宮本輝のレビュー一覧
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何だろう?世界観が好きなのだろうか。。主人公で大学生の哲之が亡き父の抱えた借金返済を迫るヤクザに追われ、安全のために母子別れて暮らすことになる。物語はそんな哲之の引っ越し中のシーンから始まる。
電力会社へ通電届けを怠った大家のせいで入居初日に部屋は真っ暗闇。哲之は暗い中、彼女からもらった大切な帽子を飾るための帽子掛けを作ろうと柱に釘を打ち付けたところ、生きた蜥蜴(トカゲ)を一緒に打ち抜き壁に貼り付けてしまう。貼り付けられたまま死を待つも何故か死なない蜥蜴を最初は気持ち悪く思い、打ち殺してしまおうと金槌を手にするも実行できない。
放っておけばそのうち死ぬだろうとそのままお皿を被せてしまうものの、時が経っても死なない蜥蜴に『キン』と名付けて飼育することにする。柱に打ち付けたまま、水を口元へもっていき飲ませたり、買ってきたクリムシを食べさせたり。
釘を打ち抜いたボロアパートで同じ大学に通う彼女の陽子と初めてのまぐわい。この陽子を想う気持ちの揺れ動きと関係性も本書の重要な位置をしめる。
初めての体験をした幸せな空間に突然の悲劇。借金取りに居場所をつきとめられ暴行を受けたあと、哲之が見た夢の内容は、蜥蜴になって何百年も生死を繰り返すものだった。哲之は輪廻の世界を夢で体験した。
キンの背中に刺さった釘の意味。刺さってもなお生き続ける姿を見て、哲之は心の底から湧き起こる生きることへの意味を感じとる。死と隣り合った時の生に対する態度とでもいうのだろうか。
アパートでのやりとり。蜥蜴の放つ生きる力は哲之のバイト先の磯貝にも影響を与え、又、哲之はその磯貝の人生観からも影響を受ける。これ、仏教の因果から輪廻に想いを巡らせる。
死があるから人間は幸福を感じる。蜥蜴のキンが勇気、希望、忍耐へと導く神のように見えると思えば、次の瞬間には地獄へ誘う悪の化身にも見える。
生と死、嘘と真、静と動、夢と現実、観念と実存、原因と結果、そして生きる意味。
歎異抄を虚無からの逃避だ!と切り捨てる大学生の哲之の常に揺れ動く心模様。
欲望を断ち切ることができない。迷いを捨てることができない。嘘をついたり、見栄をはったり、死後の不安におびえたり。
今じゃないと読みきれない部分も多々あったろうし、まだまだ感じ取れなかったこともあると思う。
思春期の青年で物語るからか、まったく状況が違うにも関わらずその世界観に引き込まれたし、取り巻く登場人物もおのおの魅力的だった。
『春の夢』は宗慶二の国語チャンネルで知った。素晴らしい一冊との出会いに感謝。 -
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●感想
登場人物に共感できるかできないかで作品を評価することはない。だらしなくどうしようもない、でもなんかモテる男と、女の芯の強さと素直さがよく描かれているところや、往復書簡形式で読者が彼らの秘密を知っていく、あるいは現在の二人の思いを知っていくという構造が好きだった。
色鮮やかな織物や季節を表す「錦繍」。さまざまな経験が一本一本の糸となり、一人の人生を織りなす、または複雑に人間関係が絡み合って織りなす人間模様、そういうことをタイトルはあらわしているのかな?と思った。過去の答え合わせをし、それぞれの未来へ進む二人。輝く糸、ものすごく暗い糸、穏やかな糸、切ない糸、熱い糸、冷たい糸…人生にはいろいろな糸があるからこそ全体として深みが出て輝くのだという思いを抱いた。
人生は、過去と現在と未来が繋がっていて、決して切り離して考えられるものはなく、過去の経験を背負い、今があり、それらを引きずりながらも前へ進むしかない。当たり前のことだが、そういう感覚があれば、いずれ過去になる今を大切にしないといけないという思いにもつながる。
●本概要
私はあなたにまさにひと目惚れでした。
愛し合いながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年を隔て再会した――。往復書簡がそれぞれの過去と思慕を炙り出す。恋愛小説の金字塔。
会って話したのでは伝えようもない心の傷。14通の手紙が、それを書き尽くした。
「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛しながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る――。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。 -
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●感想
出雲ひのみさき灯台、本を読んで行ってみたいなと思い、調べてみたら、とても美しい灯台。
静かで芯のある物語。ミステリー要素もあり、最後まで惹きつけられた。他人のことは、永遠にわからない部分があること、今ある自分の幸せを噛み締め、足るを知ること、人は偶然に他人と知り合い、影響を与えたり受けたりしながら人生を紡いでいくこと。言葉にしてみれば当たり前のことなのだけど、この作品を通して、だれの人生も偶然の出会いや別れや選択によって織りなしているのだなぁと思うと、なんというか、自分もそうやっね生きてきた、これからも生きていく、ということが前より少し素敵なことに思える、そんな作品だった。
●本概要
牧野康平、62歳。中華そば屋を休業し、ひきこもり中。
亡き妻の知られざる過去を追い、男は初めての一人旅へ――。
人生の価値を照らし出す感動長編
中華そば屋を営む62歳の康平は、妻を急病で失って以来、長い間休業していた。だが、ひきこもりのような生活を送る中で偶然、妻宛ての古い葉書を見つける。30年前「知らない大学生から届いた」と言っていた妻は、なぜその葉書をとっておいたのか。差出人は何者で、描かれた地図は何を意味するのか。妻の知られざる過去を追い、康平は初めての一人旅へ出る――。人生の価値を照らし出す感動作。
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吉本ばななと宮本輝の対談集。温かい雰囲気で、素敵な時間だったのだろうと思われる。
宮本輝の温かい言葉が並べられたあとの(あとがきで本人は言葉を省略していることを反省しているけれど)、吉本ばななの鋭い一言に何度も考えさせられた。きっかけをもらって、その対談とは全然違うことを考えることも多かった。
吉本ばななが「世界中のひきこもりのような感じの人に『あなたの本を読んで救われた』と言ってもらえるんです」と述べているとおり、生きづらさを抱えながらもがんばって生きている人たち(私を含む)にとって、吉本ばななの職人のようにコツコツと救いを届けるための本を書いてくれる人がいることは、非常にありがたいと思う。 -
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通信手段が高度に発達した現代では、手紙を書く機会がほとんど失われてしまっているが、手紙を書くという行為ほど、時間をかけて、読み手のことを想ったり、自分自身と真剣に向き合うことができる機会はないと思う。
2人は、手紙をしたためて、読み合うという過程を経て、互いの過去から現在の心情理解が深まり、未来へ向かって少し前向きな気持ちを持てるようになったのだと思う。
客観的に認識することが難しいような人間の心の機微が、2人の言葉によって紡ぎ出されていく様子が美しいと思った。
ただ、冷静な目で見てしまうと、有馬靖明は美しい言葉で飾りながら自身の不倫を美化しているように思えた。
元妻の勝沼亜紀に対しても、不倫相手の瀬尾由加子に対しても、現在の交際相手の玲子に対しても、自身の欲求をぶつけるだけぶつけて、尊厳を傷つけておきながら、どこか被害者ぶっているように思える。
私が勝沼亜紀だったら、途中で手紙を破り捨てるか、汚い言葉で、有馬靖明という人間の卑しさや、現在の夫の勝沼壮一郎の不倫も踏まえた男という性別に対する絶望感を吐露する怪文書のようなものを作り上げていたに違いない。 -
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ネタバレ宗教観や、社会体制の違いを超えて、生きるとは、を考えさせられた。
最愛の息子を自らの過失で死なせてしまった宇野。妻とは離婚し、ほかの家族との関係も思わしいものではなかった。社会的にも理解を得られず、成り行きでギリシャに生きる。ギリシャで結ばれた女性、エフィーとの間に生まれた子は、死んだ息子の生まれ変わりであるが、同時に新しく共に歩む女性との間に生まれた新しい命でもある。主人公の中でこの2つの思いは矛盾しない。このことは、一神教の価値観のみでは理解が難しいと思われるが、単純に輪廻思想でもなく、両方を体験し、咀嚼したあとに得る納得なのではないか。生命はマッチをつなぐ薄いロウ(永遠=今)をつなぎ続ける。自分が光と共に生きることが短くとも生を受けた息子の命も光にするのだと思ったのではないか。苦しい時を経て、主人公が歩いて行こうとする姿に力をもらえた。