宮本輝のレビュー一覧

  • 潮音 第四巻

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    戦争と平和、のような壮大なスケール感。時代を意識して走り続けた弥一に「潮音」が聞こえないと言うことが皮肉でもあり、そんなものかもという思いにもなる。いつかまた読み返したい。

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    2025年12月21日
  • 螢川・泥の河

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    マレーシアの首都、クアラルンプールは、川が交わるところという意味の地名なのだそうで、マレーシア旅行の飛行機での楽しみのために読んだ。のちに流転の海シリーズを書き上げるが、その要素が凝縮されている。著者が一貫して描き続けている父と子の関係性の機微や、女性の神秘的でありながら世俗的な二面性を見事に表現している。著者の美しい文章へのこだわりが光っていて、リズムよく、ちょっと小難しい視点で、懐かしくも痛々しい戦後の大阪や石川を描いた2作だった。

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    2025年12月20日
  • 慈雨の音―流転の海 第六部―(新潮文庫)

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    「慈雨の雨」とは、高度経済成長下で、松坂熊吾一家の周りに、慈しみの雨が降っていたという意味らしい。

    城崎温泉に住むヨネや、蘭月ビルの盲目の少女香根、海老原の死。また、北朝鮮に還る人びととの別れ(北朝鮮に帰らせまいとする、大韓民国系の人びととの間で争いが多発していたのは初めて知った)など、幾つもの別離が一家に押し寄せるが、松坂熊吾は、新しい事業に乗り出していく。

    相変わらず、濃いエピソード満載で、飽きさせない。
    熊吾も、時々癇癪を起こすが、年齢を重ねて温厚になっている。
    そして、伸仁が、いよいよ思春期に差し掛かるところまでが描かれる。

    とりあえず第七部に進みます。

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    2025年12月04日
  • 錦繍

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    東京も紅葉がたけなわ、久しぶりに読みたくなりました。

    往復書簡の形式。

    互いに愛し合いながらも思いもよらぬ別れで傷つきなお生きてきた元夫婦が、
    それぞれの人生で立ち直って生きていく話です。

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    2025年12月01日
  • 錦繍

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    書簡体小説といわれるものは、夏目漱石の「こころ」がはじめてでした。手紙は一方的なのですが、その人の感情が痛いほど感じとれるものだと思います。それを読んで泣いたのを覚えていますし、小説にはまったのもそれがきっかけだったような気がします。それほど強く衝撃を受けたものでした。
    「こころ」は往復ではなく片道のたった一通の手紙でしたが、「錦繍」の手紙は男女でやりとりされる往復で、最初から最後まで手紙のみ。
    昔夫婦だった二人が久しぶりに再会し、手紙のやり取りをはじめるのですが、1ページ目から心をぐっと掴まれます。読むのをやめることが出来なくなりました。
    内容は男女の激しいものですが、書簡体なので印象として

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    2025年11月28日
  • 道頓堀川

    購入済み

    中年男性の人生振り返り読本

    宮本輝の川三部作のうち、最も中年男性の心情に迫った作品だ。確実に老いていく焦燥感を抱えつつ、人生を振り返り、取り返しのつかないことをした瞬間に人は何を考えるのか、人はどんな時に大きな谷間を越える瞬間的決断をするのか、思いを馳せることができる。🎱本作は昭和的価値観に基づき、肺と心臓を使わないものはスポーツではなくゲーム・博打とし、ビリヤードのスポーツ性を否定したり、ゲイを病気と決めつける印象的なシーンがある。しかし令和では、eスポーツもトランスジェンダーも肯定的だ。過ごし易い時代になった。🎱

    #深い

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    2025年11月27日
  • 潮音 第三巻

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    長い物語もいよいよ明治維新。富山の売薬目線で史実の見え方が変わる。弥一の冷静な視点も冴えつつ、見通せるからこその気鬱もリアル。次巻でどう決着がつくのか。弥一の物語を聞いているのは誰なのか、楽しみ。

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    2025年11月16日
  • ドナウの旅人(上)

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    昔、この方の別の作品を読んで、全然面白くなかったけれど。

    作品が違うから?私が理解できる年齢になったからか、これは読み応えがありました。

    文章を読むだけで、景色が想像できます。
    これを読んでドナウ地方に行くのもいいですね。
    最も今はこの時代と比べて、旅行しやすくなっているけれど。

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    2025年11月03日
  • 花の回廊―流転の海 第五部―(新潮文庫)

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    『流転の海』全九部中第五部。
    『新潮』2004.6〜2007.4

    昭和32年、松坂熊吾は大阪で再起をかけ、妻と共に電気もガスも通らず、ロウソクだけが灯りという空きビルに暮らす。
    10歳の伸仁(宮本輝がモデル)は尼崎の「蘭月ビル」という、まるで貧民窟のようなアパートに住む叔母に預けられる。
    そこの住民はみな貧しく、半分は朝鮮人であり、伸仁は凄絶な人間模様に巻き込まれて行くのだった。

    相変わらず、濃いエピソード満開で、そこでもしたたかに生きていく伸仁。
    しかし、作者が「どうしても書かなければならなかった一巻」と言っているように、のちの作家生活に大きな影響を与えているだろうことは間違いない。

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    2025年10月29日
  • 錦繍

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    テレビで紹介されていたので読んでみた。興味深い視点で、手紙の持つ不思議な言葉の力を感じた。最近では手紙で言葉を交わすという行為は全くと言っていいほど無い。訳あって友人と3年ほど手紙でのやり取りをしていた経験があるが、手紙でしか伝えられない言葉があると思う。深層心理のような、精神論のような、口に出すと恥ずかしいことも言えてしまう感覚。
    この作品にはその感覚を思い出させる手紙のやり取り、感情のこもった言葉や描写が物語を作っていて手紙の内容である事を時々忘れてしまうほどだった。
    未来へ向けてお互いが自身の人生に向き合い、決意する最後の手紙にはモノトーンだった過去の描写に対してカラーが入っていく感覚で

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    2025年10月26日
  • 野の春―流転の海 第九部―(新潮文庫)

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    大河小説とは、よく言ったものだ。人間一人ひとりが雨粒としてこの世に生まれて、他の人と出会い、大きな流れとなって大河となる。主人公の熊吾は、粗野で弱い部分もありながら、世の中や人間を正しく、深く見つめ、その縁を繋いでいく。途中、大きな岩や嵐やいろいろな困難を乗り越えたり、流されたりしながら、人々の織りなす大河はさらに大きな海へと流れていく。途方もない年月を重ねて紡がれたこの小説だからこそ、これだけの流れを描くことができたし、何年もかけて読み終えた今、登場人物一人一人の人生がいろいろな思いを抱えながら、流れていく様をいっしょに流れて来たような錯覚を覚える。私は彼らと共にどこに流れ着いたのだろう?い

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    2025年10月21日
  • 錦繍

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    10年前に離婚した亜紀と靖明が、蔵王のゴンドラで再開する。心中事件を起こして離婚した靖明に、再婚して障害児を持つ亜紀が手紙を書く。刃物で刺されるという凄惨な事件で別れた元妻と夫が、相見えることなく文字だけのやりとりをはじめ、繰り返す。二人が出会う前のこと、二人でいたときにその影であったこと、二人が別れてその後のこと、すべてが見事な文章で綴られていく。別れていた時間、書いてから届くまでの時間、返事をまつ時間、そばにいて言葉を交わすのとは違った時間の流れを思うだけで胸がつまる。書いている間にも相手の時間は流れ、待つ間にも二人の時間は流れ続ける。

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    2025年10月17日
  • 青が散る(下)

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    青が散ったなぁ。
    大学生の青春。

    人間、自分の命が1番大切。
    大きな心で押しの一手。
    生きていたいだけの人間の駱駝。

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    2025年10月17日
  • 潮音 第二巻

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    時代の急変にあわせて
    ストーリーも急展開。
    幕末の混乱のなかで奮闘する
    薬売りたちの活劇にワクワクするが、大きな歴史の流れへの言及も見逃せない。続きが気になる。

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    2025年10月13日
  • 錦繍

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    秋に読んでとても好きになった作品。

    お互いが幸せになるための人生をそれぞれ歩んでいるが、過去の夫婦生活が特別なものであったのには変わりない。
    相手の幸せを願ってはいるけれど、どこか哀しく寂しさを感じる作品でした。

    非常に文章が美しく、日本語って素晴らしいなと改めて感じました。

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    2025年10月06日
  • 錦繍

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     私にとって秋の訪れは「錦繍」を読むことから始まります。今年も、そろそろ…と思っていた矢先、NHKラジオの朗読の時間で「錦繍」が始まりました(全40回)。
     “NHKらじるらじる”で、石田ゆり子さんの朗読とともに情景を思い浮かべながら、ページを繰ることに決めました。いつもと違う読み方で、楽しみたいです。

     「前略
     蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。」

     このフレーズで始まる往復書簡。
     手紙を何枚も綴る思い、返信が届くまでの長い日々、届いた手紙の封を開ける瞬間のドキドキ、、、
     メールやLINEで瞬間

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    2025年10月03日
  • 螢川・泥の河

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    「あーよかった!」という読後感を残して忘れてしまう小説があるが、この『泥の河』と『螢川』は情景が深く沈み忘れられない小説。
    『泥の河』は昭和三十年の大阪。馬車引きは子どもの頃、目にしていた。乾いた馬糞を遊び道具にする逞しい子どもがいた。でも、水上生活者は想像するしかない。天神祭りの出来事、そして哀しい別れ。その情景は少年時代の不安や哀しみと共鳴する。
    『螢川』の舞台は富山。思春期の少年の心は想像に難くない。でも、四人が金縛りにあうほどの螢川の情景は、はるかに想像を超えていた。華麗なおとぎ絵ではない。
    「寂寞と舞う微生物の屍のように、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化し、天空へ天空へと光

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    2025年09月27日
  • 血脈の火―流転の海 第三部―(新潮文庫)

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    また大阪に戻り、小さな日常的なドラマがいくつも起こる。大きく育った伸仁も次第に魅力的になっている。登場人物や、起こる事柄はとても多い。でも話の流れが混乱させない作りになっているところにこの作者の技量があるのだろう。

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    2025年09月27日
  • 錦繍

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    「言葉の綾」ということばがある。それ以外にこの作品を現す言語が見当たらないのだ。
    これは言葉のあやから始まった言葉の『綾』、想いの『綾』の物語。酷暑が涼の季節に変わり、紅葉が咲き誇る今にぴったりくる。
    美しいものはすべからく哀しく、あたたかく心を撫でてゆくのだ。名著中の名著。太鼓判を押したい。

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    2025年09月26日
  • 錦繍

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    『金閣寺』『錦繍』は美しい文体の小説の最上位に君臨する。そんな書き込みを読んで、宮本輝さんの小説を手に取った。
    別れた夫婦、靖明と亜紀が十年ぶりに再会し、そこから始まる往復書簡。二人が別れるきっかけになった事件の真相、夫婦の心模様が丁寧に時間をかけて綴られている。ふたりの手紙に込められた想いが織りなす錦繍(色鮮やかで最高級の織物)はたおやかな美しさ。分厚い手紙の中には二人の互いへの想いがそこかしこに残り、追想から昇華へとゆっくり熟成されていく。
    二人の書簡に出てくる人物達も魅力的だ。
    亜紀が通い詰めたモーツァルトの音楽しかかけない喫茶『モーツァルト』。亜紀の、「生きていることと死んでいることと

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    2025年09月21日