葉室麟のレビュー一覧
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「蜩ノ記」に続く羽根藩シリーズだが話が繋がっている訳ではなかった…たぶん。かつて酒席での失敗で海辺の小屋暮らしにまで落ちぶれた伊吹櫂蔵が弟、新五郎の無念を晴らしていく。新五郎が借銀の責を負い切腹した裏には明礬商いを独占する豪商播磨屋の思惑を守らんが為の闇が潜んでいた。櫂蔵は新五郎と同じく新田開発奉行並としてこの闇を晴らしていく。しかし全てがハッピーエンドという事ではない。新五郎の死を知り、一度は命を絶とうとした櫂蔵を助け、彼を支え続けたお芳は櫂蔵と櫂蔵の継母の染子の名誉を守る為に自ら死んでしまう。お芳を死に追いつめ新五郎を切腹に追いやった黒幕、井形清左衛門は、切腹ではなく蟄居となる。こういうと
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ネタバレ本書は、葉室麟最晩年の作品であり、「新宿中村屋」創業の星りょうの目を通して描かれる幕末明治の文芸家たちの群像劇となっている。
北村透谷、島崎藤村、国木田独歩、若松賤子、佐々城信子、三宅花圃、樋口一葉、斎藤緑雨、勝海舟、クララ・ホイットニー、瀬沼夏葉、萩原碌山、中村彝、高村光太郎、ラス・ビハリ・ボースなどとの関わりが描かれている。
それにしても、星りょう(相馬黒光)の交友関係がすごすぎる。作者もその点に注目し、執筆したに違いない。
当時の女性は、男にかしずき男を立てるのが女性の理想とされていた時代。そんな中、自分に正直に蝶のように舞うことがいかに困難だったか、その規範に外れた女性たちがどういう扱 -
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ネタバレ葉室麟、本当に惜しい作家を亡くしました。
「蜩ノ記」「川あかり」「山月庵茶日記」「草雲雀」などの傑作や「潮騒はるか」「鬼神の如く」「銀漢の賦」「橘花抄」「冬姫」などの秀作に連なり、私の傑作葉室コレクションがまたひとつ増えました。
この小説を読み進めながら、作者がどうやって登場人物たちのもつれた糸をほぐし、破綻なく物語に収束をつけるのか、試しに想像してみるも私の頭では不可能でした。
それを難なくやってしまう筆者の構想力と文章力に脱帽です。見方を変えれば、本書は上質謎解きミステリーとしても十分楽しめます。
これから読む人のために、謎解きの鍵となるヒントを。
“くもり日の影としなれる我なれば
目にこ -
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黒島藩シリーズの3作目とのことだが、既刊の『陽炎の門』『紫匂う』の2作品とは人物・時代とも関連性はない。
著者には他にも扇野藩シリーズや羽根藩シリーズもあるが、何れも同様な構成になっている。
藩の政争に敗れ黒島藩を去った元勘定奉行が、妻の死の真相を知るために、茶人となって帰ってくる。様々な波紋が沸き起こり虚々実々の戦いが繰り広げられる。
最後、容疑者を集め「犯人はお前だ」とのクライマックスがあり、本格ミステリーを彷彿させる。
様々な作品で、漢詩や和歌の深く豊かな素養を開陳する著者が、本書では茶席の描写や茶の心をストーリーに融合させ、物語の世界を豊饒にしている。 -
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忠義とは、誠とは何かが描かれている。
「わが主君に謀反の疑いあり」と、黒田藩家老の栗山大膳は主君の黒田忠之を幕府に訴える。それは幕府が黒田家の大名家取り潰しを画策していることを悟った栗山大膳が敢えて訴え出たもの。黒田家を守るために。
逆臣と思われ、命さえ狙われることになっても、見た目には裏切りに見えても、その忠義を貫き通す。
栗山大膳の生き方が本当に天晴れ。
天草四郎が出てくるのも面白い。イエス・キリストへの言及もあり、イエスの生き方と、栗山大膳の生き方を共に「宿命と戦って」生きている、と登場人物に語らせているのもまた印象的だった。
やはり葉室麟さんはいいです!