宮本輝のレビュー一覧
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■持って生まれた星廻りと血の呪縛■
第三部のストーリーの舞台はいわゆる「戦後」からの脱却期、日本人がようやく自分たちのために上を目指して歩みだす時代。様々な男女、親と子が登場し、それぞれが持って生まれた星廻り、あるいはその体内にどうしようもなく流れる血を意識させる。
両親の愛を知らずに育った熊後の妻房江は「子供は自分の親に育てられるのがいちばん幸せや」と言う。たとえ親が薄情でも極道でも敵国でも船上の住む飲んだくれでも、それぞれの宿命の下、自分の親に育てられるのがいちばん幸せなのだと思うと、何だか切なくなってくる。
房江はまた、「誰が悪いのでもなく、すべては自分の持って生まれた星廻りのよう -
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■動物としての人間が本来持つ生命力を感じる■
舞台は戦後。焼け野原から裸一貫、事業の再起をかけのし上がろうとする松坂熊吾の野太い生きざまと、その荒々しい流れに巻き込まれ、溺れ、また反発する男たち、女たちの盛衰や友情、裏切り、愛憎を描く。
熊吾は仁義に厚く豪胆、ガキ大将がそのまま大人になったような人物。しかも先見の明があり、機知に富む。情にもろい半面、身勝手で嫉妬深く暴力的だ。男尊女卑やDVという概念すらなかった時代、我が子のこととなると愛情のあまり我を忘れて怒鳴り散らす。そんな偏屈な人物像に親しみを覚え、自然と感情移入してしまう。
むき出しの欲望、ギラギラした闘争心、他人を蹴落としてでも -
購入済み
優駿
一頭の馬をめぐり、馬主、生産者、騎手、厩務員、予想屋まで全て網羅。
あとがきにあった、よくわからず・・・いえ、わかりすぎです。
競馬好きは一度は読んだほうがいいですね。
ただ、ただ素晴らしい。 -
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ネタバレ大学生という立場で読んだので、また大人になったら違う感想を持つのだと思う。大学生のうちに一度読めて良かった。
男女の価値観が古くて受け入れたくないなあって思うところも多かった。「女だから、結婚したら亭主と子供を好きになる」とか。
結末はハッピーエンドとは言い難いけれど皆何かにひたむきになっていて、きっと大人になって思い返すと「間違った」とは言っても後悔はしなさそう。
きっと青春ってほとんどの人にとって、いっぱい悩んで、後から「悩むのも大切で、時間が巻き戻ってもほとんど同じ事するだろうな」って思って、キラキラした物だけじゃなくても肯定出来るような物かなあって思った。自分もきっとそう思うような道を -
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戦前に建てられた英国調のビルはGHQに接収され、屋上にアンテナを張り巡らした姿が骸骨に見えると、いつしか骸骨ビルと呼ばれるようになった。
この建物をマンションに建て替えようという話が持ち上がるが、ほぼ孤児院としてそこで育った人々は今も居座っており、主人公の八木沢が彼らを立ち退かせるために送り込まれる。けれどごくごく一般人の八木沢は、その住民たちの生い立ちを聞くうちに次第に感化されただ骸骨ビルで住むだけの人になる。
戦後日本の光と闇が綯い交ぜとなった生活史が興味深くもっと知りたくなる。まだ続きがあるのが嬉しい。
ジャンルはなんなんだろう?他ではあまり経験できない読み心地。犯人がわからない人物から -
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遂にドイツから始まったドナウの旅が終わった・・・という感じで、上巻から始まり、すごくはまりました!
今では自由に往き来できるヨーロッパの国々も、この作品の時代は厳しい出入国審査があり、共産圏である東ヨーロッパでは自由に旅もできない。
麻沙子とドイツ人の恋人シギィ、母親の絹子と愛人の長瀬、二組の旅人がドイツからオーストリア、ユーゴスラビア、ブルガリア、ルーマニアと、ドナウ川を旅をする姿が、ドナウに沿ってだんだん色濃くなる共産圏の国々の時代背景と共に描かれているのが、この物語を一層魅力的にしているなと感じた。
旅の途中で出会う人々の背景も、限られた中で端的に描かれていて、登場人物全員に興味が沸い -
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私も10年前、ニュルンベルクから、レーゲンスブルク、パッサウ、そしてウィーンへとドナウ川に沿って旅をしたことがあり、この物語の主人公達が旅するのと全く同じ順番にドナウ川沿いの街がでてきて、私も見たその時の風景を思い出し、凄く懐かしく、もう一度訪れたくなりました。
母親と若い愛人、娘と恋人、といった異色の二組が、ドナウに沿って旅を進めるごとに、どんどんこの物語にはまっていきます。母親の愛人である長瀬という男が訳有りで、母親と旅をすることになった経緯や、長瀬という男がとても興味深く、ページをめくっていくのが楽しくて仕方がない。
ドイツから始まる彼等の旅が、ドナウ沿いのドイツの街、ドイツを経てオース