Posted by ブクログ
2019年07月12日
中国旅行中にタクラマカン砂漠近郊の村から、自転車に乗ったまま忽然と姿を消した瀬戸雅人。
物語は、雅人の2歳年下の弟・紀代志と、彼の子を身ごもった千春の視点で進んでいく。
雅人は彼が8歳の時に、瀬戸家の養子となった。
それまでは、盲目の母と橋の下で物乞いをしていた。
母の死をきっかけに、紀代志...続きを読むの両親が雅人を養子にしたのだ。
進学を勧められながらも、中学を卒業してタツタ玩具に就職して30年以上。結婚もせず、地道に、地味なおもちゃを売って生き抜いきた雅人。
雅人が少年の頃から憧れていた「星宿海」。
そこから遠く離れた場所で、彼は突然に姿を消した。
「もし子供が女の子だったら『せつ』という名前をつけたいと思います」
「せつ」は雅人の実の母の名前。
宿命に翻弄され、どん底のような境遇にありながらも、強く明るく生き抜いた母子。
弟の紀代志が、恋人の千春が、雅人の人生をたどっていく中に、幾重にも深い人生の様相が見えてくる。
宿命の嵐に晒されても、人は生き抜いていく。
人間をだますのも人間。だが、人間を救うのも人間だ。
胸の奥に手を入れられて、心をがっちり捕まれたような重さがこの小説にはあった。
宮本輝の人間賛歌、ここにあり。