宮本輝のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
『流転の海』全九部中第五部。
『新潮』2004.6〜2007.4
昭和32年、松坂熊吾は大阪で再起をかけ、妻と共に電気もガスも通らず、ロウソクだけが灯りという空きビルに暮らす。
10歳の伸仁(宮本輝がモデル)は尼崎の「蘭月ビル」という、まるで貧民窟のようなアパートに住む叔母に預けられる。
そこの住民はみな貧しく、半分は朝鮮人であり、伸仁は凄絶な人間模様に巻き込まれて行くのだった。
相変わらず、濃いエピソード満開で、そこでもしたたかに生きていく伸仁。
しかし、作者が「どうしても書かなければならなかった一巻」と言っているように、のちの作家生活に大きな影響を与えているだろうことは間違いない。
こ -
Posted by ブクログ
大河小説とは、よく言ったものだ。人間一人ひとりが雨粒としてこの世に生まれて、他の人と出会い、大きな流れとなって大河となる。主人公の熊吾は、粗野で弱い部分もありながら、世の中や人間を正しく、深く見つめ、その縁を繋いでいく。途中、大きな岩や嵐やいろいろな困難を乗り越えたり、流されたりしながら、人々の織りなす大河はさらに大きな海へと流れていく。途方もない年月を重ねて紡がれたこの小説だからこそ、これだけの流れを描くことができたし、何年もかけて読み終えた今、登場人物一人一人の人生がいろいろな思いを抱えながら、流れていく様をいっしょに流れて来たような錯覚を覚える。私は彼らと共にどこに流れ着いたのだろう?い
-
Posted by ブクログ
「あーよかった!」という読後感を残して忘れてしまう小説があるが、この『泥の河』と『螢川』は情景が深く沈み忘れられない小説。
『泥の河』は昭和三十年の大阪。馬車引きは子どもの頃、目にしていた。乾いた馬糞を遊び道具にする逞しい子どもがいた。でも、水上生活者は想像するしかない。天神祭りの出来事、そして哀しい別れ。その情景は少年時代の不安や哀しみと共鳴する。
『螢川』の舞台は富山。思春期の少年の心は想像に難くない。でも、四人が金縛りにあうほどの螢川の情景は、はるかに想像を超えていた。華麗なおとぎ絵ではない。
「寂寞と舞う微生物の屍のように、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化し、天空へ天空へと光 -
「螢川」「泥の河」について
「螢川」
宮本輝の芥川賞受賞作「螢川」は宮本文学の永遠の傑作だ。この小説の舞台は富山。
主人公は中学三年生の竜夫。昭和三十七年三月から物語は始まる。
この物語において、竜夫の父の死や竜夫の友人・関根の死が主人公の人生に陰翳をもたらす。
同級生の英子に想いを寄せる竜夫の恋心にすら、友人の死の影が伸びてゆき、そこに思春期の複雑な心理の綾が描き出される。
宮本作品では登場人物がどんなに若年であろうと、厳然とした死が突きつけられる。
しかし、惑いながらも死を受け止め前を向いて生きてゆく登場人物たちに、私は読みながら知らぬ間に心が鼓舞されているのだ。
この「螢川」では四月に大雪に見舞われると、螢の -
Posted by ブクログ
薩摩、長州など、幕末維新に関わる様々な人たちが、どのように関わり合っていたのか、江戸や京都ではどのような事が起こっていたのか、恥ずかしながら今まで知らなかった事がたくさんありました。大政奉還、明治維新、、、日本が大きく変化した時代が細やかに描かれていて、歴史を深く学ぶことが出来ました。
さらに、この本の主役である富山売薬人たちの果たした役割と、これから新しい時代を切り拓いていく未来が見えてきたところで、いよいよ第4巻へ突入です。今からワクワクしています。
p68で、才児さんと弥一さんの会話の中に書かれていた弥一さんの言葉が心に残りました。
「苦楽が合わさって、ひとつの人生になる。日月の -
Posted by ブクログ
安政の大獄、桜田門外の変、寺田屋事件など、有名な出来事が次々に登場しました。その度に、幕末の不安定だった世の中に思いを馳せながら、心が痛みました。
そんな状況の中で、薩摩藩と富山売薬人たちの深い繋がりが要所要所に読み取れました。この本を読んで初めて知りました。
最終章の「禁門の変」では、薩摩藩を守るため富山売薬人たちが京都で壮絶な場面に遭遇し、命を奪われることなく無事に富山へ帰り着いた時には、ホッとして涙が出てしまいました。
弥一さんや、彼を取り巻く人々(長吉さんや才児さん他、たくさんの仲間たち)が、とても温かくて魅力的に感じます。そして、弥一さん&お登勢さん夫妻の愛情の深さも随所に散りばめら -
Posted by ブクログ
大阪千鳥橋・中古車センター編(伸仁16歳から17歳・高2から高3)
房江さんの哀しみと諦めと、伸ちゃんの涙…
第8部は、房江さんの気持ちに寄り添いながら読みました。
城崎で自らの命を絶とうとした房江さんだったけれど、様々な要因(幸運)が重なり、命を救われました。
人生には、「もしも、あの時〇〇だったら…」という偶然の巡り合わせがあると思います。房江さんが最期と決心して鰻重をお腹いっぱい食べたこと、麻衣子さんが家に引き返したことなど、色々なことが重なり房江は一命をとりとめました。
これらは決して偶然ではないのかもしれないと、「流転の海」シリーズを読み重ねる中で感じるようになりました。
(以