葉室麟のレビュー一覧
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葉室麟の始めての随筆集。
その中の「柚子の花が咲くとき」の中で、
「社会人になって原稿を書く仕事をする傍ら、たまに文學界や群像などの文芸誌が主催する新人賞に応募したこともあった・・・(略)・・・しかし五十歳になった時、『このままでいいのだろうか』とふと思い直した。若い頃に抱いた夢や思いを何ひとつ成し遂げることなく、いたずらに歳月は過ぎ去っていく。自分の残り時間を考えた。十年二十年あるだろうか。そう思った時から歴史時代小説を書き始めた。老いを前にした焦りかとも思ったが二度とあきらめたくはなかった。書き続けるうちに、懸命に過ごせば、移ろい過ぎる時は豊かさを増す事ができるとわかるようになった。時間は長くはなりはしないが豊穣にはなっていくのだ」
少し長い引用だが、この中に作者の全てが詰め込まれているような気がした。
それに引き換えわが身を振り返ってみれば・・・恥ずかしい限りです。 -
Posted by ブクログ
「心の底にあるものを見せつけるのが、悪魔なのかもしれませんね」
いとの娘が不干斎に言った言葉。
自分の心の中にある
蓋をしていた黒いもの
その蓋を開けるきっかけを
悪魔がつくる
あとは気がついたら
自分で開けてしまって
もう後戻りができない。
誰にでもそんな経験が
あるような気がする。
今の時代、
そのきっかけをつくる悪魔が
あらゆるところに存在している
それも、
天使の顔をして。
蓋を頑なに閉じる術を身につけておかないと、大変なことになる。
そんなことを最後の最後で
考えさせられた言葉だった。
黒田官兵衛の物語としては
吉川英治の『黒田如水』の方が
読み応えはあったかな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ「いのちなりけり」の続編。前作で水戸黄門と揉めた主人公が、今度は吉良上野介とやりあう。なんだかもう有名時代劇の舞台に次々とチャチャ入れてるような感じである。そのうち大岡越前とか遠山の金さんとか井伊直助とか仕事人とか八重の桜とかあらゆるもんに絡んできそうな勢いである…ないだろうけど。
実は俺、所謂世間に知られている筋書きの忠臣蔵って好きじゃない。時代がそうだろうし設定がそうだろうからしゃーないのだけど、吉良も浅野も大石も「陰険な事で争って爽快だ痛快だお涙ちょうだいだってのはないやろ」って醒めてみてしまうのである。
忠臣蔵を題材に取った名作時代小説があまたあるにも関わらずどうにも苦手意識が先に立ち食わず嫌いしてしまっているのもそのせいで、今回は葉室作品だからと手に取った珍しいケース
知らない作家さんだったら、良くできた小説だなと讃賞するんだろうけど、葉室さんだと分かって読むとちょっとアラも目立ってしまう。日本史に疎いと人物関係が複雑すぎてその説明がダルかったり、剣劇シーンが意外とあっさりでモノ足りなかったり、赤穂浪士たちの影の薄さが気になったり…
それでも思ったのは、人間やっぱり単純に生きるのがエエわ。しがらみにまとわれたらまとわれるほど、本人がなんぼ頑張って工夫して上手い事やったつもりでも、傍から見ると実にくだらない生き方になるって事。
吉良が最後に笑顔を見せるのだけど、その笑顔がそれを表してると思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ若い頃は誰でも夢と希望と青臭い正義感から沸き起こる衝動に身を任せて行動するものである。その頃の目で見れば、世の中がなんと汚れていて怠慢で不遜で卑怯で…とにかく反抗する対象にしか見えないことか。自分の若かりし頃にもあった、その世の中を変えていこうとする気概を思い出せば少々苦いものが体中にこみあげてくる。
しかし、今の若者からみたら俺なんかもそういう世の中のキチャないもので汚染されきった人間なんだろう。人とはいつのまにやらそういうもんに染まっていく。いつまでもパンクや反抗やアナキストなんざやってられない現実の壁に何度もぶち当たっていくのが社会なんだからしゃーない。
「山は山であることに迷わぬ。雲は雲であることを疑わぬ。ひとだけが、おのれであることを迷い、疑う。それゆえ、風景を見ると心が落ち着くのだ。おのれがおのれであることにためらうな。悪人と呼ばれたら、悪人であることを楽しめ。それが、お前の役目なのだ」
「金というものは天から雨のように降ってくるものではない。泥の中に埋まっている。金が必要であれば、誰かが手を汚さねばならぬ。どれだけ手が汚れても胸の内まで汚れるわけではない。心は内側より汚れるものです」
この作品の引用である。よーは、気概の持ち方なのである。世の中すべての人に評価される生き方なんかはない。あちらを立てたらこちらが立たず、どうせそうなら何を立てるのが一番良いか、決めるのは自分の価値観である、評価は勝手にやってくれればよい、そこを気にすると余計に汚れが目立って無様になるのは食べ汚しに似てるかもな。
ついつい人の評価を気にして萎縮してしまいがちな、チンケなおっさん(俺)は、この本を読んでまた一つ「エエやんあいつらがどう思おうと、開き直って生きたるねん」と汚れをしみ込ませていくのであった。