葉室麟のレビュー一覧

  • 紫匂う

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    葉室麟の時代物はとても良い。素直に登場人物に感情移入できて、物語を堪能できる。女性が主人公なのでどうかと思ったが、全くの杞憂だった。面白い本、心が洗われるような読書をしたい時は葉室麟に限る(ちょっと前なら藤沢周平)。オススメ。

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    2023年05月27日
  • 冬姫

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    信長の娘、冬の生き様。
    蒲生氏に嫁いだ冬という女性がいたことも知らなかったけれど、歴史上の有名武将もいっぱい登場するので流れは分かりやすかった。
    始めは呪いなどの話題も多く面白く読んでいたけれど、段々と人間関係のしがらみに苦しみながら「女いくさ」を戦い抜く強い女性に圧倒された。
    侍女のもずの苦悩と献身も見所だった。

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    2023年05月13日
  • 乾山晩愁

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    戦国から江戸元禄期に渡り後世に名を残した尾形乾山、狩野永徳、長谷川等伯、清原雪信、英一蝶といった絵師、陶工達を描いた5篇の短編集。主人公はそれぞれ異なり、独立した作品集ではあるが、時の権力者に深く関わる狩野派が絡んでおり連作短編集的な楽しみもある。
    天才的な絵師の創作活動を語るというよりも、創作する上での絵師が、人としていきる様々な欲望や希望、そして到達する達観を見事に描いている。

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    2023年05月13日
  • 玄鳥さりて(新潮文庫)

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     武士社会のお話はあまり好んで読まないのだけど、読み始めたらすぐに引き込まれていった。血生臭い場面も多いのになぜか美しい。人の命をなんとも思っていない藩主や奉行たちが不気味だ。圭吾もそうなりつつあったのに、友と妻が救い出していく。
     美津は世間知らずのお嬢様な雰囲気だったが、良い奥方になっていき、六郎兵衛のことも理解していき良かった。
     あれほど多くの人を切ってしまった六郎兵衛には惨めな死に方しか用意されないのだろうかと諦めの気持ちで読んだが、どうやらその場面は見なくて済んだ。病で長くはないかもしれないが、どうか静かに過ごせていたらと願う。

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    2023年05月09日
  • 大獄 西郷青嵐賦

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    奄美時代までの西郷さんの伝記。葉室さんの本は初めて。
    一橋派と尊攘派の連携の様子など、分かりづらい部分も説得的に書かれている。西郷さんの海外観、運動の進め方などで、大久保と徐々に意識がずれていくのが、その後の展開を思わせる。
    総じてフラットな書きぶりで、西田さんや鹿賀さんの顔しか出てこない自分には読みやすい本だった。

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    2023年05月06日
  • 河のほとりで

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    『柚は九年で』に続く、急逝直前まで新聞や雑誌に記された随筆集第2弾。
    「書物の樹海へ」は、他の作家の時代小説の文庫に、著者が書いた解説を集めたもの。
    早乙女貢著「奇兵隊の叛乱」、山本兼一著「おれは清麿」、青山文平著「伊賀の残光」安部龍太郎著「レオン氏郷」などなど。
    どれも未読であり、是非にと読んでみたい気持ちを起こさせてくれる。
    「日々雑感」の「健康への出発」で、健康に自分で責任を持ち自分の年齢をもっと自覚しようと、記していた著者が、その半年後に急逝したとは・・・。

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    2023年05月04日
  • あおなり道場始末

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    しばらく読み進めて、葉室麟にしてはキリッとしないなと思いながら、作品に入り込めずにいたが、中盤以降はサスペンスもどきの目まぐるしい展開で、気がつけば読み終えていた。
    「あおなり」を弱々しいイメージで当たり前に受け入れていたが、青瓢箪とうらなりの造語であった。
    道場主であった父の死に不信を抱く三兄弟(兄、妹、弟)が、同業の道場破りをしながら、真相に迫っていく。何やかんや揉めながらも兄弟の絆がさらに深まっていく。ほんわかした読後感。

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    2023年04月30日
  • あおなり道場始末

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    葉室さんの時代小説は、心の琴線に触れるものばかりを読んできたので、少しのユーモアがとってもコミカルに感じてしまう。主人公のキャラが立っていて楽しく読ませていただいた。個人的に新しい葉室さんて出会えて笑みがこぼれちゃった。こんな時代小説も好きだな〜・・・。(o^^o)

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    2023年04月29日
  • 潮鳴り

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    著者は、出版社によって作品を書き分けているそうで、舞台とする藩についても、角川版には架空の扇野藩を、この祥伝社では、やはり架空の羽根藩を用いている。
    羽根藩シリーズと銘打たれるが、羽根藩が舞台というだけで、一部を除きそれぞれの作品に関連性はなく、登場人物にもつながりはない。
    第一弾の直木賞受賞作『蜩ノ記』は、死を意識した所から始まる「生の美学」であるのに対し、第二弾の本書は、「落ちた花は再び咲かすことはできるのか」をテーマにした再生の物語となっている。
    役目を失敗して、お役御免となった伊吹櫂蔵が主人公。
    彼が弟の切腹をきっかけに、それまでの無頼な暮らしを改め、弟の無念を晴らすべく、真相究明に立

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    2023年04月23日
  • 暁天の星

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    不平等条約の改正に挑んだ陸奥宗光を描いた未完の遺作。
    紆余曲折を経て、外務大臣に就任し、講和条約に入るというまさにクライマックス的なところで未完となり、その先が読めないのは本当に残念の極み。
    併録の『乙女がゆく』は、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』へのオマージュだろうか。
    姉の乙女が竜馬を訪ね、男装で京都の寺田屋まで行き、竜馬の危機を救い、さらに竜馬のフリをして桂や西郷に面会するという、なんとも愉快な短編。
    著者の長女涼子氏のエッセイも収録されており、葉室ファンには見逃せない一冊。

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    2023年04月12日
  • 読書の森で寝転んで

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    ネタバレ

    中年以降に小説を書く仕事についた人間には、時間に対する特別な思いがある。作品を書くため、自分に許されている時間は一体どのくらい残されているのだろう、と考えてしまうからだ
    自分が生きていく意味と言うのは、自分たちの親や、その親、さらに何代も前の先祖たちが生きてきた歴史の中にあるはずだ。そこにどうたどり着いていくのかと言うことを、考えなければいけない

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    2023年04月09日
  • 蝶のゆくへ

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    若松賤子の小説を読んだ後、ここにも描かれていると知って読み始めた、初めての葉室麟さん。
    どうやら、これまでの作風とは異なっているらしいけれど、私はすっかり魅了された。
    若松賤子は「我にたためる翼あり」に登場していた。当時の女流作家が何人か出てくるけれど、一番鮮やかに浮かび上がるのは、樋口一葉。ここまで樋口一葉を描いた小説を知らないが、これぞと思わせるリアリティがあった。作者の明治文学への深い洞察が描かせたものに違いない。この時代の明治のインテリたちの動向がよくわかる。
    それぞれの短編には島崎藤村、北村透谷、有島武郎など、明治の文学者が現れるが、いわゆるスキャンダルを扱っていて、男たちには魅力を

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    2023年04月07日
  • 散り椿

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    ネタバレ

    中江有里解説 散り椿の意味するもの
    目には見えない、手の届かない世界は確かにあるのだと思うだけで、生きる力が湧いてくる。散り椿はそんな小説だ
    本書の登場人物は、誠実であろうとするゆえに生きづらさを抱え込む人が多い。誠実でありたい、と思っても世の中を渡るには、その誠実さが邪魔になることもある

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    2023年03月19日
  • 蝶のゆくへ

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    ネタバレ

    主人公りょうの人生がまさか中村屋へ、その看板メニューインドカレーへと繋がっているとは思いもよらなかった
    錚々たる小説家芸術家の名前が出てくるのでりょうもその世界で大成するのかと思った。意外だったけれど最後まで自分を自分として愛した気持ちのいい女性だった
    相馬黒光さん

    それにしても途中から葉室麟さんの作品を読んでいるということを忘れていた

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    2023年03月13日
  • 嵯峨野花譜

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    活花の名手と評される大覚寺の少年僧胤舜が、華道の修業を通じて成長していく時代小説。
    10篇からなり、それぞれに様々な花が生けられる。
    白椿、蝋梅、山桜、山梔、萩、朝顔、酔芙蓉等々。
    しかし、請われて活花を行ったがその人の命を救えず、師の広甫に「生きることに、たんと苦しめ。苦しんだことが心の滋養となって、心の花が咲く。自らの心に花を咲かせずして、ひとの心を打つ花は活けられぬ」と、未熟さを諭され、さらに精進する。
    静かに活花の話が続くと思いきや、彼が老中水野忠邦の隠し子であることから、一転不穏な動きが蠢き始める。
    史実とフィクションが融合されたこの小説は、著者が京都に居を移したその時期に書かれたと

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    2023年02月09日
  • あおなり道場始末

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    解説によれば、葉室氏は出版社にとって小説の内容や傾向を書き分けているとのこと。
    確かに「新潮」「角川」では、歴史上の人物を主に彼らの清涼な生き方を格調高く描いているし、「文藝春秋」「講談社」「徳間」では、歴史とフィクションを巧みに織り交ぜて、和歌や漢詩を取り入れ豊穣な作品となっている。
    一方、この双葉社(文庫)は、『川あかり』しかり、『蛍草』しかり、架空の人物を主人公に娯楽性の高い愉快な作品となっている。
    本書もその例にもれず、架空の藩の剣術道場の三兄弟の絆を謳い心温まる時代小説となっている。
    両親を喪ったこの三兄弟、昼行灯のような性格で頼りない兄権平に対し、妹千草は剣術の腕前は兄に勝る美貌の

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    2023年02月01日
  • 読書の森で寝転んで

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    2017年に逝去した著者の、最後のエッセイ集。
    第1章は、新聞に連載した書評集。司馬遼太郎の『韃靼疾風録』から小林秀雄の『本居宣長』まで、29篇。
    第2章は、「歴史随想ほか」で、新聞や雑誌に掲載されたエッセイでなっている。この中で、著者が最近に出版不況について、「近頃、本が売れないのは、人生に挑む気概が欠けているからではないかと思う」と論じる。そして「人生という戦場に出て行くからには、読書という武装が欠かせないと信じていたが、いまは違うのだろうか」と、懸念を示している。同感するブログ子も多いことだろう。
    第3章は、小説講座の講師としての対談からなる講義録。ここで、葉室氏は「残り時間を考えるので

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    2023年01月08日
  • 散り椿

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    とても美しい物語だった。
    最初亡き妻の真意が分からず好きじゃなかったんだけれど、読み進めていくと段々と様々な事の裏側が見えてくる。
    彼女の、そして彼らの一途な愛が痛いほど伝わってくる。
    過去の事件の真相が徐々に分かってくるにつれて、彼らへの心情が二転三転していく。
    誰が敵かと疑心暗鬼になったり、卑劣な手段に出る相手方にハラハラの展開もあって、始終面白く読めた。

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    2022年12月29日
  • 緋の天空

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    春の奈良旅以来続く、光明子ブームの一環。
    長屋王の長男・膳夫(かしわで)との、ほのかな想いがポイントとなっている。
    二人に加え、聖武天皇、あの道鏡まで同年だった・・・
    それを知ったときの作者の小躍りする姿が見えるよう。

    一番、読んでいて印象深かったのは、
    彼らの少年時代の冒険の一コマ・
    たぶん、作者は、ここから物語の発想が膨らませたのではないかと
    勝手に思っているほど、心惹かれている。
    大河ドラマ「女城主直虎」で主人公らが井戸を囲んだ幼い日々と重ねてしまった。
    どちらもとても好きな場面。
    後に道を違えることになったとしても、幼い日、共に過ごした記憶は
    きっと心に残っているはずだから。

    小説

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    2022年12月31日
  • 実朝の首

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    建保七年(1219年)正月二十七日
    源実朝の右大臣拝賀の儀
    雪の降り積もる鶴岡八幡宮の石段と傍らの大銀杏

    実朝暗殺の場面から物語は始まる
    甥の公暁によって殺された実朝の首を巡る騒動


    公暁から首を預かった弥源太。
    (弥源太は公暁の乳母子で美少年♪)
    弥源太は三浦館へ向かうはずだったが、そのまま持ち逃げする。
    そこから三浦義村の家臣、武常晴と出会い、連れて行かれた先には和田合戦の生き残りたち和田党がいた。

    この作品、成り行きで和田党の一員となった弥源太の成長物語…
    という側面もあるのかな。
    もちろん見どころは朝廷と鎌倉幕府、そして和田党の腹の探り合いですが。

    自分的に面白くて印象的なのは

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    2022年12月22日