭の主婦というのはえらいと思うのお。 -
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大阪福島・シンエー・モータープール編(伸仁12歳から13歳、中1から中2)
大阪、城崎で、様々な人たちの運命が絡み合うように物語が展開していきます。これから第7部、第8部と、城崎は注目すべき場所となっていきます。
「流転の海読本」(堀井憲一郎著)で第6部の人物関係図を見ながら、一つ一つの場面を思い起こしながら、あらためて「流転の海」の面白さを実感します。
中学生になった伸仁は、房江さんに対する言動も「思春期だなあ」と感じられる場面が見られます。一方で、モータープールに勤めている気難しい佐古田とも仲良く接するなど、伸ちゃんの人柄に温かなものを感じます。
色々書きたいことが頭の中に充満してしまい -
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富山編
伸仁9歳(小4)
大阪での不本意な出来事が重なり、親子で富山に移り住むことになったところから、第4部は展開していきます。
富山の稲穂に囲まれた道を、熊吾と伸仁がサイクリングをする場面があります。折にふれて熊吾は伸仁に色んな話をします。
熊吾が伸仁に語る言葉をノートに書き写しながら読みました。心にすっと入っていく言葉の数々は、私自身の生きる糧になっていると言っても過言ではないと思えます。
「自分の自尊心よりも大切なものを持って生きにゃあいけん」(p64)
「自分ができることは、ケチな料簡を起こさずに、親身になってしてあげにゃあいけん。見返りを求めちゃあいけんぞ。自分がしてあげたことに対 -
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第2部の舞台は、熊吾の故郷・愛媛の南宇和です。(伸仁が4歳から5歳まで)。
病弱な妻子の健康を思って、事業の志半ばで郷里にひきこもり、伸びやかな自然の恵みのなかで、我が子の成長を見守ります。
その郷里でも、増田伊佐男など、強烈な人たちが登場します。様々な人たちが関連しあって、目が離せない展開ですが、第2部でも熊吾の言葉に注目しながら、まとめたいと思います。
(p46から)
「世の中というものは、この天と地が、いっしょくたになっちょるようなもんじゃ。お前はまだチビ助やが、そんなお前の中にも、この空よりもでっかい宇宙がある。お前の中に、お天道さまも、お月さまも、ぎっしりつまっちょる」
(p420か -
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著者自らの父をモデルとした「松坂熊吾」の波乱の人生を、戦後日本を背景に描く自伝的大河小説・流転の海シリーズ(全9冊)。
今年(2025年)の2月から3月にかけて、3度目の再読をしました。
第1部は、終戦直後の大阪が舞台となっています。
50歳で初めて授かった伸仁に深い愛情を注ぐ熊吾の言葉が、第2部以降もたくさん出てきます。
心に沁みる言葉をノートに書き留めながら読み進めていきました。
「お前が二十歳になるまで、わしは絶対死なんけんのお」
「お前に、いろんなことを教えてやる。世の中の表も裏も教えてやる。それを教えてから、わしは死ぬんじゃ。世の中にはいろんな人間がおるぞ。こっちがええときは、大将や