宮本輝のレビュー一覧
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宮本輝の自伝的小説『流転の海』第七部。
あと2冊で終わりとなる。
第一部を読んだ時は、松坂熊吾に対して嫌悪の情が強く、最後まで読み通せるか不安だったが、今は終わるのが惜しいという気になっている。
それは、歳をとった熊吾が、若い頃のように、すぐに暴力に訴えるということがなくなったからかもしれない。
人を差別することなく、面倒をみる熊吾の性格に気づいたからかも(人助けをすることが快感なのだろう、と自分でも分析している)。
または、この物語に慣れてきて、登場人物に親しみを持つようになってきたからかも。
今回は、前半あまり起伏のない内容が続くが、後半またもや、というストーリー。
そんななかでも、美食 -
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紅、朱、橙、黄
色とりどりの紅葉を目にする度、私はこの「錦繍」を思い出さずにはいられないだろう。
錦繍【きんしゅう】
1.錦(にしき)と刺繍(ししゅう)を施した織物
2.美しい織物や立派な衣服
3.美しい紅葉や花のたとえ
4.美しい字句や文章のたとえ
蔵王のドッコ沼へ向かうゴンドラの中で10年ぶりに偶然再会した元夫婦 勝沼亜紀と有馬靖明。そんな2人の往復書簡のみで綴られた小説。
別れて10年の歳月が過ぎたというのに、当時を振り返り相手のことを思い、いく枚もの便箋に何時間も何日もを費やして書かれた手紙。
時に冷たく突き放す有馬。しかし再びやり取りが始まると、そんな有馬からも品を感じる。
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泥の河を読んで
私は同じ時代に大阪の狭い長屋に生まれましたが、そのような船があるとは知りませんでした。幼い頃はまだ皆んなが貧しく洗濯機もない時代。裏口で大きなたらいに水を出し洗濯板でゴシゴシ。お隣のおばさん達も皆んな朝から洗濯していて、そういえば、冬は母が熱湯を持ってきて少しずつたらいに入れました。
川では、枝を落としただけの幹の太い木を数本縛り、男の人がその上に立ち、長い竿を操りながら船のようにして大木を運んでいました。ポンポン船も大好きで、よく橋の上から眺めました。父が「昔は、よう土左衛門が流されてきたんやで」と言っていたのを思い出しました。それがそんな昔の話ではなかったのだと小説を読んで -
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高校生の頃に夢中になって読んだ本を再読。
当時は海外に行ったことがなく、西ドイツからルーマニアにかけての情景は全て想像の中でしかなかった。
大人になって実際にドイツ・ハンガリーなどの東欧諸国を訪れたことで、ドナウ川の流れやヨーロッパの果てしない平野、駅に降り立った時の寂寞感が私の中で現実のものとなった。
母・絹子とその愛人の長瀬、娘の麻沙子とドイツ人の恋人シギィ。
四人の複雑な関係のまま進んでいく旅路は、一編の叙情詩のように感じられる。
高校生の頃に憧れた麻沙子に近づけているかはわからないが、それでもこの作品が私の人生に影響を与えたことは間違いない。 -
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ネタバレ読み終わって数日、反芻するようにこのシリーズを考えては少し涙を流す、ということを繰り返した。
これほど読み応えのある小説とは。想像をしていた物語の遥か上を行った。
それぞれの登場人物が、最高に幸福ではなく、かといって絶望的に不幸でもなく、本当に現実的にある範囲で描かれる。
熊吾と房江にはあとほんの少しだけ、幸せな時間をあげてほしいと願ってしまった。また3人での生活ができるようになるとか、一本松に行けるとか、せめて3人で会話する時間がもう少しあるとか。
でも最後は3人で過ごせた。最悪のような場所かとも言えるが、「野の春」を感じることのできた場所でもある。
多くの人の人生に関わった熊吾が、最後見送