中島京子のレビュー一覧
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1.著者;中島氏は、小説家・エッセイスト。フリーライターを経て、小説家デビュー。両親は、共にフランス文学者、姉はエッセイストで、文学一家。彼女の作品は、日常に潜む小さな出来事や感情を丁寧に描き出し、読者の心に深く響く作品が多い。ユーモアとペーソスが織り交ぜられた独特の文体も魅力。直木賞、泉鏡花文学賞、吉川英治文学賞、柴田錬三郎賞など、数々の文学賞を受賞。
2.本書;東京を舞台に、戦前から戦時中に「モダンな赤い三角屋根の小さいおうち」に住む平井家。この家に14歳から十数年仕えたタキ(女中)の目線で綴った回想録。タキは、モダンな家と若く美しい奥様(時子)を慕った。時子と板倉の恋愛事件があるものの、戦争に翻弄される世の中で、豊かな日常を過ごす平和な日々を描いた。
3.個別感想(印象に残った記述〔場面〕を3点に絞り、感想を付記);
(1)『第一章;赤い三角屋根の洋館』から(タキ)「家などというものは、大きければそれでいいとは限らない。機能的であればいいのだ」「私はあの自分の部屋が好きで好きでたまらなかった。何しろ専用の便所までついていて、それがすべて新品」「私の為の部屋が好きだった。たった二畳の板の間を私がどんなに愛したか、そのことを書いても人は分かってくれないだろう」
●感想⇒「私の為の部屋が好きだった。たった二畳の板の間を私がどんなに愛したか、そのことを書いても人は分かってくれないだろう」。人は誰しも自分の安らぎの場が欲しいものです。私の場合は、自分の書斎を持つ事でした。マイホームを建てた時に、書斎だけは自分流にしたいと考えました。机と本棚は市販品ではなく、机に腰かけた時に本を見渡せる様に、壁面に本棚をあしらえました。三畳ほどの書斎ですが、精神的にも一番落ち着ける場を持ったのは望外の喜びでした。某著名人が言ってました。「書斎は狭い方が落ち着くし、手を伸ばせば、書物を取り出せる」と。「家などというものは、大きければそれでいいとは限らない。機能的であればいいのだ」にもつながりますね。誰しも一人になって、色々と思考する場所と時間は必要ですね。
(2)『第四章;祝典序曲』から、(社長)「誰にでも、何にでも躓きはある。そこからどう立ち上がるかが、器量を問われる所ですな」(旦那様)「春場所でまさかの四敗!あれだけ苦杯をなめさせられて、双葉山は終わったかと見せておいて、不死鳥のごとき今場所は全勝優勝。私は闘志に火をつけられました。・・不撓不屈のの精神ですよ」
●感想⇒「誰にでも、何にでも躓きはある。そこからどう立ち上がるかが、器量を問われる」。その通りです。振り返れば、私も色々な躓きを経験しました。最初は、高校進学です。普通の家庭のように昼間高校には進学出来ず、定時制夜間高校に進みました。定時制は夕方登校なので、昼間の生徒と校門付近で対面します。中学時代の同級生に出くわした時の悔しさは今でも忘れません。自分勝手なひがみだったと思います
。器量はともかく、同級生を見返したという思いで、昼間は仕事、夜は学校で勉強という生活でした。何としても、大学進学して見返したいとの一念で勉学に励み、希望校に入れました。幸運にも希望が叶ったのですが、躓きを糧にして、❝七転八起の精神❞で励めば、結果は如何せん何にも代えがたいものが得られます。
(3)『第六章;秘策もなく』から、(旦那様)「勝手にやられちゃ困るんだ。いいかね。一番頭の悪い女中は、くべてはいけないものを火にくべる女中。並みの女中は、くべておきなさいと言われたものを火にくべる女中。そして、優れた女中は、主人が心の弱さから火にくべかねているものを、何も言われなくても自分の判断で火にくべて、そして、叱られたら、わたくしが悪うございました、という女中なんだ」
●感想⇒この女中の評価を読んで、企業に入社した頃、上司に言われた事を思い出しました。2つです。1つは、秘書の話です。「上司が出張の為に新幹線の時刻を調べてほしいと頼みました。ダメな秘書は、依頼された新幹線の時刻だけを調べる。普通の秘書は、依頼された新幹線の時刻と空き状況を調べる。優れた秘書は、空きがない場合、他の移動手段(飛行機とか)まで調べる。相手の立場になって調べるという事だ」と。2つ目は、『職業的好奇心を持て』です。「仕事である事を調べたら、時間の許す限り、関係する周辺の事も調べるのだ」と。上司が言いたかったのは「出来る人間は、人に聞いたり、教えてもらう前に先ず自分で調べる」という事。私は、日中は仕事で余裕がないので、帰宅後や休日にまとめて調べ物をしたり、本を読んだりして、それなりに勉強しました。こうした得られた知識はその後の会社生活で役立ったのは言うまでもありません。人と同じ事をしていては、一歩前には進めません。努力が必要なのでしょう。
4.まとめ;「戦争に塗りつぶされた暗い時代」という昭和初期の東京における日常風景を小さいおうちに女中奉公したタキの視点で綴られてた戦中生活。戦争には、「殺戮、絶望・・という暗いイメージ」しかありません。私は戦後生まれですが、東京空襲を始め、悲惨な戦争の最中に、庶民の暮らしがこんなにも生き生きと描かれているのには驚きです。若いタキさんには小さなおうちで奥様を慕いながら、自分の部屋で暮らす幸せを噛み締めていたのでしょう。しかし、声を大にして言いたいのは、戦争は殺戮以外の何物でもありません。争い事は、話合いで解決するべきです。最後に、個別感想が心の琴線に触れた言葉への思いの羅列となり、全体感想との関連がやや希薄になりました。ご容赦を。(以上) -
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成人式、結婚、葬式、お盆。
日本の儀式をテーマに描かれる連作小説。
儀式そのものを舞台に展開される物語ではなく、主人公や作者の視点を少しずらして書かれていて、中島京子さんらしいユーモアも含まれていてとても面白かったです。
語り手は、成人式を取材に行った地方新聞の若手記者や、かつてお見合いおばさんだった六十代の女性、社命で老婦人の葬儀のお供をした青年、母の生家を手放すのを機に、田舎に集まって最後のお盆を迎える三姉妹。
今の時代、結婚式も葬式も簡素になってしまったけれど、ここに出てくるお見合いおばさんの存在が何とも微笑ましく、言うことが的を得ていて、中島さんの魅力が存分に感じられます。
そして登場人物のほんの少しのつながりがみられて、まるで長編小説を読んだかのような気分になれました。
親族や家族の集まる儀式って、いつの時代もどんな形であれいいものなのですね。
心が和みます。 -
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ネタバレスランプに陥った作家「わたし」は唐津に旅をする。
そこで陶芸家の夫婦と知り合い、不思議な茶碗と、朝鮮の娘と、水神にまつわる話を聞かせてもらうことになった。
サワタローさんの語る『水神夜話』は、家に伝わる長い話で、水神とは河童のことらしい。
ファンタジーなのか、ファンタジーを装った歴史小説なのか。それとも反戦小説なのか。
ここでの水神の祖先は天竺からモンゴルを経て中国へ、半島から泳いで日本に渡り、九州に住み着いた。
水神は、人間社会に絡みつつも、人間の生態を観察し、一歩距離を置く。
『水神夜話』では秀吉の朝鮮出兵を止めようとする水神について語られる。読みごたえがあった。
ある日、朝鮮の名陶工の娘・銀緋(ウンビ)の焼いた不思議な茶碗が、カタカタと震え出す。
聚楽第の茶室での会話を聞いた茶碗が、猿が朝鮮半島を侵略するという情報を伝えたのだ。
戦が始まる。
インドから中国を経て日本に渡る間、各地に住み着いた水神の仲間がたくさんいる。
戦が起これば、仲間がたくさん殺される。川が血で汚れ、水が飲めなくなる。
水神たちは何とかして、猿の朝鮮出兵と、その先の明への侵略を止めなくてはと思う。
しかし、戦はヒトが行うもの。水神が直接手を下して止めることはできないのである。
そこで、水神たちは彼らの特性を生かして情報を収集する。
茶人と親交を持った者、島津義久の元にいる明人の医師の周辺を探る者、小西行長について回る者・・・
その過程で、猿以外の誰も明との戦いを望んでいないという状況に気づいていく。
しかし、中小の大名たちはもちろん、島津や徳川のような力のある武将も、猿の戦は愚かで無謀と分かっているのに、楯突くことが出来ないでいる。
どうやら、ヒトをあてにはできないらしい。
水神たちは、猿の野望を打ち砕くことができるのか!?
水神の一人、対馬の仁田川(にたがわ)にすむニタと小西行長のやりとりが面白い。
ニタは小西のつく「嘘」に驚き、興味を持つ。シンプルに生きる水神には、人の嘘が理解し難いようだ。
どうしてそんな嘘をつくのだとニタが問うと、その度に小西は「嘘ではなく駆け引きだ」とか、方便だとか、建前だとか言い返すのがちょっと漫才のようである。
そして、二人の腐れ縁。
人間に興味を持ちすぎた河童はヒト化するというが、大丈夫か?
銀緋(ウンビ)の茶碗はどんなものなのかと想像する。
こんこんと水が湧いてきたり、不吉なことを知らせたり。
きっと美しいのだろうな。
半島や大陸に出兵するのはとても愚かなこと。
隣人は大切にしないといけない。 -
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ぼーっとしたい。
ということで、タイトル買い。
ぼーっとを目指し、あちこちへ。
紀行文としてもおもしろく、
さりげない描写、表現に
さすがだなぁ、と思うこともしばしば。
『ぼーっとする、ぼーっとすると書いてきたが、
本質は「よく生きる」ということだと思う。
理性を保ってよく生きるには、自分が
「ああ、これなら息がつける」と思える
ある程度のスペースと、ほどほどの人との
関わりが必要だ』
という一節。
あぁ、このぼーっとの時間が
作者の次の名作を紡ぎ出すエネルギーに
きっかけになるのだな、と思った。
紹介されたスポットを、ゆっくりと
訪れてみたい。 -
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初読み作家。
ちょっと不思議な大人のおとぎ話みたいな短編集。
文章がシンプルなのに人間味があって、
スッと入ってくる感じがして読みやすく、面白かった!
個人的に好きな話は
1話目の
テレビから外国で起きたニュースが聞こえてきて
そういや昔あの辺りの地域に行ったことあるなぁって思い出す回想シーンが始まり、
そこでたまたま出会ったお婆さんが結構プレイボーイならぬプレイガールで、5人の男と結婚して別れてを繰り返してた人で、
あのお婆さんに助けてもらったのに恩返しできなかったなぁ、、、って友達に話して現実世界に話が戻ってくるんやけど、
このお話の最後の終わり方が世にも奇妙な物語っぽくて良かった!
最後のハクビシンの話もよかった!
お婆さんの恋人は実在する人間だったのか、それともハクビシンが化けたものだったのか、その判断は読者に委ねますといった感じの終わり方だった。
ハクビシンの化け物が恋人やったとしたら、ハクビシンのフェロモンすごすぎる!笑
これもまたすこし奇妙な感じのお話でおもしろかった! -
Posted by ブクログ
ネタバレこれは好みが分かれる作品のようだ。
私は『かたづの』のような作品が好きなので、中島さんの妖なるものと歴史との絡みは面白いジャンルだと思っている。
今回は「水神」から見た、秀吉の朝鮮出兵の時代。
現代と、水神が記録した歴史を行き来して物語は進むが、水神から見た人間は、なんとも理解し難いほどの野蛮と支配欲を持った生き物だ。実際の歴史ではなく、水神から見た歴史というところが面白い。
水神は戦を止めることはできないが、できるだけ役に立ちそうなヒトに近いて、なんとか種族を守ろうとする。
歴史は事実なのだが、そこに水神が絡むことによって、より歴史の悲しさや虚しさが表れる。
本当にスランプなのかわからないけれど、中島京子さんの次回作にも期待!