葉室麟のレビュー一覧
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信長の子供のネーミングセンスってどうしてここまでだったんだろうなといつも思います。例えば
長男・信忠(幼名:奇妙丸)
次男・信雄(幼名:茶筅丸)
三男・信孝(幼名:三七)
四男・秀勝(幼名:於次丸)
五男・勝長(幼名:御坊丸)
六男・信秀(幼名:大洞)
七男・信高(幼名:小洞)
八男・信吉(幼名:酌)
九男・信貞(幼名:人)
十男・信好(幼名:良好)
十一男・長次(幼名:縁)
次女・見星院(幼名:五徳)
六女・総見院(幼名:振)
幼名で考えるとこれで子供たちを読んでいたのかと思うと笑えて仕方がありません。だって織田信長ですよ!
「冬姫」
冬姫とは信長の次女で後の相応院と呼ばれる方です。ここでの悪人はどの本でも穏やかな感のあるお鍋の方。姫様ではあるが、物語はこの冬姫の冒険的な生き方を描いているので戦国武将物でもないのにポンポンと頭の中に入ってきます。
ここには鮮明には描かれていませんが、冬姫は恵まれていないのかな?嫁ぎ先の夫である蒲生氏郷は将来を嘱望されつつ40歳で病に倒れ、息子の秀行も92万石から大減封で12万石に落とされ、関ヶ原の活躍を認められ60万石に戻るも30歳で死去。孫の忠郷も25歳、何とか弟の忠知が次ぐがやはり早世し、断絶する中で一番の長生きをしてしまう。もう一人の娘も能登で改易を喰らってしまう前田忠政の室なので何とも言えない人生であった感がある。
普段なら読みづらいジャンルなのですがすっと入ってきます。 -
Posted by ブクログ
中編『津軽双花』と短編『鳳凰記』『虎狼なり』『鷹、翔ける』を収録。
世に言う石田三成と家康との対決とされる関ヶ原の戦いは、実は毛利と徳川の戦いだったとするのが、『虎狼なり』。
三成と家康を戦わせ、毛利に漁夫の利を与えんとの、安国寺恵瓊の謀。それを見抜いた三成が、西軍を勝たせてはならないと、北政所を通じ小早川秀秋に東軍に寝返りさせた!
『鳳凰記』も、コペルニクス的転回の小説。
相違える存在の北政所と淀君=茶々の両者だが、帝を守るために協力して大坂の陣を引き起こしたのだと。方広寺の銘文も家康を唆すため、淀君が仕掛けたのだとする。茶々に「豊臣家を守る戦いではない。帝をお守りする戦い」だとまで言わせる。
『鷹、翔ける』も、本能寺の変は、明智光秀ではなく、斎藤利三が主犯だとする作品。
表題作『津軽双花』でも、関ヶ原の戦いは徳川と毛利という豊臣家の大老同士の戦いだと、高台院=北政所に言わせている。そして、小早川秀秋の東軍への寝返りは、石田三成が高台院に依頼したことだとしている。
題名通り、共に津軽藩に嫁いだ、石田三成の娘=辰姫と家康の養女=満点姫、二人の姫を巡るこの『津軽双花』が、やはり白眉。
正室の辰姫が在りながら、幕府の策謀により満点姫が正室として、津軽藩に嫁いでくる。
決して並び立たないだろうこの二人。嫉妬や妬みを封じて、「信じる心」でお互いを認め合い、津軽家を守るため協力して、津軽藩転封という危機を防ぐ。
「聡明で忍耐強く、男たちに負けない高い志を抱いていた」戦国の女性たちが描かれたこれらの小説。
歴史は勝者の歴史であり、実際の史実はどうだかわからないが、作家の想像力の賜物の作品だろう。 -
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著者の小説は、漢詩や和歌を巧みに取り混ぜ、清冽な作品をより格調高く仕上げている。
この小説も和歌を随所に用い、香道が加わることによって、さらに香(かぐわ)しい読み応えのある作品になっている。
そして登場人物に
「あなたは光を失いましたが、人の心の香りを聞くことはできるはずです。いずれ、あなたにとって大切な香りを聞くこともあるでしょう」と、語らせる。
「仏様の教えに耳を傾けるのと同様に、香りを法の声として聴くのが香なのです」とも。
香を人生における何者かに据えるような記述が続く。
当該の文献を参考にしているとはいえ、著者の博識には敬意を表する。
和歌や香道を織り交ぜながら、誇りを失わずに生き抜く男と、どのような逆境にあろうとも精いっぱい懸命に生きる女性たちを描いているこの小説。
著者は、人生において何が大切かを、読者に問うているのだろう。 -
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久しぶりに読む葉室作品。今作は絵師に焦点を当てた五編。
表題作は尾形光琳の弟・乾山(けんざん)。初めて知った人物だが、家族が偉大だと辛いところがあるだろうと思いながら読んだ。
しかし話は意外にも赤穂浪士の討ち入りと絡んでくる。最大の後ろ楯であった二条家から出入りまで禁じられるという窮地に…。
表題作なのに短いのが勿体ない。乾山の紆余曲折、兄・光琳の隠し子とその母との関わりなど、読みところが多い割にサラッと流されていた。
第二話は狩野永徳が如何にして絵師として天下を取ったのか、第三話ではその狩野派に勝負を挑んだ長谷川等伯の闘いと何故その後長谷川派は消えていったのかを描く。
こういう、武将たちだけではない天下取りの闘いは面白い。信長や秀吉が茶の湯を政治利用したように、絵画も政治や出世に関わった。ということは、絵師たちもまた如何に武士たち権力者たちに入り込むかという闘いがある。絵師たちもまた時代の流れ、先を見る目が要る。彼らから見ると、戦国時代も一味違って映る。
第四話は趣を変え、狩野探幽の姪の娘、清原雪信の話。これまた初めて知る人物。閨秀画家として名を成しながら狩野派の勢力争いに巻き込まれていく。その中で恋と意志を貫き絵師として短くもしっかりと生きた彼女の姿は美しかった。
しかし彼女以上に魅力的だったのは兄の彦十郎。絵師としては才能がなかったし乱暴者で厄介者だったが、妹のために彼らしい後押しをしてくれた。
第五話は英一蝶。詳細が分からない島流しのエピソードにこんなドラマを作り上げるとは。
前話の彦十郎もチラッと出てくるのも嬉しいが、ここでまた赤穂浪士絡みの話になるのもニクい。忠臣の話に終わらせないところは面白い。
絵師たちの闘い、生きざま、心の澱や襞の奥までも見えた作品集だった。 -
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『蜩ノ記』の16年後の羽根藩が舞台。
戸田秋谷の息子順右衛門は藩の中老となっている。娘薫は、秋谷の監視役でありながら彼の覚悟に接し、最期を見守ることになった庄三郎と平穏な日々を送っている。
しかし、新藩主となった吉通を巡って、藩の実験を奪わんとする一門衆の暗躍が胎動し、それに抗する戦いが開始される。
ある人物に、「戸田秋谷という御仁は生きていたときだけでなく、死んでからも何事かひとに語りかけてくるひとのような気がする」と言わしめる。
その言葉のように、順右衛門たちの行動は秋谷の教えが指針となり、見事な逆転劇を果たす。
今作の主人公的役割を担うのは、13歳の赤座颯太。それに彼と同じ年頃の少年たち。それゆえ、小説も清々しい物語になっている。 -
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上意討ちにあった一門衆筆頭の別宅に、密命を帯びて送り込まれた女医師の伊都子が主人公。
そこでは、奥方や嫁たちとその子供、女中たちが暮らしている。互いに何やら剣呑な雰囲気があり、やがて、この屋敷に来た男が次々と死んでゆく。
誰の仕業なのか、その裏に何があるのか。密室ミステリー仕立てにしながら、著者は武家ゆえの運命に抗う女性たちの哀しみを描く。
「世間では武門の者はいついかなるときでも死を決しているべきだと申しますが、わたくしは、それは殿方に限ったことだと思っています。女子は子を守り、家を守って生き抜くのが務めです。殿方は死んでしまえば努めは終わりますが、女子はいかなる艱難にも負けずに生き抜かねばなりません。それは時には死ぬよりも辛いことだと思いますが、生きる戦いにたじろがないのが女の真です」
「亡くなった夫にとっては何よりも家名が大切だったのでしょうが、女子にとっては、命そのものが大事です。わたくしたちは命を守るために闘わねばならぬようです」
男の身勝手に振り回されながらも、懸命に生きる武家の女性の思いが込められたこの言葉が胸を打つ。
没後3年になるが、いまだに新たに刊行される著者の作品を読めるということは、ファンにとってうれしい限りではないでしょうか。 -
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福岡出身の私にとって秋月は小さい頃何度か行った思い出の土地である。覚えている記憶は、紅葉と葛餅。最近では台風や水害で話題になっているが、本作は私の知っている秋月をふんだんに詰め込んだ作品だった。
話自体は歴史物でよくある巨悪と対峙する青春一代記物。怖がりの小四郎が同年代の仲間とともに乗っ取りを狙う福岡藩と戦い、自藩を守っていく。戦いの場面や友情の話などそれぞれの要素で高揚するものがあったが、それがどれも秋月の美しい風景に根付いているのが素晴らしい。
史実に根付いているからか、最後の悪に徹しても自藩を守ったというのが少し納得はいかなかったが、「織部崩し」の青春期から守るものが増えた「成年期」の葛藤など現代にもよく観られるテーマも歴史小説らしく清廉に美しく描いていて、読んでいて清々しかった。
その中でも、いとが「葛」を見つけ出し、それを名産に借金を返していくことに繋げるシーンは鳥肌物だった。ここが葛餅の原点なのかと。