あらすじ
「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛しながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る――。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。
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東京も紅葉がたけなわ、久しぶりに読みたくなりました。
往復書簡の形式。
互いに愛し合いながらも思いもよらぬ別れで傷つきなお生きてきた元夫婦が、
それぞれの人生で立ち直って生きていく話です。
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書簡体小説といわれるものは、夏目漱石の「こころ」がはじめてでした。手紙は一方的なのですが、その人の感情が痛いほど感じとれるものだと思います。それを読んで泣いたのを覚えていますし、小説にはまったのもそれがきっかけだったような気がします。それほど強く衝撃を受けたものでした。
「こころ」は往復ではなく片道のたった一通の手紙でしたが、「錦繍」の手紙は男女でやりとりされる往復で、最初から最後まで手紙のみ。
昔夫婦だった二人が久しぶりに再会し、手紙のやり取りをはじめるのですが、1ページ目から心をぐっと掴まれます。読むのをやめることが出来なくなりました。
内容は男女の激しいものですが、書簡体なので印象としては文章が静かに流れていく感覚を覚えます。
とても好きな小説ですが、はたして人に勧められるかと問われると考えてしまいます。本当に本が好きであるだけでなく、酸いも甘いも経験した大人向けとでも言っておきましょうか。
でも決して破滅的な内容ではなく、あらすじにも書かれているとおり「再生」を強く感じた物語でした。
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テレビで紹介されていたので読んでみた。興味深い視点で、手紙の持つ不思議な言葉の力を感じた。最近では手紙で言葉を交わすという行為は全くと言っていいほど無い。訳あって友人と3年ほど手紙でのやり取りをしていた経験があるが、手紙でしか伝えられない言葉があると思う。深層心理のような、精神論のような、口に出すと恥ずかしいことも言えてしまう感覚。
この作品にはその感覚を思い出させる手紙のやり取り、感情のこもった言葉や描写が物語を作っていて手紙の内容である事を時々忘れてしまうほどだった。
未来へ向けてお互いが自身の人生に向き合い、決意する最後の手紙にはモノトーンだった過去の描写に対してカラーが入っていく感覚で晴れやかだった。
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10年前に離婚した亜紀と靖明が、蔵王のゴンドラで再開する。心中事件を起こして離婚した靖明に、再婚して障害児を持つ亜紀が手紙を書く。刃物で刺されるという凄惨な事件で別れた元妻と夫が、相見えることなく文字だけのやりとりをはじめ、繰り返す。二人が出会う前のこと、二人でいたときにその影であったこと、二人が別れてその後のこと、すべてが見事な文章で綴られていく。別れていた時間、書いてから届くまでの時間、返事をまつ時間、そばにいて言葉を交わすのとは違った時間の流れを思うだけで胸がつまる。書いている間にも相手の時間は流れ、待つ間にも二人の時間は流れ続ける。
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秋に読んでとても好きになった作品。
お互いが幸せになるための人生をそれぞれ歩んでいるが、過去の夫婦生活が特別なものであったのには変わりない。
相手の幸せを願ってはいるけれど、どこか哀しく寂しさを感じる作品でした。
非常に文章が美しく、日本語って素晴らしいなと改めて感じました。
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私にとって秋の訪れは「錦繍」を読むことから始まります。今年も、そろそろ…と思っていた矢先、NHKラジオの朗読の時間で「錦繍」が始まりました(全40回)。
“NHKらじるらじる”で、石田ゆり子さんの朗読とともに情景を思い浮かべながら、ページを繰ることに決めました。いつもと違う読み方で、楽しみたいです。
「前略
蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。」
このフレーズで始まる往復書簡。
手紙を何枚も綴る思い、返信が届くまでの長い日々、届いた手紙の封を開ける瞬間のドキドキ、、、
メールやLINEで瞬間にやり取りできる現代とは対照的な時間の流れの中で、手紙が織りなす二人の過去や気持ちが、切ないほどに深く沁みてきます。
「もしもあの時〇〇を選んでいたら…」というような偶然の積み重ねで今があるけれど、それらは決して偶然ではないんだと思えてきます。
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「言葉の綾」ということばがある。それ以外にこの作品を現す言語が見当たらないのだ。
これは言葉のあやから始まった言葉の『綾』、想いの『綾』の物語。酷暑が涼の季節に変わり、紅葉が咲き誇る今にぴったりくる。
美しいものはすべからく哀しく、あたたかく心を撫でてゆくのだ。名著中の名著。太鼓判を押したい。
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『金閣寺』『錦繍』は美しい文体の小説の最上位に君臨する。そんな書き込みを読んで、宮本輝さんの小説を手に取った。
別れた夫婦、靖明と亜紀が十年ぶりに再会し、そこから始まる往復書簡。二人が別れるきっかけになった事件の真相、夫婦の心模様が丁寧に時間をかけて綴られている。ふたりの手紙に込められた想いが織りなす錦繍(色鮮やかで最高級の織物)はたおやかな美しさ。分厚い手紙の中には二人の互いへの想いがそこかしこに残り、追想から昇華へとゆっくり熟成されていく。
二人の書簡に出てくる人物達も魅力的だ。
亜紀が通い詰めたモーツァルトの音楽しかかけない喫茶『モーツァルト』。亜紀の、「生きていることと死んでいることとは、もしかしたら同じことなのかもしれません」という言葉がマスターの心を揺さぶる。マスターのおすすめは交響曲第39番。「十六分音符の奇跡」だと。読み終わった後、このシンフォニーを聴きたくて、夜の散歩のお供に連れて行った。
でも、何より惹かれるのは謎の女性、由加子。彼女が願っていたことは何だったのか。それがこの小説の主題でないにせよ、心にいつまでも引っ掛かる。
宮本輝さんの小説。これから本棚に増えていきそう。
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初めは有馬に対する嫌悪感と不信感しかなかった。
でも、有馬さんからの手紙を読み進めていくうちに、彼の波瀾万丈な人生に寄り添い始めてしまう。
亜紀もしかり。
読み始めた時とは違う感情が最後には込み上げてきて、2人の再会とこれからの人生に美しさが見えた。
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NHKラジオの朗読にて
石田ゆり子さんと松尾スズキさんによる朗読
夫の不貞によって別れざるを得なかった2人。
しかも相手の女性が心中を計り、夫のみ助かった。
思いがけないところで偶然再会したことにより、本当は今でもかつての夫を愛していることに気づく。
裕福な家で育ったあきさんの、でもあまり幸せではない人生が切ない。
往復書簡によって続くやり取りに、今では感じられない「間」があって、それがよかった。
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別れた元夫婦の偶然再会したことによる、手紙の往復書簡で物語が進む。愛し合っていたのに別れ…二人ともなかなかの波乱万丈な人生でした。
これからの人生も交わることがないのだとわかっているけれど…それでも愛し合っているのだなぁと感じ切ない物語でした。蔵王 ダリア園 ゴンドラ 知っているからなのか、郷愁を感じ読み進めました。
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電話の普及により手紙が減った
携帯電話の普及により電話が減った
未来に向けての元夫婦の書簡のやりとりが書かれている
手紙とは相手にそろそろ届いたかな?というワクワク感を
返事が来るかな?というドキドキ感を
時間がその感情を与えてくれている
今はタイパといって時間短縮を求められるが
書簡には相手に気持ちが良く伝わる・記憶に残る等デジタルには無い価値があると思う
この小説は昭和に書かれたものであるが私自身に書簡の良さを再確認させてくれた
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別れた2人がばったり会ったことから手紙のやり取りが始まり、その手紙だけで物語が進みます。
2人の人生を手紙でなぞるのですが、2人ともなかなかの波瀾万丈ぶり。2人の人生を読み進め、他人事なのに自分事のようにしみじみしてしまいました。
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一時、宮本輝にハマった時期があって、少し離れてからまた読んだ作品。
「晩秋に読む本としておすすめ」って紹介されてたと思う。
確かに、再会の場所が紅葉真っ只中のところで、全体的に哀愁が漂っていて、もう巻き戻すことの出来ない時間を生きているのに手紙のやり取りで2人の愛や憎しみ、悲しみが色を取り戻す、という印象が晩秋を思わせた。
すごく薄い本なんだけど内容は濃いと思う。
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テレビで紹介されて読んでみたが、おもしろかった。手紙のやり取りだけで、これだけ想像することができるとは。
色々なことがあったとしても、毎日感謝して生きよう。
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読む前
愛し合っていた2人が、ただすれ違って誤解してしまったがために離婚したけれど、手紙を通して再び相思相愛になる話
なのかなと勝手に思っていた
でも読んでみたら、思っていたよりもちゃんと不倫していたし、有馬さんは思ってたよりもダメな男やった
お勧めしてくれた方がこの本を読んだ感想として、「ちゃんと言葉にしないとすれ違う」というようなことを言っていたからこそ、そう思ってたのかも?
その意味を、ただ「事実を伝えること」みたいな意味合いで受け取っていたのだけど、この小説を読んでみて、実際にあった出来事は受け止め方に差はあれど大きな変わりはなく。
でも「お互いがしっかりと本音を伝え合うこと」で、しっかりと過去に向かい合って、受け入れて、今を生きることができるようになった話やなと感じた。
だからこそ、言葉にしないとすれ違うというのは、自分の思い込みを正さないとというわけでなく、自分の気持ちや物事をきちんと受け止めるためにはちゃんと言葉にしてそのまんまを伝えることが大切やということかも。と思った。
あと、要所要所で、障がいのある息子を業だと言ったり、男の不倫は性だと言ったり、小さな、ん?って思うことはちらほらあった。
なんとなくやけど、時代錯誤やなという感じの違和感。
けれど。その小さな違和感になる要素がなければ、この手紙は本心ではないものだったし、2人は前を向けなかったような気がする。
めちゃくちゃ人間臭い2人が、めちゃくちゃ時間をかけて過去を受け入れて、ようやく今を生きることができるようになった話という感想
でも、手紙形式だったからか、「こう生きるべき」というよりは、「こういう人生がある」みたいな小説で、なんかわからんけど今の小説にはない感覚な気もした
え、いいな、とてもいいな
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40年も前に書かれた作品なので、日々の描写も生活実感もとても深い。ネズミの食べられる様も今では実感を持っては無理で、頭で考え想像しなければ映像も結べないと思う。
主人公の男性も30代と読み進んで分かった。もっと熟年の男女の物語のように思えたので、なんて私達は幼稚な人間になっているのだろうと作品と離れた感慨を抱いた。
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錦繍とは、錦(美しい織物)のように鮮やかで美しいさまを指します。転じて、美しい紅葉の比喩。
元夫婦二人の手紙のやり取りによる、過去、現在、そして選択される未来。
過去の話は湿っぽい感じ。だけど、令子さんが出てきてからが本当に爽やかで素敵だった。
一番好きなところは、令子が手紙を読んで、この女の人が好きだと言うところ。愛だねありゃ。
お父さんと亜紀のやり取りもとても好きだった。やり手の社長が不器用に娘の背中を押すのが良い。
どうして錦繍と題名につけたんだろうと考えた。私の答えはね、生きている中で訪れるターニングポイントで出会う美しいもののことだと思う。まさにこの手紙たちのこと。モーツァルトのこと。息子の成長のこと。。。
あぁ良かった!良い話だった!良い本だった!
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評価の高いこちらの作品をやっと手に取りました。
初めての宮本輝さん。
元々夫婦だった男女の手紙のやりとり。
ただそれだけなのに、どうしてこんなに読み終わり鳥肌が立ったのか。
自分でもよくわかっていませんが、長い往復書簡だけでも2人の人生を読者に感じさせる作者はすごいのだろうなと…
こんな浅はかな感想しか今は出てこないけど、読んでよかった、出会えてよかった作品でした。
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手紙でのやりとりがとても興味深かかった。ただ、主人公のふたりとも、自己中な感じを受けたのは私だけだろうか。時間を置いて、もう一度読み直してみたい。
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最初にページを開いて読み始めた印象を裏切って、夢中になって一気に読んでしまった。手紙のやりとりだけで進んでいく本で、それがまた時代を感じさせる。
再会したことで手紙のやりとりが始まり、過去を打ち明け、今までわかり得なかった事を知る。現在の自分を語り、これからの別々の人生を歩んでいく。
なにかすごいストーリー展開、とかでもなく淡々としているけど、人間の心の中を繊細に描いていた。
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手紙だけで構成される文体、現在ではあまり使われなさそうな丁寧過ぎる敬語でのやり取りなど、時代を感じさせる。
家庭環境に恵まれず地味な暮らしをしてきた令子に薄幸という印象を抱くが、有馬に尽くし捧げる一方ではなく、手綱を握って上手く操っている感じがして、今後の2人に幸多かれ、と応援したくなる。
それにしても、男はみんな結婚しても浮気するものなんだな…
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元夫婦の勝沼亜紀と有馬靖明の間に交わされる往復書簡で構成される恋愛小説。文体からも内容からも昭和の時代を感じさせるが、丁寧な言葉遣いに相手を慮り、敬い、愛おしく想う気持ちが溢れ出る。
別れることになったいきさつ、別れてからの苦悩、それぞれの道での苦難や心の動きなどを手紙で相手にどのように伝えるか、伝えたい気持ちと伝わってほしくない気持ちの揺れ動きにもしみじみとさせられる。
古い文体だからと言ってけっしてわかりにくいことはなく、すんなりと心に響くのは自分が昭和の人間ってだからこそだろうが。これは昭和を代表する男優、女優の語りで聞いてみたい。
Posted by ブクログ
おそらく若い頃に読んでいたら、不幸な終わり方と捉えたかもしれない。でも、中年の今は、辛い過去もしっかりと受け止めることで、今を生きることができる、強く生きるとはこういうことなのだろうと思う。
よい時期があれば、わるい時期もある。重ねた月日が、自分の考え方を変えた気がする。
Posted by ブクログ
人生ってほんと思う様にいかないし、伝えたいように伝えられないし、上手くいかないもんだ思った。愛しあっていたはずの夫婦が離婚して、手紙のやり取りをするようになる中、伝えられなかったものを伝え合い少し分かりあってそれぞれに歩みを進めていく。手紙のやり取りだけでお話が進んでいって面白かった。
Posted by ブクログ
初めは女性も男性も好きになれなかったが、現在の話になっていくと、今の彼女も含め応援したい気持ちになっていた。だって男がひどい。礼子さんと亜希さんの気持ちが寄り添いあってて前向きになってちょっと嬉しい。全体的には好きではない恋愛背景だったけど。
Posted by ブクログ
手紙のやり取りの形式は結構珍しいのではないかと思う。
途中で、手紙送りません からの やっぱり送りました
みたいなのは面白かった。
人生経験少ないからか、あまりイメージできなかったので、繰り返し読みたいと思う。