葉室麟のレビュー一覧
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「第二黒田騒動」とも呼ばれる筑前福岡藩の実際のお家騒動に絡めた物語。
まず思ったことは、この方の描く話の登場人物はみな「覚悟」を知っているな、ということです。
「腹を括る」ではなくて「覚悟」。
貫く為に、例え理不尽に謗られ妬まれ疎まれようとも、動じない静寂の力強さ。それは己が定め決めた事の顛末に対して不服を持たない力強さでもある。
主人公の卯乃が失明したときに預けられた家の姑りくは、香を聞くことを教えて、「ひとは匂いです」という。この表現には、権利主義や唯物主義になりがちな世に対して、表層のその奥に大事なものがある、と言われているようで、ぐぐっときました。
あと毎度ですが、美術工芸品の描写がさ -
Posted by ブクログ
ネタバレ今まで読んだ葉室麟の小説は2種類あり、史実をベースに歴史の流れの中で敵味方となり切り結ぶ運命の中にありながらも己の忠義にしたがって謀略を突くし、そして戦う男(女)を描いた作品、かたやその流れの傍らで描かれる人々のドラマ。後者が「川あかり」「蜩の記」とすれば、今作は前者に当たる。
殺害された実朝の首が紛失したことにより、鎌倉の将軍家の後釜を巡って、世継ぎ、朝廷、など様々な史実の人物の利害が重なり反発しあって三つ巴の戦いが起きる。史実に疎いので前半は矢継ぎ早に登場する人物に戸惑ったが、後半俄然物語が面白くなり一気に読み終わった。史実に詳しければ、はるかに面白く読めただろうに!残念。 -
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葉室麟の始めての随筆集。
その中の「柚子の花が咲くとき」の中で、
「社会人になって原稿を書く仕事をする傍ら、たまに文學界や群像などの文芸誌が主催する新人賞に応募したこともあった・・・(略)・・・しかし五十歳になった時、『このままでいいのだろうか』とふと思い直した。若い頃に抱いた夢や思いを何ひとつ成し遂げることなく、いたずらに歳月は過ぎ去っていく。自分の残り時間を考えた。十年二十年あるだろうか。そう思った時から歴史時代小説を書き始めた。老いを前にした焦りかとも思ったが二度とあきらめたくはなかった。書き続けるうちに、懸命に過ごせば、移ろい過ぎる時は豊かさを増す事ができるとわかるようになった。時間は