【感想・ネタバレ】流転の海―第一部―(新潮文庫)のレビュー

あらすじ

理不尽で我侭で好色な男の周辺に生起する幾多の波瀾。父と子の関係を軸に戦後生活の有為転変を力強く描く、著者畢生の大作。

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Posted by ブクログ

出会えたことに感謝する小説。
描かれている物語は戦後を生き抜く人々のことなので、決して軽くない。なのにこんなに読みやすく書くことができる宮本輝という作家に驚いた。
登場人物も非常に魅力的である。熊吾は今の価値観ではかると問題だらけだが、全く憎むことのできないチャーミングなおじさんである。その周りの人々も尽くしたり裏切ったりしながらもそれぞれに魅力があり、どの登場人物にも肩入れできるような物語。

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2025年08月06日

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著者自らの父をモデルとした「松坂熊吾」の波乱の人生を、戦後日本を背景に描く自伝的大河小説・流転の海シリーズ(全9冊)。
今年(2025年)の2月から3月にかけて、3度目の再読をしました。
第1部は、終戦直後の大阪が舞台となっています。
50歳で初めて授かった伸仁に深い愛情を注ぐ熊吾の言葉が、第2部以降もたくさん出てきます。
心に沁みる言葉をノートに書き留めながら読み進めていきました。
「お前が二十歳になるまで、わしは絶対死なんけんのお」
「お前に、いろんなことを教えてやる。世の中の表も裏も教えてやる。それを教えてから、わしは死ぬんじゃ。世の中にはいろんな人間がおるぞ。こっちがええときは、大将やの社長やのと言いよるが、悪うなると掌を返しよるやつもおる。日ごろはそうでもなかったのに、困ったことがあるとそっと助けてくれるやつもおる。人の心がわかる人になれ。人の苦しみのわかる人間になれ。人を裏切るようなことはしちゃあいけんぞ。だまされても、だましちゃあいけんぞ。この世は不思議ぞ。なんやらわからんが、不思議ぞ。他人にしたことは、いつか必ず自分に返ってくるんじゃ。ええことも、悪いことも、みんな自分に返ってくるんじゃ。そりゃあ恐しいくらい見事になァ…」
こんな言葉を、伸仁に語りかけています。
この言葉を裏づけるような出来事が次々に展開され、夢中になって読んでしまいました。
第2部以降の感想も、熊吾の言葉を中心に、まとめていきたいです。

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2025年06月01日

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長編第一部
宮本輝の父親を描いたとされる自伝的小説。
豪放磊落、しかし、決して完璧でない、むしろどこか精神的な病を患っているかのような主人公の在り方に、とても惹かれた。今の時代には、おそらく受け入れられないであろう。だからこその憧憬かもしれない。魅力的で人間臭いキャラクターが多数登場。続きが楽しみ。

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2023年12月10日

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とんでもない本に巡り合えた。

人が幸せに生きていく上で必要な素養の全てかここに在る。



この作者の「優駿」を読んで、是非他の作品も読みたくなり、この本に辿り着いた。

1984年の第一刷発行であるが、
全く古さを感じないどころか、まさに現代(いま)を予言しているかの様な作者の慧眼に舌を巻く。

宝石の様な言葉が至る所に溢れている。

いみじくも…
巻末のあとがきにて、自らをドンキホーテに擬え、「宇宙の闇と秩序を全ての人間の内部から掘り起こそうと目論み始めたのです」と語っている。

なんと途方も無い決意で書かれた小説なのだろう…。

作者自らが予測した第五部を大きく越えて、第九部で完結した本作を読み終えた時、おそらく私は「見事に目論見は果たされた」と涙しているに違いない。


第一部
敗戦の2年後。
大阪に戻った主人公・松坂熊吾の自動車部品を扱う事業・松坂商会の再建から、
妻・房江との間に齢五十にして授かった一粒種・伸仁の誕生、そして腹心・井草正之助の裏切り、さらに辻堂忠との出会いと背信を経て事業をたたみ、郷里の愛媛県・南宇和に引き上げるまで。

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2022年07月15日

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知らず手に取ったが第九部まで37年間に及ぶ小説の冒頭だった。人間のどうしようもなさと星廻りを感じさせる物語。

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2022年04月01日

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宮本輝さんの作品との出会いは16歳。青が散るでした。
そしてこの流転の海のシリーズを読み始めたのは52歳。主人公とほぼ同じ年齢なので目を背けたくなる描写も、辛くて耐えられそうにないことも受け入れられる精神力があるように思います。
作品に入り込みすぎてあっという間に読み終えてしまいそうなので、この流転の海シリーズは一年かけてゆっくり読みたいと思います。

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2022年03月11日

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熊吾

過ぎるほどの人間臭み

豪胆さと脆さ

こんな境遇、時代背景に自己投影できる人などいないけれど

共感できる

共感というよりは、男性として惚れる、憧れる男ですね

この小説の存在で、今年は寝正月になったと言っても過言ではない

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2022年01月01日

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■動物としての人間が本来持つ生命力を感じる■

舞台は戦後。焼け野原から裸一貫、事業の再起をかけのし上がろうとする松坂熊吾の野太い生きざまと、その荒々しい流れに巻き込まれ、溺れ、また反発する男たち、女たちの盛衰や友情、裏切り、愛憎を描く。

熊吾は仁義に厚く豪胆、ガキ大将がそのまま大人になったような人物。しかも先見の明があり、機知に富む。情にもろい半面、身勝手で嫉妬深く暴力的だ。男尊女卑やDVという概念すらなかった時代、我が子のこととなると愛情のあまり我を忘れて怒鳴り散らす。そんな偏屈な人物像に親しみを覚え、自然と感情移入してしまう。

むき出しの欲望、ギラギラした闘争心、他人を蹴落としてでも這い上がろうとするバイタリティーが交錯する。そこに遠慮や後ろめたさは感じられない。いや、みんながどん底にあった当時は感じる必要すらなかったのかもしれない。それは善悪や是非の問題ではない。

運動会の徒競走での「手つなぎゴール」の良し悪しについて議論される現在とのギャップを感じる。「がんばれ」「負けるな」といった類の言葉を発することが時としてためらわれる成熟しすぎた社会。

そんな現代では希少となったみなぎる活気、闘争本能、湧き上がる生命力、そして潔さ。そういったものが焼け野原に立つバラックや闇市を含む、衣食住もままならない戦後社会には確かに存在した。

そのエネルギーは人の評価や体面ばかり気にして自分に正直にも貪欲にもなれず、現代社会に飲み込まれ溺れそうになる僕を鼓舞してくれる。
熊吾には今後も縦横無尽に暴れてほしい。

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2021年04月23日

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 主人公は愛媛弁丸出しでアクの強い大男・熊吾 
学歴はないがずば抜けた才覚と持ち前の気風の良さとで事業を拡大し一家をなす
 他の登場人物の話し言葉は 当時のあの辺りの大阪弁そのままで 違和感なくしみ込んで来る この人達は 多分作者が実際に見聞きした人たちで ただ順にポケットから取り出して 勝手に動き回るにまかせている・・・という安心感があって気持ちよくのめり込んた
 熊吾の事業は順調に拡大していたが 最愛の幼い息子が病弱で そのために事業はすべてたたみ 戦前会社のあった梅田の一等地も現金に換え 故郷に帰る 
 朝鮮戦争の気配

第2集が楽しみ

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2017年03月07日

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ワタシにとっていい作品は世界に没頭できる作品。ここにはちゃんと世界と人生が描かれている。ワタシは熊吾の人生に参加し始めたんだと思う。続きが気になって仕方ない作品に久々に出会えた!2巻を昨日買っておいて良かった~!読みます。

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2015年12月20日

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ネタバレ

20年前から、何度となく再読している作品。まだ続いているシリーズも楽しみにしている大ファンです。
久しぶりにはじまりの流転の海を読んでみると、熊吾の粗暴ぶりにちょっとついていけない感じが自分のなかで芽生えていてびっくり。
こういう親父いるよね・・から、こんな親父駄目だよ。。に気持ちが傾いていました。熊吾の魅力は変わっていないのですが、暴力への圧倒的な否定感が自分の中でうごめく感じです。でも、そういう時代で、熊吾自身も葛藤があり・・そこに焦点をあてた物語ではないですが。
人間の弱さ、強さ、生き様かな?熊吾をとおして描かれた物語は魅力満載です。
時代の流れ、自分も年を重ねての読後感。
シリーズが進むにつれて熊吾も変わっていきますが。
若い時代にこの小説に出会い、未だ完結していない物語。
完結時に自分が何を思うのか、とても楽しみな作品です。

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2015年09月22日

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ネタバレ

著者自らの父をモデルとしたとされる「松坂熊吾」の物語。子にとっては厄介な父親の人生は読むものを飽きさせず、傍若無人の思えた人物に垣間見える人間らしさややさしさに魅入られずにはいられない。

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2025年08月09日

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超大作、ついに手をつけてしまった
これからの展開が楽しみだ
人間、自分、自分に関わる人
多くのことを第一部で考えさせられた

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2024年12月28日

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起承転結の転をひたすら詰め込んだような内容だが、中だるみのない読みやすい本だった。
熊吾の感情の描写が丁寧で、彼の力強いキャラクターに魅力を感じた。先見の明と決断力によって人生を切り開いた彼の生き様は、時代が変わっても見習う部分がある。

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2024年08月14日

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なんとも言えない。簡単な成長物語としてのビルドゥングスロマンではなし、時代小説のようなものでもなし、ましてやエンターテイメントでもなし。人間が剥き出しに描かれている様に感じるものの、良いとか悪いとか、主題が何か、今の自分には判然としない。

紆余曲折、毀誉褒貶の人間模様。人間の多様面と厚さ、深さ、複雑怪奇さを感じる。人間の矛盾、弱さ、汚さ、儚さと、苛烈さ、酷薄さと、強さ優しさ、潔さと。美と醜が渾然一体となって、混沌のままに呈示される。どちらも人間の本質なのか。
正に海。掴めない。

ただ、その中でも、幼子を前にした父親を人間として見る感じる描写は、自身の父親もそうであったかもと思わせてくれて少し親に近づけてくれる。
そして、この物語を読み進めることによって、『分かった気になって、人間を善悪の二項対立で簡単に判別しがちな私自身の薄っぺらな人間観』と、『なんでも勝ち負けに落とし込んでしまう考え方』が、豊かになるかも知れない期待が出てきた。

全9冊の大作を読み進める中で、どんな変化が自分に起こるのか、起こらないのか、楽しみである。

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2023年09月03日

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久しぶりに宮本輝さんの作品を読んだが、やはり文章・人物の描き方等全てにおいて素晴らしかった。
主人公が妻に暴力を振るう場面は、嫌な気分になったが、すごく話に引き込まれた。続きが楽しみ。

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2023年06月24日

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豪胆かつ小心で、猥雑な面も併せ持つ松坂熊吾とその眷属たちが織り成す、濃密な小宇宙を描く。宮本輝氏本人と実父・実母をモデルとした大河編の第一部。

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2022年07月22日

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久しぶりに昭和の古き時代の物語を読んだ。熊吾のような豪快な心の大きい人、今はいないなあ…としみじみ思う。そして、この時代の女性の生き方は、悲しいものだったと思う。

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2021年12月16日

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第9巻が発刊され全編完結と聞き数年ぶりに再読し始めたが、複雑な人間関係がわからないのであらためて最初から読み直すことにした。

終戦後、裸一貫になり自動車部品販売で再起を図る松坂熊吾。五十歳にして子供の伸仁を授かり、妻の房江と共に家族を守り抜いていこうとする長い長い物語。
熊後は、最初は粗暴で野卑な人物という印象であったが、読み進むにつれ人情熱く懐の深い男として魅力あふれる人間となり、また不幸な生い立ちを持つ妻の房江も芯の強い女性ということがわかる。

第1巻は熊吾が闇市から立ち上がり、辻堂という青年を右腕にして進駐軍物資の横流しで事業の再興を図り動き始める。知人や部下に裏切られたりするなかで割烹を取り仕切る房江と出会い一人息子の伸仁を授かるまでの過去の成り行きなどを知ることができる。
最後は軟弱に生まれた伸仁の成長のためにすべてを捨てて熊吾の故郷である南宇和へ帰るまで。

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2021年05月05日

Posted by ブクログ

ようやく最終巻の文庫本が出たので、第一部から一気読みする。
関西財界の風雲児、松坂熊吾が終戦後に事業を再開。
同時に50歳を過ぎて初めて子供を授かったことから物語が始まる。
強烈な人間の魅力を持つ熊吾。
彼を取り巻くたくさんの人たちの人間模様。
彼がどのように息子を育て、事業を大きくしていくのか。
続きが楽しみだ。

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2021年04月21日

Posted by ブクログ

ネタバレ

敗戦2年目の大阪を舞台に、戦前の事業や財産を取り戻そうとする松坂熊吾の物語。
とはいえシリーズの第一部であるのに、熊吾は既に50歳。
今後は徐々に息子の伸仁の話にシフトしていくのだろうけれど、とりあえず今はまだ赤んぼなので。

豪快で男気があって人を見る目に長けている熊吾だが、短気で嫉妬深く暴力に訴えるところが欠点。
身近にいるとちょっと厄介かもしれないけれど、読者としていうならばとても魅力的。

疎開していた故郷の宇和島から大阪に戻ってみれば、自社ビルには闇市が入り込み、勝手に商売をしている。
まずそれらを立ち退かせ、商売の糸口をつけなければならない。
昔世話をした人に裏切られたりしながらも事業は成功するのだが、ようやく生まれた息子が虚弱で、結局再び宇和島に戻ることになるところまで。

しかし過去の出来事や生い立ち、家族のあれこれなどを絡めながら語れる物語は、複雑でありながらも読みやすい。
っていうか、すこぶる面白い。
「このままで終わると思うなよ」と思いながら本を閉じた。←誰に喧嘩を売っているのか(笑)

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2021年04月08日

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自分と同世代の熊吾。息子が二十歳まで生きる、って、全く同じ決意には共感。豪快ながら不安を抱え生きていく様、家族や周りの人物像。時代背景があるにしろ、心地よい引き込まれ感。

さあ、男、家族、親子の行く末はどうなるのか。
宮本氏の「生死観」の描き方にも注目かな。

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2021年04月08日

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熊吾という主人公に対して序盤はあまり
ただの乱暴ものでいい印象ではなかったが
読み進むにつれ房江との出会いや
運送屋、部下たちとのやり取りから
熊吾の人間臭いキャラクターが
興味深くなっていった。
今どきこんな人そうそうおらん
そりゃ、惚れるよなぁ。

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2017年05月20日

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ネタバレ

はたして人の運命というのは生まれ持った天命なのか、はたまた人が手繰り寄せる人命なのか。破天荒ながら義理人情に厚い松坂熊吾を中心に、様々な人間臭いドラマが次々に巻き起こる。重厚な人間ドラマを描いた超大作。いや、何が大作って、1990年に第一部が出版されて以来、いまだに完結されてないっていうね。ちゃんと完結される日が来るのだろうか。

とりあえず4卷まで読み終えて印象に残ったフレーズ。はちゃめちゃな熊吾さんだが、こう生きて行く上でとても重要な「核」になるような発言が散りばめられてて、ハッとすることが多いのがまたこのシリーズの魅力。
・子供ってのは、血がつながったかけがえのない存在だが、それでもやはり理解が及ばない他人でもある。だからこそ、心を砕きに砕いて分かろうとする。この他人だけども真剣に分かろうとする相手が子供。子供がが居ないとこの経験が出来ない。その結果、やはり他人に対してどうこか機微を知らん奴が多いように思う。
・自尊心より大切なことがあることを知らにゃいかん
・この子が将来どんな素敵な子に育ち親を喜ばせるかわからん、草の根を食ってでも育てにゃいけん。

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2016年12月04日

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ハチャメチャな男の物語 
昭和を生きる明治男 面目躍如
はた迷惑な男だが なぜか憎めない 猪突猛進
この宮本輝、偏った宗教家的思想の持主? 右翼?極右?

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2016年05月20日

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まだなんとも言えないけど、本当に久しぶりに宮本輝を読んだ。
一筋縄ではいかない、哀しみを背負った人たちの物語がやっと動き出すところって感じなのか。
まだまだ先は長いが、楽しみ。

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2022年07月19日

Posted by ブクログ

久しぶりに面白い小説に出会った。
今一つ、松坂の人物像が現実味を帯びて把握できない。人生経験が足らないのかなぁ。

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2022年03月27日

Posted by ブクログ

宮本輝が好きでよく読むのですが、ついに、大作の「流転の海」読み始めました。戦後のお話ですが、さすが戦後です。現代とはいろいろな面で違います。昔の人です。主人公は僕とはちょっと合わない人でした。自分と同じタイプの人の小説よりも勉強になるのかもしれません。

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2021年03月28日

Posted by ブクログ

1982年に開始したこの「流転の海」シリーズが、2018年6月の第九部「野の春」をもって完結したということが話題となった。宮本氏も、この37年間に及ぶ大河小説の完結に、躊躇することなく自らを褒めていた。

物語の主人公は、松坂熊吾。宮本輝氏の父・宮本熊市氏の物語である。第一部は、敗戦から2年たったばかりの大阪を舞台。松阪熊吾が事業の再興を始めるシーンから始まる。そのとき、熊吾50歳にして初めての子を授かる。

物語の中では、その子を「伸仁」と名付けるが、まさに宮本輝(本名宮本正仁)自身のことである。

宮本氏は、「私は、自分の父をだしにして、宇宙の闇と秩序をすべての人間の内部から掘り起こそうともくろみ始めた」と述べている。

なるほど、主人公・松坂熊吾は、豪胆な実業家のイメージで描かれているが、この物語は凄腕実業家のサクセスストーリーを筋とするような軽いものではない。そんなものならすぐに飽きられただろう。

この松坂熊吾という人物は、凄いけれども欠点もボロボロあわせもっている。彼の周りにはありのままの人間ドラマが繰り広げられていく。

人を信じたり、騙されたり、妻を愛する心や尊敬する気持ちが根底にあるかと思えば、妻に支配的になり暴力をふるったり、暴言を吐いたり。事業に野心を抱きながら、一方で虚弱な子どものために自分の野心を捨てさろうと悩む。その主人公像は、決して精錬されたものではない。

スマートではないが、人間臭さの中に魅力があるように思う。粗暴とも思えるような一面を持ちながらも、その熊吾から発せられる言葉の端々に、宇宙を貫く法則的なものや、哲学的な視点が感じられたりする。

「宇宙の闇と秩序をすべての人間の内部から掘り起こそうともくろみ」とはこのような狙いのことだろうか。

生まれた「伸仁」の顔を見ながら「お前が二十歳になるまでは絶対に死なん」と宣言した熊吾は、これからどんなドラマを展開していくのか、それが非常に興味深い。

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2019年01月22日

Posted by ブクログ

宮本輝氏が実父をモデルに書き続けておられる自伝的長編の第一部にあたります。
書き始めてからすでに25年がたち、ようやく第五部が出たばかり、
まだ未完の小説です。

短編集の方はかなり暗いイメージがありましたが、こちらは戦後の荒廃の中を力強く生き抜いていくという内容で、熊吾という主人公の破天荒なエネルギーに圧倒され続けです。

第四部まで文庫を買ってあるので、しばらく楽しめそうです。

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2019年12月15日

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