宮本輝のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
大阪の十三というところに戦前から建っていた堅牢でイワクありげな建物「骸骨ビル」の除却という業務に、ひょんなことから関わった主人公が、様々な人間模様、それも戦前戦後のどさくさで、好むと好まざるに関わらず、悲壮的な宿命を負った戦災孤児の人間模様を絡めながら、話は、読者を引き込んでしまいます。
人間置かれた環境で、様々な職業につかざるを得ない、インフォーマルな世界を作者独特のタッチで書き進む。
主要な登場人物がこのビルの歴史的に背負った背景を語っていくというスタイルだ。
そして、除却を請け負った主人公の心の動くも同時進行で描かれていく。
そして、下巻へと続いていこのである。 -
Posted by ブクログ
「小説は書き出し、随筆は最後の一行」と言われる。作家生活43年、著作も100冊を超える作家ともなると、この要諦を縦横に使い、随筆の形を借りた小説、あるいは小説の器の中に随筆を盛り込むといった芸当ができるんだなぁと陶然としながら読み了えた。あとがきにこんな文章を寄せている。「『これ以上書くと創作の領域に至る…』という、ぎりぎりの分水嶺あたりをうろつきながらエッセイというジャンルを超える企みを貫くことができた。」本書はまさしくこの一文に集約される。
異父兄の存在を知り、後年密かに兄を訪ねていく話、27歳の時に突如襲われたパニック症候群によりサラリーマンを辞め、小説家になろうと決意に至った話、シル -
Posted by ブクログ
ネタバレ上下巻一気読みでした。
色々と後悔することもあるし、間違った選択もするけど、それら全てひっくるめて”青春”なのだと思わせてくれる小説。
燎平や金子のような不器用で真っ直ぐでどこか潔癖な感じも、
夏子のように小さな世界の中で負け知らずで、自信に満ち溢れててどこか傲慢な感じも、
祐子のように内に秘めた激しさを周囲には見せられずに、装って振る舞いながらバランスを保とうとする感じも、
安斎の宿業と闘う苦しみもわかる気がする。
そういう部分が自分にもあったなと感じるし、自分だけじゃなかっただろうなとも感じる。
”あの頃は青かった”とか”多感なお年頃”とか言う年代の登場人物の心情をこんなに面白く書ける -
Posted by ブクログ
ネタバレ予想以上に面白くて驚いている。
登場人物それぞれに対して、”なんだかわかる気がする”部分が自分にもあって、静かに余韻に浸ってしまう。まだ上巻なのに…。
特に燎平。
厚かましくも今だからこそ、自分の恋愛のなかにも、この時期の燎平みたいな男の子がいたのかもしれないという気持ちになる。一見控えめなんだけど、心の中では勢い良く溢れそうになっている不安定な感じ。大学生の時に読んでいればまた何か違ったのだろうか。いかにも無知で無経験で小生意気な若さゆえに相手を傷つけてしまうことも少しは減らせたのだろうか。
男は女の感覚がわからないし、女は男の気持ちがわからない。
人は他人のすべてを理解することはできな -
Posted by ブクログ
ネタバレ長編を読むことが得意でない私が
上下巻 飽きることなく読書を楽しめた
突然の主人公の環境変化には
少々驚いたが、
同時に始まった老婦人の謎解きは
最後の最後まで、興味深く読むことができた
想像していた再会とは違っていたが
双方の心の動きが切なくて、涙がこぼれた
また、戦争中の時代背景を知るにつれ
自由に自分の学びたいことを学び
自由に言いたいことを言える今の時代は
当たり前ではない時代があったことを
自分事として感じられた
そして震災によって家族を失うことの悲劇もさることながら、
幼い時に家族に愛されることを実感できないこと
安心した環境で生活できないことによる影響は
その人を形成する -
Posted by ブクログ
”生まれる仔馬が牡馬でありますように。風の申し子のように早く、嵐のように烈しく名馬の天命をたずさえて生まれますように。”北海道の小さな牧場で生を受けた一頭のサラブレッドオラシオン。北海道の大自然が育む緑と光の原野の中で育ち、順調に競走馬への道を歩み始める。そして生産者、馬主、騎手、調教師等の命をモチーフにしたそれぞれの物語が、最終章のダービーに向かって一気に駆け抜ける。。特徴は、北海道の雄大な自然から、レース展開や騎手の駆け引きまでをきめ細やかな筆致にて描く。そして各章毎に、登場人物の視点を小気味よく切り替えて、それぞれが抱える人生の悲哀がダービーを駆け抜けるオラシオンの一点に集約されるよう伏
-
Posted by ブクログ
平成28年9月
主人公の人生が平凡だったものから変わっていく。
その中で主人公の中にあるものは変わらず大切に一滴一滴の力を大切に。
ファニー(偽物)が世界を席巻している時代。
偽物、まがいもの、うらっつらだけ。そういうのに人間は騙されやすい。
一丈のほりを越えぬもの、十丈二十丈のほりをこうべきか
一丈の幅の堀を越えたら、一気に十丈二十丈がやすやすと越えられるようになる。その一丈の堀を越えてみることが大切。
この本を上下と読んで、
やっぱり人生って難しいね。自分も今、40になろうとしているところで。この主人公と同じように、今までの自分の人生って何だったんだろう、ヘイヘイボンボンと生きて