中島京子のレビュー一覧
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森見登美彦訳『竹取物語』
川上弘美訳『伊勢物語』
中島京子訳『堤中納言物語』
堀江敏幸訳『土左日記』
江國香織訳『更級日記』
こんな、宝石の詰め合わせがあって良いのか⁈
発刊を待ちわびていたし、読むのもドキドキ。
それぞれに訳者の持ち味があって、とにかくすごい。
きちんと全文収録されているのも、嬉しい。
中でも、川上弘美の『伊勢物語』は鳥肌モノ。
歌物語の真骨頂というか、とにかく、和歌の訳し方が素敵すぎる。
言葉の数を少なくしながらも、今の感覚を添えてくれて、色っぽいし切なくなりました。
お気に入りは二段。
起きもせず寝もせで夜を明かしては春のものとてながめ暮らしつ
起きるでもなく
ねむるでもなく
夜は明けてゆく
春の長雨がふっている
わたくしはただ見ている
そして三十段。
逢ふことは玉の緒ばかり思ほえてつらき心の長く見ゆらむ
逢うのは
一瞬
恨みは
永遠
更に月報の小川洋子が、この川上弘美訳を上手く伝えてくれているので必見。
そうそう!ですよね!ってなりました。
あとは堀江敏幸の『土左日記』も、すごく考えられていて、参考文献を見ても納得のラインナップで、仕事の仕方に尊敬を覚える。
江國香織の『更級日記』は、とにかく可愛い。そうして、姉や父の描写を通した家族としての作者がよく描かれていて楽しかった。
紀貫之ではないけれど、言葉について、とても考えさせられる一冊だった。
私たちは、その息吹に今尚こんなに鮮やかに触れられる。 -
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ネタバレ1989年の香港への「迷子ツアー」
旅客の中の目立たない誰かがひっそりと「迷子」になるという奇妙なツアー。他の客は、ぼんやりとした喪失感を覚えながら帰途につく。
何かを置いてきたような気がする…。だけど、それが何か分からない…。
時間が流れ、さらにその記憶は失われていく。
すっかり忘れていた香港での時間を、日記を通して思い出す男女。かつて迷子ツアーがあったことを、思いがけず知り、そのなぞを解き明かそうとする一人の少年。3人のそれぞれの、1989年のあの日に向けられた物語。
他の人の記憶と経験と、自分のそれの区別がつかない。
自分の輪郭になるはずの記憶と経験が、多くの人に共有されるものであったならば…。バブルまっただ中のこの頃に、集団の記憶を見ようとしているのだと思う。80年代の村上春樹が区別の付かない双子の姉妹を描いていたのを思い出した。ああいう感じが、ここでは、“記憶”として描きだされていると思う。
歴史へと物語を接続していく中島京子の小説に、最近ハマッてる。 -
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ネタバレ「1989年の香港ツアーで一人の青年が消えた」
そんな一文に惹かれて購入。
あまりにもど真ん中のストーリー展開に心臓を打ち抜かれてしまった。
あああ、何でこんなに惹き込まれるんだろう……!
どの章のどの登場人物にも奥行きがあって、妄想が止まらない!
そんなはずはないのに、まるで自分が伝え聞いたことのように思えて、すでに自分があやふやになっておる。
まだ余韻に浸っていてうまく書けないが、一応以下覚え書き。
始め、「迷子つきツアー」自体がミステリー要素を含んでいたから、「吉田超人」章にて迎えた解決に、ちょっと物足りなさを感じた。
けれど、すぐに吉田氏の話を反芻して、この小説にとって謎解きはさほど重要な要素ではない、と思った。
それよりも日常生活の中に浮かび上がる他者との希薄さ、アイデンティティの脆さ、だからこそ他者に勝手に己を作りこまれ、そしてそれに飲み込まれてしまうという一見ミステリーのような現実感を楽しむべきなのだ、と。
そういうものを香港という場所設定が、とても引き立てていたと思う。
九龍城とか、迷い込んでる感じにぴったりだ。
あんな、都市全体が生き物みたいな場所で、人いきれの中に突っ立っていたら、私だって自分が何だか分からなくなりそうだ、などと思ってしまう。
うーん、書きたいことはまだあるのに、上手く書けない。
ぶっとんだ設定だとも思ったけれど、技量があるから最後まで書ききれるんだろうなあ。
これ以上設定をがちがちにしてしまったら、矛盾なんかが増えるし、それを消化するためだけの説明なんかが増えてつまらなくなってしまうだろう。
中島さんはそういった取捨選択の駆け引きがとても上手いなあ、と思う。
また解説でも語られていたけれど、中島さんの発想は、思わず「ルーツにあたりたくなる」感じが楽しい。
「迷子つきツアー」は私の中でたぶんずっと”余韻”を伴って残るだろうなあ。
でも、テディ章のブログのところだけちょっと不可思議。
あれは、彼女の他にも全く同じような人間(自分)が存在している、ということでいいのだろうか。
そしてめちゃくちゃ余談だが、クレしんファンとしては、クレしんあたりでこんな話がありそうだし、また、観てみたいと思ってしまうほど本当に好きな設定だった。なんつて。 -
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花袋の『蒲団』では脇役として影を潜めていた主人公の妻視点で『蒲団』の打ち直しを行うアメリカ人日本文学研究者とその周辺の人々の物語。
誰が語るかによって世界がこんなにも変わってしまうというのがすごくおもしろい。
主人公のひとり語りで進む『蒲団』で存在していたたくさんの壁、例えば年齢、性別、価値観など、そういう隔たりに橋がかけられたような印象を受けた。
『蒲団』で主人公が抱いていた人生に対する圧倒的なさみしさを思い出す。
そのさみしさは『蒲団』を打ち直す研究者にもおじいさんにも絵描きにも共通していて、誰か何かがその空白を埋めてくれるんじゃないか、自分が誰かのさみしさに寄り添えるんじゃないか、どこかにきっとそれはあるはずなのにいるはずなのにと探し回るけれどそれはなかなか見つからず、見つかったと喜んだ途端それは幻に変わり、皆、途方にくれているようだった。
物語のそのあとに『蒲団』の夫婦が思いっきりぶつかりあえてたらいいなー。 -
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ネタバレタイトルの『長いお別れ』とは、認知症のことを「ロング・グッドバイ」と呼ぶことに由来する。少しずつ記憶を失っていく人とのお別れが、長い時間をかけて続いていく。それがこのタイトルの意味なのだろう。
主人公は、元中学校長で国語教師だった昇平。認知症になった彼を、妻の曜子が中心になって介護し、三人の姉妹が手助けしていく。発症のきっかけは同窓会で、会場の場所がわからず、何度も戻ってきて、結局たどり着けなかった。物語は、メリーゴーランドに乗れない幼い姉妹が、近くにいた老人(昇平)に付き添いを頼む場面から始まる。徘徊対策にGPS付きの携帯を持たせたりしながら、約10年の闘病が描かれる。最後は股関節を骨折して入院するが、認知症のため手術はできず、退院して自宅に戻る。老人ホームへの入居も決まっていたが、入る前に自宅で亡くなった。最期の延命治療は、本人の人柄を考えて「しない」という選択になった。
一番印象に残ったのは、昇平が「帰る」と言い続けることだ。自宅にいても「帰る」と言い、生まれ故郷の静岡・掛川に出かけたときでさえ「帰る」と言う。妻が「ここにもう20年近く住んでいて自分の家なのに」と呆れる場面もある。本人はいったいどこに帰ろうとしているのか。答えが出ないところに、認知症の奥深さを感じた。また、いろいろなことを忘れていく一方で、元国語教師らしく難しい漢字は読み書きできる。忘れているように見えても、頭の中では何かを考えているのだと思った。
自分の父親も認知症だったので、読んでいて重なるところが多く、身に迫るものがあった。 -
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中島京子さんの物語、やはりステキだなぁ。
大好きです。
主人公は50代の聖子(夫、独立したひとり息子)。
同年代なので聖子さんの心の中のつぶやきにクスリと笑えて共感ポイントが多かった。
息子さんは今までひとりも実家に彼女を連れてきたことがなく、聖子さんは「もしやゲイ?」と疑うも、夫の弟 小次郎くん(ゲイ)が否定するので違うのだろうと納得するw
聖子さんの初恋のひとの息子がアメリカからやってきて、このひとが不思議なヤツ。
お金を必要としない生活をしてるのですと言うかたせしも不思議。
息子は突然彼女を連れて帰省して、思い切り戸惑う聖子さんw
人生っていつ何が起こるかわからないもの。
それを楽しみながら生きていこうと思う1冊。