認知症を患い、正常な記憶が失われていく父。日々発生する不測の事態のなかでも、ときには笑いが、ときにはあたたかな感動が訪れる。
「十年か。長いね。長いお別れ(ロング・グッドバイ)だね」
「なに?」
「ロング・グッドバイと呼ぶんだよ、その病気をね。少しずつ記憶を失くして、ゆっくりゆっくり遠ざかって行くから」
東家の大黒柱、父・昇平はかつて区立中学校長や公立図書館の館長をつとめ、十年ほど前から認知症を患っている。
長年連れ添った妻・曜子とふたり暮らし。
娘が三人、長女の茉莉は夫の転勤で米国西海岸暮らし。次女の奈菜は菓子メーカー勤務の夫と小さな子供を抱える主婦、三女の芙美は独身でフードコーディネーター。
ある言葉が予想もつかない別の言葉と入れ替わってしまう。
迷子になって遊園地へまぎれこむ。
入れ歯の頻繁な紛失と出現。
記憶の混濁により日々起こる不測の事態――しかし、そこには日常のユーモアが見出され、昇平自身の記憶がうしなわれても、自分たちに向けられる信頼と愛情を発見する家族がいつもそばにいる。
認知症の実父を介護した経験を踏まえて書かれた短編連作。
暗くなりがちなテーマをユーモラスに、あたたかなまなざしで描いた作品は、単行本発表時から大きな話題になり、中央公論文芸賞や日本医療小説大賞にも選ばれた。
映画化決定!
解説・川本三郎
Posted by ブクログ 2022年10月22日
読み終わって、まぁ予想はしていたんだけど昇平さんが亡くなってしまってものすごく悲しかった。
物語の中で認知症のお年寄りの世話をする大変さ。
老老介護の問題など、これから訪れるであろう自分自身の親のことなどと重なって他人事とは思えなかった。
でも昇平さんと曜子さんがとてもいい夫婦で昇平さんは曜子さんと...続きを読む
Posted by ブクログ 2022年07月13日
読んでよかった。
認知症の父と家族たち。
やりとりも、家族の事情も、それぞれの気持ちも、すごくリアルだった。
大切な人のことも、大切な思い出も、自分のことさえも忘れていってしまう認知症。切ないなぁ
少しずつ少しずつ周りの人のことを忘れて、まさに『長いお別れ』だなぁ、と。
どこの家族にも起こりう...続きを読む
Posted by ブクログ 2022年05月27日
素直に面白かったです。
でもとても考えさせられる本でもありました。
認知症のことを『Long Goodbye=長いお別れ』というのですね。
少しずついろんなことが分からなくなって、遠ざかっていく、という。
老夫婦に3人の娘。
2人は嫁ぎ、1人は独身。
娘たちはそれぞれが家庭を持ったり、仕事をもって...続きを読む
Posted by ブクログ 2021年11月21日
義父が認知症だったこともあり、身近なテーマとして読むことが出来た。
義父は、最期は夫のことを自分の子供だということもわからなくなっていた。
親が自分を誰だかわからなくなってしまうなんて、本当に切ないこと。
自分の親が認知症になるなんて想像したくないけれど、もしもの時に私はどう接することができるだろう...続きを読む
Posted by ブクログ 2021年03月03日
「長いお別れ」は自分の親や自分自身の将来にもあり得る話だなと考えながら読んでいたら、遠い自分の未来を見ているような気がして心に刺さるものがあった。人間人間は早ければ明日、遅くて何十年後かに突然の別れがやってくる。認知症は介護が大変でマイナスなイメージを抱きがちだったけど、東家のように時間をかけてお別...続きを読む