宮本輝のレビュー一覧

  • 骸骨ビルの庭(上)

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    大阪の十三というところに戦前から建っていた堅牢でイワクありげな建物「骸骨ビル」の除却という業務に、ひょんなことから関わった主人公が、様々な人間模様、それも戦前戦後のどさくさで、好むと好まざるに関わらず、悲壮的な宿命を負った戦災孤児の人間模様を絡めながら、話は、読者を引き込んでしまいます。
    人間置かれた環境で、様々な職業につかざるを得ない、インフォーマルな世界を作者独特のタッチで書き進む。
    主要な登場人物がこのビルの歴史的に背負った背景を語っていくというスタイルだ。
    そして、除却を請け負った主人公の心の動くも同時進行で描かれていく。
    そして、下巻へと続いていこのである。

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    2017年11月16日
  • いのちの姿 完全版

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    「小説は書き出し、随筆は最後の一行」と言われる。作家生活43年、著作も100冊を超える作家ともなると、この要諦を縦横に使い、随筆の形を借りた小説、あるいは小説の器の中に随筆を盛り込むといった芸当ができるんだなぁと陶然としながら読み了えた。あとがきにこんな文章を寄せている。「『これ以上書くと創作の領域に至る…』という、ぎりぎりの分水嶺あたりをうろつきながらエッセイというジャンルを超える企みを貫くことができた。」本書はまさしくこの一文に集約される。

    異父兄の存在を知り、後年密かに兄を訪ねていく話、27歳の時に突如襲われたパニック症候群によりサラリーマンを辞め、小説家になろうと決意に至った話、シル

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    2017年11月07日
  • 彗星物語

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    クスッ(笑)とウルッ(涙)が交互にやって来る忙しい(いい意味で☆)物語。素晴らしい本に出会えました。

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    2017年10月31日
  • 骸骨ビルの庭(上)

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    広い意味での戦災孤児と、それを育てた二人の男を巻き込んだ事件を、平成の世にヤギショウの聞き語りで進む物語は、初っ端から怪しい雰囲気を醸し出しながら進んでいく。ヤギショウは標準語、骸骨ビルの住人は大阪弁。彼らの語りを慣れない関西弁のイントネーションで読み進めるのは大変だ(笑)さて、ヤギショウと彼の親族は無事でいられるのか? 下巻へ突入だ!

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    2017年09月06日
  • 森のなかの海(下)

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    阪神大震災キッカケの物語。 人生はどう変わるの分からない...何かを無くして何かを得られたと思った時、また何かを守るとなると、強く生き幸せを得られるのか…。豊かに生きることは物質的なものではない事を、この本を読んで思う。 戦争時代背景、結婚離婚、家庭問題など多岐にわたる事を考えさせられた良本。 この本を読むと、「豊かさ」や「幸せ」の定義をもっと拡げられるんじゃないかと考えさせられる。 そして、家族環境って人格を形成する上で、大きな影響を与えるものであろうと強く思う。いや本当に良い本を久しぶりに読んだ。

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    2017年08月16日
  • 青が散る(下)

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    ネタバレ

    上下巻一気読みでした。
    色々と後悔することもあるし、間違った選択もするけど、それら全てひっくるめて”青春”なのだと思わせてくれる小説。

    燎平や金子のような不器用で真っ直ぐでどこか潔癖な感じも、
    夏子のように小さな世界の中で負け知らずで、自信に満ち溢れててどこか傲慢な感じも、
    祐子のように内に秘めた激しさを周囲には見せられずに、装って振る舞いながらバランスを保とうとする感じも、
    安斎の宿業と闘う苦しみもわかる気がする。
    そういう部分が自分にもあったなと感じるし、自分だけじゃなかっただろうなとも感じる。

    ”あの頃は青かった”とか”多感なお年頃”とか言う年代の登場人物の心情をこんなに面白く書ける

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    2017年06月23日
  • 青が散る(上)

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    ネタバレ

    予想以上に面白くて驚いている。
    登場人物それぞれに対して、”なんだかわかる気がする”部分が自分にもあって、静かに余韻に浸ってしまう。まだ上巻なのに…。

    特に燎平。
    厚かましくも今だからこそ、自分の恋愛のなかにも、この時期の燎平みたいな男の子がいたのかもしれないという気持ちになる。一見控えめなんだけど、心の中では勢い良く溢れそうになっている不安定な感じ。大学生の時に読んでいればまた何か違ったのだろうか。いかにも無知で無経験で小生意気な若さゆえに相手を傷つけてしまうことも少しは減らせたのだろうか。

    男は女の感覚がわからないし、女は男の気持ちがわからない。
    人は他人のすべてを理解することはできな

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    2017年06月22日
  • 春の夢

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    父が借金の整理を付けずに死んでしまった為に、主人公の哲之とその母は借金取りから逃れる為別々に暮らすことに。
    哲之は田舎のアパートに落ち着くのだが、ひょんな事から蜥蜴と共に暮らすことになる。

    彼女陽子への思い
    バイト先でのホテルでのゴタゴタ
    母親の暮らしを心配したり
    借金取りが家に来るのではという恐怖

    そんな哲之の一年間の暮らしが描かれている。

    時代設定が昭和の末期ですので公衆電話を知らない世代に読んで欲しい。

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    2017年06月02日
  • 彗星物語

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    良かったー。
    晋太郎、恭太、ボラージュ、真由美、紀代美に敦子、福造。忘れてならないのが自分のことを犬だと思っていないフック。なんてキャラが個性的でそれぞれが魅力的なのだろうか。
    家族でさえも暮らしていると、些細な行き違いやうっとーしーと思うことが多々あるのに、ハンガリーの留学生を迎え、城田家の面々が右往左往してる様子がとても良い。
    最後の方は思わず泣いてしまった。

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    2017年03月24日
  • 地の星―流転の海 第二部―(新潮文庫)

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    ネタバレ

    戦後の大阪で財を成したが 病弱だった子供を育てるために故郷愛媛の田舎に帰って ここでも熊吾流に大活躍する
    自然豊か そして人間も彩り豊かで 命を狙う極悪人から 地味豊かに包み込んでくれる善人まで 味わいが濃い そんな中で人が死に生まれる 
    次巻活躍するだろうと思うとその幼子からも目が離せない

    数年の田舎暮らしの後 新しく家を買った場所は大阪梅田の西の方 といえば二つの川が流れる輝さんが昔々暮らした場所ではないか 
    三巻も楽しみ

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    2017年02月09日
  • 流転の海―第一部―(新潮文庫)

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     主人公は愛媛弁丸出しでアクの強い大男・熊吾 
    学歴はないがずば抜けた才覚と持ち前の気風の良さとで事業を拡大し一家をなす
     他の登場人物の話し言葉は 当時のあの辺りの大阪弁そのままで 違和感なくしみ込んで来る この人達は 多分作者が実際に見聞きした人たちで ただ順にポケットから取り出して 勝手に動き回るにまかせている・・・という安心感があって気持ちよくのめり込んた
     熊吾の事業は順調に拡大していたが 最愛の幼い息子が病弱で そのために事業はすべてたたみ 戦前会社のあった梅田の一等地も現金に換え 故郷に帰る 
     朝鮮戦争の気配

    第2集が楽しみ

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    2017年03月07日
  • 森のなかの海(下)

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    ネタバレ

    長編を読むことが得意でない私が
    上下巻 飽きることなく読書を楽しめた

    突然の主人公の環境変化には
    少々驚いたが、
    同時に始まった老婦人の謎解きは
    最後の最後まで、興味深く読むことができた

    想像していた再会とは違っていたが
    双方の心の動きが切なくて、涙がこぼれた

    また、戦争中の時代背景を知るにつれ
    自由に自分の学びたいことを学び
    自由に言いたいことを言える今の時代は
    当たり前ではない時代があったことを
    自分事として感じられた

    そして震災によって家族を失うことの悲劇もさることながら、
    幼い時に家族に愛されることを実感できないこと
    安心した環境で生活できないことによる影響は
    その人を形成する

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    2017年01月14日
  • 青が散る(下)

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    まさに青春物語

    自分もこれくらいの大学時代を過ごせればと、今となっては歯がゆく感じる
    皆目指すものが有り、時にはクールに、時には真っ直ぐに藻掻きながらも最後には現実を突きつけられるが、その経験がかけがえのないものとなっていく
    まさに、「青(青春)が散る」

    最後の文章がこの物語の全てなのだと思う

    ”自分のまわりにいた者はすべて、何物かを喪った。”
    ”自分は、あるいは何も喪わなかったのではないかと考えた。何も喪わなかったということは、じつは数多くのかけがえのないものを喪ったのと同じではないだろうか。”

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    2017年01月11日
  • 胸の香り

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    初めてこの小説を読んだのは高校生のときでした。それからずっと、宮本輝さんの短篇についての考え方が書かれている「あとがき」が印象に残っていました。
    短篇が7作収録されているのですが、どれも短いなかに凝縮されていて、頭の中にどんどん物語の世界が広がっていきます。読む人の状態に合わせて変化する、大好きな短篇集です。

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    2016年12月23日
  • 優駿(下)

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    ”生まれる仔馬が牡馬でありますように。風の申し子のように早く、嵐のように烈しく名馬の天命をたずさえて生まれますように。”北海道の小さな牧場で生を受けた一頭のサラブレッドオラシオン。北海道の大自然が育む緑と光の原野の中で育ち、順調に競走馬への道を歩み始める。そして生産者、馬主、騎手、調教師等の命をモチーフにしたそれぞれの物語が、最終章のダービーに向かって一気に駆け抜ける。。特徴は、北海道の雄大な自然から、レース展開や騎手の駆け引きまでをきめ細やかな筆致にて描く。そして各章毎に、登場人物の視点を小気味よく切り替えて、それぞれが抱える人生の悲哀がダービーを駆け抜けるオラシオンの一点に集約されるよう伏

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    2016年11月27日
  • 三十光年の星たち(下)

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    男は老人から起業したい人向けの融資事業と融資事業から店をオープンした女性から伝説のソースを引き継ぐことになる。
    男は老人たちを通して、自分は何をすべきかと人生の覚悟を磨いていく。
    人間としてどうありたいか。ちょっと参考になる本。

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    2016年11月20日
  • 三十光年の星たち(上)

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    迷える若者に読んでほしい1冊だと思う。
    なぜ注目されなかったんだろう。はっきり言ってそう思う。
    主人公の男は何をやっても中途半端なままで来てしまった30歳。
    でも佐伯老人との出会いが人生を変えていくことになる。

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    2016年11月20日
  • 水のかたち 下

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    平成28年9月

    主人公の人生が平凡だったものから変わっていく。
    その中で主人公の中にあるものは変わらず大切に一滴一滴の力を大切に。

    ファニー(偽物)が世界を席巻している時代。
    偽物、まがいもの、うらっつらだけ。そういうのに人間は騙されやすい。
    一丈のほりを越えぬもの、十丈二十丈のほりをこうべきか
     一丈の幅の堀を越えたら、一気に十丈二十丈がやすやすと越えられるようになる。その一丈の堀を越えてみることが大切。

    この本を上下と読んで、
     やっぱり人生って難しいね。自分も今、40になろうとしているところで。この主人公と同じように、今までの自分の人生って何だったんだろう、ヘイヘイボンボンと生きて

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    2016年10月03日
  • 水のかたち 上

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    平成28年9月 

    主人公の志乃子は、夫、子供3人の平凡な主婦で50代に突入。
    そこで、人生について考える。考えさせられる。動かされる。
    主人公、姉、友達のジャズシンガー少しずつ変わっていく。


    心は巧みなる画師のごとし
     心には心に描いたとおりになっていく、そんな凄い力がある。
    命は食なり
    石に一滴一滴と食い込む水の遅い静かな力を持たねばなりません。
     

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    2016年10月03日
  • 青が散る(下)

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    大阪郊外の新設大学に入学した主人公たちが4年間、テニスに打ち込み、恋に焦がれ、人生のとば口を知る青春小説の金字塔。
    描かれる恋は全てが一方通行。
    登場人物たちのもがく姿が愛おしい。
    青春小説、学園小説の類は随分読んだが、学生時代の鬱屈をこれほどまでに描いた作品は無いのではないか。
    大学が「4年間の執行猶予」だった頃の物語。 大学が「有利な就職の予備校」みたいになってしまった今の若者には通じないのかなぁ。

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    2016年09月21日