宮本輝のレビュー一覧

  • 森のなかの海(上)

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    ネタバレ

    まだ上巻ですが、面白くって一気に読み終わってしまいました。

    出だしこそ阪神淡路大震災の被害状況のあまりのむごさに、ちょっと読む手がとまりかけたのですが、夫と姑の不実から離婚へ、ひょんなことから奥飛騨の山荘に住むことになり…と、どんどん先が気になってしまいます。

    冷静に考えると、ちょっとした知り合い程度の老婦人からいきなり広大な土地と山荘を譲り受けるなんてことはないでしょうし、その後の展開も主人公がというよりも、主人公の父が資産家で博学で懐の大きな人であることが大きなポイントとなっており、そこまで恵まれた人というのもあまりいないとは思います。

    でも、震災の後、まだ家に閉じ込められている人が

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    2021年11月04日
  • 道頓堀川

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    橋から眺める道頓堀の光芒が目に映る様だった。朝陽を浴びた寂しげな街並み、ネオン輝く夜の歓楽街。川には歴史があり、そこで暮らす者にも人生がある。男の過去への後悔が川の濁りに似ている。歓楽街の光彩は過去を照らすが、決して未来は照らさない寂しさも孕んでいた。

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    2021年10月28日
  • 野の春―流転の海 第九部―(新潮文庫)

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    ネタバレ

    とうとう最終巻まで読み終わってしまいました。
    第八部で妻子と別居することになり、殺伐とした第九部になるのかと思いきや、意外にものどかな日常が綴られていきます。
    一緒には暮らさないけれども、家族として互いを思いやりながら暮らす熊吾と房江は、もしかすると初めて穏やかな生活を手に入れたのかもしれません。

    作中でも語られますが、熊吾は人と人とをつなぐのがとてもうまい。
    自分の部下にはしょっちゅう裏切られるし、家族とは別居するはめになるのだから、もしかすると親しい他人という距離が、一番熊吾との安定した関係を築けるのかもしれません。

    ”雑用が満足にできない人間は、どんないい大学を優秀な成績で卒業してい

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    2021年10月24日
  • 星々の悲しみ

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    一つ一つ、綺麗な物語だと思った。
    人間のドロドロした感情、妬みや裏切り、執着など、負の部分が描かれているけれど、目を背けさせたいのではなく、ましてや正義感や正論で矯正しようというのでもない。淡々とした丁寧な文章が、非常に好ましく心地良かった。

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    2021年10月24日
  • 野の春―流転の海 第九部―(新潮文庫)

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    ようやく読み終わりました。
    熊のおっちゃん、房江さんみたいな奥さんでホンマに良かった。
    もう一度通読したいと思いますが、今すぐは無理かな。

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    2021年10月24日
  • 星々の悲しみ

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    短編集。発行されたのは1981年。でも20代前後の青年が抱える不安や期待っていうのは時代を経ても変わらないな、と思った。
    情景描写がとても心地良い感じ。そのシチュエーションがありのまま浮かんでくるような。シチュエーション自体も、現実味がある感じで好き。
    だけど、毎回最後が難しい。わからないから、何度も読みたくなる。大学入試の小説問題にありそう、っていうのが1番の印象。
    でもとっても好きだった。読解力が足りないので、一回読んだだけじゃうまく最後の部分を理解できない。主人公の、その瞬間に湧いてきた感情を言葉に表すのは難しいな。また読みたい。

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    2021年10月02日
  • 草花たちの静かな誓い

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    ミステリだと思い手に取った。想像していた内容とは違っていたのだが、とても良い一冊に出会えた。

    すっと物語に惹き込まれ、社会の光と陰を覗き見た気がした。ストーリーの展開に想像はついたのだけれど、それでも彼らの感情や行動を見守らずにはいられなかった。
    人間の表と裏、愛と憎しみ、尊敬と失望。時には人間ではないものに助けられながらも、人は人と関わって生きていく。

    秋の高い空に、青すぎる彼の地の空を重ねてみたりした。

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    2021年09月14日
  • 野の春―流転の海 第九部―(新潮文庫)

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    この本を書き上げるために作家になられた。父の仇をうつために三十七年かけて「流転の海」を書き尽くした。これに心が動かないはずがない。

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    2021年09月12日
  • 草花たちの静かな誓い

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    高校受験勉強時の問題集で出会った螢川に衝撃を受けて以来、ずっとファンです。この作品もやっぱり自分の中にスッと入ってくる文章、楽しめました。ミステリーとして読むと、もしかすると「?」となるかもしれませんが…

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    2021年08月21日
  • 星宿海への道

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    ずいぶん久しぶりに宮本輝の小説を読んだ。何でこんなにしばらく読むことなかったんだろうと思うくらいいい小説だった。いや、この小説がいいという以前に、宮本輝の小説ってやっぱりいいなと思った。貧しいけど品がある人々の物語という感じがするのだ。この小説なんかもそうで、物乞い生活をしていた幼い雅人とその母親の様子が悲惨さがなく仲よく明るく楽しそうに見えたというのなんか、物乞い生活の人をそういう描き方をするのも含めて象徴的だと思う。
    しかし、自分なりに清貧だけど満足しているらしき暮らしをしているように見えた雅人だけど心のなかではずっと母親の面影だけを抱えて生きていたんだね。それはどこか実生活でありながら現

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    2021年08月15日
  • 野の春―流転の海 第九部―(新潮文庫)

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    遂に最終章となった。
    松坂熊吾が71歳の人生を全うした。
    この小説からは多くの事を学んだ。
    男として、父親としての生き方を。
    大将と呼ばれ、人に対して優しく
    世話好きな熊吾は、その人の良さと
    経営者として、どんぶりな経営で人に騙されて、横領されたりして生活が苦しくなるが、
    なんとか逞しく生きていく。

    作者が最終章は自分が熊吾の歳にならないと
    書けないと完成まで37年の時間を費やしたこの様な作品はきっと出てこないのではないだろうか!
    この作品を世に送り出してくれた作者に感謝の気持ちでいっぱいだ。

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    2021年08月08日
  • 野の春―流転の海 第九部―(新潮文庫)

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    長い大河小説を読み終えた。
    市井の人間ではあるが、含蓄のある言葉と人と人とを結び合わせる力を持った熊吾。
    その家族の戦後20年の話。
    逞しく変わっていく妻子に比べると転落と言えるような熊吾の生涯。
    最後に熊吾が愛した人々が別れに訪れるシーンに涙した。

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    2021年07月25日
  • ドナウの旅人(下)

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    東ヨーロッパの町々や素敵な人々との出会いの描写、登場人物4人の心情の変化と衝撃のラストに宮本輝の長編小説にしばらく夢中になりそうな予感がした。
    人の嫌なところは長年過ごすうちに一つの美徳になるというのは確かにそうだなぁーと共感した。

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    2021年07月24日
  • 三十光年の星たち(下)

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    なかなか古臭い文章書くけどよい。#草花たちの静かな誓い に続いて素晴らしかったです。
    自分も30年後の自分を楽しみにできるよう毎日を精進していきたいです。

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    2021年07月05日
  • 三十光年の星たち(上)

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    登場人物の心理描写、出来事の時系列がパズルのような順番で書かれている。
    主人公の人間らしい心情が繊細に書かれている。
    下巻が楽しみ。

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    2021年07月03日
  • 野の春―流転の海 第九部―(新潮文庫)

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    三十七年かけての
    「ひとりひとりの無名の人間のなかの壮大な生老病死の劇」
    は、遂に完結しました。
    書き上げたのが71歳とは、熊吾との縁を感じずにはいられませんでした。

    「宿命っていうのは、ものすごい手強い敵や」
    宿命と闘いながら、自分の生老病死に立ち向かっていかなくちゃ
    ですね。

    素晴らしい長編作です。




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    2021年06月20日
  • 青が散る(下)

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    一人一人の「若者」をここまで緻密に美しく表現できる宮本輝は凄いとしか言いようがない。

    大人になって大学生活を懐かしむ時期にもう一度読んだら、その時は違った感じ方をすると思う。将来再読したい。

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    2021年06月11日
  • 三十光年の星たち(下)

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    無理だと思える難題が、次々と仁志に任せられるようになる。しかし、仁志は段々と師匠・佐伯からの薫陶や一つ一つの言葉の意味を自分で考えて、成長していく。師匠に応えたい、師匠の夢を実現したい、その想いで不可能を可能にしていく姿は、師弟関係の美しさを見事に表していたように思えた。
    現代では、さとり世代と言われてるように、ググれば答えに出会える。何なら人生の悩みのアドバイスも、無責任にネットに書いてある時代となった。その一方で、仁志や虎雄のように、師匠からの一見意味のわからない言葉について、真剣に考えて、ああでもない、こうでもないと愚直に努力する人はどれくらいいるのだろうか。自分はそのような人になりたい

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    2021年06月05日
  • 三十光年の星たち(上)

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    ネタバレ

    自分を磨く方法を教えるよ
    働いて働いて働き抜くんだ。これ以上は働けないってところまでだ。もう一つある。自分にものを教えてくれる人に、叱られつづけるんだ。叱られて、叱られて、叱られて、これ以上叱られたら、自分はどうかなってしまうってくらい叱られ続けるんだ。このどっちかだ

    自分は師匠からどれだけ叱られたことがあっただろうかと考えさせられる一文だった。

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    2021年06月01日
  • 野の春―流転の海 第九部―(新潮文庫)

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    ネタバレ

    10年ほど前に読み始めたが、当時まだ第5巻までしか書き上げられておらずそこで中断したままだった。このたび遂に全巻完結し文庫化されたとのことで第1巻から再読したが、1か月で全9巻一気読み、圧倒的な面白さでした。

    なにより松坂一家のみならず登場人物ひとりひとりが背負う人間性を丁寧に描き、自分自身の遠い記憶を呼び覚ますような昭和30~40年代の大阪の下町に浸り続けたひと月でした。
    登場人物があまりにも多く、人間関係が複雑にまじりあってわからなくなるので今回は人物相関図を作りながら読み進めていったのが大正解。前半で登場した人物ややりとりを最後まで絡んでおり丁寧に回収されていることなどあらためて素晴ら

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    2021年05月28日