葉室麟のレビュー一覧

  • 銀漢の賦

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    山本周五郎の「土佐の国柱」という小説がものすごく心に残っているのです。名誉のために命をかけるのではなく、忠を成すためには自分がいかに不名誉なことになっても構わないという話。この本もそういう話かなと思って読んでいました。少し違いましたが、この男になら託すことができる、自分の命や大切なものを捨ててもいいという思い。そして、それを相手に知ってもらう必要すらないという。後で気づいたのですが、松本清張小説受賞作。納得の名作でしたが、最後の方は少しポップな感じになって、エンディングもクスッと明るい気持ちになりました。

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    2022年06月04日
  • 玄鳥さりて(新潮文庫)

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    葉室麟の遺作とのこと。流石に安定の作品。この作者は終わり方が基本的にハッピーエンドなのが良い。時代小説ではこういう爽やかな終わり方は多くないと思う。そこがとても良い。いわゆる愛の話だが、とても自然な展開で、しかも武士の話であることもキチンと確保されている。佳作だと思うが、水準はかなり高い。

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    2022年06月03日
  • 春雷

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    「蛍草」のようなハッピーエンドものもないではないと思うが、葉室麟の時代小説は切ない。
    羽根藩新参の多門隼人は、御勝手方総元締として苛烈な改革を行っている。農民からは鬼隼人として恐れられ嫌われ、藩の同僚、上役からも足を引っ張られても、藩財政を立て直し藩主を名君と成すために突き進んでいる。そんな中、藩として過去に失敗し断念している黒菱沼干拓の命が下る。
    隼人を助け支え、開拓に協力する人物が現れる一方、藩内では隼人追い落としのため百姓一揆まで策謀される。そして佳境へ。隼人の真の思いは、運命は、、、
    欅屋敷の謎の女性や隼人のもの周りの世話をする出入りの商人の女房おりうも隼人を案じ慕う。この二人の女性の

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    2022年05月30日
  • 古都再見(新潮文庫)

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    「あるべきようは」あるがままにあらしめよ
    高い物語性を有する能楽
    「キリスト教を社会の軸とする欧米で発達した近代文学には、宗教的な原罪意識が精神の底にある」

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    2022年05月21日
  • 月神

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    「月形家の者は夜明けとともに昇る陽を扇動する月神でなければならん」と唱える月形洗蔵を主人公とする「月の章」と、従兄弟の潔を主人公とする「神の章」からなる歴史小説。
    司馬遼太郎著『竜馬がゆく』により、薩長同盟は竜馬の手柄と広く流布されている。確かに、最終場面での引き合わせは竜馬によるが、この策は彼以前にも幾多もの人物が画策していた。
    歴史の闇に埋もれた様々な史実を小説に仕立てる著者は、本書では洗蔵ら筑前尊攘派が身を挺して長州斡旋を行ったと記す。
    その筑前尊攘派は薩長和解を成し遂げながら歴史の表舞台に出ることなく、賢君ではあるが志を異にする藩主により壊滅させられる。
    歴史にifは禁物だが、この福岡

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    2022年05月18日
  • はだれ雪 下

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    面白かった
    忠臣蔵サイドストーリ?
    もののふの矜持とそれを支える女子の恋愛小説+生き様の物語

    下巻です。

    勘解由と苦難を共にする覚悟を決めた紗英。二人は祝言を上げることに。
    そして、吉良の討ち入りを準備する大石内蔵助
    結果、勘解由の立場が追い詰められることになります。
    浅野の最後の言葉も明らかになり、いよいよ討ち入りです。
    吉良を討ち、散っていった赤穂四十七士に対して、生きる道を選んだ勘解由は江戸に向かいます。
    しかし、国を超えることができるのか?迫る追手。
    勘解由はどうなる?
    っと、後半はアクションものです。

    生きるということ。そして、生きるための戦い
    そのうちに秘める守るべきもの

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    2022年05月07日
  • はだれ雪 上

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    面白かった
    忠臣蔵サイドストーリ?
    もののふの矜持とそれを支える女子の恋愛小説+生き様の物語

    上巻では
    江戸城内で、浅野内匠頭が吉良上野介を斬りつける刃傷事件が発生し、浅野内匠頭は即日切腹に。
    永井勘解由は浅野の切腹の直前、最後の言葉を聞きます。
    しかし、その行いが将軍綱吉の怒りに触れ、勘解由は扇野藩に流されます。
    その勘解由を接待役兼監視役を命じられた後家の紗英。
    次第に心を交わしていく紗英。
    そして、勘解由のもとに訪れる大石内蔵助や旧赤穂藩士。

    しかし、この関係は非常に危険
    旧赤穂藩士が吉良を討った場合、それに勘解由が協力したとみなされ、監視役の扇野藩は処罰される可能性。
    なので、刺客

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    2022年05月07日
  • 散り椿

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    椿の花が落ちる時は花丸ごと落ちてしまうので武家には嫌われていたが、本編での椿は一片づつ落ちでゆく。
    作中の人物も段々と亡くなっていく、本編の椿になぞられる様だ。
    哀しい結末ながら、若い二人の新しい芽生えが救いか…。

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    2022年05月05日
  • 散り椿

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    良い物語だった。
    新兵衛と采女の篠を介した関係や彼らの矜持だけでなく、中途半端な風見鶏だった藤吾の成長や、里見の優しさなど、人と人が関わることで互いに影響し合う機微の描き方は派手ではないものの静かな余韻を残します。

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    2022年04月26日
  • 辛夷の花

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    こんなひどい家臣がいるのかと思いましたが、最後は人の絆、意地をみせ、この世の中も、捨てたものじゃないなという本でした。

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    2022年04月19日
  • 青嵐の坂

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    文庫本の帯には「武家は利では動かぬ。義で動くものだ。」と書かれてある。
    矢吹主馬と檜慶之助を軸に物語は進んでいくが、結末は哀しい。
    主馬は重荷を背負って藩を救う事が出来るのだろうか、那美には強くなって欲しい。

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    2022年04月17日
  • 乾山晩愁

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    江戸の絵師ー尾形乾山、狩野永徳、長谷川等伯、狩野雪信、英一蝶ーをそれぞれ主人公とした短編5篇。
    著者には、『いのちなりけり』3部作や『はだれ雪』など忠臣蔵異聞ともいえる作品があるが、本書でも赤穂浪士討入りの裏話が綴られる。
    表題作の「乾山晚愁」では、赤穂浪士討入りの装束も尾形光琳好みで、光琳の匂いがすると語られる。光琳絡みで討入りの資金が出ているとの解釈も。
    「一蝶幻景」では、赤穂浪士は大奥の争いの代理だったと。背景にあるのは、大奥を舞台としての幕府と禁裏の争いが。
    絵師たちの生き様とともに忠臣蔵異聞も描かれる、小説家の想像力の豊穣を味わえる短編集で、忠臣蔵ファンにも見逃せない一冊。

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    2022年04月14日
  • 陽炎の門

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    親友の罪を証言し、その親友の切腹に立ち会い首を落とした主人公の桐谷主水。その事もあり、「氷柱の主水」と呼ばれて下士から執政に昇り詰める。親友の娘を娶るが、その弟が真犯人が居るとして主水を父の仇と藩に敵討ちを求める。元々、周囲は主水に批判的で失脚した方が良いという雰囲気。監視が付き、これが非常に嫌な奴。ここまで読むと非常に重く陰鬱で、読む気が失せてくる。
    真犯人探しが始まると急転してゆく。ミステリの要素が増えてくる。元対立派閥のトップに面談したことにより、原因と犯人が分かる。他の執政達は知っていて隠蔽していた。敢然と闘おうとする主水。
    秘策を以って敵討ちに臨む。最後は意外な人物が手助けする。ただ

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    2022年04月11日
  • 辛夷の花

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    自作品に和歌を効果的に取り入れる著者は、この小説でもその手法を用い主人公たちの心情を表出する。
    子供が出来ず離縁され実家に戻った志桜里が主人公。
    隣家に越してきた半五郎と、辛夷の花を介し、互いの心が通うようになる。
      時しあればこぶしの花もひらきけり
       君がにぎれる手のかかれかし
    志桜里に婚家への出戻りの話が起き、半五郎との間で思いが揺れ動く。現代では陳腐ともいえる彼女の躊躇は、その家を守るという嫁の役割を第一とする、今とは違う結婚観ゆえだろう。
    自分の気持ちを二の次で、嫁としてなすべきことを重視する彼女に、婚家の姑鈴代が教え諭す。
    「わたしは生きていくうえでの苦難は、ともに生きていくひ

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    2022年03月30日
  • オランダ宿の娘

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    長崎出島から江戸へ来るオランダ人のための宿屋の娘が主人公。怪しげな猿を連れた武士、貴重だが出どころ不明の万能薬などいかにも何か起こりそう。そしてかの有名なシーボルト事件に巻き込まれてゆく。事件についてははっきりわからない部分も多いが、多くの人が影響を受けた事は間違いないだろう。大切な人を守りたい気持ちが強く表れている。

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    2022年03月29日
  • 草笛物語

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    羽根藩シリーズ残念ながら最終作。
    「過ちて改むるに憚ることなかれ」と言う若き藩主の言葉、平凡ながら頷く。

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    2022年03月28日
  • 銀漢の賦

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    解説に「文体が比類なきまでに清冽」とあったが、葉室麟の書く物語そのものが清冽だと思う。有名な「蜩の記」はさらに凄烈で救いがない感じがして、葉室麟を敬遠してかたが、他の方の書評に触発されて本書を手に取った。
    月ヶ瀬藩という小藩に生まれた3人の幼少期の友情が環境や立場の変化と共に移ろいその残渣だけが残っているかにみえたが、再び心が通じ合っていく。
    清冽なれど温かさが残る名作だった。銀漢という言葉と漢詩に込められたそれぞれの思いがやるせない。

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    2022年02月28日
  • 春雷

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    葉室麟さんの著作を読むたびに背筋が伸びる気がします。
    羽根藩シリーズ三作目、主人公は亡くなってしまうけれど、生きた軌跡はずっと引き継がれる。

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    2022年02月26日
  • 潮騒はるか

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    前作『風かおる』は、長崎で蘭学を学んでいる亮のもとへ、妻の菜摘とともに弟の誠之助と彼を慕う千沙が旅立つところで終わったが、その続編。長崎での彼らの活躍が描かれる。
    実在の人物、シーボルトの娘いねや松本良順との交流もあり、勝海舟も登場。
    さらに、千沙の姉佐奈の問題がクローズアップされる。
    尊皇攘夷の波に翻弄されたり、故郷黒田藩も絡んでくるが、そんな中でも己の立場を全うする亮の言葉が、心強い。
    「真実と向かい合わずしてひとは生きていくことができない。そして、真実はひとに生きていく力と希望を与えるものだとわたしは信じている」

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    2022年02月18日
  • 散り椿

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    ネタバレ

    (わしは新兵衛のこと羨んでいるのでだろうか)
    きっとそうなんだろう。戻ってきた新兵衛には、貧しい生活を送ろうとも心のうちに豊かさを抱き続けた者の確かさが感じられる。
    それに比べて自分はどういきてきたか。
    切れ者と人に畏れられるようになりはしたが、親しく言葉をかけてくれる者はいない。ただ遠くから畏敬の視線を送ってくるだけだ。

    皆それぞれに生きてきた澱を身にまとい、複雑なものを抱えた中年の男になってしまった。もはやむかしのように素直に心中を明かすことなどできないはしないだろう。

    篠とはついに再び会うことができなかった。新兵衛とともにどのような思いで生きてきたのか篠から直に聞きたかった。
    それも

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    2022年02月12日