葉室麟のレビュー一覧
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豊前 小竹藩、勘定奉行・澤井庄兵衛の長女・志桜里は、近習・船曳栄之進に嫁したが、三年経っても子ができないとの理由で離縁され、実家に戻っていた。
そんな折、隣屋敷に、小暮半五郎という藩士が、越してきた。
彼は「抜かずの半五郎」と仇名されていた。
太刀の鍔と栗形を浅黄色の紐で固く結んでいるからだ。
ある朝、志桜里は、庭に出て辛夷の蕾を見ていると、半五郎が声をかけてきた。
第一印象は、最悪だったが、次第に、半五郎の事が気になり始めた。
藩主以上に力を持つ、重臣三家の使徒不明金を明らかにするため、庄兵衛は、勘定奉行に据えられた。
庄兵衛一家の危機に、大切な人を守るため、半五郎は、抜かずの太刀を抜 -
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時代小説の衣を纏った恋愛小説。というより、時代小説でしか表現し得ない恋愛小説といえよう。現代小説でこのような関係を描いたら、全く陳腐な現実感のない話になってしまうだろう。
九州の架空の五代藩が舞台。
主人公は。此君堂で和歌を教える栞。彼女が心を寄せるのが、一度は藩主忠継のお声掛かりで重職の娘を妻に迎え、その後死別した楠瀬讓。
さらに、彼に想いを寄せる五十鈴がおり、現代小説ならドロドロの三角関係になりかねない。しかし、曲折を経て、栞と讓は夫婦となり、五十鈴は藩主の寵愛を得て正妻に。
自由奔放に「変節御免」と、自らの意志を貫き、後には危機にある栞と讓を助ける五十鈴の生き方が爽やか。
登場人物の中で -
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著者には、『散り椿』『はだれ雪』『青嵐の坂』等、扇野藩を舞台とした小説が何作かあり(それぞれに直接的な関連性はないが)、この小説もその一遍。
藩重臣の有川家の長女伊也が主人公。
弓を介し、藩随一の弓の名手樋口清四郎に思いを寄せるが、彼は妹の初音の婚約者となる。有川家に寄寓する謎の武士も介在し、恋愛小説の様相もある。
しかし、著者は扇野藩の派閥抗争も絡め、武の心の有り様を問う時代小説となっている。
「武の心とは、ひとを想い、相手のために危うい目にあおうとも悔いぬ心持ちをいう」と。
題名に絡めた和歌「石ばしる垂水の上のさわらびの萌えいづる春になりにけるかも」が、要所で謳いあげられる。和歌に合った小 -
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小倉藩で享和から文化年間にかけて実際に起こった「白黒騒動」を題材にした時代小説。
であるとともに、感動の恋愛小説ともいえる。
かつて、彼女の危機を救った時、「わたしが吉乃様をお守りいたしますから、このことは生涯かけて変わりませんぞ」と、印南新六は誓う。
吉乃は、いまでは他人の妻となっているが、その言葉通り、新六は命をかけて彼女を守り通す。その行動について彼は「ひととしての思いでござる」と言い切る。
現代小説なら噴飯物に思えるこれらの言動も、時代小説の世界を借りると、登場人物の凜とした佇まいに清冽さが胸に迫る。
新六の最期の場面を小説の冒頭に据えた手法は?
彼の一貫性を強調する意味合いであろうか -
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面白かった
時代小説ながらもミステリー
この中に犯人がいる!のようなクライマックスがまさにベタなミステリ展開ですが、それに加えて、チャンバラあり、夫婦の想いありと極上なエンターテイメントとなっています。
ストーリとしては、
政争に敗れた柏木靫負(ゆきえ)は、高名な茶人となり、16年ぶりに国に戻ってきます。
その理由は、妻の藤尾の死の真相を知るため。
山裾の庵で「山月庵」として茶室を設え、客を招きます。そこで、当時の関係者から、様々な話を聞き、死の真相、さらには、当時起きていたことを明らかにしていきます。
当時、藤尾に不義密通の噂の真相は?
それを問い詰めたときに、何も釈明しなかった理由は?
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面白かった
時代小説ながらもミステリー
最後に明かされる真実と本当の想いに切なさがこみ上げます。
ストーリとしては、
上意討ちにあった筆頭の佐野了禅。男たちはそこで果てるも、女たちは白鷺屋敷に逃れ、暮らすことに。
そこには了禅の妻のきぬを筆頭に、長男の妻の芳江と娘の結、次男の妻の初、女中の春、その、ゆりの7人が暮らしています。
そこに目付方の密命をもって送り込まれた女医師の伊都子。
そんな中、この屋敷で、相次ぐ不審な死。
誰が犯人なのか?
疑われるある人物。しかし、その女は本当に犯人なのか?
といった展開です。
この時代の中の女としての生き様が心打ちます。
そして、明らかになる真相
そこ -
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凶作が続き破綻寸前となっている藩の藩政改革を巡る時代小説。架空の扇野藩を舞台にしたシリーズ4冊目。
藩の立て直しを命じられた中老檜弥八郎は、あらぬ疑いを賭けられて切腹してしまう。
その娘那美は、親戚の矢吹主馬のもとへ。主馬は、弥八郎から託された使命を果たそうとする。
彼の前に、自分こそが父の存念を果たすのだと、弥八郎の息子慶之助が立ちはだかる。
弥八郎が死の直前に思い浮かべた後継者「あの者」とは誰なのか、という謎とともに、藩政改革はどうなるのか、さらに御用商人も加わり、予断を許さぬ展開となる。
本書でも、著者の理想を託した「武家は利では動かぬ。義で動くものだ」という主人公の活躍に、時代小説の醍