あらすじ
昭和三十六年。東京五輪へ向け復興は進み、大阪行きの集団就職列車が満員となった時代。六十五歳を目前にした熊吾は中古車販売業を軌道に乗せ、往時の覇気が甦りつつある。息子・伸仁は絵画を愛する少年に成長し、妻・房江はアルコールから抜け出せずにいたが、確かに一家に未来は拓きかけていた。熊吾が博美と再会するまでは。
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大阪鷺洲・中古車販売のハゴロモ編(伸仁14歳から16歳・中3から高2)
この巻で、私が一番心に残った熊吾の言葉は、ハゴロモの社員・神田三郎との会話の中にあります(p1 96)
自分の鶏すき鍋が運ばれてくると、熊吾は焼酎の水割りを飲みながらトクちゃんが守屋忠臣の弟子となるために京都へ引っ越して行ったときのことを神田に話して聞かせ、「行」というものがいかに大切かを教わったのは十二歳のころだと言った。
「ぎょう…?行なうの行ですか?」
と神田は箸を置いて訊いた。
「うん、その行じゃ。ひとつのことを実際にやり続ける。ひたすら、やり続ける。そういう意味では、わしは家庭の主婦というのはえらいと思うのお。毎日毎日、洗濯をする、掃除する、家族のご飯を炊き、おかずを作る。結婚して、歳をとって体が動けんようになるまで、営々とつづけちょる」
熊吾は、手を叩いて仲居を呼び、三杯目の焼酎を頼んでから話をつづけた。
「大工は家を建てるのが行。医者は病人を治すのが行。運転手は車を安全に運転するのが行。百姓はうまい米を作るのが行。どんなものでも、行が伴って万般に通じる何かをそれぞれが会得していく。勉学もそうじゃ。わしは十二、三のころに、叔父からそう教えてもろうた。しばらくのあいだは覚えちょって、あれをしたい、これをしたいと思うと、『まず行じゃ。行動じゃ』と自分に言い聞かせて、具体的にそれに向かって実際にからだを動かすことをこころがけたが、いつのまにか忘れっしもうて、茫茫五十数年が過ぎた。つまり、わしは自分の才の及ぶ範囲内で努力したに過ぎん。単調でつらい行から逃げて、たかが知れちょる小才で生きてきて六十五になった。トクちゃんを守屋さんの家に送った帰り道に、叔父の教えを思い出したが、もう手遅れじゃのお」
→ こんな素敵な言葉を語る熊吾なのに、会社のお金を持ち逃げされたり、森井博美と続いていたり…糖尿病も悪くなっていく。なんで、そんなふうに展開していくの!?と叫びたくなります。
第8巻は、房江さんに気持ちを寄せて感想をまとめたいと思います。涙なしでは読めません。
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久々の流転の海シリーズ読破。
宮本さんの文章は、すっと頭に入ってくる。
五感で感じ取れる文章というのだろうか、まるで自分がその世界にいるかのような錯覚を覚える。
物語としての面白さとは別に、文章の書き方がすごいなぁ。
女に溺れ、金を使いすぎ、社員に裏切られる、波瀾万丈すぎるが、そこが面白い。
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前巻から、打って変わっての空気感。
人生何が起こるかわからない。変転、流転は、常のものか。
その中でも、変わらぬ己の特質がもたらす陥穽。
行というものの大切さなども、物語の伏流の中で描かれる。
銀行の空気や、ふとした瞬間に熊吾が思い出す、戦死した戦友たちへの申し訳ないという思いなど、今の時代に失われた日本の文化や教えというかなんというか、知恵?なのかを、うっすらと、されどさり気なく、伝えてくれる。
伸仁の成長と、熊吾の衰え、そして暗雲立ち込める展開。
最晩年にでも、破滅的な転落が起こりそうな予感。
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満月の道
熊吾が、柳田のモータプールの管理人と並行して始めた中古車販売の「ハゴロモ」は、予想以上に繁盛しスタッフの増員を余儀なくされ四十五歳の玉木則之と二十二歳の佐田雄二郎を新たに雇い入れる。
一家は、ゴルフ場建設に意欲を燃やす柳田の要請で、もう一年モータープールの管理人を続ける事となるが、房江の負担軽減の為柳田商会から高卒の田岡勝己を派遣してもらう。
さらに、またも国立大学の受験に失敗したシンエータクシーの神田を、合格した私大の夜間に通わせる為ハゴロモに雇い入れる。
意に反して事業拡大するハゴロモは、房江の心配をよそに板金塗装会社「松坂板金塗装」を立ち上げる。
そしてその資金繰りの為、柳田商会の松田茂とその母親の貯えからから八十万を借り受ける。
そんな頃、街中で男と言い争う森井博美を見かけるが、その余りにも窶れた見窄らしい姿に愕然とし、後を尾けるも見失う。
だが後日、たまたま食事に立ち寄った居酒屋で働く博美とついに再会してしまうのだった。
同じ頃、神田から玉木が二重に伝票を作成していると言う報告を受けるが、さしたる調査もしないまま忘れてしまう。
再び、
街中でばったり博美と遭遇した熊吾は、ヤクザのヒモと切れないので助けて欲しいと懇願され、博美の顔の傷の負い目もあり逃亡に関わってしまう。
結果、熊吾が東京へ逃した事が漏れ、赤井というヒモに八十万の手切れ金を支払うハメに。そしてその出費は想像以上に大きな重荷となってゆく。
熊吾の手切金によってひとまず自由となった博美は大阪へと戻り、モータープールとハゴロモの近所にアパートを借りる。
結局、博美の持つあまりにも甘味な肉体の虜となった熊吾は、その欲情に抗えず昼間から足繁く通うようになる。
一方、
行方不明となっていた城崎の麻衣子は、蕎麦修行の為に但馬の出石にいた事がわかる。蕎麦専門店としてのちよ熊を開店するにあたりツユの味が決まらず、房江を頼ってきたのだった。
そして…
神田の抱いていた危惧は的中し、またしても信じきっていた己の腹心・玉木の裏切りが判明する。
玉木は数百万にも及ぶ金を着服していたのだ。
そして、その金はなんと森井博美のヒモとその背後のヤクザへと流れていたのだった。
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事業の危うさ、身体の危うさ、人間の危うさが入り混じっていて最後までヒヤヒヤしながら読んだ。
そんな中でも生命の誕生や房江が新たに楽しみを見つけて人生を楽しもうとしていてワクワクする。人生を楽しむのは些細な事で良くて、それはこの第7部の満月があらわすように常にそばにある。それに気がつく事が出来れば幸せなのかなと考えるきっかけになった。
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読者としても、もはや引くに引けないお付き合いとなる長編。
宮本輝は自身の生い立ちや経験をなんども作品化している。名前や設定は変えつつもこれまで他の作品で描かれてきた主題がじっくりと描かれている。これは「重複に対する批判」ではなく逆にファンとしては嬉しいことなのだ。筆者の、繰り返してきた年輪と成熟が大樹の中に流れる生命の音を静かに奏でる音に、旅人はただその傍らにたたずみ、時折耳をそばだててその流転する血潮に包まれるだけ。無事完結を祈る作品の一つ。
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波乱の人生が続いている
作者の年齢と熊吾の年齢が並んだ
あと残り2巻となってしまった
大事に読んでいこうと思う
解説にある登場人物一覧
素晴らしい
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感想
熊吾は人に裏切られすぎやろ。激しやすい割にお人好しなのかな。
熊吾の人生厳しすぎやろ。
あらすじ
中古車ハゴロモが起動にのってきた熊吾は、シンエーモータープールの管理人をそろそろ辞退しようと思っていた。モータープールでは柳田の社員寮で門限を守らない者やエアーブローカーの溜まり場になって房江が疲弊していた。
そんな折、千代麿より麻衣子が女の子を産んだと聞く。伸仁も高校生になった。
熊吾は、元ダンサーの森井博美と再会し、ヤクザ男と別れるのを助けて欲しいとお願いされる。博美はそのうち姿を消したが、モータープールにヤクザが来たので熊吾は手切金を払う。
熊吾は、中古車の販路を広げるために、板金の店も開く。麻衣子は城崎で小料理屋を蕎麦屋に変えて、商売を続けることにした。房江がつゆの味を決める手助けをする。
ハゴロモで、黒木が不正な取引に気づき、経理の玉木が不正をしていたことに気づく。玉木はノミ屋で賭博をやっており、その裏には博美の男のヤクザが糸を引いていたことが分かり、愕然とする。
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松坂一家のドタバタ劇は続きます。
60代で立ち会上げた『中古車のハゴロモ』は無事軌道に乗り、むしろ拡大していく彼の商才は大したもんではありますが、またいつものように女絡みで一波乱ありそうでワクテカ状態です。65歳でもギンギンですね、よ!松坂の大将!私も亜鉛摂取して大将に負けないぐらい頑張りマッスル。
第四部で別れた女(西条あけみ)に偶然出逢ってしまい、焼け木杭に火で5秒で合体、あひゃ、これは言い過ぎか、彼女のヒモ野郎(893屋さん)に手切れ金を渡し、再び失楽園の世界へ・・・
以前経営していた中古車販売で社員にお金を持ち逃げされて結果会社を畳んだ松坂の大将、またやらかします。信頼していた社員にまたごっそり持っていかれましたね。もー、バカバカ、大将のバカ!
ここで伸仁くんが名作『赤毛のアン』に線を引いていた一節〔アンにもの事を冷静に受け取れと言うことは、性格を変えろということになるだろう〕これですよ、正に同じ失敗を繰り返す松坂の大将お前にピッタリやがな。
そして〔松坂熊吾に同じ失敗を繰り返すなということは、性格を変えろということになるだろう〕大将は自分で分かったみたいですね。お疲れ様です。
あとがきでは次回第8部で大将の奥様房江さんが大変苦労すると書かれておりました・・・・房江さん、ファイツ!
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何度同じ失敗をするのか、熊吾は。
太っ腹で人情家でもあるけれど、最後の詰めがいつも甘い。
若いうちはまだやり直しもできた。
だけどもう65歳。
体力も、残り時間も、そんなに残されていないのだ。
伸仁のために生きる、と決めていたんじゃないの?
なのに、糖尿病についても、すぐ油断する。
房江もそうだ。
通信教育でペン字を最後まで習いきったのはえらいと思うが、家族に隠れて飲む酒がどうしてもやめられない。
あんなに伸仁が嫌がって、酒をやめてほしがっているのを知っているのに。
だけど、房江は麻衣子と交流を深めることで、新しい道が開けていくような気がする。
心を開いて話ができる人がいるというのは、いいことだ。
この先房江は城崎で暮らすつもりなのだろうか?
伸仁が毎日練習していた柔道の目的が判明。
思春期で、母親に対してぶっきらぼうではあるものの、伸仁は母に優しいと思う。
森井博美は西条あけみだったころと別人のようである。
もっと毅然とした生き様を見せていたと思うのだけど、熊吾にすがるしかない今は情けない。
もし今の姿を伸仁に見られたら、ちゃんと挨拶できる?
熊吾は会社を、家庭を守り切ることができるのか?
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文庫判だからこそ巻末についているであろう「解説」で1〜6部のあらましをまとめてくれているのが悪くない。
が、宮本さんの筆致力により第六部からおおよそ9年ぶりに読んだにもかかわらずぐぐっと引き込まれるのがすごい。
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今回も熊吾は同じ失敗をしている。信頼している部下に裏切られるのだ。何回同じ過ちを犯しているのかとほぞを噛む思いだ。さすがの熊吾も自分の性格を分析している。
この先房江には困難が待ち受けているそうだ。しかしそれは満月の道であるという暗喩。
伸仁が逞しく成長している。
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房江がけっこう良さげに想い語ってるやん て思ってたらあとがきで次巻は最悪になるって知らされて…盛り上げどころになるのは分かるけど今回幸せそうになってきてよかったやん て思ってたのに。まぁ熊吾はでっかい人やからこそちっこい綻びあったっていいやん。伸は15,6なのに良い子過ぎやわ〜このまま成長できるのか気になる。毎回 読んで学んでるのは失敗しても凹み過ぎず素直に反省しポジティブにも考えられる、心持ち スケールでかくしていたいって事かなぁ。
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発表、発売が緩やかで、これまでの話を忘れてしまうのが惜しい。主人公熊吾は66歳である。まだ懸命に働いている。様々な事件が襲い、人間模様に翻弄される。2016.11.19
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伸仁の成長!良かったなあ…熊吾さん頑張れ。でも、ここからどんどん辛くなるんだよなあ…。最終章の執筆が始まったそうですごく楽しみ。最後どんな文章で終わるんだろうか。
Posted by ブクログ
熊吾は、愛人をヤクザから身請けするために、会社の金や色んな人に借金をする。更に、またしても従業員に金を使いこまれて、会社が窮地に立ってしまう。何度も同じ事を繰り返す、熊吾のバカさ加減にどっと疲れが出る。妻の房江がかわいそうでならない。
この部は、あまり動きがなくダラダラ続いた感じだった。もう惰性で読んでる感じになって来ているけど、何とか七部まで読んできたので、あと二部は読むしかない感じの気持ちになっている。
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息子の危なっかしいところはだいぶ落ち着いてきたが、親父は懲りないというか、ますます人間臭さを強く放ってくる。
修羅場に直面した時の、熊吾の一貫した肝のすわりかたはすごい。自業自得感は否めないのだけど。
望んでいないけど、そろそろ夫婦関係に一大事か?
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中古車販売会社「中古車のハゴロモ」の取り扱い規模も人員も増やし商売が軌道に乗ってきた熊吾は森井博美と再会し歯車が狂ってくる。従業員の不審な動きに気付いた熊吾は借金を抱えたまま窮地に陥ってゆく。