あらすじ
伍代藩士の楠瀬譲と栞は互いに引かれ合う仲だが、譲は藩主の密命を帯びて京の政情を探ることとなる。やがて栞の前には譲に思いを寄せる気丈な女性・五十鈴が現れて……。激動の幕末維新を背景に、懸命に生きる男女の清冽な想いを描く傑作長編時代小説。
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時代小説の衣を纏った恋愛小説。というより、時代小説でしか表現し得ない恋愛小説といえよう。現代小説でこのような関係を描いたら、全く陳腐な現実感のない話になってしまうだろう。
九州の架空の五代藩が舞台。
主人公は。此君堂で和歌を教える栞。彼女が心を寄せるのが、一度は藩主忠継のお声掛かりで重職の娘を妻に迎え、その後死別した楠瀬讓。
さらに、彼に想いを寄せる五十鈴がおり、現代小説ならドロドロの三角関係になりかねない。しかし、曲折を経て、栞と讓は夫婦となり、五十鈴は藩主の寵愛を得て正妻に。
自由奔放に「変節御免」と、自らの意志を貫き、後には危機にある栞と讓を助ける五十鈴の生き方が爽やか。
登場人物の中では、一番に魅力があるのではないか。
著者の小説は、読者がこうあってほしいとの思いが最後必ず叶うという姿勢があり、読後の充足感に満たされ、さらに著者の作品を読みたくさせる。
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この君なくば一日もあらじ
「この君なくば」は幕末の動乱に咲いた大輪の花のような強い愛を描いた作品である。舞台は九州、日向の伍代藩、主人公は私塾「此君堂」を開いた民間の学者、檜垣鉄斎の娘、栞。和歌をよく詠み、父亡き後の此君堂を1人で守っている。
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幕末の攘夷と開国、倒幕と佐幕の時世。武士の世の終焉の中、名立たる大名藩と地方小藩の男性陣と、"待つ"女人たちの戦。対局・対人模様を動と静にて対比しながら、凛とした一筋の純愛ストーリーを貫く。個人的には、五十鈴の潔さと先見の煌めきに心惹かれる♪。
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幕末ラブストーリー、2人の恋路に水差す奴は殿の正室、攘夷論者に、大久保一蔵。…とか書くと出来の悪い量産時代小説を彷彿とさせるが。
さすがの葉室麟、こんなテーマで爽やか読ませる恋愛小説に仕立てあげるんだからなぁ。
歴史上の事件とか色々出てくるけど、上記のとおり、この本は恋愛小説。その辺のことは刺身のツマみたいなもんである。キャラクターはしっかり恋愛モンの典型を抑えてあるし、物語はしっかり恋愛モンの王道を進む。安心して二人の恋路をハラハラ見守ればよいという素晴らしさ。
五十鈴の「変節御免」にびっくり。そしてムッサ魅力的、惚れるぅ
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どんなことがあろうとひとりの男を想う姿、武士の妻としての姿、これから新しい時代を生きていこうとする姿、立場が変われどそこで十二分に存在意義を発揮する姿、どれも女の強さ、美しさが描かれていた。それは主人公栞だけではなく五十鈴の存在感も際立たせた
事実に基づいて描かれているだけに重みはあったが冷めた時間も多かった。かなりの部分を淡々と読み続けた
あくまでも私の感想です(歴史苦手)
Posted by ブクログ
時代恋愛小説
激動の幕末の時代を下地にした恋愛小説です。
「この君なくば」は「この君なくば一日もあらじ」の想い。
ストーリとしては、
勤皇佐幕で揺れ動く九州・日向の伍代藩で軽格の家に生まれた楠瀬譲。その恩師の娘・栞と惹かれ合います。藩主の密命で京の政情を探るべく京に赴任しますが、そんな中、譲に思いを寄せる気丈な娘・五十鈴が栞のもとへ。
この三角関係がどうなる?っていうのが一般的な恋愛小説の鉄板ですが、時代小説では、その清冽な思いがすがすがしい。
栞や五十鈴の想い、そして譲の志が幕末の勤皇佐幕で大混乱の中、浮かび上がります。
清廉で凛とした純愛の物語です。
特に、五十鈴の想い・振る舞いが全く嫌みがなく清々しい。そんな五十鈴に支えられながら、明治維新の時代を生き抜く栞と譲の互いに信じあう気持ちが胸をうちます。
爽やかな読後感。
お薦め!